2020年12月26日土曜日

第48回 ダルビッシュ有の「カーブ」をトラッキングデータから再現する

   


意表をつく


ダルビッシュ有投手はとても多くの球種を投げることができ、その数は10種類とも11種類とも言われています。

当然カーブも投げられます。

しかしその投球割合は全球種中で5%と低く、20球に1球ぐらいの"たまにしか投げない球"です。

MLBのように打者のレベルが高いと変化の大きい球種は見破れやすくなるため、投球割合を減らし打者の狙い球から外れることで、意表をつく球として使われます。

これは全体的に見られる傾向なので、特にダルビッシュ投手がカーブを苦手だからあまり投げない、というわけではなさそうです。


4シームと対極の変化量


ダルビッシュ投手のカーブの変化量のトラッキングデータは以下のようです。



図1:ダルビッシュ投手のトラッキングデータ
(引用元:ピッチングデザイン、集英社、お股ニキ著、2020年発行

図1の変化量を見ると、カーブは原点から右下へ大きく離れた位置へプロットされており、全球種の中で最も4シームと離れた位置にプロットされていることが分かります。

さらに球速も最も遅く、4シームとの球速差も全球種中で最大です。

  • カーブは4シームと反対方向のマグナス力をうけ、反対方へ曲がる
  • カーブは4シームと球速差が大きい分、より長い時間重力を受け、落下量が大きい
  • カーブは4シームと球速差が大きい分、ストライクゾーン到達時間の差、つまり前後位置の差が大きい

カーブは全てにおいて4シームと対極な球種です。

そのため変化球がろくに投げられない素人にとっては、4シームと差を出しやすい便利な球です。
しかし高いレベルになると差が大きすぎて、早い段階で見分けられやすくなるという弱点を持ちます。

そのためカーブを多投するには、狙っていても打たれない程の威力が必要となります。

ダルビッシュ投手のカーブの回転数は2570rpm程ですが、メジャーリーグの中には3000rpmを超えるような投手もいます。
そのレベルなら意表をつかなくとも、常時投げられるメインウェポンとして使えるようです。

もっとも、ダルビッシュ投手は他の球種が十分威力あるので、特にカーブにこだわる理由もないでしょうが。


ダルビッシュ有スライダーの軌道計算


図1に示されるように、トラッキングデータでは変化量に加え、初速と回転数も測定されています。

これら三つのデータから、軌道シミュレータver3.2により投球軌道を計算し再現することができます。

今回はダルビッシュ有投手のカーブについて、トラッキングデータの初速と回転数をインプットとして計算した結果がトラッキングデータの変化量と一致するよう、回転軸の値を調整します。


[トラッキングデータ]

図1の通りです。2019年シーズンの平均値です。


[計算条件]

軌道シミュレータver3.2へのインプットは以下のようです。
参考に前々回計算した、4シームのものも示します。




カーブの回転軸は4シームの回転軸を180度反対にした後、左上に向けた向きになっています。トップスピン成分が多く、加えてサイドスピン成分も含んでいます。

[計算結果]

計算されたカーブの軌道は以下のようになりました。

図中の点は0.02秒ごとの、一番右はホームベース上(x=18.44m)におけるボール位置です。

灰色線は同じ球速の自由落下軌道で、これとの差が先のトラッキンデータにおける変化量となります。





[計算結果2]

以下は前々回計算した4シームと一緒にプロットしたものです。

同じ角度でリリースしたときのホームベース上(x=18.44m)における位置の差も、併せて表示しました。

gif動画(実際のスピード)




gif動画(1/10倍スロー)




静止画




4シームのとの比較


●横の変化
4シームとカーブのホームベース上(x=18.44m)における位置の違いを見ると、横方向(y方向)は39cmとなっています。

これは図1トラッキングデータの変化量、4シームが一塁側へ9.1cmとカーブが30cmを足したものそのままになります。

同じ角度でリリースされた球が、4シームは右打者のインコースへ、カーブはアウトコースのボールゾーンへと分岐していきます。

39cmの差は、ホームベースの幅よりも少し小さいぐらいの差です。

十分すぎるほど大きな変化ですが、スライダーよりは横変化は小さくなっています。




●縦の変化
上下方向の差をみると116cmとなっています。

これは図1の4シームが上へ40.8cmと、カーブが下へ30cmを足し合せた70.8cmよりも、47mほど大きくなっています。

この47cmは球速の差による重力を受けている時間の差によって生まれるものです。

同じ角度でリリースされた球が、4シームは打者の頭の高さへ、カーブは低目のゾーンいっぱいへと分岐していきます。

そのため、4シームを狙っているときにカーブを投げると、投げた瞬間高めのボール球と判断しスイングを止めてしまうので、見逃しをとることができます

一方で、同じリリース角度で、4シームとカーブ両方をストライクゾーンに入れることはできないため、注意していれば見抜かれやすくなってしまいます。



CADソフトで3Dプロット


今回もFreeCADという3D CADソフトを使って軌道をプロットして、動画にしてみました。


視点はキャッチャー方向からのものです。

青い半透明の四角はストライクゾーンで、下の黒いのはホームベースです。

距離感のため、右打席とピッチャープレートの位置に人体データを立たせてあります。

ストライクゾーンに入るようリリース角度を、4シームは下向きに、カーブは三塁方向に少し変更してあります。

両者の軌道の違いの大きさが伝わるでしょうか?











*****
次回はスプリットの再現計算をする予定です。



では、また。






 

2020年12月19日土曜日

第47回 ダルビッシュ有の「ハードカッター」をトラッキングデータから再現する

   


動く速球    


ダルビッシュ有投手はとても多くの球種を投げることができ、その数は10種類とも11種類とも言われています。

その中でも4シームの次に投球割合が多いのが「カッター」です。

(カッターは日本ではカットボールと呼ばれています。)

カッターも1種類ではなく、4シームのように速く真っすぐに見えて手元で少しだけ変化する「ハードカッター」と、縦スラのように鋭く落ちる「スラッター」と、の2種類を投げ分けているそうです。

本当に器用な投手です。



図1:ダルビッシュ投手のトラッキングデータ
(引用元:ピッチングデザイン、集英社、お股ニキ著、2020年発行


ボール一個分     


図1の変化量を見ると、ハードカッターは全球種の中で横への変化量が最も小さくなっています。
変化量は7.7cmしかなく、これはボールの直径(7.4cm)とほぼ同じです。
つまり俗に言う「ボール一個分だけ動く」という表現の通りなのです。

直線軌道と比べボール一個分横へスライドするということは、反対方向へ変化する4シームをまっすぐと認識している打者の感覚からすると、ボール2個分ぐらいの変化として感じるかもしれません。

いずれにしてもボール1,2個分だけの小さな変化をする球が4シームと5キロしか変わらない球速で飛んでくるわけで、スイング開始前までにどちらなのか見分けるのは至難の業でしょう。



ダルビッシュ有カッターの軌道計算

図1に示されるように、トラッキングデータでは変化量に加え、初速と回転数も測定されています。

これら三つのデータから、軌道シミュレータver3.2により投球軌道を計算し再現することができます。

今回はダルビッシュ有投手のハードカッターについて、トラッキングデータの初速と回転数をインプットとして計算した結果がトラッキングデータの変化量と一致するよう、回転軸の値を調整します。

[トラッキングデータ]

図1の通りです。2019年シーズンの平均値です。


[計算条件]

軌道シミュレータver3.2へのインプットは以下のようです。
参考に以前計算した、4シームのものも示します。



回転軸はジャイロ回転をベースとし、少し軸を右に傾けてホップ成分を与え、さらにほんの少しだけ上に傾けることによりごくわずかなスライド成分を与えています。

[計算結果]

計算されたハードカッターの軌道は以下のようになりました。

図中の点は0.02秒ごとの、一番右はホームベース上(x=18.44m)におけるボール位置です。

灰色線は同じ球速の自由落下軌道で、これとの差が先のトラッキンデータにおける変化量となります。

ダルビッシュ有ハードカッター

[計算結果2]

以下は以前計算した4シームと一緒にプロットしたものです。

同じ角度でリリースしたときのホームベース上(x=18.44m)における位置の差も、併せて表示しました。

gif動画(実際のスピード)



gif動画(1/10倍スロー)




静止画




4シームのとの比較   


●横の変化
4シームとハードカッターのホームベース上(x=18.44m)における位置の違いを見ると、横方向(y方向)は17cmとなっています。

これは図1トラッキングデータの変化量、4シームが一塁側へ9.1cmとハードカッターが7.7cmを足したものそのままになります。

同じ角度でリリースされた球が、4シームは右打者のインコースへ、ハードカッターはほぼ真ん中へと分岐していきます。

17cmの差は、ボール2個分よりも少し大きいぐらいの差です。

バットの芯の幅は10~15cm程度だといわれているので、芯を外すにはちょうど良い変化の大きさです。


●縦の変化
上下方向の差をみると27cmとなっています。

これは図1の4シームが上へ40.8cmから、ハードカッターが上へ19.8cmを差し引いた21cmよりも、6cm大きくなっています。

この6cmは球速の差による重力を受けている時間の差によって生まれるものです。
わずか5キロ球速差でも、ボール0.8個分ほどの差がつきます。

同じ角度でリリースされた球が、4シームはストライクゾーンの高めへ、カッターはほぼ真ん中へと分岐していきます。

27cmの差は、ストライクゾーンの上下幅の半分弱ほどの差です。
ハードカッターといっても4シームと比べるとだいぶ沈んでいます。

ダルビッシュ投手のようにジャイロ回転をベースにしたカットボールでは回転軸によりホップ量が小さくなるのは避けられないので、なるべく球速差を小さくして重力落下による差を小さくすることでカバーしています

左投手の4シームのようなバックスピン回転をベースにしたカットボールが投げられればホップ量を大きくすることができるはずですが、投げる投手はほとんどいないようです。

投げるのがよほど難しいのかもしれません。
あるいは真横に曲げるより少し沈ませた方がゴロを打たせやすいなどの理由であえて沈ませているのかもしれません。




CADソフトでプロット


今回もCADソフトで、3D gif動画を作りました。

視点はキャッチャー方向からのものです。

青い半透明の四角はストライクゾーンで、下の黒いのはホームベースです。

距離感を出すために、右打席とピッチャープレートの位置に人体モデルを立たせてあります。
(フリーデータを拾って来たのですが、なぜか頭の上半分がありませんでした。)

ハードカッター、4シームともに同じリリース角度で投げられています。

ハードカッターが手元で小さく動く感じが伝わるでしょうか?











*****
次回はカーブの再現計算をする予定です。



では、また。






2020年12月12日土曜日

第46回 ダルビッシュ有の「2シーム」をトラッキングデータから再現する

   


変化する2シーム


ダルビッシュ有投手はとても多くの球種を投げることができ、その数は10種類とも11種類とも言われています。

2シームも1種類ではなく、回転数を減らして少し落とすものと、大きく真横に曲げるものと2種類投げ分けているように見受けられます。

4シームに比べて少しだけ横に変化するような従来のツーシームは被打率などの指標が意外と悪いので、それを避けるために落としたり、曲り幅を大きくしたりしているそうです。

同じ呼び名の変化球でも、統計的な指標が良い方へとすこしずつ球質が変化していくようです。




4シームとほぼ同じ球速


ダルビッシュ投手の2シームの変化量のトラッキングデータは以下のようです。

図1:ダルビッシュ投手のトラッキングデータ
(引用元:ピッチングデザイン、集英社、お股ニキ著、2020年発行

図1の変化量を見ると、2シームは4シームよりも横の変化が大きく、縦の変化が小さくなっています。

マイナス横方向のへの変化量は全球種中最大ですが、4シームとの差でみると曲がる方向が同じなので小さめの変化になっています。

球速は4シームと1キロしか差がなくほぼ同じであり、一方で回転数は250rpmほど、割合で言うと約10%ほど少なくなっています。

2シームは4シーム同様にファストボール(速球)でありながら、回転軸で横へ変化させつつ、回転数により下へ落とすことで軌道の違いを生み出しています。




ダルビッシュ有2シームの軌道計算


図1に示されるように、トラッキングデータでは変化量に加え、初速と回転数も測定されています。

これら三つのデータから、軌道シミュレータver3.2により投球軌道を計算し再現することができます。

今回はダルビッシュ有投手の2シームについて、トラッキングデータの初速と回転数をインプットとして計算した結果がトラッキングデータの変化量と一致するよう、回転軸の値を調整します。


[トラッキングデータ]

図1の通りです。2019年シーズンの平均値です。


[計算条件]

軌道シミュレータver3.2へのインプットは以下のようです。
参考に以前計算した、4シームのものも示します。






[計算結果]

計算された2シームの軌道は以下のようになりました。

図中の点は0.02秒ごとの、一番右はホームベース上(x=18.44m)におけるボール位置です。

灰色線は同じ球速の自由落下軌道で、これとの差が先のトラッキンデータにおける変化量となります。





[計算結果2]

以下は以前計算した4シームと一緒にプロットしたものです。

同じ角度でリリースしたときのホームベース上(x=18.44m)における位置の差も、併せて表示しました。

gif動画(実際のスピード)




gif動画(1/10倍スロー)





静止画



4シームのとの比較


●横の変化
4シームと2シームのホームベース上(x=18.44m)における位置の違いを見ると、横方向(y方向)は22cmとなっています。

これは図1トラッキングデータの変化量、4シームが一塁側へ9.1cmを、2シームが30.5cmから引いたそのままになります。

2シーム自体の変化量は30.5cmと大きいですが、曲がる方向が4シームと同じなので、両者の差は小さめになっています。

それでも22cmの差はボール3個弱なので、俗に言われるボール1個分動く、よりはかなり大きな変化をしています。

同じ角度でリリースされた球が、4シームは右打者のインコースへ、2シームはインコースのボールゾーンへと分岐していきます。


●縦の変化
上下方向の差をみると19cmとなっています。

これは図1の4シームが上へ40.8cmから、2シームが上へ22.5cmを引いた18.3cmと、ほぼ同じになっています。

これは球速差が1キロしかなく重力を受けている時間の差があまりないためです。

同じ角度でリリースされた球が、4シームはストライクゾーンの高めへ、2シームは真ん中の高さへと分岐していきます。

19cmの差は、ボール2個半ぐらいの小さめの差です。

横の差が22cmなので、横にも縦にも同じぐらいの差で変化をしてることになります。

右打者の場合、ストライクゾーン高めの4シームだと思って打ちに行くと、右ひじに当たってしまうような軌道になっています。


CADソフトで3Dプロット


FreeCADという3D CADソフトを使って軌道をプロットして、動画にしました。

視点はキャッチャー方向からのものです。

青い半透明の四角はストライクゾーンで、その外の赤い半透明はボールゾーンです。
下の黒いのはホームベースです。

今回は人物のCADデータを右打席と、ピッチャープレート上に配置してみました。
すこし不気味な感じになってしまいましたが、距離感が分かりやすくなっていればよいなと思います。

2シームと4シームは同じリリース角度で投げられています。

両者を見分ける難しさや、打ちに行ったら右ひじに当たってしまいそうになる感じが伝わるでしょうか?

















*****
次回はハードカッターの再現計算をする予定です。



では、また。






 

2020年12月5日土曜日

第45回 ダルビッシュ有の「スライダー」をトラッキングデータから再現する

  


世界一を決めたスライダー


ダルビッシュ有投手はとても多くの球種を投げることができ、その数は10種類とも11種類とも言われています。

その中でも追い込んでから空振りをとる、決め球として使われるのが横へ大きく曲がる「スライダー」です。

2009年WBC決勝戦、最後の一球も、このスライダーでした。

右打者のアウトコースへの信じられない程大きく曲りがながら逃げていく軌道はまるでイリュージョンのようで、必死に伸ばされたバットが空を切った瞬間、日本の世界二連覇が決まりました。

当時の感動は忘れられません。



4シーム以上の変化量


ダルビッシュ投手のスライダーの変化量のトラッキングデータは以下のようです。
図1:ダルビッシュ投手のトラッキングデータ
(引用元:ピッチングデザイン、集英社、お股ニキ著、2020年発行

図1の変化量を見ると、スライダーは原点から大きく横へ離れた位置へプロットされており、全球種の中で最も横への変化量が大きいことが分かります。

回転数が多い(SPが大きい)ほど、また回転軸のジャイロ成分が少ないほど、上下、左右に限らず原点から離れていく、つまり自由落下軌道からのかい離が大きくなります。

スライダーは4シームよりも回転数が200rpm大きく、球速が20キロ弱遅くいため、スピンパラメータSPが大きくなります。
SPが大きいほど揚力係数CLが大きくなります。
(SP詳細はこちらを参照)

原点からの距離を見るとわずかですが、スライダーは4シームよりも大きくなっており、より大きく変化していることが分かります。

変化量絶対値
スライダー : 42.6cm (=√( 42.48^2 + 3.52^2) )
4シーム : 41.8cm (=√( 40.79^2 + (-9.11^2) )


逆に言えば、スライダーの方がSPは大きいのに変化量がそれほど変わらないことから、スライダーの方が回転軸のジャイロ成分がより多いということを意味しています。

器用なダルビッシュ投手でも回転数を落とさずジャイロ成分を含まない、完全なサイドスピン回転でスライダーを投げるのは難しいのかもしれません。
あるいは投げようとすれば投げられるが曲りが大きくなりすぎるのを避けるために、あえて投げないようにしているのかもしれません。


ダルビッシュ有スライダーの軌道計算


図1に示されるように、トラッキングデータでは変化量に加え、初速と回転数も測定されています。

これら三つのデータから、軌道シミュレータver3.2により投球軌道を計算し再現することができます。

今回はダルビッシュ有投手のスライダーについて、トラッキングデータの初速と回転数をインプットとして計算した結果がトラッキングデータの変化量と一致するよう、回転軸の値を調整します。


[トラッキングデータ]

図1の通りです。2019年シーズンの平均値です。


[計算条件]

軌道シミュレータver3.2へのインプットは以下のようです。
参考に前々回計算した、4シームのものも示します。



[計算結果]

計算されたスライダーの軌道は以下のようになりました。

図中の点は0.02秒ごとの、一番右はホームベース上(x=18.44m)におけるボール位置です。

灰色線は同じ球速の自由落下軌道で、これとの差が先のトラッキンデータにおける変化量となります。




[計算結果2]

以下は前々回計算した4シームと一緒にプロットしたものです。

同じ角度でリリースしたときのホームベース上(x=18.44m)における位置の差も、併せて表示しました。

gif動画(実際のスピード)

ダルビッシュ有スライダー軌道



gif動画(1/10倍スロー)

ダルビッシュ有スライダー軌道スロー




静止画
ダルビッシュ有スライダー軌道静止画


4シームのとの比較


●横の変化
4シームとスライダーのホームベース上(x=18.44m)における位置の違いを見ると、横方向(y方向)は52cmとなっています。

これは図1トラッキングデータの変化量、4シームが一塁側へ9.1cmとスライダーが42.5cmを足したものそのままになります。

同じ角度でリリースされた球が、4シームは右打者のインコースへ、カッターはアウトコースのボールゾーンへと分岐していきます。

52cmの差は、ホームベースの幅よりも大きいほどの差です。

十分すぎるほど大きな変化ですが、回転軸がジャイロ回転とサイドスピンの中間ぐらいの回転をしているため、完全なサイドスピンの場合と比べるとこれでもまだ7割程度の変化量に抑えられています(cos46°=0.69)。

変化が大きいため手を伸ばして当てようとしてもまるで届かないところまで逃げていくので、右打者から空振りをとるのに有効な球です。

一方で左打者には曲がりすぎて当ててしまう危険があるため、スラッターほど投球割合が高くないのかもしれません。


●縦の変化
上下方向の差をみると62cmとなっています。

これは図1の4シームが上へ40.8cmから、スライダーが上へ3.5cmを引いた37.3cmよりも、25cmほど大きくなっています。

この25cmは球速の差による重力を受けている時間の差によって生まれるものです。

同じ角度でリリースされた球が、4シームはストライクゾーンの高めへ、スライダーは低目のボールゾーンへと分岐していきます。

62cmの差は、ストライクゾーンの上下幅と同じぐらいの大きな差です。

横の差が52cmなので、横の差よりも、縦の差の方が大きいというのは、見た目の印象と違って意外な気がします。
横だけでなく縦にも大きくかい離するため、最も打ちにくい球種の一つとなっています。


CADソフトで3Dプロット


今回もFreeCADという3D CADソフトを使って軌道をプロットして、動画にしてみました。


視点はキャッチャー方向からのものです。

青い半透明の四角はストライクゾーンで、下の黒いのはホームベースです。

スライダーはストライクゾーンに入るよう、少しリリース角度を三塁方向および上向きに変更してあります。

スライダーの横変化の大きさが伝わるでしょうか?















*****
次回はツーシームの再現計算をする予定です。



では、また。