2020年3月28日土曜日

第9回 スライダー、カットボールの軌道計算



エクセルで作成した"軌道シミュレータver3.2"を使ってスライダー、カットボールの軌道を計算し、4シームの軌道と比較します。


スライダーの軌道計算

まずはスライダーです。

スライダーは真横へ滑るように曲がるものからフォークのように縦に落ちるものまでバリエーション豊富ですが、ここでは斜めに曲がり落ちるスライダーを計算対象とします。
斜めのスライダーは重力により下へ、回転によるマグナス力(揚力)により横へと変化します。

4シームが重力による落下をマグナス力で打ち消し直線に近い軌道になるのとは対照的に、スライダーは小さな弧を描く軌道となります。

[計算条件]

 スライダー
 球速 v0=130[km/h]、リリース角度 θ=-0.5度(下向き)、Φ=2度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=60度、Φs=0度
 抗力係数 CD=0.42、揚力係数CL=0.24

 4シーム
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=-1.5度(下向き)、Φ=2.5度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20

 ボール回転軸角度の定義
 

  θs : z軸からx-y平面に向かう角度(真上から水平に向かう角度)
  φs : x軸からy軸に向かう角度(ホーム方向から一塁側へ向かう角度)


[計算結果]

ボール軌道の計算結果は以下のようになりました。
グラフ中の点は0.02秒ごとのボールの位置を表します。

スライダーの軌道

4シームに比べ下へ落ち、さらに外へ曲がりながら逃げて行く軌道になっています。

下へも横へも変化する

スライダーの方が4シームよりも1度上向きにリリースされているため、投げた瞬間から途中まではスライダーの落下は目立たずほぼ4シームの軌道と重なっています。
その後徐々に下方向へ変化が大きくなり、12mあたりから軌道がかい離し始めます。
そこから残りの6mで両者の差は広がり、ストライクゾーンを通過するときには4シームの軌道が真ん中の高さであるのに対し、スライダーの軌道はその28cmほど下、低目を通過していきます。

横方向への変化も同様に、スライダーの方が4シームよりも0.5度三塁側寄りの角度にリリースされているため、投げた瞬間から途中まではスライダーの曲りは目立たずほぼ4シームの軌道と重なっています。
その後徐々に一塁方向への方向へ変化が大きくなり、11mあたりから軌道がかい離し始めます。
そこから残りの7mで両者の差は広がり、ストライクゾーンを通過するときには4シームの軌道が右打者アウトコースやや甘めであるのに対し、スライダーの軌道はその29cmほど外側のボールゾーンを通過していきます。

打者からすると、投げた瞬間は甘めの球なので強振したら、途中から曲がり落ちて外へと逃げて行くので急いで腰を引き腕を伸ばしたが、ボール球のため芯を外しバットの先に当たり手がしびれ力ないゴロになってしまった、という感覚になるでしょう。



カットボールの軌道計算

次はカットボールです。

カットボールは4シームの回転軸をずらしてホップ成分は残したまま、カーブ成分を少し持たせることにより、マグナス力(揚力)により重力による落下を抑えつつ小さく横へ変化します。
松坂投手が「カットボールの投げ損ないがジャイロボールになることがある」というだけあって、ジャイロ成分の多い回転軸になっています。

4シームは重力による落下をマグナス力で打ち消しながら少しだけシュートして横へも曲がる軌道であるため、それと比べてカットボールは横方向に小さく変化するような軌道となります。

[計算条件2]

 カットボール
 球速 v0=135[km/h]、リリース角度 θ=-0.2度(下向き)、Φ=2.5度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=80度、Φs=-20度
 抗力係数 CD=0.41、揚力係数CL=0.21

 4シーム
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=-1.0度(下向き)、Φ=3.0度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20

 


[計算結果2]

ボール軌道の計算結果は以下のようになりました。

カットボールの軌道

4シームに比べ上下の軌道差はほとんどなく、ホームベース付近でわずかに外へ軌道がかい離していきます。


見分けがつかない

カットボールのリリース角度は4シームよりも0.8度だけ上向きで、投げた瞬間の軌道はほぼ重なっています。
その後も、カットボールは4シーム同様に上向き揚力が作用し、また球速の差も5km/hっしかないため、両者の軌道の上下位置にはほとんど差ができません。
ストライクゾーンを通過するまでカットボールと4シームの軌道の上下位置差は最大でも5.5cmしかありません。
軌道の山なり具合で球種を見抜くことはかなり難しいでしょう。

横方向の変化を見てみると、リリースから15m過ぎまでほぼ軌道が重なっています。
そこから残りの3mで両者の差ができ、ストライクゾーンを通過するときには4シームの軌道が右打者アウトコースいっぱいであるのに対し、カットボールの軌道はその10.5cmほど外側のボールゾーンを通過していきます。

ボールの直径は7.4cmです。
打者からすると、ずっと4シームだと思っていたのに、バットに当たる瞬間手元でボール一個分ほど曲がった、という感覚になるでしょう。


芯を10cm外すことの意味

バットの芯は先端から約15cmの位置にあり、芯に近い位置でボールをとらえるほど強い打球になります。

例えば芯でとらえた時の打球速度が160km/hの打者の場合、芯から先端または根っこへ10cmずれた位置で打つと打球速度は120km/hまで低下します。

10cm芯を外すことにより打球速度を40km/h低下させることができます。

これはホームランを平凡な外野フライに変えるのに十分なだけの効果があります。

カットボールは空振りをとる確率はフォークボールやチェンジアップに劣りますが、芯を外し弱い打球打たせるためにはとても効果的な球種です。



*****

今回計算したカットボールと、4シームの軌道を3Dプロットにするとこんな感じです。
視点は左打席からのものです。
カットボールの3D軌道




では、また。






(よかったら押してください。)
 にほんブログ村 野球ブログへ  にほんブログ村 科学ブログへ
 にほんブログ村

2020年3月20日金曜日

第8回 軌道シミュレータver.3.2 -重力・揚力・抗力全方向-




エクセルで作った軌道シミュレータver.3.1を全方向速度に対する空気力へ拡張しver.3.2にアップデートします。

数式は、ver3.0の抗力、ver3.1の揚力と同じ形の式をy,z方向速度についても拡張したものになります。

では式を立てます。少し長くなります。


軌道計算の運動方程式

ボールに作用する力を重量で割ると加速度が求まります。その加速度を時間積分すると速度になり、速度を時間積分するとボールの位置が求まります。

ボールに作用する力は「重力」、「抗力」、「揚力」の3つです。



[算式]

x軸をホーム方向、y軸を一塁方向、z軸を上空方向と定義。

ボール回転軸は、z軸からx-y平面に向かう角度(真上から水平に向かう角度)をθs、x軸からy軸に向かう角度(ホーム方向から一塁側へ向かう角度)をΦsと定義。
今回は4シームとしてθs=110度、Φs=-80度とします。




回転軸により揚力を各方向成分へ振り分けます。
抗力係数は暫定的に回転軸の向きによらず一定とします。


 空気力による各方向への加速度

 各方向の加速度を行列式でまとめて表すと以下のようになります。
 各速度成分により発生する各方向への抗力、揚力をボールの重量で割ったものです。

 




 ここで、sgn(dx/dt)はx方向速度(dx/dt)の向きを表す符号で、dx/dt>0(投手から
 ホーム方向へ飛翔)ならsgn(dx/dt)=1, dx/dt<0(ホームから投手方向飛翔)なら
 sgn=-1です。
 二乗すると速度のプラスマイナスが分からなくなってしまうため、これを付けて区別
 します。
 例えば投手が投げるトップスピンのカーブと捕手が投げ返すバックスピンの球は、
 三塁側から見ればどちらも同じ右回りの回転です。
 しかしx方向速度が反対のため前者は下に変化、後者は上にホップと揚力の方向が反
 対になります。
 これを正しく再現するために速度のプラスマイナスの区別が必要となります。

 Sgn(dy/dt), sgn(dz/dt)も同様です。



x方向

上記行列式のx方向加速度を通常の式の形に書き下すと以下のようになります。




y方向

上記行列式のy方向加速度を通常の式の形に書き下すと以下のようになります。




z方向

上記行列式のx方向加速度を通常の式の形に書き下し、重力加速度を追加すると以下のようになります。





ここで、
v0:リリース時の球速、x0,y0,z0:リリース位置、
θ:上向きリリース角度、Φ:横向きリリース角度、t:リリース後経過時間


[計算式おわり]


ボールの空間位置x,y,ztを代入すれば求まる形の式にできないため、エクセルで数値積分の方法で求めます。

具体的には、ti+1秒後の速度=ti秒後の速度 + ti秒後の加速度×(ti+1 - ti)、
ti+1秒後の位置=ti秒後の位置 + ti秒後の速度×(ti+1 - ti)、といった具合です。



エクセルへの数式入力

では、エクセルへ入力していきます。

単位系はSI単位系です。


 [エクセル入力]

まず初期条件を入力。

ver3.1と同様にしました。
ボールの回転軸角度は完全なバックスピンではなく、ジャイロ成分やサイドスピン(シュート)成分が混じっていることを考慮してθs=110度,φs=-80度とします。

揚力係数CD、抗力係数CDの値は個人で計算や実測をするのが難しいのでネットで拾った値を使います。




次に時間tを少しずつ増加させて複数入力します。
ver.3.1と同じく、0.02秒おきにしました。

数値積分をするので時間間隔が小さいほど計算結果は正確になります。
そして時間t列のとなりに、d2x/dt、dx/dt、x、d2y/dt、dy/dt、y、d2z/dt、dz/dt、z用の列を9列挿入します。





X方向

dx/dt列の一番上のセルに、時間t=0における速度を入力します。(④式)



x列の一番上のセルに、時間t=0におけるx位置を入力します。(⑤式)



そしてd2x/dt2列に、dx/dtとdy/dtとdz/dtからd2x/dt2を計算する式を入力します。(①式)


再びdx/dt列に戻り、t>0のセルに数式を入力します。
②式の計算を数値積分で行うために下図のように数式を入力します。



再びx列に戻り、xのt>0について③式の計算を数値積分で行うために下図のように数式を入力します。


x位置の計算式はこれで完成です。


Y方向

dy/dt列の一番上のセルに、時間t=0における速度を入力します。(⑨式)



y列の一番上のセルに、時間t=0におけるy位置を入力します。(⑩式)



そしてd2y/dt2列に、dx/dtとdy/dtとdz/dtからd2y/dt2を計算する式を入力します。(⑥式)



再びdy/dt列に戻り、t>0のセルに数式を入力します。
⑦式の計算を数値積分で行うために下図のように数式を入力します。



再びy列に戻り、yのt>0について⑧式の計算を数値積分で行うために下図のように数式を入力します。



y位置の計算式はこれで完成です。


Z方向

dz/dt列の一番上のセルに、時間t=0における速度を入力します。(⑮式)



z列の一番上のセルに、時間t=0におけるz位置を入力します。(⑮式)



そしてd2z/dt2列に、dx/dtとdy/dtとdz/dtからd2yzdt2を計算する式を入力します。
重力加速度gも忘れないよう注意です。(⑪式)



再びdz/dt列に戻り、t>0のセルに数式を入力します。
⑫式の計算を数値積分で行うために下図のように数式を入力します。



再びz列に戻り、zのt>0について⑬式の計算を数値積分で行うために下図のように数式を入力します。z位置の計算式はこれで完成です。





完成です!




これで各時刻におけるボール位置x,y,zの値が計算できました。


[エクセル入力おわり]



軌道計算結果のプロット

では、計算されたx,y,z値を散布図でグラフ上にプロットします。

[エクセルグラフ化]

空気力(揚力、抗力)を全方向速度に対して完全に考慮した場合の軌道計算結果は、以下のようになりました。
グラフ中の点は0.02秒ごとのボール位置を表します。



空気力をx方向速度成分に対してのみ考慮し、y,z方向速度に対する空気力はなしとして計算しているver.3.1の軌道計算結果と重ねてみました。



しかし差が小さすぎてわかりません。完全に線が重なっており見分けがつきません。
ホームベース上における両者の軌道の差はわずか4mmです。


[エクセルグラフ化おわり]

ピッチングではx方向の速度成分が大部分であり、y,z方向速度成分は小さいためそれらによる空気力はあってもなくてもほぼ変わりません。

ver.3.1のようにy,z方向の速度成分による空気力は省略しても、常のピッチングにおける軌道計算をするなら十分な精度が得られるということです。

ここで行っている計算はエクセルで一瞬で終わるようなものなのでどちらでもよいのですが、サーバーでの計算時間が数百時間に及ぶような大規模シミュレーションではあってもなくても大差がない部分を上手く省略し効率化を図ることは重要です。


遠投軌道計算結果による影響比較

y,z方向速度成分による空気力あり、なしの場合の差が明確になるよう、遠投の軌道を計算してみます。
遠投では、ピッチングに比べボール軌道が山なりとなりz方向速度成分が大きくなりそれによる空気量の影響も無視できない程度に大きくなること、また飛翔時間が長いため空気力を受ける時間が長くなることにより、両者の軌道の差が顕著になります。


[計算結果2]

リリース角度を上向き35度に変更します。
それ以外の条件はピッチングの時と同様で球速140km/h、抗力係数CD=0.33、
揚力係数CL=0.20とします。


計算された両者の軌道はこのようになりました。




ver.3.2ではボールが上昇していくときz方向速度に対しても抗力が働きより減速が大きいため、ver.3.1に比べ頂点の高さが6m程減少しています。
100m過ぎあたりのボールが落下していく段階では、ver.3.2方はz方向速度に対して揚力が働きまたz方向への落下速度に対して抗力のブレーキが働くため、ver3.1に比べるとやや水平に近い軌道になっています。
全体としては軌道前半の抗力による影響の方が大きく、ver3.2はver.3.1に比べ飛距離が10m減少しています。

(*) ver.3.2において140km/hでの飛距離115mは、実際と比べるとやや飛び過ぎているようです。今回使用した抗力係数CDの値0.33が、実際はもう少し大きいことが原因として考えられます。

[計算結果2おわり]



*****

今回でボールに作用する「重力」、「抗力」、「揚力(マグヌス力)」の3つの力を、全方向の速度に対して計算できる軌道シミュレータが完成しました。

加速度、速度からの時間積分を数値積分の方法で実行していますが、Microsoft Officeのエクセルや類似の表計算ソフトで簡単にできますので、よかったら作ってみてくださいね。






では、また。





(よかったら押してください。)
 にほんブログ村 野球ブログへ  にほんブログ村 科学ブログへ
 にほんブログ村

2020年3月14日土曜日

第7回 カーブ、フォークボールの軌道計算




エクセルで作成した"軌道シミュレータver3.1"を使ってカーブ、フォークの軌道を計算し、4シームの軌道と比較します。


カーブの軌道

まずはカーブです。
カーブは重力と回転によるマグナス力(揚力)の両方により下方向へ変化します。
4シームが重力による落下をマグナス力で打ち消し直線に近い軌道になるのとは対照的に、カーブは大きく弧を描く軌道となります。


[計算条件]

 カーブ
 球速 v0=120[km/h]、リリース角度 θ=0度(水平)
 リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=-0.5m(三塁方向)、z0=1.8m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=60度、Φs=45度
 抗力係数 CD=0.43、揚力係数CL=0.27

 4シーム
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=-3度(下向き)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20

 ボール回転軸
 カーブの回転軸 

  θs : z軸からx-y平面に向かう角度(真上から水平に向かう角度)
  φs : x軸からy軸に向かう角度(ホーム方向から一塁側へ向かう角度)


[計算条件終わり]


[計算結果]

ボール軌道の計算結果は以下のようになりました。
グラフ中の点は0.02秒ごとのボールの位置を表します。

カーブの方が4シームよりも3度上向きにリリースされているため、投げた瞬間は4シームよりも高い位置を通過する軌道になります。
その後徐々に下方向へ変化を始め、14mあたり、ストライクゾーンの4m手前になってようやく4シームの軌道より下に行きます。
そこから残りの4mで両者の差はぐっと大きくなります。ストライクゾーンを通過するときには4シームが低めいっぱいであるのに対し、カーブの軌道は30cmほど下を通過しホームベースの後ろでバウンドします。
打者からすると、投げた瞬間は高めのボール球なので振るのを止めようと思ったのが、下に変化しストライクになりそうなので慌てて振ったら、低めのボール球でしまったという感覚になるでしょう。

カーブの軌道

下方向に加え、横方向へも大きく曲がっています。ストライクゾーンからボールゾーンへ逃げています。振らせることができれば空振りが取れそうなコースですが、8メートル過ぎから4シームの軌道との差が大きくなっているので目の良い打者には見切られるかもしれません。

[計算結果おわり]


フォークボールの軌道

次はフォークボールです。
フォークボールは回転数が小さいためマグナス力(揚力)がほとんど作用せず重力によって落下します。

4シームが重力による落下をマグナス力で打ち消し直線に近い軌道になるため、それと比べてフォークボールは下方向に変化するような軌道となります。


[計算条件2]

 フォーク
 球速 v0=120[km/h]、リリース角度 θ=-2度(下向き)
 ボール回転角度 θs=110度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.38、揚力係数CL=0.07

 4シーム
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=-3度(下向き)
 ボール回転角度 θs=110度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20

[計算条件2終わり]


[計算結果2]

ボール軌道の計算結果は以下のようになりました。

フォークボールのリリース角度は4シームよりも1度だけ上向きですが、投げた瞬間の軌道はほぼ重なっています。
その後徐々に下方向へ変化を始めますが、12mあたりまでは4シームの軌道とほとんど差がありません。
そこから両者の差は広がり、ストライクゾーンを通過するときには4シームが低めいっぱいであるのに対し、フォークボールの軌道は35cmほど下を通過しホームベースの上でバウンドします。
打者からすると、投げた瞬間は低めのストライクなので思い切り打ってやろうとしたら、ストライクゾーンの5メートル手前から落ち始めて慌てバットを止めようとしたが、止まらずに空振りしてしまった、という感覚になるでしょう。



x-y平面のグラフを見ると、4シームがシュート成分によりわずかに横方向へ曲がっているのに対し、フォークボールではマグナスが働かずほぼ直線軌道となっています。両者の横方向変化量の差は12cm、ボール1個半程度です。
フォークボールはアウトコースいっぱいを狙わず真ん中低めのストライクゾーンから落とす方が空振りをとれると言われていますが、この横方向の変化量の違いが関係しているのかもしれません。

[計算結果2おわり]


カーブ軌道の3D動画

エクセルには3Dプロット機能が備わっていないようです。

代りにRinearnGraph3Dというフリーソフトを使って軌道を3Dプロットし、それをgifで動画ファイルにしてみました。

一コマ0.02秒で実際のスピードと同じにしてあります。

視点は左打席からのものをできる限り再現してみました。

[3Dプロット動画]

4シーム
4シーム軌道3D動画


カーブ
カーブ軌道3D動画






では、また。





(よかったら押してください。)
 にほんブログ村 野球ブログへ  にほんブログ村 科学ブログへ
 にほんブログ村

2020年3月7日土曜日

第6回 軌道シミュレータver.3.1 -揚力-





軌道シミュレータver.3.0に空気による揚力を追加しver.3.1にアップデートします。

ピッチングにおいて大部分を占めるx方向(ホーム方向)速度に垂直なy,z方向(左右、上下方向)への揚力を考えます。


揚力はボールの進行方向と垂直な向きに働き進行方向を曲げる力です。

この垂直な向き作用する力には、「ボールのスピードは変えずに、向きだけを変える」という特徴があります。


揚力Lは以下のような式で表されます。
抗力Dの式の抗力係数CDが揚力係数CLに変わっただけで同じ形をしています。

 

 (CL:揚力係数、ρ:空気の密度、v:ボールの速度、A:ボールの断面積)

 

4シームやカーブのように回転による圧力差によって発生する揚力を「マグヌス力」と呼びます。

マグヌス力の向きはボール回転軸の方向に依存します。


では式を立てます。


[計算式]

 方向の定義
x軸をホーム方向、y軸を一塁方向、z軸を上空方向と定義。

ボール回転軸は、z軸からx-y平面に向かう角度(真上から水平に向かう角度)をθs
x軸からy軸に向かう角度(ホーム方向から一塁側へ向かう角度)をφsと定義。
今回は4シームとしてθs=110度、Φs=-80度とします。

 4シームの回転軸



x方向

ver.3.0と同じ抗力を考慮した式です。


t=0秒の時


y方向

揚力はボールの回転軸に応じて各方向へ振り分けます。


t=0秒の時

z方向

y方向と同様の計算ですが、加速度に重力加速度が追加されます。


t=0秒の時

ここで、
v0:リリース時の球速、x0,y0,z0:リリース位置、
θ:上向きリリース角度、φ:横向きリリース角度、t:リリース後経過時間

[計算式おわり]

ボールの空間位置x,y,ztを代入すれば求まる形の式にできないため、-⑤式を使ってエクセルで数値積分の方法で求めます。

では、エクセルへ入力していきます。

単位系はSI単位系です。


 [エクセル入力]

まず初期条件を入力。

ボールの回転軸θs、φsを追加します。
4シームを想定していますが実際の人間が投げる球は完全なバックスピンではなく、ジャイロ成分やサイドスピン(シュート)成分が混じってしまいます。
回転軸の傾きは人によりさまざまですが、典型的な値としてθs=110,φs=-80度とします。

揚力係数CD、抗力係数CDの値は個人で計算や実測をするのが難しいためネットで拾った値を使います。

 その他の値はver3.0と同じです。

 

 次に時間tを少しずつ増加させて複数入力します。
ver.3.0と同じく、0.02秒おきにしました。
 数値積分をするので時間間隔が小さいほど計算結果は正確になります。
 

 X方向
時間t列のとなりに、d2x/dt2dx/dtとxの列を挿入します。
そしてdx/dt列の一番上のセルに、時間t=0における速度を入力します。(④式)
 


d2x/dt2列に、dx/dtからd2x/dt2を計算する式を入力します。(①式)


再びdx/dt列に戻り、t>0のセルに数式を入力します。
②式の計算を数値積分で行うために下図のように数式を入力します。


x列の一番上のセルに、時間t=0におけるx位置を入力します。(⑤式)


xt>0について③式の計算を数値積分で行うために下図のように数式を入力します。
x位置の計算はこれで完成です。


Y方向
d2y/dt2dy/dtとyの列を挿入します。
そしてd2y/dt2列に、dx/dtからd2y/dt2を計算する式を入力します。(⑥)


dy/dt列の一番上のセルに、時間t=0における速度を入力します。(⑨)


引き続きdy/dt列で、t>0のセルに数式を入力します。
⑦式の計算を数値積分で行うために下図のように数式を入力します。


y列の一番上のセルに、時間t=0におけるy位置を入力します。(⑩)


yのt>0について⑧式の計算を数値積分で行うために下図のように数式を入力します。
y位置の計算はこれで完成です。


Z方向

d2z/dt2dz/dtとzの列を挿入します。
そしてd2z/dt2列に、dx/dtからd2yzdt2を計算する式を入力します。(⑪)
重力加速度gもお忘れなく。


dz/dt列の一番上のセルに、時間t=0における速度を入力します。(⑮)


引き続きdz/dt列で、t>0のセルに数式を入力します。
⑫式の計算を数値積分で行うために下図のように数式を入力します。


z列の一番上のセルに、時間t=0におけるz位置を入力します。(⑮)


zのt>0について⑬式の計算を数値積分で行うために下図のように数式を入力します。
z位置の計算はこれで完成です。





これで各時刻におけるボール位置x,y,zの値が計算できました。


[エクセル入力おわり]



計算した値を、散布図でグラフ表示します。

[エクセルグラフ化]

このようになりました。
グラフ上の点は0.02秒ごとのボール位置を表します。


揚力なしのver.3.0と重ねてみます。

揚力なしではワンバウンドしていた球が、揚力ありではホップして低い目いっぱいに決まっています。
また回転軸が傾いているので少しシュートもしています。

揚力なしの場合と比べホームベース上での位置を比較すると、
揚力ありでは上方向に50cmホップし、内側へ17cmシュートしています。


[エクセルグラフ化おわり]




では、また。




(よかったら押してください。)
 にほんブログ村 野球ブログへ  にほんブログ村 科学ブログへ
 にほんブログ村