2021年4月24日土曜日

第65回 野球こども相談室(架空)

 

(ナビゲーター)

みなさん、こんにちは。

架空の相談者からの質問に、架空の解説者が回答する、架空の野球こども相談室のお時間です。

それではさっそく、最初の質問者さんです。


👦A君(東京都、中学1年生):カーブが曲がりません(T_T)

ピッチャーをやっています。今年から中学生になり変化球を覚えないといけないのですが、カーブが全然曲がりません。キャッチボールのパートナーから回転はカーブになっていると言われます。

このまま投げられないなら、野手に転向しろと先輩から言われ悩んでいます。



🙋O氏(大阪府、元プロ野球投手):小指を前にして投げなさい

回転はかかっているのに曲がらんということは、回転数が足りとらんとゆうことやね。

カーブばっかし投げて200勝した、私の投げ方を教えましょう。

人差し指と中指をくっつけて、縫い目に横向きになるように握る。そんで投げる時に、小指側を前にしてリリースする。手首のひねりはいらん。手首は固定する感じで、リリースの瞬間、握力をぐっとかける。それでもボールは腕の振りのスピードで後ろに引っ張られる感じで、人差し指と小指の間から後ろに抜けていく。慣性力の仕業やね。

そうすると回転がようかかる。

小指側からリリースするには肘を柔らかく使うのがコツ。私なんか人よりもずっと柔らかいから、小指どころか手の甲を前にしてリリースしとったよ。だけどこれは、天性のものだからね、硬い人が無理したらいかん。



👨Y氏(愛知県、気象予報士):風上に向かって投げろ!

カーブが曲がるのは、回転のかかったボールの両側では気圧差が生じるからです。マグナス力と呼ばれる、空気からボールが受ける力です。

このマグナス力はボールと空気の「相対速度」の2乗に比例します。ボールの球速が同じでも、空気の方がボールに向かって動いていれば相対速度が大きくなり、マグナス力が大きくなります。

ですから風の強い日に風上に向かって、つまり、強い向かい風を受けるようにしてカーブを投げれば大きく曲るようになるはずです。

ちなみに、雨が降った次の日が狙い目です。

遠ざかっていく低気圧に向かって空気が流れ込むため、風が強くなることが多いでしょう。




👩M氏(福岡県、保育士):ボールを軽くしてごらん(゜▽゜) 

ピンポン玉ってよく曲がりますよね。

それは中が空洞になっていて、大きさのわりに軽いからです。

ボールの加速度はマグナス力をボール重量で割った値になりますので、分母の重量が小さいほど加速度が大きくなって変化量が増えるのです。

だからボールの大きさはそのままで、軽くするとよく曲がるようになります。

軟式ボールならのこぎりで2つに割って、中の黒い部分を削って軽くして、接着剤でくっつければインチキ軽量ボールが作れます。

試合では使えないので注意してね。




(ナビゲーター)

はい、皆さんありがとうございました。

A君はどうかな、参考になったかな?


(A君)

はい、なりました。Oさんの投げ方に変えたら、球速は80km/hのままだけど、回転数が1000rpmから1500rpmにアップしそうな気がします。


(ナビゲーター)

それはよかったです。では、さっそく、こちらのブルペンで投げ比べてもらいましょう。

最大風速20m/sの大型送風機と、中をくり抜いて重さを半分にしたボールも用意しましたので、どうぞこちらも使ってみてください。


(A君)

えいっ。

中学一年生のカーブ






(ナビゲーター)

わあ、すごい。回転数が増えてボール一個分ぐらい大きく曲がるようになりました。

重さ半分の軽量ボールと、送風機による風速20m/sの向い風はそれ以上です。

A君、良かったですね。


では、A君がこれからも投手を続けられることを願いつつ、お別れです。






では、また。




2021年4月17日土曜日

第64回 一塁手がジャンプ捕球すると、どれくらいセーフになりやすいのか?



長身が有利 

一塁手には長身の選手が向いています。

内野手からの送球が逸れた時、ベースを離れてボールを捕りにいき、それからベースを踏みに戻れば、それだけ時間をロスします。

背が高く手足が長ければ、逸れた送球でもベースから足を離さずに捕球できます。


上は最悪


送球は前後左右、どちらに逸れるのも良くないですが、中でも上に高く逸れるのが一番よくありません。

なぜなら、低く逸れてワンバウンドになるならば、一塁手が上手く捕ることでカバーできます。
また、横に逸れた場合は一塁手が機敏に動くことで、捕球後にベースに素早く戻ることができます。

しかし、高く逸れた送球を捕るために空中へジャンプした場合、素早くベースに戻ることができないのです。

そのため上に送球が逸れた時、最も時間をロスします。



落ちるのを待つだけ


人間が横に移動する時、脚が地面を押して、その反力を受け体の重心が横へ移動します。
つまり脚の筋肉により体を動かしています。

一方、空中へジャンプした後、下へ移動する場合は、地面からの反力を得られません。重力によってのみ体の重心は加速されます。

そのためジャンプした後は素早くベースを踏みたいと思っても、重力により自然に落ちてくるのを待つしかないのです。

ガリレオが斜塔で行った実験で知られるように、重たいものも軽いものも重力により落下する速さはおなじです。
つまり体重の大きい一塁手も、軽量な一塁手も、同じ高さジャンプしたら、地面降りてくるまでにかかる時間は同じなのです。

太って重たい選手が有利ということもなく、身軽で俊敏な選手も、脚力の強い選手も、みな等しく空中で時間をロスします。

そのため、高く逸れてもジャンプせず、ベースから離れずに捕球できる長身選手が有利なのです。



逸れなければアウトだったのに


上記のように、一塁手がジャンプして捕球するとベースを踏むまで時間をロスしますが、それは具体的にどのくらいの時間なのでしょうか。

ごく短時間なら、騒ぐほどの影響はないでしょう。

しかし、実際のプレーを見ると送球が逸れなければアウトだったのに、と思われることが多々あります。

そこで今回は、一塁手がジャンプしてボールを捕球するとどのくらいの時間をロスするのか計算してみます。




ジャンプでロスする時間の計算

ジャンプの頂点でボールを捕球すると仮定します。

[計算式]
重力により落下する距離は、重力加速度gを2回時間積分すれば求まります。式で書くと下のように表されます。

  h=-1/2×g×t^2 : 落下距離

 (g:重力定位数g(=9.81[m/s^2])、t:落下時間)

落下距離hがジャンプした高さh0と同じなるとき、ジャンプした一塁手の足が再びベースに触れます。
そのため、ジャンプによりロスする時間は下式のようになます。

 ho-1/2×g×t^2 = 0
 t=√(2×ho/g) : ジャンプによりロスする時間


[計算結果]

では上記の式に数字を入れて、計算していきます。


30cmジャンプした場合
 
 t=√(2×0.3/9.81) = 0.247 [s]

10cmジャンプした場合

 t=√(2×0.1/9.81) = 0.143 [s]


一塁への送球が高く逸れ、一塁手が30cmジャンプして捕球すると0.25秒時間をロスする、という結果になりました。
同様に、10cmジャンプすると0.14秒時間をロスします。


一塁手が空中にいる間に打者走者は1.8メートルを駆け抜ける 


30cmのジャンプで0.25秒時間をロスする、ということが分かりました。

ではこの時間ロスは内野ゴロアウトをセーフに変えるのに、どのくらい影響するのでしょうか。

0.25秒の間に、時速27km/hで走る打者走者がどのくらい進むのか計算してみると、1.85m(=0.25×27/3.6)も進みます。

一塁手が空中にいる間に、打者走者は1.8メートルを駆け抜けるのです。 

これだけ進むのであれば、セーフになる確率はかなり増えるでしょう。



10cmのジャンプ、0.14秒のロスでさえ、打者走者は1.07m進みます。

内野手の一塁送球がわずか数十センチ高く逸れるだけで、打者走者は1メートル以上進んでしまうのです。
もちろんジャンプしても捕れない程高く逸れてしまえば、一塁でアウトにできないどころか二塁まで進塁を許してしまいます。

そのため、内野手の一塁送球は絶対に、高く逸れてはいけないのです。

高く逸れるならワンバウンドになる方がまだマシ、という意識で投げるべきです。
特に肩の弱い内野手ほど、球速のばらつきにより上下のコントロールが大きくばらつくため、注意が必要です。(第63回参照









よい球がきたら、前に伸びて捕る 




さて、ここまで送球が逸れた場合について計算をしてきましたが、反対に、内野手から低い良い送球が来た場合には、一塁手は両足を大きく開き、前に伸びて捕球します。

できるだけ前方で捕ることにより、捕球するまでの時間を短縮できるからです。

プロやメジャーの選手も、きわどいタイミングのときはできるだけ伸びてとっていますから、それなりに効果があると考えられます。

送球が逸れた場合にはこれができなくなります。
そのため、送球が高く逸れた場合、上記のジャンプによりロスする時間に加え、伸びて前方で捕ることで得られるはずだった時間短縮分もロス時間となります。


次は、一塁手が前に伸びて捕球することにより、どのくらい時間を短縮できるのか計算してみます。


前に伸びて短縮できる時間の計算 


[計算条件]
一塁手が伸びることにより、ベース上よりも1.5m前で捕球できると仮定します。

また、送球の球速は100km/hと仮定します。

内野手は球速よりも捕ってから投げるまでの時間を短くすることを重視する、また一塁手に届くころには空気抵抗により投げた瞬間よりも減速するという点を考慮して、球速は少し遅めとしました。

[計算式]
1.5mという短い距離における球速の変化は無視できるとし、球速を一定とすると、短縮される時間tは伸びた距離を球速で割ることで求められます。
はじきです。

 t = s / v : 短縮された時間

 (s:一塁手が前に伸びた距離、v:送球の球速)


[計算結果]

1.5m手前で捕球した場合
 
 t=1.5 / (100/3.6) = 0.054 [s]


一塁手が1.5メートル前に伸びて捕球すると、0.05秒時間を短縮できる、という結果になりました。


一塁手が伸びると打者走者は40cm走れなくなる 

一塁手が伸びて1.5m手前で捕球することで、短縮できる時間は0.05秒でした。

この間に、時速27km/hで走る打者走者が進む距離は40.5cm(=0.054×27/3.6*100)です。


つまり、伸びずにベース上で捕球すると同着セーフになる場合に、一塁手が伸びて1.5m手前で捕球すれば打者走者がベースを踏む40cm手前でアウトにできるということになります。

言い換えると、一塁手が前に伸びることにより、打者走者の進む距離を40cm奪えるのです。

ざっくり、走速度は送球速度の1/4程度ですから、一塁手が前に伸びた距離の1/4ぐらいの走距離を打者走者から奪うことができるわけです。

そのためきわどいタイミングであれば、伸びることでセーフをアウトに変えるだけの効果十分はあると言えます。





ジャンプで失うトータル時間


送球が高く逸れてジャンプした場合、重力で落ちてくる時間のロスと、前に伸びて捕るこがはできないための時間ロス、この2つが合わさります。

[結論]
 ・一塁手が30cmジャンプして捕球すると、0.25秒ロスし、その間打者走者は1.85m進む。
 ・一塁手が伸びて1.5m手前で捕球すると、0.05秒短縮し、打者走者が進む距離を40cm奪える。
 ⇒そのため、一塁手が30cmジャンプし前に伸びれずに捕球すると、0.30秒(=0.25+0.05)時間をロスし、その間に打者走者は2.25m(=1.85+0.40)進む


内野送球が高く逸れることで、トータルで打者走者が2.25mも進むだけの時間をロスしてしまうという結果になりました。

予想以上に大きな影響です。

内野ゴロ送球におけるコントロールの重要性が、改めて示される結果となりました。








では、また。

2021年4月10日土曜日

第63回 始球式でノーバウンド投球をするには、最低何キロ以上必要か?





プロ野球の華 


プロ野球の試合開始直前、アイドルの登場する始球式は、華やかでよいものです。

最近ではおしゃれな横文字で、セレモニアルピッチ、とも言うようです。

ガタイのいいプロ野球選手と好対照な、小柄で可愛らしい女性がぎこちないフォームから、ふわり、と、した球を投げる。
ノーバンウンドでキャッチャーまで届き飛び跳ねて喜ぶ人もいれば、途中で地面に落ちてころころと転がってしまい恥ずかしがる人もいます。

事前に練習を重ねてきたのに、当日は緊張で思うように投げられず、悔しさでドアラとの撮影中に泣きだしてしまった子もいたようです。


遠投能力の不足  


球が速ければ、よほどコントロールを下向きにミスらない限りノーバウンドで届きます。

しかし彼女たちのように球速が遅いと、そもそもコントロール以前に、遠投能力の不足でノーバウンドで届かない場合もあります。

では、何キロ以上出せればマウンドからストライクゾーンまでノーバウンドで届くようになるのでしょうか?

そこで今回は、軌道シミュレータver3.2でノーバウンド投球するために最低限必要な球速を計算してみます。



ストライク投球に必要な球速の計算  


ぎりぎりストライクゾーンまで届くときの投球軌道を計算します。

[計算条件]

 4シーム
 球速 v0=46.0[km/h]、リリース角度 θ=40度(上向き)
 リリースポイント x0=0.8m(ホーム方向)、y0=-0.2m(三塁方向)、z0=1.9m(高さ)
 ボール回転角度 θs=110度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.38、揚力係数CL=0.06

リリース角度、リリースポイントは動画からの推定値です。
野球未経験者の場合、ステップ幅が小さいためだいぶ後ろでリリースしています。そのためx0は小さくなります。
また、踏み出した左脚の膝がまっすぐ伸びており体の沈み込みがほとんどないため、リリースポイントは高い位置になります。さらにステップ幅が小さくマウンドの頂上に近い位置で投げるためそれによってもリリースポイントは高くなります。その結果、小柄な女性アイドルでも大柄なプロ選手と同じぐらいの高さでリリースしているようで、z0は大きくなります。

抗力係数、揚力係数は回転数が小さいと推定し、プロ選手フォークボール相当の値を使用しました。


[計算結果]

始球式でぎりぎりストライク投球したときの軌道計算結果は、以下のようになりました。

グラフ中の点は0.02秒ごとのボール位置を表します。

アイドル始球式


球速が46.0[km/h]のときストライクゾーン手前の低めいっぱいをかすめる軌道となります。これより遅いとどのようなリリース角度で投げても、ストライクゾーンまで届かず、低目に外れるボール球になります。

よって、途中でワンバウンドせずに、ストライクを取るために最低限必要な球速は、46.0[km/h]となります。

また今回のように、球速が遅い場合は40-45度ぐらい上向きを狙って投げると飛距離が最大となり、遠くまで届きやすくなります。
(プロ選手のホームランや遠投など、球速が速い場合は空気力の影響を強く受けるため、30度ぐらい上向きが飛距離最大になります。)



ノーバウンド投球に必要な球速 


球速46.0[km/h]で投げられた山なりの球はストライクゾーンの低目いっぱいをかすめた後、ホームベースの上でワンバウンドします。
ストライクゾーンまでは届いても、ホームベースの1mぐらい後ろに構えられたキャッチャーミットまでは届かないのです。

実際にはストライク投球でもキャッチャーがワンバウンドで捕球すると、はたから見ている人達にはノーバウンドで届かなかったように思われてしまうかもしれません。
特にテレビのセンターカメラからの映像だと、そう見られがちです。

どうせだったら見栄えのよい、キャッチャーミットまでノーバウンド投球を目指すべきです。

始球式では試合と違って、例え高めに外れたボール球でもバッターはわざと空振りし、審判はストライクをコールしてくれます。

というわけで、今度はストライクゾーンを通過ではなく、キャッチャーミットまでノーバン投球するのに必要な球速を計算してみます。

[計算条件2]

 4シーム
 球速 v0=46.0、49.0[km/h]、リリース角度 θ=40度(上向き)
 リリースポイント x0=0.8m(ホーム方向)、y0=-0.2m(三塁方向)、z0=1.9m(高さ)
 ボール回転角度 θs=110度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.38、揚力係数CL=0.06


球速以外は先ほどと同じ条件です。


[計算結果2]

始球式でキャッチャーまでぎりぎりノーバウンド投球した時の軌道計算結果は、以下のようになりました。
先ほどのストライク投球の軌道も参考に合わせて示します。

アイドル始球式

球速が49.0[km/h]のとき打者の頭の高さを通過したくそボールが、ストライクゾーンの1m程後ろに構えたキャッチャミットにノーバウンドでおさまります。


というわけで、キャッチャーミットまでノーバウンド投球するために最低限必要な球速は、49.0[km/h]となりました。



球が遅いとコントロールが狂う


上記のように、低目ぎりぎりのストライクを取るのと、ノーバウンド投球するのとに必要な最低球速はわずか3[km/h]しか変わりません。

わずか3[km/h]の差ですが、2つの投球軌道を見比べてみると、上下方向に大きくかい離しています。

同じリリース角度から投げられた、わずか3[km/h]球速が異なる2つの球は、x=18.0m地点を通過するときの高さが1.7mほども異なっています

つまり、球速が遅い時ほど、わずかな球速差で高低の軌道が大きく変わってしまうのです。


これは実際の試合において球が遅いと、上下のコントロールを制御するのが難しくなる」ということを意味しています。


毎回同じ球速で投げられる人はいません。同じように投げたつもりでも球速はばらつきます。
そのとき球が遅い人ほど、例えリリース角度をきちんと制御できても、わずかな球速のばらつきにより、上下のコントロールが大きくずれてしまうのです。


そのため、肩の弱い野手ほど、ワンバウンド送球をすることが推奨されます。

また、イーファスピッチという球は誰でも投げられそうでありながら、コントロールを付けるのが非常に難しく、安定してストライクをとることができないため、誰も使いこなすことができないのです。








では、また。


2021年4月3日土曜日

第62回 バッティングセンターの的に当たる打球は、試合でもホームランになるのか?

 



あの的


皆さんはバッティングセンターに、行ったことがありますか?

私は好きでよく行きます。

そして、行くたびにいつも疑問に思うことがあります。

バッティングセンターの奥のネット上部に貼りつけてある、ホームランの的です。
あの的に当たるのと同じ打球を、試合で打った時、果たしてホームランになるのでしょうか?




バッティングセンターのサイズ


日本で土地を買ったり、借りたりするのは、ものすごく、お金がかかります。

そのためバッティングセンターは、実際の野球場のように100メートルや120メートルというサイズでは作られていません。もっと狭くなっています。

一般的なバッティングセンターでは、ホームベースから最奥のネットまで40メートルぐらいです。
40メートルというとホームベースから二塁ベースぐらいまでの距離しかなく、簡単に打球が届いてしまいます。
そのため、地上から15メートルぐらいの高い位置にネットを設け、そこにホームランの的を設置することで、当てるのを難しくしています。


もっとも、最奥のネットが高い位置にあるのは、下のネットを斜めにしておくことでボールが転がり自動で戻ってくるようにするためと、ネット下スペースを駐車場として活用する、という経営面での実用的な理由もあるようです。




打ちそこないも届く


野球部出身の経験者からすると、バッティングセンターの的、あるいは最奥のネットは、「簡単に打球が届き過ぎる」と感じているのではないでしょうか。

打ちそこなって、ああこれ試合なら浅い外野フライだな、と思うような打球でもわりと的まで届いてしまいます。

バッティングセンターにはいろいろな人が来ますが、試合のための練習が目的の、いわゆるガチな人にとっては、的に当たりやすいような打球を打つ癖がついて、試合でヒットが打てなくなるのは避けたいものです。

そこで今回は、バッティングセンターの的や奥のネットに当たる打球が、実際の試合ではどのような打球になるのか、軌道シミュレータver3.2で計算してみます。



ホームラン的に当たる打球の軌道計算


[計算条件]

ホームベースから40メートル、地上15メートルの位置に的があるとして、そこを通過していくような打球打速度と角度の組み合わせの条件で計算します。
回転軸は完全なバックスピンで、回転数は打球打速度に合わせた値にしています。

打球条件


[計算結果]

打球の軌道計算結果は、以下にようになりました。

バッティングセンターの打球軌道


92km/hでもホームラン

ホームラン的に当てることのできる最も遅い打球速度は92km/hとなりました。これ以上遅いと、どのような角度で打っても的まで届きません。

この打球は頂点を過ぎ、落下しながら的に当たります。

この打球は試合ならば、飛距離が52m、浅い外野フライでアウトになるでしょう。
高レベルの試合の場合、外野手が後ろに守っているため運が良ければポテンヒットになるかもしれませんが、下手をすると後退した内野手に捕られ内野フライの記録になるかもしれません。

いずれにしてもしょぼいあたりです。ガチの人が目指す打球ではありません。



逆に、ですが、娯楽目的の人はこのような打球軌道を狙って打てばよいということになります。
打球速度が遅くてもホームランの的に当てることができます。

打った打球がホームランの的に当たれば楽しい気分になりますし、彼女や息子など同行者がいればすごい、すごいと喜んでくれることでしょう。

バッティングセンターはガチの人にはトレーニング施設ですが、一般の人にとっては娯楽施設なので楽しく遊べることが一番です。



100km/hは水平

打球速度100km/hの場合、頂点付近で水平に近い角度で的に当たります。

これは自分の打球速度がどれくらいなのかを知るための、良いものさしになります。
的に落下しながら当たるようなら100km/h以下ですし、上昇しながら当たるなら100km/h以上と判断できます。

この打球は試合で打てば飛距離64メートルです。やはり外野フライに終わるでしょう。

小学生なら外野の頭を超えるかもしれません。
大人で、この打球速度ならば的を狙わず、もう少し低い打球を打つようにした方が、地面に落ちるまでの時間が短くなり試合ではヒットになりやすいです。




150km/hなら本当にホームラン


150km/hの打球では、的まで一直線に上昇していき、頂点よりもずいぶん手前で当たります。
この打球ならば試合で打っても、飛距離110メートルのホームランとなります。

バッティングセンターのホームラン的に当たるのと、実際の試合でホームランになるのを、両立できる打球は確かに存在する、ということが分かりました。

このプロレベルの打球速度が出せる人ならば、バッティングセンターで的を狙って練習すれば、実際の試合でもホームランが打てるようになります。






空港バッティング


愛知県の豊山町、県営名古屋空港近くの国道沿いに「空港バッティング」というバッティングセンターがあります。

イチローさんと、侍J監督の稲葉篤紀さんが少年時代に通い詰めていたことで有名です。

左打席で130km/hの球を打てるのと、奥行きが60メートルもあるのが特徴で、レベルの高い彼らもそれが目当てだったのだと思われます。

私が行ったことのある中では、最も広いバッティングセンターです。



打球軌道は先ほどの計算結果のまま、ネットだけをこの広い空港バッティングのサイズに差し替えると、以下のようになります。

バッティングセンターのホームラン


この広さになると、打球速度が最低でも120km/h程度はないと奥のネットまで届きません。

子供や未経験の人ではまず無理な距離です。



私は元野球部で、大人になってからもトレーニングを続けています。

おかげで、この広い空港バッティングでも5ゲームに1回くらい、本当に会心の当たりのときには奥のネットまで届かせることができます。

また、公式戦でのフェンス越えホームランは通算1本ですが、そのときの軟式用グランドがフェンスまで80メートルでした。

そのため、軟式で野球専用球場ではないグラウンドで試合をする(草野球の大半はそうだと思いますが)人は、打球角度を気にしなくても60メートルのネットに届くように練習すれば、試合でもホームランが打てるようになる、といえるでしょう。



*****

今回の計算結果から、自分の会心の当たりが打球速度120km/h程度だと知ることができました。

打球速度はこれまで測定したことが無く、もう少し遅いと思っていたので、意外と速くて嬉しかったですが、反面、プロレベルの150km/hの打球と見比べるとスケールの違いを思い知らされもします。


いつもプロやメジャーの選手を想定した計算をしていますが、たまには自分のような一般人レベルの計算をしてみるのも楽しいものです。




では、また。