2020年4月25日土曜日

第13回 左投手の軌道計算



 クロスファイヤー 

左投手が右打者のインコースに向かって投げ込む角度のある速球は、「クロスファイヤー」とも呼ばれ、その威力は絶大です。

山本昌投手(元中日)は、このクロスファイヤーと、反対方向のアウトコースへ逃げていくスクリューボールとのコンビネーションにより、三振の山を築きました。
4シームの球速は130キロ台にもかかわらず、自他ともに認める「速球派投手」として、50歳まで現役を続け通算219勝をあげました。

そこで今回はエクセルで作成した"軌道シミュレータver3.2"を使って左投手の4シームの軌道を計算し、右投手のそれと比較してみます。


 左投手4シームの軌道計算 

左投手、右投手がそれぞれ4シームを、右打者インコースへ投げた時の軌道を計算します。

[計算条件]

 4シーム(左投手)
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=-1.5度(下向き)、Φ=-3.0度(三塁方向)
 リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=0.5m(一塁方向)、z0=1.8m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=-70度、Φs=80度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20

 4シーム(右投手)
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=-1.5度(下向き)、Φ=1.5度(一塁方向)
 リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=-0.5m(三塁方向)、z0=1.8m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20

 ボール回転軸角度の定義
 
 左投手4シーム回転軸

 θs : z軸からx-y平面に向かう角度(真上から水平に向かう角度)
 Φs : x軸からy軸に向かう角度(ホーム方向から一塁側へ向かう角度)


[計算結果]

ボール軌道の計算結果は以下のようになりました。
グラフ中の点は0.02秒ごとのボールの位置を表します。

左投手の軌道

左投手と右投手どちらの4シームも右打者のインコースいっぱいをかすめる軌道ですが、真上から見たx-y平面での軌道を見ると両者の角度は大きく異なります。

右投手はまっすぐな軌道であるのに対して、左投手の方は斜めに右打者の体に向かってくる軌道です。

同じインコースに投げた時、右投手では一塁側へΦ=1.5度の角度でリリースし、左投手では三塁側へΦ=-3.0度の角度でリリースしています。

つまり、左投手は、右投手と同じインコースに投げた球でも、その軌道は4.5度異なるということです。

4.5度角度が違えば打者の感覚もずいぶんと違ってきます。

左投手の4シームも右投手と同様に完全なバックスピンではなくシュート成分が混じっていますが、曲がる方向が左右逆になります。

普段右投手のインコースへ曲がってくる4シームを見慣れている打者にとっては、左投手のクロスファイヤーは自分の体の方に向かってきてそのまま当たるのではという錯覚をあたえます。
そのため思わず、腰を引いて避けようとして、見逃し三振を喫してしまいます。



 左投手の球はレフトに打ち上げるとファールになる? 

この投球角度の違いから、右打者がインコースの球をレフト線へホームラン性の大きな打球を打ち上げた場合、「左投手の方が右投手の場合に比べてファールになりやすい」という可能性が示唆されます。

なぜなら入射角と反射角は等しいため、同じ角度のバットに当たった場合投球角度の差はそのまま打球角度の差となるからです。

壁当てをするとき壁の正面から真っすぐぶつければ、真っすぐ自分の前に跳ね返ってきます。
少し斜めからぶつけると、少し斜めに反対側へ跳ね返ります。
横からであればある程横へ跳ね返っていきます。

これと同じことがバットにボールが当たる場合にも、起こるはずです。


実際にどの程度になるのか計算してみます。


まず、入射角の差ですがこれはシュート成分による変化によりホームベース上での軌道角度がリリース時よりも小さくなるため、小さくなります。
左投手のホームベース上での軌道角度は、リリース時のΦ=-3.0度から-2.0度に減っています。右投手はリリース時のΦ=1.5度から0.3度になります。
その結果、ホームベース上での両者の角度差は、リリース時の4.5度から2.4度に減ります。

左右投手の投球のバットへの入射角αの差は2.4度です。




入射角αと反射角の角度が等しいとすると、同じ角度のバットに当たった打球は左投手と右投手で2.4度ずれた方向に飛ぶことになります。

バットの角度が21.5度の時、左投手の球を打った打球はちょうどレフト線上へ飛びます。
一方、右投手の打球はそれよりも2.4度フェアゾーン側へ飛びます。

この角度差で100m飛んだ場合、両者の軌道の差は、100×tan(2.4/2)×2=4.1mとなります。



レフト線への大きな当たりでは、打球に回転がかかっているためファールゾーンへと切れていきます。
そのため、ぴったりレフト線上に打ち上げた左投手の打球はファールになってしまいます。
一方右投手の打球では、打球の曲りが4.1m以下であれば切れずにホームランとなります。



ただし、実際には両者の打球軌道の差はこれよりも小さくなると考えられます。
入射角と反射角が等しいという条件はバットが止まっているという条件でのみ成り立つからです。
バットの速度により入射角よりも反射角は小さくなります。同時に両者の打球角度の差も入射角の差よりも小さくなります。

大雑把にですが、反射角の差が入射角の差の半分になると仮定すると、打球角度の差は1.2度となり、100m飛んだ時の打球軌道の差は2.0mになります。

従って、同じ右打者がインコースの4シームをレフト線へホームラン性の打球を打ち上げた場合、左投手の方が右投手よりも打球が2m程度ファールゾーン側へずれることが予想されます。

2mの差があるとすればポール際ぎりぎりのホームラン性の打球では、ファールになるか、ホームランになるかの違いが出てくるため無視できない影響になります。



 実際どうなのか 

このことについて、実際プロの長距離打者が「左投手の方がレフト線の打球がファールになりやすい」と言っているかというと、そんなことはありません。
そんな体験談を聞いたことがありません。


なぜでしょうか。


上記の計算にはどこか、誤りがあるのかもしれません。


あるいは、バッターが自分のせいにしてしまっているのかもしれません。

左投手の球を打ってファールになった時、右投手の時と全く同じタイミング、同じバット角度で打ったにも関わらず、「左投手のインコースの球は食い込んでくるから差し込まれないように意識した結果、体の開きがほんのわずか早くなってしまった」と、原因を投球角度の違いではなく、自分のスイングのずれだと結論付けて納得しているのかもしれません。



では、また。





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2020年4月18日土曜日

第12回 イーファスピッチは誰でも投げられるのに、誰も使いこなせない


 


 どんな球? 

イーファスピッチという球種があります。

どのような球か知っていますか?


知っている人は通ですね。

どんな球かというと、ただの「山なりのスローボール」です。
とくに曲がったりはしません。

誰でも投げられるような球です。

そのくせに、打つのは非常に困難です。

メジャーリーグでは多田野投手が、格上のアレックス・ロドリゲス選手にイーファスピッチを投げて打ち取った例もあります。

アレックス・ロドリゲス選手は年棒が3000万ドルを超えたこともあるスーパースター選手でした。
なぜ、超一流のメジャーリーガーがそんな球を打てなかったのでしょうか。

その理由として以下の点が挙げられます。

・球が遅すぎてタイミング取れない。
 通常の160-125[km/h]の球ではリリースからストライクゾーン到達までの時間は0.4-0.5秒だが、イーファスピッチではその4倍、2.0秒もかかる。

・バットのスイング軌道と球筋が大きくずれるので、点でしか捉えられない。
通常の投球では水平からやや下向きの球筋なので、ややアッパー気味のスイング軌道と相性が良く球を線で捉えることができる。
一方、イーファスピッチは下向き50度の角度で落下してくる。


「そんなにも打つのが難しいならみんな投げればいい」、と思うかもしれませんが、この球には欠点もあります。

・ストライクをとるのが非常に難しい。
・ランナーがいると盗塁される。

二つ目は言わずもがなですね。1.5秒も余分にランナーに猶予を与えてはどんな強肩捕手でも刺すことは不可能です。

ここでは、一つ目のストライクをとる難しさについて、なぜなのかをエクセルで作った軌道シミュレータver3.2を使った計算で証明していきます。




 イーファスピッチの軌道計算 

まずイーファスピッチの球筋を軌道シミュレータで再現します。

[計算条件]

 イーファスピッチ
 球速 v0=47[km/h]、リリース角度 θ=45度(上向き)、Φ=2.0度(一塁側)
 リリースポイント x0=1.0m(ホーム方向)、y0=-0.5m(三塁方向)、z0=1.8m(高さ)
 ボール回転角度 θs=110度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.38、揚力係数CL=0.07

 リリース角度は写真からの推定値です。
抗力・揚力係数は回転がほとんどかかっていないと推定しフォークボール相当
の値を使用します。


[計算結果]

イーファスピッチの軌道を再現した計算結果は以下のようになりました。
グラフ中の点は0.02秒ごとのボールの位置を表します。

かなりの山なりで、まるでアイドルの始球式のようです。



多田野選手が実際に投じたイーファスピッチについて日米マスコミ報道によれば、初速48[km/h]程度、高さは20フィート(6m)に達したとのことですので、再現性は良好です。


 球速変化にとても敏感である 

上記の計算結果では、47km/hで投じられたボール軌道はストライクゾーンの高めを通過しています。

球速を少し変えるとどうなるでしょうか?

上記と同条件で球速のみを変えた場合の軌道を3種類計算します。

[計算条件2]

 イーファスピッチ
 球速 v0=47.0、46.0、47.5[km/h]、リリース角度 θ=45度(上向き)
 ボール回転角度 θs=110度、Φs=-80度

 抗力係数 CD=0.38、揚力係数CL=0.07

[計算結果2]

リリース角度は一定のまま、球速のみ変えた場合のイーファスピッチの軌道計算結果は以下のようになります。



・球速47.5[km/h]では、ストライクゾーン高めいっぱいを通過する。
・球速46.0[km/h]では、ストライクゾーン低めいっぱいを通過する。



 ストライクゾーンの幅は1.5km/hしかない 

つまり、上向き45度で投げられたイーファスピッチがストライクゾーンを通過するのは、球速が46.0[km/h]から47.5[km/h]の範囲にあるときだけです。

球速47.5[km/h]以上では、高めのボール球になります。
球速46.0[km/h]以下では、低めのボール球になります。

この山なり軌道が特徴のイーファスピッチは、ストライクゾーン上下のコントロールが球速に対し非常に敏感に反応します。


わずかに球速が異なるだけで軌道が上下に大きくずれてしまい、ホームベース上を通過するときの高さも大きく変わってしまいます。

つまり、イーファスピッチでストライクを取るためには球速を1.5[km/h]の範囲内で制御しなければならないのです。

通常の球種ではリリース角度を正確に調整すれば狙ったコースへ行きますが、イーファスピッチではさらに球速も正確に調整しなければなりません。
それも1.5km/hというとても狭い範囲内で。

これはとても難しいことであり、それ故イーファスピッチを実践で使用する投手が極めて少ないのです。

ただの山なりボールでありながら、実はすごく高度な調整能力がないと投げられない難易度Sの球種だったのです。



...もし、あなたが打者の時にイーファスピッチを投げられたどうすべきか。


ストライクになる確率は低いので、振らないのが賢明です。



 4シームはストライクを取りやすい球 

一方、4シームではリリース角度さえ制御すれば、初速が大きく異なっても余裕でストライクになります。


参考に初速が15[km/h]異なる、140[km/h]155[km/h]の4シームの軌道計算結果を以下に示します。

[計算条件3]

 4シーム
 球速:v0=140、155[km/h]、リリース角度:θ=-2.5度(下向き)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20

[計算結果3]

 リリース角度は同じで、初速のみ変えた場合の4シームの軌道計算結果は以下のようです。




球速が15[km/h]異なってもストライクゾーンにおける軌道の高低差は16cmしかありません。

どちらもしっかりストライクです。


普段140[km/h]を投げている人が少し力が入ったからといって、うっかり155[km/h]がでてしまった、なんてことはまずないでしょう。

4シームの球速が狙いより15[km/h]もずれるということはまずありません。従って、球速の誤差による上下コントロールの誤差は16cmよりももっと小さくなります。

4シームは上下のコントロールを付けやすい、ストライクをとりやす球といえます。




 余談 


イーファスピッチは他のどの球種よりも高く上がり、そして垂直に近い角度で落ちてきます。およそ下向き50度です。

そのためストライクゾーンを通過する場合は、必ずキャッチャーの手前でワンバウンドします。ノーバウンド捕球はされません。


テレビや動画などセンター方向からの映像ではキャッチャーが低めで捕球した球がストライクに見えますが、ノーバウンド捕球している時点で実際は高めのくそボールなのです。



...もし、あなたが打者の時に、2ストライクから、イーファスピッチを投げられたら。
それが運悪くストライクゾーンを通過してしまったら。

それでもまだ、あきらめないでください。

振り逃げの可能性が残されています。

もちろん、振れば、芯に当たってヒットになる可能性も。



では、また。






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2020年4月11日土曜日

第11回 ジャイロボールは「打者の手元で急に曲がり始めるスライダー」になりうるのか検証してみた



ジャイロボールについて、一部でこんな説が唱えられています。

「ジャイロボールを水平に投げると打者の手元に近づいてから急に横へ曲がり始め、通常のスライダーよりも鋭い変化球となる。」

彼らの主張する理屈はこうです。

「純粋なジャイロボールを水平に投げるとリリース直後はボールの進行方向と回転軸が完全に一致しているため、マグヌス力(揚力)はどちら方向にも働かない。ただの重力のみが作用し自由落下軌道となる。
しかし飛んでいくうちにその重力の落下により速度が下方向成分を持つようになるとボールの進行方向と回転軸がずれ始め、カーブ方向のマグヌス力が発生する。
通常のスライダーではリリース直後からマグナス力で曲り始めるのに対し、ジャイロボールでは途中からマグナス力で曲がり始めるため、より打者の手元で急激に曲がる鋭い変化球になる。」


ジャイロボールは途中から曲がり始めるのか 


...本当にそんな変化を起こすのでしょうか。

その真偽を確かめるため、エクセルで作成した軌道シミュレータver.3.2を使って、水平に投げられたジャイロボールの軌道を計算してみます。

[計算条件]

 ジャイロボール
 球速:v0=130[km/h]、リリース角度:θ=0度(水平)、Φ=0度(ホーム方向)
 ボール回転軸角度 θs=90度、Φs=0度
 抗力係数 CD=0.41、揚力係数CL=0.22

 左右の曲がり具合が分かりやすいよう、リリース角度はホーム方向へ真っすぐΦ=0とします。

 ボール回転軸角度の定義
 


[計算条件終わり]


[計算結果]

 純粋なジャイロボールを130km/hで水平に真っすぐ投げた場合の、ボール軌道の計算
 結果は以下のようになりました。
 グラフ中の点は0.02秒ごとのボールの位置を表します。

 ジャイロボールの軌道

 x-y平面プロット図に見るように、横方向へは全く曲がっていません
 ホームベース上での直線軌道に対する横方向への変化量はわずか1.5mmです。

 ホームベース上でのボール速度は116.6km/hで水平から下向きへ8.3度の方向です。
 x方向速度成分が115.3km/h、z方向成分が-16.9km/h(下向き)となっており、
 z方向速度成分はx方向速度成分よりもざっくり一桁小さい値になっています。
 
 ボールを横へ曲げようとするマグナス力(揚力)は速度の二乗に比例するため、
 この純粋なジャイロボールがホームベース手前の落下段階でz方向速度により受ける
 マグナス力は、通常のサイドスピン回転の球がx方向速度成分による受けるマグナス力に
 比べ二桁小さい値となります。
 通常のサイドスピン回転の球の変化量が数十センチなので、ジャイロボールの横変化量
 はその二桁小さい数ミリのオーダーとなります。

[計算結果おわり]

以上のように、ピッチングにおいて「ジャイロボールが途中から急激に曲がり始めるスライダーになる」というのは机上の空論であることが証明されました。

純粋なジャイロボールは曲がらずに真下に落ちる縦スラにしかなりません。
横へ曲げたいのなら回転軸を水平より少し上向きに傾け、リリース時からサイドスピン成分を与える必要があります。


ジャイロボールは理屈としては横に曲がるが、その変化量が小さすぎて打者を打ち取るような効果はありません。

世の中ではこういった「理屈としてはあっているが、その効果が小さすぎて実用的な意味がない」、ということがよくあります。
例えば、この野菜を食べると○○の健康効果があるとテレビで大々的に放送しておきながら実際には、毎日5キロ食べ続けないと効果がないなどということが後で分かることがあります。
だからこそ頭の中のイメージだけでそれっぽいイラストを描いて終わり、ではなく計算して定量的な数値を出すことが大切なのです。

楽しさが重視され正しさが軽視される、エンタメ中心に世が回る昨今です。

効果がないことを証明すると、期待していた人からはがっかりされたり逆恨みで嫌われることも時にはあるかもしれませんが、科学技術の進歩のため、さらには民衆が嘘に騙されて扇動されてしまわないためには、こういうのも必要なことです。


あえて言えば、4シームがシュート成分を含んでいるのでそれを真っすぐと認識するほどに慣れていると、左右どちらにも曲がらないジャイロボールはスライドするように錯覚するということはあるのかもしれません。

遠投でジャイロボールを投げるとどうなるか 


さて、ここまで否定を続けてきましたが「ジャイロボールが落下軌道に入ると横に曲がる力をうける」という理屈自体は決して間違っていません。
上記の計算結果でも曲り幅が小さいだけで少しは曲がっています。

通常のピッチングで投げられる球では落下による下方向速度成分が大きくなく、加えて落下軌道に入ってからストライクゾーンに達するまでの時間が0.1~0.2秒程度と短いためほとんど横には曲がりません。
しかし、山なり軌道で数秒間落下が続くならばジャイロボールが途中から大きく曲がり始める軌道となる可能性はあります。

というわけで、ジャイロボールで遠投をしたらどうなるか、その軌道を計算してみます。

[計算条件2]

 ジャイロボール
 球速:v0=130[km/h]、リリース角度:θ=35度(上向き)、Φ=0度(ホーム方向)
 ボール回転軸角度 θs=55度、Φs=0度
 抗力係数 CD=0.41、揚力係数CL=0.22

 完全なジャイロボールとなるよう、ボールの回転軸をリリース角度と一致させました。

[計算条件2おわり]


[計算結果2]

 純粋なジャイロボールで遠投をした場合の、ボール軌道の計算結果は以下のようになり
 ました。

 ジャイロボールで遠投

 x-y平面プロット図を見ると理屈通り横へ曲がっています。
 50mあたりで頂点に達しますが、曲り始めはそれよりも早く25m当たりから直線軌道
 からずれ出しています。25m時点で直線軌道から33cm横へ変化しています。
 頂点に達する48m地点で横変化量は1.7m、地面に落ちる86m時点では横変化量は7.7m
 となっています。

[計算結果2おわり]

というわけで、遠投でジャイロボールを投げると、横へ数メートル曲がることが確認できました。




二塁手のジャイロボール 

ジャイロボールは投手だけのものではありません。

斜め後ろで守っている二塁手も、ゴロをとって一塁へ送球するときにジャイロ回転の球を投げています。



送球距離の短い内野ゴロではとってから投げるまでの時間を短くすることが重要なため、体重移動を小さくし横からスナップスローで投げます。

横から投げる時に4シームのように指をボールの後ろに当ててリリースするとシュート回転して、送球がそれたり一塁手が捕りづらくなったりします。

そのためジャイロ回転の球を投げます。

ジャイロ回転の球ならシュートせず、また今回の計算結果にみるように20m程度の距離ならスライドもせず、真っ直ぐ飛んでくれます、

また自分で投げてみると分かりますがスナップスローで投げるときには自然とジャイロ回転の球になるので、変化球を投げる時の様に意図的に回転軸をずらす必要もありません。



*****

ジャイロボールは投げ方によりその軌道が変わります。

・オーバースローの投手が投げればフォークのように落ちる縦スラになる
・遠投で投げれば横へ大きくスライドして曲がる
・サイドスローで近距離に投げれば曲がらず真っすぐ飛ぶ球になる

不思議な球です。



では、また。




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2020年4月4日土曜日

第10回 シュート、シンカーの軌道計算



エクセルで作成した"軌道シミュレータver3.2"を使ってシュート、シンカーの軌道を計算し、4シームの軌道と比較します。

 シュートの軌道計算 


まずはシュートです。

シュートは最近では2シームのバリエーションの一つとして分類されることが一般的になりました。2シームの中で横への曲りが大きいものが従来のシュートと同義です。

もともと4シームも完全なバックスピン回転ではなく回転軸が傾いているためいくらかシュートしています。シュートは2シームの握りで意図的に回転軸の傾きを大きくし、サイドスピン成分を増やすことによって投げられます。

[計算条件]

 シュート
 球速 v0=135[km/h]、リリース角度 θ=-0.5度(下向き)、Φ=2.0度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=145度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.41、揚力係数CL=0.20

 4シーム
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=-1.0度(下向き)、Φ=2.0度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20

 ボール回転軸角度の定義
 
 シュートの回転軸

 θs : z軸からx-y平面に向かう角度(真上から水平に向かう角度)
 Φs : x軸からy軸に向かう角度(ホーム方向から一塁側へ向かう角度)

[計算条件終わり]


[計算結果]

ボール軌道の計算結果は以下のようになりました。
グラフ中の点は0.02秒ごとのボールの位置を表します。

シュートの軌道

・高さ方向の軌道は4シームに近い
・右打者インコースに小さく変化している


 シュートは小さく鋭くインコースへ食い込む 


上下の軌道を見てみると、シュートのリリース角度は4シームよりも0.5度だけ上向きで、投げた瞬間の軌道はほぼ重なっています。
その後も、シュートもある程度上向き揚力が作用し、また球速の差も5km/hしかないため、両者の軌道の上下位置にはあまり差ができません
ストライクゾーンを通過するときの最大の上下位置差は8cm、ボール一個分程度です。

次に横方向の変化を見てみると、リリースから11mまではほぼ軌道が重なっています。

そこから残りの7mで両者の差ができ、ストライクゾーンを通過するときには4シームの軌道がほぼ真ん中であるのに対し、シュートはその23cmほど内側のボールゾーンを通過していきます。

右打者からすると、ど真ん中の4シームだと思い喜んで振ったら、徐々にインコースに食い込んできて根っこに当たりぼてぼてのゴロが転がり、親指の痛みに耐えながら懸命に一塁へダッシュすることになるでしょう。


 シンカーの軌道計算 

次は、シンカーです。

シンカーはシュートしながら沈む球です。

シュートよりもさらに回転軸を傾けシュート成分を大きくするので、その分ホップ成分がなくなり4シームと比べ落ちる変化も加わります。
シンカーという球種名は英語のsink(沈む)という意味です。

腕の振りの方向と大きくずれた向きに回転をかけるため他の球種に比べて投げるのが難しい球です。しかしその分投げる投手が少なく、打者が不慣れであるという利点があるため、物にできれば大きな武器となります。

メジャーリーグでは4シーム並みの球速でもシンカーが投げられていますが、ここではチェンジアップ気味の緩いシンカーを計算対象とします。

[計算条件2]

 シンカー
 球速 v0=120[km/h]、リリース角度 θ=-0.5度(下向き)、Φ=2.0度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=-150度、Φs=35度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.18

 4シーム
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=-1.0度(下向き)、Φ=2.0度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20

 

[計算条件終わり]


[計算結果]

ボール軌道の計算結果は以下のようになりました。
グラフ中の点は0.02秒ごとのボールの位置を表します。



・4シームに比べ大きくお辞儀し沈む
右打者インコースに小さく変化している

 シンカーは縦にしたバットをすり抜ける 


シンカーのリリース角度は4シームよりも0.5度だけ上向きで、投げた瞬間の軌道はほぼ重なっています。
その後シンカーにはほとんど揚力が作用せず、また球速も20km/h遅いため落差は大きくなります。
ストライクゾーンを通過するときの4シームとの上下位置差は50cmになります。

横の変化量はシュートと同じぐらいです。

右打者からすると、ど真ん中の4シームだと思ったら、ひざ元へ向かって曲がりながら沈みこでくるので、左ひざを突っ張ってバットを縦にすることでコースになんとか対応できた、と思ったら緩い球でタイミングが合わず空振りしてしまった、という感じになるでしょうか。

[計算結果2おわり]



 シュート軌道の3D動画 

エクセルには3Dプロット機能が備わっていないので、代りにRinearnGraph3Dというフリーソフトを使って軌道を3Dプロットし、それをgifで動画ファイルにしてみました。

一コマ0.02秒で実際のスピードと同じにしてあります。

視点は捕手からのものです。

4シームとシュートが交互に投げられます。

[3Dプロット動画]

4シーム&シュート
シュート軌道3D動画








では、また。




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