2020年7月6日月曜日

第23回 ホップする4シーム(5) 藤川球児の「ホップ量の内訳」を見てみる



ホップする4シームを投げる投手といえば誰?と聞かれたら、誰を差し置いても阪神の藤川球児投手の名前が挙がることでしょう。

真ん中ためのボール球を空振りさせる。

分かっていても振ってしまう。振っても当たらない。

本当にすごい球です。

なぜあんなにもホップするのか。

その秘密を知りたくないですか?



そこで、今回は藤川投手の4シームの軌道をエクセルでつくった軌道シミュレータver3.2で再現し、そのホップ量がどこからくるのか明らかにしていきます。


 藤川球児4シームの軌道計算 


まず、藤川球児の4シームとNPB平均の4シームの軌道を計算します。

藤川投手の4シームは球速、回転数、回転軸の角度のいずれもNPB平均と比べて優れています。

[計算条件]

 4シーム(藤川球児)
 球速:v0=147[km/h]、リリース角度:θ=-0.5度(下向き)、Φ=2.0度(一塁方向)
 リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=-0.5m(三塁方向)、z0=1.8m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=95度、Φs=-85度
 回転数N=2700[rpm] (SP=0.26) : 抗力係数 CD=0.412、揚力係数CL=0.228

 4シーム(NPB平均)
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=-0.5度(下向き)、Φ=2.0度(一塁方向)
 リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=-0.5m(三塁方向)、z0=1.8m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 回転数N=2200[rpm] (SP=0.22) : 抗力係数 CD=0.404、揚力係数CL=0.198

 rpm(revolutions per minute)は一分間あたりの回転数表す単位です。
 スピンパラメータSPは回転数と球速の比に比例する値で、これにより抗力係数CDおよび揚力係数CLが決まります。(SPについては第19回を参照ください。)



 ボール回転軸角度の定義
 
藤川球児4シーム回転軸

 θs : z軸からx-y平面に向かう角度(真上から水平に向かう角度)
 Φs : x軸からy軸に向かう角度(ホーム方向から一塁側へ向かう角度)

[計算条件終わり]


[計算結果]

藤川球児およびNPB平均の4シームの軌道計算結果は以下のようになりました。

グラフ中の点は0.02秒ごとの、一番右の点のみホームベース上(x=18.44[m])におけるボールの位置を表します。

藤川球児4シーム軌道

NPB平均の4シームでは、ホームベース上(x=18.44m)おけるボールの高さzは1.13mです。

一方、藤川投手の4シームは、ホームベース上での高さzが1.32mです。
NPB平均と比べ19.3cm(=(1.32-1.13)×100)上を通過していきます。

つまり、藤川投手の4シームはNPB平均と比べ19.3cmホップ量が大きいのです。

ボール2個分以上です。

これだけ違えば高めのボール球を、思わず振ってしまうのもうなずけます。


 ホップ量への寄与度 

藤川投手の4シームは球速、回転数、回転軸の角度のいずれもNPB平均と比べて優れています。

この「球速」、「回転数」、「回転軸の角度」の3要素がホップ量を大きくしているわけですが、どれがどのくらいのホップ量増加をもたらしているのでしょうか?

その寄与度を明らかにするため、「球速」、「回転数」、「回転軸の角度」の3要素のうち一つだけをNPB平均値から藤川投手の値に入れ替えてアップさせた場合の軌道を計算し、そのホップ量を比較していきます。

[計算条件2]

 4シーム(NPB平均、ベース)
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=-0.5度(下向き)、Φ=2.0度(一塁方向)
 リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=-0.5m(三塁方向)、z0=1.8m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 回転数N=2200[rpm] (SP=0.22) : 抗力係数 CD=0.404、揚力係数CL=0.198

 4シーム(球速アップ)
 球速:v0=147[km/h]、
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 回転数N=2200[rpm] (SP=0.21) : 抗力係数 CD=0.402、揚力係数CL=0.190

 4シーム(回転数アップ)
 球速:v0=140[km/h]、
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 回転数N=2700[rpm] (SP=0.27) : 抗力係数 CD=0.415、揚力係数CL=0.237

 4シーム(回転軸角度アップ)
 球速:v0=140[km/h]、
 ボール回転軸角度 θs=95度、Φs=-85度
 回転数N=2200[rpm] (SP=0.22) : 抗力係数 CD=0.404、揚力係数CL=0.198

[計算条件2おわり]


[計算結果2]

NPB平均の4シームから各要素をアップさせた場合の軌道計算結果は、以下のようになりました。

グラフ中の点は0.02秒ごとの、一番右の点のみホームベース上(x=18.44[m])におけるボールの位置を表します。

軌道が重なって見づらいため、ホームベース上の拡大図も追加しました。



NPB平均の4シーム(球速 V0=140km/h, 回転数 N=2200rpm, 回転軸 θs=110°(完全なバックスピンからの傾き20°)では、ホームベース上(x=18.44m)おけるボールの高さzは1.13mです。

これに対し回転数アップ(N=2700rpm)では、高さzが1.21mです。
NPB平均と比べ8.7cm(=(1.21-1.13)×100)上を通過していきます。

つまり、回転数が500rpmアップしたことによるホップ量増加は8.7cmです。

同様に球速アップ(V0=147km/h)の高さzが1.20mで、球速が7km/hアップしたことによるホップ量の増加は7.2cmです。

回転軸角度アップ(θs=95°、完全なバックスピンからの傾き5°)では高さzが1.16mで、回転軸が15°改善したことによるホップ量の増加は3.3cmです。

これらを合計すると19.2cm(=8.7+7.2+3.3)となり、先ほどの藤川投手のホップ量とほぼ等しくなります。

各要因によるホップ量増加とその割合、つまり全体のホップ量増加に対する寄与度をまとめると以下のようになります。




ホップ量増加の45%、半分近くは回転数アップによるものであることが分かります。

残りの38%は球速アップ、17%は回転軸向上によるものです。

回転軸向上による寄与度が最も低くなっています。
これは比較対象のNPB平均が傾き20度と完全なバックスピンにかなり近くなっているためです。傾きが小さいと回転軸向上によるホップ量増加は緩やかになります。
(詳細は第17回を参照ください。)


というわけで、藤川球児投手の驚異的なホップ量はその半分近くが回転数アップにより生み出されていることが分かりました。




では、また。





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1 件のコメント:

  1. 初めまして。記事を楽しく拝見させていただきました。
    特に、第8回の重力、抗力、揚力を考慮したシミュレーションには感動しました。
    自分でも値を様々に変化させてシミュレーションしたいと思うのですが、第8回で作成されたシミュレーションのエクセルのデータを頂くことは可能でしょうか。
    もし可能であれば、ishino.tomoya@gmail.comまで連絡していただけたら嬉しいです。
    よろしくお願いいたします。

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