2023年1月7日土曜日

第130回 打球速度シミュレーター ver2 -非弾性衝突-

 


 

非弾性衝突

打球速度シミュレーターを弾性衝突モデルのver.1から、非弾性衝突モデルのver.2へ改良し、バージョンアップします。

非弾性衝突とは、弾性衝突でないという意味で、運動エネルギーが散逸し保存されない衝突です。

バットとボールが衝突するとき、運動エネルギーは振動や熱など他の形態のエネルギーに変化して逃げて行きます。


反発係数

エネルギーの散逸を考慮する非弾性衝突ですが、計算においては、衝突前後の運動エネルギーの比は用いません。

相対速度の比である「反発係数e」を用いて計算をするが慣例です。

そちらの方が、計算や実験における扱いが簡潔だからだと思われます。


計算式

では、数式化していきます。

下図のように物体1がボール、物体2がバットで、重量をm、衝突前速度をv、衝突後速度をuとします。




運動量保存則、反発係数

衝突後の打球速度u1は、2つの式から導かれます。

運動量保存則と、反発係数です。



運動量保存則は作用反作用の法則に起因し、弾性/非弾性にかかわらず衝突現象においては常に成り立ちます。

反発係数は②式のように、-衝突後の相対速度/衝突前の相対速度で定義されます。マイナスがついているのはeがプラスの値になるようにしているためです。

エネルギーの損失が大きいほどeの値は小さくなり、1から0へ近づいていきます。



衝突後球速u1

②式をu2について整理し、①に代入し、u1について整理すると、下式を得ます。




衝突後バット速度u2

①、②式は物体1,2に対して対称な形をしています。
そのため、③式の添え字1,2をそっくり入れ替えてやるだけで、u2の計算式を得ることができます。




これで計算式は完成です。



行列形式

行列形式で、上記③、④式を一つにまとめて表します。

衝突前の速度{v}={v1,v2}を、衝突後の速度{u}={u1,u2}に変換する行列[A]を導入すると、{u}=[A]{v}の形式で下記のように1つの式で記述することができます。

   

{}はベクトルを、[]は行列を表す数学記号です。ここでの速度ベクトル{v},{u}は空間の各座標軸、あるいは自由度、の成分を表すものではなく、複数あるものをひとまとめにして扱うためのものです。

青字のところがver.1の弾性散乱から変わったところです。e=1を代入すると弾性散乱の式になります。



これで準備が整いました。



エクセルへ数式入力

では、衝突後のボールとバットの速度を求める数式が得られましたので、これをエクセルへ入力していきます。

ver.1をベースに進めます。

インプット値

反発係数eの値を、下図のように、C10セルに入力します。



値はNPBのホームページ(*1)を参考にしました。

    参考webサイト






衝突行列[A]
次に、衝突前の速度{v}を、衝突後の速度{u}に変換する衝突行列[A]の各成分を、⑤式のように編集していきます。

[A]の左上成分a11の計算式を、J4セルに、下図のように入力します。
赤四角で囲ったところが、⑤式の青字部分に対応する、変更箇所です。


[A]の右上成分a12の計算式を、K4セルに、下図のように入力します。
同じく、赤四角のところが、⑤式の青字部分に対応する、変更箇所です。


[A]の左下成分a21の計算式を、J5セルに、下図のように入力します。


[A]の右下成分a22の計算式を、K5セルに、下図のように入力します。


L列の衝突前速度{v}、H列の衝突後速度{u}はそのままです。




これで打球速度シミュレータver.2へのアップデート、

完了です。




打球速度u1の計算結果は、174km/hになりました。

ver.1の打球速度301km/hに比べるとずいぶん現実的な値になりました。



このシミュレータは、あと少しマイナーな改良を加えます。



それでは、また。

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