2020年7月25日土曜日

第26回 ホームランを打つための最適打球角度



 飛距離を出すために打ち上げる 

ホームランを打ちたい。

そのためにどうしたらいいか。

飛距離の出る大きなフライを打てばいい。

そのためには水平よりも、上に向かって打球を打ち上げるほうがよい。

では、どのくらい上に向かって打てばいいのか?

水平に打ち返した場合いくら打球が速くてもホームランにはならない。
内野手のグラブをかすめた打球がそのままスタンドインなんて、現実には起こらない。

打球が高く上がりすぎても飛距離が出なくて外野フライなってしまう。

その間に、低すぎず高すぎず最も飛距離の出る、最適な打球角度が存在するはずである。

そこで今回は、打球の軌道を計算して一番飛距離の出る打球角度を割り出す

ホームランを打ちたい人はぜひ参考にしてほしい。


 打球の軌道計算 

打球速度は140km/h、回転数は2500rpmで完全なバックスピンとする。
rpmは一分間あたり回転数の単位で、2500rpmだと平均的なプロ投手の4シームより少し多めである。

打球を角度を変えてそれぞれの打球軌道を計算していく。

[計算条件]

 バックスピン
 球速:v0=140[km/h]、打球角度:θ=10,20,30,40度(上向き)
 ミートポイント x0=0m(前方)、z0=1.0m(高さ) 
 ボール回転軸角度 θs=90度、Φs=-90度
 抗力係数 CD=0.41、揚力係数CL=0.22


[計算結果]

打球軌道の計算結果は以下のようになった。
飛距離最大打球角度の軌道計算結果

水平から30度上に向かって打ち上げると飛距離が最大になる。

30度の時、飛距離は106mで100m先にある高さ5mの両翼フェンスをノーバウンドで超えてホームランになる。


 40度では上がりすぎ、30度で打て 

40度は飛距離105mでこれもホームランになる。しかし少し高く上がりすぎで30度の時よりわずかに飛距離が落ちる。

屋外で追い風があるときなら40度の方が飛距離が出るかもしれない。

が、40度はお勧めしない。

30度でも40度でも両翼ならホームランになるが、センター方向だとフェンスまで122mの距離があるためフェアゾーンの打球となる。右中間、左中間も115mほどなのでやはりフェアゾーンに落ちる。

そのとき、打ってから地面に落ちるまで時間は30度が4.91秒なのに対して、40度では5.59秒かかる。
飛距離がほとんど同じなのに落ちるまで0.68秒余計にかかる。この0.68秒の間に時速28km/hで走る外野手は、5.2m移動する。それだけノーバウンド捕球されやすくなる。

・40度では30度と飛距離は変わらないため、ホームランのなりやすさは同程度
・40度では30度よりも地面に落下するまでの時間が長いため、フェンス越えしないときは外野フライになりやすい。
⇒そのため、40度よりも30度で打ち上げる方がよい。


 20度ではホームランにならない、が悪くはない  

20度の飛距離は97mでフェンス手前でワンバウンドする。ポール際でもホームランにならない。
だが、この打球、2ベースヒットになる可能性は高い。

打ってから地面に落ちるまで3.9秒かかる。足の速い打者の一塁到達タイムと同じぐらいである。背走することを考えると、この3.9秒間で外野手が移動できるのはせいぜい25m程度である。
外野手の定位置はホームから75m程度であるから、前進守備なら間違いなく頭を越せるし、通常ポジションでもよほど真後ろでなければ外野手の間を破ることができる。

そのため、ホームランにはならなくても、20度の打球はツーベースやになりやすいのである。

なお、今回は打球速度140km/hで計算したが、150km/h以上なら20度でもフェンスを越えてホームランになる。


 10度はシングル狙い  


10度の打球の飛距離は72m。外野手の定位置の少し手前なので、正面に飛ぶとライナーで捕られてしまう。
だが、打ってから落ちるまでは2.5秒と短いため、打球コースが外野手の守備位置から少しずれればヒットになる。

また、ホームから30,40m地点を高さ5mで通過していく。
これはフェアゾーンのどこへ飛んでも、内野手がジャンプして取ることはできず、ライナーでアウトになることがないことを意味する。

最初からシングルヒット狙いであっても、水平より少し上向きの10度で打つ方が、水平やゴロで打ち返すよりもヒット確率は高くなる



では、また。




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2020年7月20日月曜日

第25回 バックホーム送球は、ダイレクトとワンバウンド、どちらが早く届くのか



 捕殺は外野手の見せ場 

外野へ抜けるヒット、迷いなく三塁ベースを回るランナー。

まずい点を取られる、と思った次の瞬間、強烈なバックホームで間一髪タッチアウト。


肩の強い外野手にとって捕殺は最高の見せ場です。

 ワンバウンド送球は無駄な進塁を防ぐ 

プロ野球の外野手では一人で50m以上の距離を投げることもざらです。

そういう長い距離を投げる時には、
「山なりのノーバウンドではなく、低いワンバウンドで送球しろ」と

そう教わった人が多いのではないでしょうか。

ワンバウンドの方が良い理由として、暴投のリスクが少ないことがあります。
ノーバウンドで投げて高く逸れるとジャンプしても取れないが、ワンバウンド送球なら体に当てて止めることができる。

また、低い送球の方が途中で内野手がカットできることもメリットです。
バックホームしたが間に合いそうもない時には、内野手がカットすることでバッターランナーが送球間に二塁まで進むのを防ぐことができます。

ワンバウンド送球は無駄な進塁を与えないことというメリットがあります。

 どちらが早く届くか 

では、狙ったランナーをアウトにすることに関してはどうでしょうか。

ノーバウンドのダイレクト送球とワンバウンド送球と、どちらが投げてからベースまで早く届くのでしょうか。

今回はそれを検証するために、ダイレクト送球およびワンバウンド送球の軌道計算をおこない比較してみます。


 ワンバウンド送球の有利、不利 

ダイレクト送球、ワンバウンド送球で球速v0は同じとします。

●リリース直後
長い距離を投げる時には水平よりも上向きにリリースしますが、この上向きリリース角度θが小さいほど速度の水平成分vx0が大きくなります。(vx0=v0×cosθ)
ダイレクト送球よりワンバウンド送球の方が水平に近い角度で投げるため、速度の水平成分vx0が大きいという点ではワンバウンド送球の方が有利になります。

 ワンバウンド送球のθ    <  ダイレクト送球のθ
 ワンバウンド送球のvx0 > ダイレクト送球のvx0



●バウンド前後
一方、ワンバウンド送球ではバウンドにより減速する不利があります。

今回は上下方向速度vzはバウンド前後で逆向きで0.5倍の大きさになり、水平方向速度vxは0.7倍に減速すると仮定します。

硬式ボールの反発係数がおよそ0.4ですが、バックスピン回転で上に跳ねることを考慮して0.5倍としました。
また水平成分はテニスのフラットサーブがバウンド前後で0.75倍程度に減速するというデータがありましたので、バックスピン回転によるブレーキを考慮して0.7倍としました。


ワンバウンド送球がダイレクト送球に勝てるか否かは、速度の水平成分の有利が勝るか、バウンドによる減速の不利が勝るか、次第ということになります。


 ダイレクト送球、ワンバウンド送球の軌道計算 

60メートルの距離で外野からのバックホームした場合を計算します。
送球はプロ投手4シーム相当とし、ホームベース上におけるボールの高さが1m程度になるようなリリース角度とします。


[計算条件]
 外野手のリリースポイントをx=0とし、そこからホームベースに向かう方向を+x方向にとります。

 4シーム
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=8.0、5.0度(上向き)、Φ=0.0度
 リリースポイント x=0(前方)、z0=1.8m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20




[計算結果]

球速140km/hでダイレクト送球およびワンバウンドで送球したときの軌道計算結果は以下のようになりました。
グラフ中の点はワンバウンド送球が地面についた瞬間(t=1.55秒)および、ダイレクト送球がホームベース上に届いた瞬間(t=1.95秒)の両者のボール位置を表します。

バックホームの軌道

●バウンド前
ワンバウンド送球の方がリリース角度が水平に近く、速度の水平成分が大きいため途中までは先行します。

しかしそれは、わずかな差です。

リリースから1.55秒後、x=50m手前でワンバウンドする瞬間の、ワンバウンド送球のリードはわずかに0.28m(=28cm)です。

リリース直後の速度の水平成分を見てみると、ワンバウンド送球がvx0=139.5km/h(=140×cos5°)、ダイレクト送球がvx0=138.6km/h(=140×cos8°)で、わずか0.6%の違いです。

●バウンド後
バウンドによる減速の後、あっさりと抜かれてしまいます
ダイレクト送球がホームに届くリリースから1.95秒後では、逆に2.76mの遅れをとります。
そして、その後ワンバウンド送球はダイレクト送球から0.16秒遅れてホームベース上に到達します。

この0.16秒の間に時速27km/hで走るランナーは1.2メートル進みます。


というわけで、球速140km/hで60メートルの距離を送球する場合、ダイレクト送球の方がワンバウンド送球よりも0.16秒早く届く、という結果になりました。


●カットマンが捕れるか
一方で、カットをするためにはやはりワンバウンド送球が必要です。

ホームベース20メートル手前のx=40m位置にカットマンがいるとします。
ワンバウンド送球では高さ1.7mを通過していくため取りやすくなっています。
一方、ダイレクト送球では高さ4.1mを通過していくためジャンプしても取ることはできません。

球速140km/hで60メートルの距離を送球する場合、内野手がカットできるようにするためにはワンバウンド送球しなければならないのです。



 強肩でない外野手の送球軌道計算 

もう少し肩が弱くダイレクト送球だと山なりになってしまう場合も計算してみます。

球速を110km/hとします。


[計算条件2]

 4シーム
 球速:v0=110[km/h]、リリース角度:θ=19.0、12.0度(上向き)、Φ=0.0度
 リリースポイント z0=1.8m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20


[計算結果2]

球速110km/hでダイレクトおよびワンバウンドで送球したときの軌道計算結果は以下のようになりました。
グラフ中の点はワンバウンド送球が地面についた瞬間(t=1.94秒)および、ダイレクト送球がホームベース上に届いた瞬間(t=2.61秒)の両者のボール位置を表します。

ワンバウンド送球の軌道

●アウトにしたいならノーバウンド送球すべき

送球軌道はだいぶ山なりになりましたが、結果は同じで、球速が遅くてもダイレクト送球の方がワンバウンド送球よりも早く届きます

ワンバウンド送球はダイレクト送球に2.0メートル差を付けられ、0.15秒遅れてホームベース上に到達します。

だから、少々肩が弱くても、山なりでも、送球がそれるリスクがあっても、そんなことは構わないから、サヨナラの場面などできわどいタイミングだけれどどうしてアウトにしたいならのならば、一か八かのダイレクト送球を試みるべきです。


●肩が弱いとワンバウンドでもカットしづらい

また球速が遅いとワンバウンド送球でも山なりになり、カットマンが先ほどと同じホームベースから20メートル手前のx=40mにいると高さ2.8mを通過していくためジャンプしても取れないかもしれません。
取りやすい高さにするためカットマンはよりホームベースに近づく必要があります。


 バックホーム送球の3D動画 

エクセルには3Dプロット機能が備わっていないので、代りにRinearnGraph3Dというフリーソフトを使って軌道を3Dプロットし、それをgifで動画ファイルにしてみました。

一コマ0.02秒で実際のスピードと同じにしてあります。

視点は三塁ベンチ側からのものです。

60メートルの距離を140km/hの送球です。ノーバウンドのダイレクト送球とワンバウンド送球の軌道が同時にプロットされます。

[3Dプロット動画]

60メートル140km/h送球
外野からの送球軌道





では、また。





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2020年7月13日月曜日

第24回 ホップする4シーム(6) 直線軌道に対しておじぎしない「本当にホップする球」を投げることができるのか検証してみた



 ホップは錯覚 


球速が速くバックスピンの効いた4シームは打者の予測のはるか上を通過し、バットは空を切る。

その球は重力に逆らい、打者へ近づくほどに上へ上へとホップしてくる。

そんな「錯覚」に、襲われる。

打者の感覚としては浮き上がるように感じるが、現実には回転による上向きマグナス力よりも、下向き重力の方が大きい。

その結果、プロ投手の球でさえ直線軌道に比べておじぎすることが知られている。

4シームのことを、日本球界では「真っすぐ」、「直球」、「ストレート」などと呼ぶが、その軌道は数学的な直線とは異なる。

そこで今回は、実際に重力に打ち勝っておじぎをせず真っすぐ進む、さらには、直線軌道よりも上に変化するような「本当にホップする球」を投げることができるのか、軌道計算により検証してみる。


 山本昌の驚くべき回転数 

バックスピンの回転数が多ければ多いほど、上に浮き上がろうとするマグナス力が大きくなり、その結果おじぎ量は少なくなっていく。

プロ野球の歴史上で最も回転数の多い4シームを投げたのが、山本昌投手(元中日)だと言われている。

BSテレビ局のHPによればその回転数はなんと、毎秒52回転である。
https://web.archive.org/web/20130923092503/http://www.jump.co.jp/bs-i/chojin/archive/089.html

一分間あたりの回転数に換算すれば、3120rpmである。

現役で回転数が多いと言われている藤川球児投手(阪神)やダルビッシュ有投手(カブス)が2700rpmであり、これを大きく上回る。

驚くべき数値である。

回転数は球速に比例して増加する傾向にある。そのため、球速が130キロ代の山本昌投手が150キロ前後の彼らを上回るのは極めて異常なことである。


 山本昌の軌道計算 

そんな山本昌投手の投げる超高回転4シームの軌道を計算してみる。
比較のため、プロ平均の4シームも併せて計算する。

おじぎ量が分かりやすいようリリース角度は水平にする。

[計算条件]

 4シーム(山本昌)
 球速:v0=135[km/h]、リリース角度:θ=0.0度(水平)、Φ=-2.0度(三塁方向)
 リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=0.5m(一塁方向)、z0=1.8m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=-70度、Φs=80度
 回転数N=3120rpm(SP=0.32) : 抗力係数 CD=0.43、揚力係数CL=0.28

 4シーム(NPB平均)
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=0.0度(水平)、Φ=-2.0度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 回転数N=2200rpm(SP=0.22) : 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20

 ボール回転軸角度の定義
 
 左投手4シーム回転軸

 θs : z軸からx-y平面に向かう角度(真上から水平に向かう角度)
 Φs : x軸からy軸に向かう角度(ホーム方向から一塁側へ向かう角度)


[計算結果]

山本昌投手の4シーム軌道の計算結果は以下のようになった。
グラフ中の点は0.02秒ごとの、一番右のみx=18.44mにおけるボールの位置を表す。

山本昌高回転4シーム軌道計算結果

山本昌投手の4シームはNPB平均と比べ球速が5km/h遅いが、にもかかわらずその軌道は10cm上を通過していく。

マグナス力の働かない自由落下に対してなんと63cmもホップしている

スピンの効いた素晴らしい4シームである。

しかしそれでも、直線軌道からは42cmおじぎしてしまっている。

高回転により「本当にホップする球」は投げられなかった。


 チャップマンは人類最速の球 

山本昌投手の球は回転よるホップ量は素晴らしいが、一方球速が遅いため重力を受ける時間が長くなってしまい、これが直線軌道からのおじぎ量を大きくする原因となっている。

ならば、球速の速い投手ではどうか。

ギネス記録に認定されている人類最速の球は、アロルディス・チャップマン(ヤンキース)が2010年に投じた169.1km/hである。

リリースからホームベース到達までの時間はなんと、0.377秒である。

つまり、重力を受ける時間も経った0.377秒ということである。


一般的に球速が速いほど肩肘への負担は増加するが、怪我をせず30歳を超えてなお変わらぬ剛速球を投げ続けている彼のタフさは尊敬に値する。


 チャップマンの軌道計算 

そんなチャップマンの投げる超高速4シームの軌道を計算してみる。

おじぎ量が分かりやすいようリリース角度は水平にする。

[計算条件2]

 4シーム(チャップマン)
 球速:v0=169.1[km/h]、リリース角度:θ=0.0度(水平)、Φ=-2.0度(三塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=-70度、Φs=80度
 回転数N=2680rpm(SP=0.22) : 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20


[計算結果2]

チャップマンの4シーム軌道の計算結果は以下のようになった。
グラフ中の点は0.02秒ごとの、一番右のみx=18.44mにおけるボールの位置を表す。

比較のため、プロ平均の4シームも併せて表示する。

チャップマンギネス球速の軌道計算結果

チャップマンの4シームはNPB平均と比べ球速が29km/h速く、その軌道は31cmも上を通過していく。

マグナス力の働かない自由落下に対して45cmホップしている

球速、軌道ともに素晴らしい4シームである。

パッと見ではほぼ直線的に見えるが、それでも破線で示した直線軌道からは21cmおじぎしてしまっている。

人類最速の一球でも「本当にホップする球」は投げられなかった。


 空想上の投手 

山本昌投手でも、チャップマンでもだめならば、「本当にホップする球」を投げることができる人間はおそらく存在しないであろう。

ここからは空想上の投手が投げる球として、軌道がおじぎしなくなるにはどれくらいの球速と回転数が必要なのか計算してみる。

[計算条件3]

 4シーム(空想上の投手)
 球速:v0=175[km/h]、リリース角度:θ=0.0度(水平)、Φ=-2.0度(三塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=-70度、Φs=80度
 回転数N=4000rpm(SP=0.32) : 抗力係数 CD=0.43、揚力係数CL=0.27

[計算結果3]

上記条件の値で投じた場合の4シーム軌道の計算結果は以下のようになった。
グラフ中の点は0.02秒ごとの、一番右のみx=18.44mにおけるボールの位置を表す。

比較のため、プロ平均の4シームも併せて表示する。

本当にホップする球の軌道計算

球速175km/h、回転数4000rpm。これでようやく直線軌道に対しておじぎしない、ほぼ直線と同じ軌道となった。

これ以上の球ならば軌道は直線を超え上にホップして浮き上がる。

つまり、「本当にホップする球」を投げるためには、球速175km/h以上、回転数4000rpm以上が必要でなのである。

こんな球を投げられる投手は長い野球の歴史上でも実在しない、空想上の投手だけである。




が、それでも未来のことはわからない。

昔は日本の高校生が160km/hを投げるなんて誰も予想できなかった。マンガの中でそんなのが登場すれば現実味がないと馬鹿にされた。
しかし現れた。

175km/h、4000回転も、もしかしたらと期待してしまう。






では、また。





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2020年7月6日月曜日

第23回 ホップする4シーム(5) 藤川球児の「ホップ量の内訳」を見てみる



ホップする4シームを投げる投手といえば誰?と聞かれたら、誰を差し置いても阪神の藤川球児投手の名前が挙がることでしょう。

真ん中ためのボール球を空振りさせる。

分かっていても振ってしまう。振っても当たらない。

本当にすごい球です。

なぜあんなにもホップするのか。

その秘密を知りたくないですか?



そこで、今回は藤川投手の4シームの軌道をエクセルでつくった軌道シミュレータver3.2で再現し、そのホップ量がどこからくるのか明らかにしていきます。


 藤川球児4シームの軌道計算 


まず、藤川球児の4シームとNPB平均の4シームの軌道を計算します。

藤川投手の4シームは球速、回転数、回転軸の角度のいずれもNPB平均と比べて優れています。

[計算条件]

 4シーム(藤川球児)
 球速:v0=147[km/h]、リリース角度:θ=-0.5度(下向き)、Φ=2.0度(一塁方向)
 リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=-0.5m(三塁方向)、z0=1.8m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=95度、Φs=-85度
 回転数N=2700[rpm] (SP=0.26) : 抗力係数 CD=0.412、揚力係数CL=0.228

 4シーム(NPB平均)
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=-0.5度(下向き)、Φ=2.0度(一塁方向)
 リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=-0.5m(三塁方向)、z0=1.8m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 回転数N=2200[rpm] (SP=0.22) : 抗力係数 CD=0.404、揚力係数CL=0.198

 rpm(revolutions per minute)は一分間あたりの回転数表す単位です。
 スピンパラメータSPは回転数と球速の比に比例する値で、これにより抗力係数CDおよび揚力係数CLが決まります。(SPについては第19回を参照ください。)



 ボール回転軸角度の定義
 
藤川球児4シーム回転軸

 θs : z軸からx-y平面に向かう角度(真上から水平に向かう角度)
 Φs : x軸からy軸に向かう角度(ホーム方向から一塁側へ向かう角度)

[計算条件終わり]


[計算結果]

藤川球児およびNPB平均の4シームの軌道計算結果は以下のようになりました。

グラフ中の点は0.02秒ごとの、一番右の点のみホームベース上(x=18.44[m])におけるボールの位置を表します。

藤川球児4シーム軌道

NPB平均の4シームでは、ホームベース上(x=18.44m)おけるボールの高さzは1.13mです。

一方、藤川投手の4シームは、ホームベース上での高さzが1.32mです。
NPB平均と比べ19.3cm(=(1.32-1.13)×100)上を通過していきます。

つまり、藤川投手の4シームはNPB平均と比べ19.3cmホップ量が大きいのです。

ボール2個分以上です。

これだけ違えば高めのボール球を、思わず振ってしまうのもうなずけます。


 ホップ量への寄与度 

藤川投手の4シームは球速、回転数、回転軸の角度のいずれもNPB平均と比べて優れています。

この「球速」、「回転数」、「回転軸の角度」の3要素がホップ量を大きくしているわけですが、どれがどのくらいのホップ量増加をもたらしているのでしょうか?

その寄与度を明らかにするため、「球速」、「回転数」、「回転軸の角度」の3要素のうち一つだけをNPB平均値から藤川投手の値に入れ替えてアップさせた場合の軌道を計算し、そのホップ量を比較していきます。

[計算条件2]

 4シーム(NPB平均、ベース)
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=-0.5度(下向き)、Φ=2.0度(一塁方向)
 リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=-0.5m(三塁方向)、z0=1.8m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 回転数N=2200[rpm] (SP=0.22) : 抗力係数 CD=0.404、揚力係数CL=0.198

 4シーム(球速アップ)
 球速:v0=147[km/h]、
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 回転数N=2200[rpm] (SP=0.21) : 抗力係数 CD=0.402、揚力係数CL=0.190

 4シーム(回転数アップ)
 球速:v0=140[km/h]、
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 回転数N=2700[rpm] (SP=0.27) : 抗力係数 CD=0.415、揚力係数CL=0.237

 4シーム(回転軸角度アップ)
 球速:v0=140[km/h]、
 ボール回転軸角度 θs=95度、Φs=-85度
 回転数N=2200[rpm] (SP=0.22) : 抗力係数 CD=0.404、揚力係数CL=0.198

[計算条件2おわり]


[計算結果2]

NPB平均の4シームから各要素をアップさせた場合の軌道計算結果は、以下のようになりました。

グラフ中の点は0.02秒ごとの、一番右の点のみホームベース上(x=18.44[m])におけるボールの位置を表します。

軌道が重なって見づらいため、ホームベース上の拡大図も追加しました。



NPB平均の4シーム(球速 V0=140km/h, 回転数 N=2200rpm, 回転軸 θs=110°(完全なバックスピンからの傾き20°)では、ホームベース上(x=18.44m)おけるボールの高さzは1.13mです。

これに対し回転数アップ(N=2700rpm)では、高さzが1.21mです。
NPB平均と比べ8.7cm(=(1.21-1.13)×100)上を通過していきます。

つまり、回転数が500rpmアップしたことによるホップ量増加は8.7cmです。

同様に球速アップ(V0=147km/h)の高さzが1.20mで、球速が7km/hアップしたことによるホップ量の増加は7.2cmです。

回転軸角度アップ(θs=95°、完全なバックスピンからの傾き5°)では高さzが1.16mで、回転軸が15°改善したことによるホップ量の増加は3.3cmです。

これらを合計すると19.2cm(=8.7+7.2+3.3)となり、先ほどの藤川投手のホップ量とほぼ等しくなります。

各要因によるホップ量増加とその割合、つまり全体のホップ量増加に対する寄与度をまとめると以下のようになります。




ホップ量増加の45%、半分近くは回転数アップによるものであることが分かります。

残りの38%は球速アップ、17%は回転軸向上によるものです。

回転軸向上による寄与度が最も低くなっています。
これは比較対象のNPB平均が傾き20度と完全なバックスピンにかなり近くなっているためです。傾きが小さいと回転軸向上によるホップ量増加は緩やかになります。
(詳細は第17回を参照ください。)


というわけで、藤川球児投手の驚異的なホップ量はその半分近くが回転数アップにより生み出されていることが分かりました。




では、また。





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