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2024年8月3日土曜日

第164回 ホームランを打ちたいならセンターに打つな、引っ張れ

 


引張り8割、センター返し1割5分

プロ野球のホームランはほとんどが、引っ張った打球です。右打者ならレフトへ、左打者ならライトへの打球です。

センター返しでのホームランはめったに見られません。

NPB全体では443本のホームランの内、引張りが354本で80%を占めます。センターへのホームランはわずか65本で15%にすぎません(*1)

センター返しをするよりも引っ張った方が5倍以上ホームランになりやすいということです。


個人でみても

個人でみても同じです。

去年41HRで本塁打王を獲得した巨人岡本和真選手はレフトおよび左中間へのホームランが36本で、センターと右中間は2本ずつだけです(*2)。引っ張りが88%を占めています。

中日の田中幹也選手が身長166cm体重68kgというプロ野球選手とは思えない小柄な体格でありながら、今シーズンすでに2本の本塁打を放っていることは称賛に値します。その2本はいずれもレフトポール際へ、高く打ち上げた打球でした。

アベレージヒッターのレジェンドであるイチロー選手は現役時代、試合前のフリーバッティングでスタンドにぽんぽんと打球を放り込むこんでいたことはよく知られています。打球速度がしっかり出ていることを確認するのが目的で、試合用の打ち方とは変えて、いつもライト方向へ引っ張っていました。


遠くのセンターより近くのレフト

引張った方がホームランになりやすい理由は明白です。

両翼はフェンスまでの距離が近く、センターは遠いからです。

プロ野球の標準的な球場では両翼100メートルで、センター122メートルです。

センターにホームランを打とうとすれば22メートルも余計に、遠くまで飛ばさなければなりません。

そのためにはより大きな打球速度が必要です。

計算上センター方向にホームランを打つためには、レフト・ライト方向に比べて打球速度が20km/h余分に必要です。

下図は打球角度と回転が最適条件の場合(上向き30度、2500rpmのバックスピン)で、ホームランを打つために、最低限必要な打球速度の計算結果です。



いつも不思議に思うのですが、センターへの大飛球がウォーニングゾーンでキャッチされたとき、解説者は「少しつまった分、もうひと伸びたりませんでしたね」とか、「泳がされた分だけ、最後に失速しましたね」とか、「迷いがあったから、打球にも力がありませんでしたね」とか、あるいは風や雨のせいだと言います。
「センターに飛んでしまいましたからね。もう少し横に打っていればホームランでしたね。」とは、なぜか言いません。

当たり前すぎることは、かえって言及されないのかもしれません。

大谷翔平選手はセンター方向にもホームランを量産しますが、それはたびたび報じられるように打球速度が桁外れだからです。170km/h台は当たり前で、180km/h台も頻繁に記録します。例外中の例外なので普通の一流のパワーヒッターが参考にしてはいけません。
それに彼にしても最初からセンターを狙っているわけではなく、右中間を中心に打ち返していく中で、狙いからずれてセンター方向に飛んでしまっても入ってしまうというだけです。

当たり前すぎるがゆえに忘れられがちなので、あえて言います。
「ホームランを打ちたいならセンターに打つな。引っ張れ」
ポール際に高く打ち上げろ。
それでファールになったり、外野フライに終わったなら致し方なしです。
トータルではそれが最も確率の良い方法です。
通算で何百本も打ったレジェンドたちはみんなそうしていました。


逆方向は満足感だけ

ホームランの打球方向は引張りが80%、センター返しが15%で、逆方向は残りの5%です。

逆方向への打球は、センター返し以上にホームランになりません。打球速度が遅いためです。

それでも逆方向へのバッティングを好む選手がいます。
逆方向へ打つにはテクニックが必要とされるため、うまく打てると高い満足感が得られます。玄人からも称賛されます。
それが落とし穴になっている気がします。

どんなにうまく打ってもしょせんシングルヒットです。得点期待値は高くありません。弱い打球を打っても長打は期待できないし、相手投手も怖がらないため四球も増えません。中軸を打つ選手はそれではだめです。

石川昴弥選手は今シーズンのオープン戦でホームランを打ちました。変化球に泳いだ決してよくないスイングで、打球も上がりすぎのように見えました。それでもレフトポール際へ飛んだ打球はバンテリンドームの高いフェンスを越えてしまいました。
まじめすぎて大成しない選手の場合には、こんなのでもいいんだという、気づきと開き直りが必要なのかもしれません。





なぜセンターは広いのか

さて、ではなぜ野球場のセンターは両翼より広くなっているのでしょうか?

ソフトボールのように一律の距離ではいかんのでしょうか。


これについてはもはや、誰も理由を知りません。野球創成期にそう決まって今日まで続けられています。

ネット検索しても図書館で調べてもお年寄りに聞いても分かりません。これという理由がないのでうんちくとして語られることもなく、クイズにもならず、また理由が分からないので反論を受けて改善されることもありません。

なぜそうなっているか誰も知らないからとりあえずそのままにしておこうは、仕事中にもよく出会いますね。


説1 飛距離が出るから

それでも有力な説はあります。

最有力候補は「センター方向は打球の飛距離がでやすいから」です。

(a)打球速度

センター返しの方が打球速度が出る、その分飛距離が出る。公平を期すためにセンターを広く調整した、といわれています。

実際どうでしょうか。

大学生の調査(*3)ではシンの速い球を打った時にはセンター返しの方が打球速度が速い(引張り113.4km/h、センター返し119.2km/h)という結果が出ています。センター返しで打球速度5.7%アップです(119.2/113.4=1.057)。

ただし反対の結果もあります。

(*3)において手投げの緩い球を思い切り打った時には、引張りの方がむしろ速かったそうです。

また別の資料を当たると、参考文献(*4)では反発係数と摩擦係数の小ささから、引張りの方が打球速度が速いと考えられています。

Baseall savantのillustlaterで大谷翔平選手や鈴木誠也選手の打球にEV100mph以上のフィルターをかけてみるとセンターにも引張り方向にもまんべんなく分布しています(*5)。右中間、左中間を中心に分布しているので、引張りと言えるかもしれません。

道具の性質と選手の動作の両方がかかわる問題で複雑なため、どちらが速いのかはっきりとした決着はまだつけられないようですが、とりあえずここでは説1を裏付ける根拠として(*3)のマシンの結果を使ってセンター返しの方が速いとして先に進めます。


(b)ボールの回転軸

また別の研究では打球方向により、ボールの回転軸が異なりそれが飛距離に影響しているという結果が報告されています。(*6)(*7)

センター返しの方がきれいなバックスピン回転に近いため真っすぐよく飛びます。引張りはバットが斜めに当たりサイドスピンがかかるため、打球が曲がってしまい飛距離が落ちます。

引張りの打球は、ゴルフでいうフックがかかりがちです。

ポールに向かって一直線に飛んでいった打球が、最後の最後で曲がって切れてがっかり、はプロ野球観戦につきものです。7/19の中日×巨人戦の7回、岡本和真選手が高橋宏斗投手から打った打球がまさにそれでした。あっぶねとつぶやいた高橋投手の笑顔と、その直後に裏をかいて続けたカーブが印象的でした(*9)

参考文献(*7)によれば、打球速度100mph(≒160.9km/h)、上向き25-30度、バックスピン成分2000-3000rpmの打球では、サイドスピン成分のないきれいな縦回転の場合では飛距離が400ft(≒121.9m)です。それに対し、サイドスピンが1500rpm加わってしまうと385ft(≒117.3m)まで落ちてしまいます。回転の違いが打球方向の違いによるものとすれば、センター返しで飛距離3.9%アップです(121.9/117.3=1.039)。

ちなみにセンター返しでも打球は完全に真っすぐ飛んでいくわけではありません。シュートする方向、ゴルフで言うところのスライスをしています。右打者であればセンター返しした打球はライト方向へ曲がっていきます(*8)。参考動画(*10)は、ソフトボールでティー打撃ですが、センター方向へ打ち上げた打球がスライスしているのがよく見て取れます。バットは水平ではなく、ヘッドがグリップよりも下がった状態で打つため、完全なバックスピンにならず少しシュート回転がかかると考えられます。回転軸だけを考えれば引張り方向の左中間、右中間がもっとも横回転が少なく真っすぐ飛んで飛距離が出やすい可能性があります。


(c)トータル

飛距離が打球速度に比例するとしてざっくり概算してみます。

(a)と(b)の増加率を掛け合わせると、センター返しの打球は引張りに対して約10%飛距離がアップすることになります(1.057×1.039=1.099)。

引張りで100mの飛距離が、センター返しなら110mの飛距離になるというわけです。

両翼フェンスが100mで、センターフェンスが122mですから、全然届かないですね。



厳しすぎるハンデ

センター返しの方が打球が飛ぶというのが真実だとして、その調整のためにセンターが両翼より深くなっているのだとしても、10mの飛距離アップに対して22mフェンスを下げるのはやりすぎです。

割に合いません。

体重超過したボクサーを、ペナルティーとして両腕を縄で縛った状態でリングに上げるようなものです。

過度なハンデを課されたセンターへの大飛球はホームランになることを許されず、外野手のグラブにおさまることを運命づけられました。


公平性or多様性

ホームランに公平性を求めるならば、今からでもセンターフェンスを前に出すようにルール変更するのもありだと思います。ベースの大きさをあっさり変えてしまえるMLBのフットワークの軽さなら不可能ではないと思います。ホームランテラスを左中間、右中間につけたような感じで、センターにつけてみてもいいかもしれません。

また反対にソフトボールでは両翼とセンターが同距離のために、センター方向ばかりにホームランが出るようならば、センターフェンスを少し下げるべきです。


とはいったものの、両翼とセンターの距離の違いにより外野手の守備範囲に差が生まれ、それが起用される選手タイプの多様性につながっているのもまた事実です。

広いセンターには岡林選手のような俊足強肩の選手が配置され、狭いレフトには細川選手のような鈍重なパワーヒッターが配置されます。フェンス距離が同じソフトでもセンターは俊足、ライトは強肩、レフトは打力も重視というセオリーは同じようですが、野球ではより強調され、それがまた魅力の一つになっています。

もし外野手3人がみな同じようなタイプの選手になってしまったら、ちょっと寂しいかもしれません。



説2 土地の有効活用

さて、長くなってきて蛇足かもしれませんが、もう一つの説です。簡潔に。

土地を有効活用するためです。

正方形に内接する円が面積に占める割合は、約78.5%(π/4≒0.785)です。この割合は1/4にカットした、90度分の扇形でも同じです。

ソフトボール場のようにセンターと両翼の距離を同じにすると正方形の土地の21.5%、1/5以上を使わず無駄にしてしまいます。

もっと広い面積をグランドとして使えるようにセンターを深くしようぜ、だけど角があるとプレーしづらいから両翼となめらかにつないどこうぜ、というわけです。

この観点では、狭い東京に建設された東京ドームが四角い形をしているのは合理的です。


*****

センターが広い理由については他にもいろいろ説があると思います。そういうのをあれこれと考えるのもまた、つきることのない野球の楽しさの一つです。


ではまた。




参考文献:

 (*1) 中日スポーツ 2024年7月9日 2面

 (*2) Sluuger特別編集 2024プロ野球オール写真選手名鑑 日本スポーツ企画出版社

 (*3) 異なる投球速度が大学野球選手の打球速度に及ぼす影響 鈴木智晴(鹿屋体育大学)他

 (*4) BMMスポーツ科学ライブラリー 科学する野球 バッティング&ランニング 平野裕一著

 (*5) Baseball Savant 大谷選手鈴木誠也選手

 (*6) 野球日誌

 (*7) Why Does a Fly Ball Carry Better to Centerfield? Alan Nathan

   (*8) 野球の打球の初速度・方向とその飛距離との関係について 及川研

 (*9) 中日スポーツ 巨人・岡本和の大ファウルを逆利用…中日・高橋宏を支える『度胸』ナックルカーブ連投で追い込み空振り三振に

 (*10) qooninTV 【弾道オバケ】日本代表4番のソフトボールを飛ばすコツ|飛距離60mアップでホームラン連発


第163回 ソフトボールのホームラン打球速度は何キロか、野球と比較

 

近いフェンス

ソフトボールと野球のルールの違いの一つに、外野フェンスまでの距離があります。

ソフトボールは女子一般が67.06メートル、男子一般が76.20メートルです。野球はプロ野球の標準的な球場で両翼100メートル、センター122メートルです。

これはそのホームランに必要な打球飛距離の違いであり、打者の能力としては打球速度の違いとして求められます。

ソフトボールの方がフェンスまでの距離が近いため、野球ほどの打球速度は必要ないことが予想されます。試合で飛び交う打球を目視しても野球より遅いのは明らかです。

ではソフトボールでホームランを打つためにはどのくらいの打球速度があれば十分でしょうか?

今回はソフトボールでホームランを打つために必要な打球速度を軌道計算で求めてみます。


ソフトボールホームランの軌道計算

[計算条件]

ソフト・野球の各フェンスを越える飛距離となるときの打球速度を求めます。

球速以外の条件は飛距離を出すのに適した上向き30度と完全なバックスピン回転の組み合わせで、回転数はソフトが1000rpm、野球1500rpmとします。

飛距離アップのためには高く打ち上げることと、バックスピン回転を与えることが重要である(*1)のは野球と同じです。

シミュレータへのインプット値は以下のようです。

ボールの違いも考慮しました。抗力係数CDおよび揚力係数CLの値は参考文献(*2)の計算式に基づいています。

ソフトホームラン入力値

[計算結果]

計算結果は以下のようです。

参考に各外野フェンスも表してあります。距離は上述の通りで高さはソフトが1.2メートル、野球は4.8メートルとしています。

ソフトボールホームラン打球速度

ソフトボールでホームランを打つために必要な打球速度は女子一般で120km/h、男子一般で130km/hとなりました。


野球より遅い

ソフトボールのホームラン打球速度は野球よりも20~30km/h遅い、という結果になりました。

順番的にはソフトボールの方が野球よりも打球速度がでないため、それに合わせ外野フェンスが近く設定されています。

打球速度が遅いのはソフト選手の能力が劣るせいではなく、道具の、バットとボールの問題です。

大谷翔平選手の特大ホームランよりも、そこらへんのプロゴルファーのティーショットの方が遠くまで飛ぶのと同じです。


大学生で95km/h、トップでも110km/h弱

女子ソフトボール選手が120km/hの打球速度を出すのは、どれくらい大変でしょうか?

プロ野球の感覚になれていると大したことないと思いがちですが、そんなことはありません。

打球速度の実測データによると、大学女子ソフトボール部員で90km/h強が最大です(*3)(*4)

JDリーグの選手でも110km/h弱(*5)です。(JDリーグは"Japan Diamond Softball League"の略で、参加しているのは社会人チームです。女子大生ではないです。)

120km/h以上出すのはソフトボール強国日本の、国内トップリーグ選手でも容易ではないレベルだということです。


同じ速度帯

ホームランを打つのに必要な打球速度は、トップレベル投手の投球速度とちょうど同じ速度帯になっています。

野球でもホームランを打つために必要な打球速度と、トップレベル投手の球速が近い値になっています。

高速で飛んできた球が、同じぐらいの高速で打ち返され遠くまで飛んでいく。

それがソフト・野球をプレーおよび観戦する人間が無意識下で、楽しさや心地よさを感じる要因の一つになっているのかもしれません。


ではまた。



参考資料

 (*1) qooninTV 【弾道オバケ】日本代表4番のソフトボールを飛ばすコツ|飛距離60mアップでホームラン連発

 (*2) ソフトボールの打球解析と防球ネット解析 長島慎二 NLABO.BIZ

 (*3)  大学女子ソフトボール選手における後方トス・バッティング練習が打撃パフォーマンスに与える即時的影響 嘉屋 千紘,熊野 陽人

 (*4) 大学ソフトボールにおけるホワイトボールとイエローボールの違いについて 河邉 まな美

 (*5) 女子ソフトボールチームに対するスポーツ科学サポート 澤井 拓実  公益財団法人岐阜県スポーツ協会岐阜県スポーツ科学センター 表1


2024年7月17日水曜日

第161回 プロ投手のストレートは小学生投手、高校生投手とどれくらい違うのか?

 


プロとアマチュアの差

プロ野球投手とアマチュア投手の差は何でしょうか?

コントロール、変化球のキレ、球種の豊富さ、ボールの出どころの見づらさ、体力、メンタル、などなど。

いろいろ要素はありますが、やはりストレートの威力の違いが一番ではないでしょうか。


ストレートに差し込まれまいとするから変化球に泳いでしまうし、ストレートに威力があるから少々甘いコースでもとらえきれなくなります。

腕の振りが速いからこそ、変化球でも強い回転をかけられます。手先の器用な小学生がプロと同じ回転軸の球を投げられたとしても、プロのように鋭い変化をさせることはできません。

大きくホップするストレートがあるから、回転数を落として少し沈ませるだけで簡単に空振りをします。山なりのストレートを投げる小学生が自由落下に近い落ち方をするフォークを投げても、お化けのように打者の視界から消えることはありません。


今回はプロ投手の投げているストレートが、小学生投手や普通の高校生投手とどれくらい違うか軌道計算して比べてみます。


計算条件

球速は小学生投手、普通の高校生投手、プロ投手でそれぞれ95km/h,120km/h145km/h,とします。

回転数は球速に応じた値とします。回転軸は下図の様で、高レベルほどシュート回転、ジャイロ回転のより少ない回転軸とします。

リリースポイントは高レベルほど体のサイズが大きいと想定し、小学生はバッテリー間距離の違いも考慮します。バッテリー間距離は一般が18.44mで、小学生は16.00mなので、2.44mm手前から投げることになります。

[計算条件]


   

[計算結果]

計算結果は以下のようです。

グラフ上の点はリリースから0.02秒おきのボールの位置を表します。

小学生、高校生、プロのストレート

お辞儀

高レベルほど上下軌道のお辞儀が少なくなり、より直線的です。

三者ともストライクゾーンの同じ高さに投げる条件で計算していますが、投げ出す角度は高レベルほどより下向きになります。

小学生は水平よりも上向きに投げ出し、途中で落ちてくる山なりの軌道です。

高校生はほぼ水平に投げ出されしばらく真っすぐ飛んでいきますが、ホーム手前で少しお辞儀します。

プロは水平よりも下に向かって投げ出され、そのまま大きく垂れることなくホームまで飛んでいきます。

レベルが上がるほどより下に向かって投げ出するため、マウンドの傾斜が必要になってきます。


到達時間

リリースからホームベース(x=18.01m)到達までにかかる時間は、小学生で0.60秒です。高校生は0.52秒で、プロは0.43秒です。

小学生は一般よりも2.44メートル手前(=18.44-16.00)から投げますが、それでも球速の速い高校生の方が短時間でホームまで到達します。

今回の条件では高校生の球は小学生より0.08秒(=0.06-0.52)早く到達します。一方、プロの球は高校生より0.09秒(=0.52-0.43)早く到達するので、プロ投手と普通の高校生投手のストレートの差は、高校生と小学生ほどの大きな差があるということになります。


3Dプロット

上記の計算結果を3Dプロットしました。

捕手側からの視点

小、高、プロストレートgif捕手視点


投手側二塁よりからの視点

小、高、プロストレートgif二塁手視点

動画にすると勢いの違いがよく分かります。

高校生の投げる120km/hのストレートでも実際に打席に立つと一般人にはとても手に負えない速さなのですが、プロの145km/hを見た後ではチェンジアップのようです。



ではまた。




2024年6月29日土曜日

第160回 中日小笠原慎之介投手のカーブ軌道

 


カーブを多投

プロ野球においてカーブは投球割合が低く、あまり投げられません。

速くて手元で小さく曲がる変化球が主流で、遅くて大きく曲がるカーブは打者が予想していないときに裏をかいて見逃しストライクを取る球として使われます。

多投して狙われてしまうと危険な球です。

そんな中でセ・リーグでもっとも高い投球割合(20.9%(*3))でカーブを投げながら、リーグ2位の被打率(.172)に抑えている中日ドランゴンズの先発左腕、小笠原慎之介投手は球種の多様性を保つうえで貴重な存在です。

彼のカーブは遠く離れた外野席からでもはっきりわかるほど大きく曲がります。

参考動画(*1)によれば、小笠原投手のカーブは59.3cm下に変化しており、これはNPBでソフトバンク・モイネロ投手に次ぐ2番目に大きい値です。

NPB平均の変化量が33.8cmなので2倍弱曲がっていることになります。


軌道計算

小笠原投手のカーブを参考動画(*1)のデータをもとに再現計算してみます。

比較用にNPB平均のカーブも計算しています。

[インプット]

軌道シミュレータへのインプット値は以下のようです。

参考動画(*1)のデータに基づいています。yoなどデータがないものは推定値です。



[計算結果]

グラフ中の点はリリースから0.02秒ごとの、一番右端のみホームベース前端上(x=18.10m)におけるボール位置を表します。
グレー線は自由落下、回転による変化がないときの軌道です。
破線は直線、回転による変化も重力もないときの軌道です。





特徴1 大きな落差

小笠原投手のカーブの特徴その1は、大きな落差です。

重力による落下と回転による変化を合わせた直線軌道からの落差は189.3cm(=130+59.3)です。
これはNPB平均163.8cm(=130+33.8)より25cmほど、ボール3つ分ぐらい大きな落差です。

重力による落下量は平均的です。球速が118.7km/hで、NPB平均117.8km/hとほぼ同じためです。

回転による変化量の差が、そのまま軌道の差となっています。

小笠原投手の回転数は2645rpmで、NPB平均2460rpmと比べて1.08倍多くなっています。

さらにボールの回転軸がほぼ水平のため、斜めを向いているNPB平均に比べ下へ大きく変化します。

4シームで回転軸の傾きが小さいほうがシュートせず上に大きくホップするのと同じ理屈です。


特徴2 シュートするカーブ

小笠原投手の横変化量は異質です。

左投手のカーブなのに左打席の方へ向かって曲がっています。

カーブなのにシュートしているわけです。

わずか3cmの横変化量なので単体でははほぼ真下に落ちる軌道ですが、NPB平均が15.1cmなのでその差は18.1cmになります。

右打者からすると、左投手のカーブは体の方に近づいて食い込んでくるものという感覚を持っているのため、外に逃げていくような感覚になると考えられます。

球種別投球割合を見るとカーブは相手打者の右左に関係なくほぼ同じ割合(対左20.5%,対右21.2%(*3))で投げています。

スライダーは左打者に多め(左14.7%,右4.8%)、チェンジアップは右打者に多め(左7.5%,右23.7%)となっているため、真下に曲がるカーブと打者から見て外に逃げていく球種でピッチングを組み立てているようです。


ノールックもシュート

カーブがシュートする投手というのは非常に珍しいのですが、過去にも一人いました。

ノールック投法でおなじみの元メジャーリーガー左腕、岡島秀樹投手です。

岡島投手のカーブ変化量は下へ8cm、左打席方向へ5cmほど(*2)です。PITCHf/xでの測定結果のため実際はもっと大きくシュートしていたと考えられます。



3Dプロット

キャッチャー方向からの動画です。

計算結果をリニアングラフ3Dでプロットし、画像をgifでパラパラアニメーションにしています。



ではまた。






参考資料 :
 (*1) ホークス・モイネロの魔球「カーブ」の秘密!半端ない落差を徹底解剖!(夢スポ 2021年10月OA)
 https://www.youtube.com/watch?v=krSXHC6V6lM



 (*2)野球×統計は最強のバッテリーである データスタジアム株式会社 中公新書ラクレ 2015年発行

 (*3)Slugger特別編集2024プロ野球オール写真選手名鑑 日本スポーツ企画出版社 2024年発行


第159回 ソフトバンク モイネロ投手のカーブ軌道

 


魔球カーブ

誰もが投げる平凡な球種でも、その威力が抜きんでていれば魔球扱いされます。

ソフトバンクのキューバ人左腕、モイネロ投手の投げるカーブがまさにそうです。

高いリリースポイントから投げ出された高速の球が打者の頭の上からストライクゾーンへ、急速に曲がり落ちてきます。

その曲がりの大きさはトラッキングデータで実証されています。

参考動画(*1)によれば、モイネロ投手のカーブは60cm以上も下に変化しており、これはNPBでNo.1の値です。

NPB平均の変化量が33.8cmなので2倍弱曲がっていることになります。

この曲がりの大きさは回転数の多さによるもので、NPB平均が2460rpm(rpmは一分間当たりの回転数)なのに対し、モイネロ投手は2985rpmと1.2倍以上です。


軌道計算

モイネロ投手のカーブを参考動画(*1)のデータをもとに再現計算してみます。

比較用にNPB平均のカーブも計算しています。

[インプット]

軌道シミュレータへのインプット値は以下のようです。

参考動画(*1)のデータに基づいています。yoなどデータがないものは推定値です。


[計算結果]
グラフ中の点はリリースから0.02秒ごとの、一番右端のみホームベース前端上(x=18.10m)におけるボール位置を表します。
グレー線は自由落下、回転による変化がないときの軌道です。
破線は直線、回転による変化も重力もないときの軌道です。




特徴1 高速カーブ

モイネロ投手のカーブの特徴その1は速い球速です。

球速は127.4km/hとカーブにしてはかなり高速で、NPB平均117.8km/hより10km/h近く上回っています。
それでいて重力による落下と回転による変化を合わせた直線軌道からの落差は170.6cm(=110+60.6)であり、NPB平均163.8cm(=130+33.8)を上回ります。

普段の経験から速い球は直線的で、遅い球は大きくお辞儀するという感覚がわれわれには身についています。
10km/h速いモイネロ投手のカーブの方が、10km/h遅いNPB平均カーブよりも大きく下へ変化するため打者は大いに感覚を狂わされます。


特徴2 高いリリースポイント

モイネロ投手のリリースポイントは188cmで、NPB平均168cmよりも20cm高くなっています。

カーブは大きく下に変化するため、ストライクゾーンに入れるには水平よりも上に投げ出さなければなりません。

これがカーブが他の球種よりも早い段階で打者に見破られてしまう原因となっています。

高いリリースポイントから投げることで、より水平に近い角度で投げ出すことが可能になります。

今回の計算ではモイネロ、NPB平均ともにホームベース上を同じ地上60cmを通過するように投げ出し角度θを調整しました。

モイネロ投手は水平から上向き1.5度、NPBは上向き2.0度となっており、0.5度ほど低い角度で投げ出しています。



3Dプロット

キャッチャー方向からの動画です。

計算結果をリニアングラフ3Dでプロットし、画像をgifでパラパラアニメーションにしています。


ではまた。






参考動画 :
 (*1) ホークス・モイネロの魔球「カーブ」の秘密!半端ない落差を徹底解剖!(夢スポ 2021年10月OA)
 https://www.youtube.com/watch?v=krSXHC6V6lM




2023年10月8日日曜日

第156回 カーブはなぜ打者に気づかれやすいのか

 

大きく曲がる変化球は×?〇?

カーブは他の変化球に比べて奪三振率や被打率などの指標が劣ります。

曲がりが大きく、早く曲がり始めるため、打者に気づかれやすいのが理由だと言われています。

確かにプロレベルでは速くて小さい変化球が主流です。カーブは打たれやすいため、投球割合が減っています。

では大きく曲がる変化球はダメなのかというと、これに逆張りするかのように、近年横に大きく曲がるスイーパーと呼ばれるスライダーの一種がMLBで注目されています。

同じ大きく曲がる変化球でも、スイーパーは良くてカーブがダメなのはなぜでしょう?


カーブだけ上に、他は下に

それは投げ出すときの上向き角度の問題ではないかと、考えられます。

プロやMLBレベルの投手は球速が速く、また高身長ゆえにリリースポイントが高いため、ストレートでも変化球でも水平より下向きに向かって投げ出されます。

トップスピン回転で他のどの球種よりも大きく下に変化するカーブのみが、唯一、水平よりも上向きに投げ出されます。

スライダーやフォークなど、自由落下に近い落ち方をする球でも低めのゾーンに投げるときは水平よりも下向きに投げ出されます。高めならば水平よりも上向きで投げ出してもストライクになりますが、高めの変化球が危険な球であることはご存じの通りで、狙って投げることはありません。

ストレートは高めであっても水平よりも下向きに投げ出さないとゾーンに入りません。水平よりも上向きに投げ出された場合、頭の高さのくそボールとなります。

従って、投げた瞬間に水平より上向きにボールが飛び出したならば、打者は、カーブor高めに浮いた投げそこないの変化球or高めの完全なボール球のストレート、の三択に絞ることができます。

後ろ二つは恐れるに足らない球です。カーブにのみ気を付け集中することができます。


今回はカーブと他の球種で、投げ出すときの上向き角度がどのくらい違うのか軌道計算してみます。


カーブの投げだし角度の軌道計算

カーブ、ストレート、スイーパーの3球種を低めに投げた時の軌道を計算します。

計算条件は、以下のようです。

[計算条件]

なお、リリースポイントはカーブの方がストレートに比べて高く後ろ側になる傾向があることがトラッキングデータにより知られていますが、ここでは比較しやすさのため同一点としています。


[計算結果]

計算結果は以下のようです。

グラフ中の点はリリースから0.02秒ごとのボールの位置を表します。

同じ低めのゾーンに投げた場合、カーブは上向き1度で投げ出されます。対してストレートは下向き3度、スイーパーも下向きで1度となっています。


拡大すると以下のようです。

結構、違いますね。



3Dプロット

打者から見て、投げ出した瞬間の上向き角度の違いがどのように感じられるか、3Dプロットしてみました。

上の計算結果がストレート、カーブ、スイーパーの順で再生されます。

上からそれぞれ右打席からの視点、左打席視点、捕手視点を想定したものです。


右打席視点


左打席視点


捕手視点


では、また。

第155回 わたるがぴゅん!の「スコールボール」を再現するとどうなるか?

 


スコールボール

わたるがぴゅん!という野球漫画に「スコールボール」という魔球が登場します。

アンダースローから強烈なトップスピン回転与え天高く投げ上げることにより、上空から急降下してストライクゾーンにほぼ垂直に落ちてくるという球です。


誕生経緯

かなり昔に読んだのでうろ覚えで間違っているとこもあるかもしれませんが、以下のような話です。

沖縄出身の子で、小柄なやんちゃ少年の主人公わたるは投手で「ハブボール」という大きくホップするストレートを武器にしていました。これがいわば魔球1号です。

人差し指と中指の第一関節を曲げてボールに突き立てた、ハブの牙に見えるような握り(元中日のソンドンヨルのような握り)で、強力なバックスピン回転を与える球です。

(ハブは沖縄に生息する毒蛇です。)

しかしトーナメントを勝ち上がっていくうち、その球が通用しなくなり、とうとうホームランを打たれてしまいます。

マウンド上でしゃがみこんでうつむいているわたるをみて捕手で常識人の子が、ショックで落ち込んでいると思って、元気づけようとマウンドにかけ寄ります。

するとわたるは、足元の蟻が餌の奪い合いをしているのをみて、笑っています。

片方の蟻が、餌をくわえて離さないもう一方の蟻を餌ごと持上げてひっくり返していました。

これをみてひらめいたわたるは、心配してきてくれた捕手を追い返して試合を再開し、次の一球、突然アンダースローから天高くボールを投げ上げます。

唖然とするチームメイトと相手打者。

次の瞬間、上空のボールは突然急降下し、ストライクゾーンを縦に通過していきます。

蟻からヒントをえて、ハブボールを上下逆さまにひっくり返し、トップスピン回転で大きく落下させる球「スコールボール」にアレンジしたのです。魔球2号の誕生です。

(スコールは沖縄に降る集中豪雨です。)

スコールボールで三振を奪い、その試合も何とか勝つことができました。

ピンチをその場のひらめきで乗り越える90年代の古き良き野球漫画です。



凄さその1

もし、スコールボールに近い球を実際に投げられたどうでしょう?

全く打たれないのではないかと考えられます。

スコールボールの真のすごさはトップスピ回転による軌道変化ではありません。

ボールが垂直に近い軌道で落ちてくることです。

バットは水平に近い角度でスイングされるため、軌道が重ならず、点でとらえなければならないためまず当たりません。


垂直は当たらない球

近い体験があります。

いすの上に立ったチームメートに、頭上からゴムボールを落としてもらって打つティー打撃をやってみたことがあるのですが、まあ、当たりません。

雨の日に、軒先から落ちてくる水滴を打ってみたこともありますが、これもやはり空振りばかりです。

一度やってみると面白いです。

線でなく点でとらえなければならないのは本当に難しいです。野球経験者ほどミートポイントの前後位置でタイミング調整をする癖がついています。


作中でも、振っても振っても当たらない球として描かれていました。




凄さその2

また運よくバットに当たったとしても、強い打球を打つことができません。

本来のミートポイントで打つことができないからです。

作中では落下してきたスコールボールは、五角柱の立体ストライクゾーンの後端をかすめていきます

一方、打者が強い打球を打つためのミートポイントはホームベースの前端かそれより前です。

ボールが通過する位置と、打者にとって望ましいミートポイントは、前後に40センチ以上ずれています。


後ろで打つと

ホームベース後端の位置でバットに当てると、バットの角度的に、カットするときのようにベンチに飛び込むファールになってしまいます。

上体を後ろに下げて無理やり打てばフェアゾーンに飛ばせるかもしれませんが、強いスイングでないため力のない打球になります。

また軸足が完全にバッターボックスの外に出た状態で打つと反則でアウトになるため、立ち位置を後ろに変えることもできません。


前で打つと

では、高めのボールゾーンでもいいから、ホームベース前端の位置で打てばいいかというとこれも難しいです。

なぜなら垂直に近い軌道で落ちてくるため、その位置ではストライクゾーン上端よりもずっと上の位置にボールがあるためです。

どのくらい上を通過するでしょうか。



今回はスコールボールを現実に投げるとどのような軌道になるのか、計算してみます。


スコールボールの軌道計算

作中では細かい数値の記載はないため仮定の値で計算します。

球速は小柄な中学生がアンダースローから投げるため速くはない、回転数はハブボールのホップ具合から球速のわりに多いとして、以下の条件としました。

球速80km/h、回転数2000rpm、揚力係数CL=0.43, 抗力係数CD=0.30 (スピンパラメータSP=0.35)

軌道シミュレータver3.2へのインプット値は以下のようです。

参考にプロレベルの150km/hのストレートも併せて計算します。

[計算条件]




[計算結果]

計算結果は以下のようです。グラフ中の点はリリースから0.02秒ごとのボールの位置を表します。


すごい山なりになりました。



地上2.6メートルのボール球

ミートポイントをホームベース前端(x=18.10m)とすれば、その地点でボールは地上2.64メートルの高さにあります。

ストライクゾーン上端はよほど長身の打者でも地上1.2メートル程度であり、このボールはそのゾーン上端のさらに1.44メートル上を通過します。

普通のスイングではバットは届きません。

剣道の面のようにすれば届くかもしれませんが、体の横回転を使わずに振ったバットでは強い打球は打てません。

スコールボールを本来のミートポイントであるホームベース前端側で打つことはできない、ということが確認できました。

84度で落下する球

スコールボールがストライクゾーンを通過するときの落下角度は84度になりました。

ほぼ垂直です。

打者のスイング角度を水平から10度とすれば、投球とは74度も軌道がずれていることになります。

スコールボールが点でしかとらえられない、バットに当てるのが難しい球であることも確認できました。

ノックでキャッチャーフライを打つ時のように無理やりバットの軌道を変えれば、線でとらえられるかもしれませんが、その時は芯でとらえても上がりすぎの内野フライにしかならないでしょう。



トップスピン回転=下への変化ではない

上のスコールボールの軌道計算結果をみると、ずいぶん丸っこい軌道です。

マンガのように真っすぐ上昇し、かくっと鋭角に方向を変えて落下し始めるような軌道ではありません。

これは回転による揚力(マグナス力)の働く向きによるものです。

トップスピン回転=下への変化、というイメージがあるかと思いますが、それはボールが水平に近い角度で飛んでいるときに限られます。

回転による揚力はボールの進行方向と垂直に作用します。

そのため上昇時は前方に、頂点付近でのみ下向きに、落下時は後ろ向きに作用します。

その結果、丸っこい軌道になります。

落下時に後ろ向き揚力が働くことで、より垂直に近い角度で落ちてきます。





コントロールできない球

さて、もし、今回計算したような軌道の球を実際に投げられたら、打者はどうにもできません。

見逃せばストライクで、振っても当たりません。

しかしながら、現実世界の打者はこのスコールボールの脅威に直面することはありません。

なぜなら、この球をストライクゾーン後端にピンポイントでコントロールすることは不可能だからです。

それどころかストライクゾーンを通すことすら至難の業です。


わずかにずれた場合の軌道計算

以前イーファスピッチとして計算したことがあるのですが、極端に山なりの球というのは、投げだす角度に加え、球速もぴったりと制御して初めて狙ったところへ投げられます。

どちらかが少しでもずれると、コントロールが大きく狂ってしまいます。

試しに、先の条件から投げ出し角度θが0.5度高くなった場合と、球速voが1km/h速くなった場合を計算すると、以下のようになります。

スコールボールのコントロール

+0.5度、+1km/hというわずかな差でも落下位置は大きく前後にずれ、ストライクゾーンを通過しなくなります。

試合で常用することはとてもできません。

もしやるならランナーなしで、0ボール2ストライクでダメ元で投げるのがいいと思います。打者も見なれない軌道なので、ストライクかどうかの判別がつかず、見逃し三振を嫌がってボール球でも振ってくれるかもしれません。




では、また。


2023年9月16日土曜日

第154回 東京ドーム天井直撃弾の打球速度はどのくらいか?

 

天井直撃弾

東京ドームで、天井に打球を直撃させたことのある選手は誰でしょうか?

大谷翔平選手、ゴジラ松井秀喜さん、55発アレックス・カブレラなど。

いずれも超がつくパワーヒッターばかりです。

天井の高さは計算上、打球が絶対当たらないように設計されました。

彼らは設計者の予想を上回る打球を打ってしまいました。


天井の高さ

東京ドームの天井の高さは、最高部で地上56.2メートルです。

グランド面は地面から下へ5.5メートル掘り下げられています。

そのため、グラウンド面から天井までの高さはこれらを足して61.7メートルとなります。(*1)

天井高さは一様ではなく大きな玉子のように湾曲しながら、ホームからセンター方向に向かって下がっていきます。

下図は、TOKYO DOME CITYホームページ記載の雨水貯留システム図(*1)を参考に推定した天井のラインをプロットしたものです。

センターフェンスの上では35メートルほどまで下がっています。


なお上図はセンターラインの断面でありレフト、ライト方向へ行くほどもう少し低くなっています。

また、旧スピーカー位置はネット画像からの推定です。


参考Web
 (*1)東京ドームシティHP
 https://www.tokyo-dome.co.jp/dome/about/


ラルフ・ブライアント

さて、天井直撃した選手と言われたら、近鉄バッファローズのラルフ・ブライアントを思い浮かべた人もいるのではないでしょうか。

彼が当てたのは天井ではなく、天井からつるされたスピーカーです。

(ひっかけ問題みたいですみません。)

そのスピーカー直撃弾は史上初の、認定ホームランになりました。

今はもうブライアント選手は引退し、近鉄はオリックスに吸収合併され、スピーカーは2016年の巨人創立80周年記念事業でより音質のよいものに替えられた際撤去されてしまいました。

さみしい気がしますが、ブライアント伝説はいつまでも残ります。



どこが当てやすいか

天井やスピーカーに当てるには相当高く、打球を打ち上げなければなりません。

そのためには大きな打球速度が必要です。

ホーム付近は天井高さが最も高いため当たりにくくなっています。

高さだけ考えればセンター方向に打った方が有利です。

しかしセンター方向へ行くほど、水平方向にも遠くまで飛ばさなければなりません。

一長一短です。

どこへ打っても大きな打球速度が必要になります。

今回は軌道計算で東京ドームの天井に当てるにはどのくらいの打球速度が必要であるか求めてみます。



東京D天井直撃弾の打球軌道計算

打ち出すときの打球上向き角度を80,60,45,40,30度と5パターンで変えて、それぞれで天井に当たるときの打球速度を求めます。

センター方向への打球で、毎分1500回転のバックスピン回転とします。


[計算条件]

軌道シミュレータver.3.2へのインプット値は以下のようです。




[計算結果]

計算結果は以下のようになりました。

東D天井直撃弾

上向き80度、垂直に近いとても高い角度、で打ち出した場合、155km/h以上で天井に当たります。これは天井に当たらなければ浅い内野フライなるような打球です。

上向き60度、これもかなり高い角度、で打ち出した場合は160km/h以上です。これは当たらなければ大きな外野フライになります。

上向き45度の場合175km/h以上で天井に当たります。これは天井に当たらなければ、飛距離133メートルで特大のホームランとなります。

40度では182km/h以上が必要で、飛距離は143メートルです。これも当たらなければ特大ホームランです。

今回の結果によれば、ブライアントのスピーカー直撃弾はこのレベルかそれ以上の打球だったことになります。

認定ホームランになったのは正当な評価です。



遠くへ打つほど大きな打球速度が必要

低い角度で遠くに打つほど必要な打球速度は大きくなっていきます。

上向き30度では200km/h以上となりますが、この打球速度を出した選手は存在しません。実質的に当てるのは不可能です。

真上に打った方がより小さい打球速度で当てられます。

しかしこれも難しいです。

投球もスイング軌道も水平に近い中で、垂直に近い角度で打ち上げるためにはボールの中心から外れた位置を打つ必要があり、打球速度が出にくくなります。

プロの選手なら打球速度155km/hは珍しくありませんが、これをほぼ真上に向かって打てる選手はいません。

(そもそもそんな打球を打とうとしませんが)

つまりは、打球がどの角度で飛んでも当たりにくいようになっています。

センター方向に向かって天井が低くなっている形状は、打球が当たるのを回避するうえで実に理にかなっています。

もちろんこれはたまたまそうなっているわけではなく、計算ずくでそのように設計した建築家の匠の技によるものです。



では、また。



2023年8月19日土曜日

第153回 打球がツーシーム回転だと飛距離はどのくらい落ちるのか?


2シームは落ちる変化球

2年ほど前、東京工業大学が「2シームは4シームに比べ落ちる変化球になる」ということを数値計算により証明しました。

バックスピン回転であっても、ボールが一回転する間に下向きの揚力が発生する瞬間があることが発見されました。
一回転を平均した上向き揚力は2シームの方が弱く、落下量が大きくなります。

同じ150km/h,回転数1100rpmのバックスピン回転の場合、2シームは4シームに比べホームベース上で19cm下を通過するそうです。(*1)

2シームでバックスピン回転で落ちる変化球といえば、DeNA山崎康晃投手などが得意としているいわゆる亜大ツーシームが有名ですが、その威力が証明されたことになります。


参考資料
(*1)東工大HP
https://www.titech.ac.jp/news/2021/049312

(*2)野球投手が投じる様々な球種の運動学的特徴
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpehss/advpub/0/advpub_16021/_pdf (図6)

(*3)Slugger特別編集 2023プロ野球オール写真選手名鑑 日本スポーツ企画出版社 

(*4)新・なんJ用語集
https://wikiwiki.jp/livejupiter/%E4%BA%9C%E7%B4%B0%E4%BA%9C%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%AB



打球は2シーム、4シームどちらか?

では、打球はどうでしょうか?

ホームランを狙う場合、ボールの中心から少しだけ下を打ちます。

これにより上向き角度をつけると同時に、バックスピン回転を与えて飛距離をアップさせています。

このとき打球の回転は2シームでしょうか、4シームでしょうか?

東工大の結果を打球にも当てはめれば、2シーム回転の打球は4シーム回転より上向き揚力が弱く飛距離が落ちる、ということになります。


推測

回転軸を単純化して傾きがないとして考えると、以下のようになるのではないかと推測されます。

投球が2シームでバックスピン回転の場合に、ボールの下側を打撃して、一塁側から見て左回りのバックスピン回転をかけて打ち返すと考えると、このとき打球は2シーム回転で飛んでいきます。

同様に考えると、投球が4シームの場合、打球のバックスピン回転は4シームになります。


他の球種では、カットボールは4シームの握りからジャイロ回転に近い回転軸(*2)で投げられますので、打ち返した打球のバックスピン回転は2シームになります。

縦カーブはトップスピン回転で、4シームで投げられるため、打ち返した打球は4シーム回転になります。


この推測が正しいとすれば、2シームとカットボールを投げた時、打たれた打球は2シーム回転で飛んでいくので上向き揚力が弱く、飛距離が減ることになります。

2シームとカットボールはホームランを打たれにくいことになります。

4シームと縦カーブはホームランを打たれやすいことになります。



亜大ツーシームの実績

実際のところはどうでしょう。

DeNA山崎投手は22年シーズン4本の本塁打を打たれて、そのうちストレート(4シーム、投球割合51.7%)が2本、スプリット(亜大ツーシーム、投球割合44.2%)が2本です。(*3)
本塁打の打たれやすさは同程度でした。

ソフトバンクの東浜巨投手は同年、ストレート(4シーム、投球割合41.4%)で5本、シンカー(亜大ツーシーム、投球割合27.6%)で2本、カットボール(投球割合22.5%)で6本の本塁打を打たれています(*3)
ツーシームの方がやや打たれにくい一方で、カットボールは打たれやすくなっています。


ホームランの打たれやすさは回転の縫い目だけでなく、ボールの上っ面を叩きやすいなど他の要因もかかわっています。
ボールの回転軸も、バットの当たり方も3次元的でもっと複雑です。
投球の球種により打球のバックスピン回転が2シームになるか4シームなるか決まるという推測を断定するのは現状難しいようです。


ちなみに亜大ツーシームは東浜投手が開発して九里亜蓮投手(現広島)に教え、それを九里投手が山崎投手に教えたそうです。
東浜投手はシンカーと呼んでいたのですが、わずか2回の伝言ゲームでツーシームに変わってしまいました。
呼び名の変遷については参考web(*4)に詳しく書かれており面白いです。





2シーム回転の打球軌道計算

さて、今回は打球がバックスピン回転で飛んでいくとき、2シーム回転と4シーム回転でどのくらい飛距離が変わるのか、軌道シミュレータで計算してみます。

[計算条件]

打球角度は上向き30度とします。その他条件は前回の投球時と同様とします。

打球速度は150km/h,回転軸は完全なバックスピン回転で共通とし、以下の3条件で計算します。2シームの値は東工大の計算結果そのものではなく、前回こちらで再現したものです。

・4シーム、回転数2230rpm。
 揚力係数CL=0.189,抗力係数CD=0.402(スピンパラメータSP=0.21)
・4シーム、回転数1100rpm。CL=0.098,CD=0.383(SP=0.10)
・2シーム、回転数1100rpm。CL=0.015,CD=0.383



[計算結果]

計算された150km/h、バックスピン回転の各打球の軌道は、以下のようです。

参考に、東京ドームの外野フェンスも追記しました。


4シーム,1100rpmの打球飛距離は110メートルになりました。
2シーム,1100rpmでは103メートルです。

2シーム回転の打球は飛距離が7メートル減る、という結果になりました。

4シームの打球は、ポール際なら両翼100メートルのフェンスを越えてホームランになります。右・左中間ならフェンスの足元まで飛び、それよりも外側の近いフェンスなら直撃します。

これが2シームだと、フェアゾーンのどこへ打ってもホームランになりません。ポール際以外ではフェンスまで届きもしません。


上下位置で比較

100メートル位置で比較すると4シームは地上9.6メートルを通過し、2シームはフェンス高さより低い2.8メートルです。

投球ならホームベース上で19センチの上下差になる両者は、打球なら両翼フェンス上で6.8メートルの上下差になります。


回転数倍増より影響大

また、4シーム同士の場合、回転数が2230rpmだと飛距離115メートルになり右・左中間でもホームランになります。

1100rpmが110メートルなので、回転数倍増により飛距離は5.7メートルアップします。

回転数をある程度まで増やすことは、打球の飛距離をアップさせるに有効です。

しかしそれでも今回の結果によれば、回転数を倍増するよりも、回転が2シームか4シームかの方が打球飛距離への影響が大きい、ということになります。



つまりや風にまぎれて潜む

打球の回転が2シームか4シームかは、選手にも見ている人にも、ほとんど意識されていないように思います。

芯でとらえたか、タイミングが合っており泳がず強いスイングができたか、打球速度、打球角度、センター方向かポール際か、風が向かい風か追い風か、など打球飛距離を伸ばしホームランになる可能性を高めることに影響する要因はいくつかあります。
それらは認識され、選手がコントロールできるものはできる限りし、結果が顧みられています。

一方で打球にかかったバックスピン回転が、2シームか4シームかは打者が狙ってコントロールしようとすることもなく、結果がどうだったか確認されることもなく、意識にも話題にも上がることはありません。


完璧なスイングで打った瞬間いったと思った打球が、フェンス手前で失速して外野フライに終わる。
こんな時解説者は「少しだけつまりましたね」などの理由を言います。

あるいは、打った瞬間は外野フライと思われた打球が、意外や意外にぐんぐん伸びてフェンスを越えてしまった。
こんな時解説者は「うまく追い風に乗りましたね」などの理由を言います。

実際言われる通りなのでしょうが、その失速や伸びの内の何割かは、打者のコントロール外の2シーム4シーム回転の影響が混じっているのではないかと考えられます。





では、また。






2023年8月15日火曜日

第152回 東工大の亜大2シームを再現計算

 

2シームが落ちることを証明

2年ほど前、東京工業大学が「同じバックスピン回転の球であっても、2シームは4シームに比べ落ちる」ということを数値計算により証明しました。

2シームでバックスピン回転で落ちる球といえば、亜細亜大学出身のDeNA山崎康晃投手が得意としている、いわゆる亜大2シームが有名です。

亜大2シームの威力を、東工大の頭脳が証明したわけです。

研究成果は下記のwebサイト(*1)で一般公開されています。(Newtonに掲載されているのを見たのですが何月号か忘れてしまいました。)



参考資料
(*1)東工大HP
https://www.titech.ac.jp/news/2021/049312

(*2)魔球をつくる 姫野龍太郎著 岩波書店

(*3)魔球の正体 手塚一志、姫野龍太郎共著 ベースボールマガジン社

(*4)ars TECHNICA
https://arstechnica.com/science/2018/11/physics-can-explain-the-fastballs-unexpected-twist-new-study-finds/


落ちる理由の概要

バックスピン回転の球に働く上向き揚力は、時間に対し一定ではありません。
(*1)の結果に見るように一回転する間に増減し、山谷が現れます。

そしてなんと、2シームの球ではバックスピン回転なのに、その谷のところで下向きの揚力が発生しているのです。

2シームの球は、重力以上に強い下向きの力を受ける瞬間があるのです。

その結果一回転を平均した上向き揚力は4シームよりも小さくなり、4シームに比べ落ちる球になります。



変化球論争

変化球が変化する理由については、2シームに限らず、昔から多くの論争が起こっています。

凄さを証明したいロマン派と、それを否定してそうでもないことを証明したい冷静派が対立してきました。

最古のものはカーブは曲がっている(ロマン派)、いや目の錯覚だ(冷静派)、というもので、これは実際にマグナス力で曲がっていることが証明されロマン派が勝利しました。(*2)

その後ストレートは直線軌道より上にホップしている(ロマン派)、いや重力に負けてお辞儀している(冷静派)で議論になり、これはお辞儀していることが証明されました。

さらに90年代、野茂英雄投手や大魔神佐々木投手が活躍したころ、フォークボールには下向きの特殊な力が働いている(ロマン派)、いや重力で自由落下してるだけ(冷静派)で議論となり、これは自由落下という結論になりました。

2000年代に松坂大輔投手がメジャーリーグへ挑戦したころ、ジャイロボールは空気抵抗が小さくバックスピン回転よりも威力のある速球になる(ロマン派)、いや抗力は大して変わらず揚力がない分落ちる変化球球になる(冷静派)でわいわいと騒動になりました。

これについては姫野龍太郎博士の当初の計算結果、ジャイロボールはバックスピン回転の球に比べ80センチの前後差がつく(*3)、というのは誤りであることがのちに分かりました。

しかし完全な間違いというわけでもなく、近年のトラッキングデータによればジャイロ回転のスライダーはバックスピン回転の4シームに比べリリースからホームベース上までの減速が数キロ小さいことも明らかになっています。


そして2020年代、2シームは縫い目の違いで落ちている(ロマン派)、いや横に曲げようとして回転軸を傾けてるし回転数も少ないし(冷静派)です。


こういう野球の変化球論争に科学のメスが入り、真実が明らかになるという話が私は大好きです。

2シームは東工大が計算で落ちていることを証明した一方で、風洞試験で4シームと差がないという実験結果を得た(*4)という情報もあります。

これから先も楽しみです。




軌道シミュレータで再現の前置き

さて、今回は軌道シミュレータでも2シームの軌道を計算してみたいと思います。

といっても東工大と同じレベルのことはできないので、再現計算になります。

まず大前提として、東工大が行ったのは数値流体解析(CFD)です。
ナビエストークスの式という流体力学の式に基づき、ボール周りの空気の流れを計算して揚力を求めています。
正確な計算を行うためには高度な知識と、スーパーコンピューターが必要です。

一方、軌道シミュレータは揚力係数、抗力係数を定数として扱い、力学の問題としてボールの軌道を計算しています。

ここでは、2シームの4シームに対する落差が東工大の計算結果と同じになるよう、2シームの揚力係数を調整して軌道を計算します。



東工大の2シームの軌道再現計算

では軌道計算を始めます。

[計算条件]

球速は150km/h,回転軸は完全なバックスピン回転で共通とし、以下の3条件で計算します。

①4シーム、回転数2230rpm。
 この球速、回転数はメジャーリーグ投手の平均的な4シームの値です。
   揚力係数CL=0.189,抗力係数CD=0.402(スピンパラメータSP=0.21)

②4シーム、回転数1100rpm。①から回転数を半減。
 CL=0.098,CD=0.383(SP=0.10)

③2シーム、回転数1100rpm。②との落差が(*1)の計算結果と一致するようCLを調整。
 CL=0.015,CD=0.383


[計算結果]

計算結果は以下のようです。
グラフ中の点はリリース後0.02秒おきの、右端のみホームベース後端(x=18.44m)での、ボールの位置を表します。


150km/h,2230rpmの4シームに対して、1100rpmの2シームはホームベース上で41cmも下を通過します。

内訳をみると、回転数半減により22cm落差が発生し、4シーム2シームの縫い目の違いによりさらに19cm落下しています。

縫い目の違いだけで、回転数半減と同程度の効果があるということになります。

両方合わせることで落差は2倍近くに増加する、という見方もできます。

いずれにしても縫い目の違いの影響は大きいです。


渦が見えたらスライダー

同じ球速でこれだけ上下差がつくのであれば、バッターからすると見分けるすべはなく、空振りするしかないように思われます。

しかも、同じ回転軸で、です。

打者の中には動体視力に優れ、渦巻きが見えたらジャイロ回転でスライダー系の球、見えなかったら真っすぐかシュートと判断している人もいると言われています。このタイプの選手を困惑させることができます。


打球は?

東工大の研究結果により、2シームの落ちる変化球としての威力が証明されましたが、それにより気になることがあります。

打球はどうなるでしょうか?

ホームランを打つには飛距離が重要で、そのためボール中心よりわずかに下を打って、適度なバックスピン回転を与えます。

このとき打球の回転が2シームか4シームかで、打球の飛距離、のびが大きく変わってしまうことになります。


これについては、また別の回で計算する予定です。



では、また。





2023年7月15日土曜日

第151回 東京ドーム、神宮球場、バンテリンドーム。左中間・右中間のホームランの出やすさはどのくらい違うか?



ホームランの出やすい球場

日本で一番ホームランの出やすい球場はどこでしょうか?

神宮球場はフェンスまでの距離が近くホームランが出やすいと言われています。

東京ドームは左中間・右中間フェンスのふくらみが小さく、やはり出やすいと言われています。

反対にバンテリンドームナゴヤでは、それらのふくらみが大きくフェンスも高いので日本一ホームランが出にくい球場だと言われています。


今回はこれら球場の左中間・右中間でどのくらいホームランの出やすさが違うのか軌道計算で比較してみます。


パークファクター

実績をもとにホームランの出やすさ、出にくさを表した「パークファクター」という指標があります。
1が普通で、1より大きいほどホームランが出やすくく、1より小さいほど出にくいことを表します。

22年シーズンの実績では、東京ドームが1.27、神宮球場は1.47(*1)と他の球場より多くホームランがでています。

一方バンテリンドームは0.74で、イメージ通りホームランが出ていません。
同レベルの低さを誇っていた札幌ドームから日本ハムが去ってしまい、お友達がいなくなってしまいました。


参考資料
(*1)Slugger特別編集2023プロ野球オール写真選手名鑑 日本スポーツ企画出版社


バンテリンドーム ナゴヤ


バンテリンドームの左中間・右中間は本当に深くてホームランが出ません。

打った瞬間入ったと思った打球がフェンスに当たり、のけぞって苦悶する立浪監督の顔を、今シーズンもう何度も見ています。

名古屋城を木造にする金があるなら、バンテリンドームにホームランテラスをつけてくれ、と中日ファンは願っています。

同心円できれいな形をしたあのフェンス、
個人的には結構好きなのですがね。



東京ドーム


私が最後に東京ドームに行ったのはGWか夏休みか、日にちは忘れましたが、入り口でオレンジ色のユニフォームをもらいました。

巨人ファンじゃないので着るのをためらっていたら変に目立ってしまって、恥ずかしい思いをしたのを覚えています。

5回が終わった時に谷繁が通算3000試合出場で花束をもらって、その時巨人が3-0で勝っていたので機嫌のよい巨人ファンからも温かい拍手が送られました。

そのあと、平田が3ランを打って同点に追いつきました。右中間への当たりで三塁側内野席から打球の軌道が良く見えました。

最後は高橋周平がエラーして負けましたが、よい一日でした。ユニフォームは叔父にあげました。また行きたいです。


神宮球場


シーズン最多本塁打、日本人シーズン最多本塁打、唯一の複数回トリプルスリー。いずれも神宮球場を本拠地とした近年のヤクルト在籍選手が記録しています。

長距離砲を育てる球場です。




スペック


東京ドーム、神宮球場、バンテリンドームナゴヤのスペックを見てみましょう。

以下のようです。(wikipedia調べ)

  両翼 左・右中間 中堅フェンス高さ
 東京ドーム 100 m 110 m 122 m 4.24 m
 神宮球場 97.5 m 112.3 m 120 m 3.3 m
 バンテリンドームナゴヤ 100 m 116 m 122 m 4.8 m
 
神宮球場は狭い上にフェンスも低くなっています。ホームランが出やすいのももっともです。

しかし、よく見ると左中間・右中間フェンスについては東京ドームの方が神宮球場よりも近くにあります。

プロットすると以下のようです。



バンテリンのフェンス、ブルーモンスターは遥か後ろに仁王立ちです。



左中間・右中間へのホームラン軌道計算


では東京ドーム、神宮球場、バンテリンドームナゴヤで左中間・右中間方向へのホームラン軌道を計算します。

各球場のフェンスに対し、超えてホームランなるために必要な打球速度を同条件で計算し、ホームランの出やすさを比べます。

[計算条件]

打球角度は上向き30度、回転数2000rpmのバックスピン回転とします。
x軸をホームから左中間・右中間方向にとっています。

それぞれのフェンスをぎりぎり超える軌道を求めます。


[計算結果]

計算結果は以下のようです。


東京ドームの左中間でぎりぎりホームランになる打球速度は150km/hです。
神宮球場ではこれよりわずかに大きく151km/hです。

なんと左中間・右中間については東京ドームの方が神宮球場よりもホームランになりやすい、ということが分かりました。びっくりです。


バンテリンで必要な打球速度は156km/hです。神宮球場よりも5km/h余分に速い打球でないとホームランになりません。軌道のスケールも他二つより一回り大きくなっています。

神宮球場、東京ドームでぎりぎりホームランになる打球をバンテリンで打った場合、フェンスの手前でバウンドします。

フェンス直撃すらしません。

ブルーモンスターの足元にも及ばないというわけです。




レフト戦・ライト線へのホームラン軌道計算

レフト線・ライト線ではどうでしょう。
同じ条件で計算してみました。

[計算結果2]


こちらはイメージ通り、神宮球場が最も入りやすくなっています。