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2022年8月27日土曜日

第127回 150km/hの時間旅行


2つの相対論


物理学の相対性理論には、特殊相対性理論と一般相対性理論の2つがあります。

大雑把に言うと特殊相対性理論は、光速に近い速度で移動する物体は①進行方向に縮み、②時間の進みが遅くなり、③質量が増加するというものです。

実世界の現象でありながら、日常生活における常識が覆される面白さがあります。

一般相対性理論は、特殊相対性理論を発展させたもので、重力を取り扱います。



720万分の1


特殊相対性理論の影響が出てくるは、速度が光速に近い時のみです。

光の速度は、秒速30万キロメートルです。

それに対し野球の投球は150km/hほどで、これは秒速42メートルです。
これは光速の1/7200000(=42/300000000)です。7桁小さいオーダーです。

つまり、野球の話をするとき相対性理論の適用は不要です。

不要ですが、面白そうなので、今回は野球ボールに相対性理論を適用するとどうなるのか、計算をしてみます。



野球ボールのローレンツ収縮の計算

相対性理論に従えば光速cに近い速度で移動している物体は、静止している人(静止系)から見て移動方向の長さが縮んでいるように見えます。

野球の投球ならホーム-センター方向にボールがつぶれて縦長の楕円形に見えるということが起こります。
空気抵抗などの"力"を受けて変形しているのではなく、"時空"が縮むことにより時空の中に存在するボールも一緒に縮みます。

野球ボールのローレンツ収縮


この現象を「ローレンツ収縮」と言います。

ローレンツは物理学者の名前です。
相対性理論といえばアインシュタインですが彼の完全な独力でつくり上げられたものではなく、先人達の仕事から多くのヒントを得ています。ローレンツの他にも、ポアンカレ、マッハ、マクスウェル、マイケルソンとモーレーなどが大きな影響を与えています。

ローレンツ収縮の計算式は①式のようです。
この式は三平方の定理から導かれ、誰でも計算できる形をしています。
興味を持って訪れた人にいきなり難解な数式をぶつけて門前払いしてしまわないのも、相対性理論の良いところです。

物体の速度vが光速cよりもずっと小さいときv/c≒0なので、①式のルートの部分がほぼ1となり、L≒Loとなり、ローレンツ収縮の効果がなくなります。
そのため物体の速度vが光速cに比べずっと小さいとき、相対性理論の適用は不要となります。


それでは、どれくらい縮むのか(縮まないのか)計算してみます。


[計算結果]
球速vはメジャーリーグの4シームを想定し、150km/hとします。
①式の計算結果は以下のようです。


球速150km/hの投球は、ローレンツ収縮により7×10^-13mm、前後方向に縮みます。

桁が小さすぎてどのくらいなのか良く分かりませんね。

他のものと比べると、7×10^-13mmは、電子(古典電子半径 2.8×10^-15m)の大きさの1/8程度です。
肉眼で見て縮んでいるのが分かるようなレベルではありません。 

割合で言うと、元の径の0.99999999999999倍に縮みます。小数点の後ろに9が14個も並びます。パーセントで言うと、99.999999999999%です。お酒やドラマの名前がこんなに長ければ、消費者はうんざりしてしまいます。

それでもプランク長さよりは長いため実際にボールは収縮しています。




野球ボールの時間旅行の計算

次は、時間の遅れです。

映画「猿の惑星」ではラストで(※ネタバレ注意)主人公が未来の地球へタイムトラベルしていたことが明らかになります。
相対性理論では光速に近い速度で移動しているものは時間の流れがゆっくりになるため、宇宙船が地球に対して光速近くまで加速していたとすればあり得る話となります。

野球ボールでも、例えば小さな虫がボールに貼り付たまま投げれば、虫は時間旅行をします。キャッチャーミットで受け止められた時までの時間進みの遅さの分だけ、虫にとってグラウンド上の人達は早く時間が進んでいるので、未来の世界に到着することになります。

野球ボールのタイムトラベル

この虫がどれだけの未来へ時間旅行するのか計算してみます。

時間の遅れの計算式は上図②式のようで、先ほどのローレンツ収縮と同じ形をしています。


[計算結果]
球速vは先ほどと同様に150km/hとします。投げてから捕るまでの飛行時間は0.45秒とし、加速と減速にかかる時間は無視します。

②式の計算結果は、以下のようです。


球速150km/hの球に貼り付いた虫は、4×10^-15秒だけ未来へ時間旅行をします。

これも桁が小さすぎて良く分かりません。

光は1秒間に地球7周半分の距離を進みますが、4×10^-15秒の間ではわずか千分の一ミリしか進めません。それだけの短い時間です。

それでもプランク時間よりは長い時間のため実際に時間旅行は起こっています。

10^-15秒の時間遅れでは、例え何万、何億球投げようとも、この虫が22世紀まで長生きすることはできそうもありません。
それどころかむしろ空気中で音速を超えるときの衝撃波や、摩擦による熱のダメージで寿命を縮めてしまうことでしょう。

またボールの時間遅れはこのように極めて小さいため、速球王の中に仕込まれたストップウォッチを相対論に基づいて補正する必要はありません。




 




野球ボールの質量増加の計算

最後は質量の増加です。

「質量はエネルギーと等価」というフレーズおよび「E=mc^2」の式は、相対性理論の中でも最も有名な部分の一つです。
アインシュタインを尊敬する人は彼のおかげで原子力発電ができたと称え、そうでない人は彼のせいで核兵器が生まれたと非難します。世界が平和になりますように。

投手の投げた野球ボールは運動エネルギーの分だけ静止時より多くのエネルギーを持っており、その分だけ質量mが増加します。

野球ボールの質量増加

質量増加の計算式は上図③のようです。これもまたローレンツ収縮と同じ形の式をしていますが、質量は増える方向なのでルートの部分で割る形になります。

では、どれくらい質量が増加しているのか計算してみます。


[計算結果]
球速vは先と同様に150km/hとします。ボールの静止質量は0.145kgとします。

③式の計算結果は以下のようです。


球速150km/hの投球は、質量が1×10^-15kg増加します。

これもやはり桁が小さすぎ、良く分かりません。
他のものと比べると、人の細胞一個の中にあるDNA(3×10^-15kg)の1/3程度です。

割合で言うと元の質量の1.00000000000001倍、100兆分の1倍だけ増加します。

これだけわずかなので投手がリリースの瞬間に「ボールが重くなった」と感じることはありません。
もしそう感じたとしてもそれは相対性理論の効果による質量増加ではなく、加速時の慣性力です。ボールを押した分だけ手が押し返される「反作用」の力です。



2022年8月20日土曜日

第126回 ヘッドスライディングvs足スライディング。どちらが早いか?

 


ヘッスラvs足スラ

ヘッドスライディングと足からのスライディング。

どちらがより早くベースに到達できるだろうか?

一般的にはヘッドスライディングのほうが早いというイメージを持たれているようである。

物理学的な観点からは、ベースに触れる部分が体の重心から離れている方が有利だと言える。

重心から足裏までの距離L1と、万歳をした時の重心から手先までの距離L2を比べ、L1>L2なら足スライディングのほうが早い。L2>L1ならヘッドスライディングのほうが早い。

ヘッドスライディングvs足スライディング
図1


スライディングするとき、地面をけり体が宙に浮くともはや足からの力で体の重心を加速することはできなくなる。

どちらのスライディング方法でも重心の動きが変わらないのであれば、ベースに触れる部分が重心から遠いほど、ベースに触れる部分はよりベースに近くなり、早くベースに触ることができる。


数値で比較

図1のポンチ絵ではL2がL1よりかなり大きいが、実際にはそこまで差はない。

数値を計算してみる。


直立姿勢での足裏から重心までの距離L1は身長のおよそ6割であるため、180cmの選手ではL1=110cmほどである。

手を上に挙げたときの足裏からの距離は身長のおよそ1.2倍であるため、180cmの選手では220cmほどである。これからL1を引けばL2=110cmとなり、L1とほぼ同じである。

手を上に挙げると腕の重量分だけ重心が頭の方へ移動することを考慮すると、L2はこれよりも少し小さくなる。

L1>L2となる。


そのためヘッドスライディングは足スライディングよりも早いとは言えない。

加えてプロ野球選手は一般人よりもスタイルが良く、足が長く重心位置が高いため、L1が大きい。

そのため足スライディングのほうがやや早いと考えられる。


調査報告

実際に1塁から2塁までの到達時間をリトルリーグ、高校、大学の選手で調べた報告がある。

どのレベルでも「同じか、足からのスライディングのほうが早い」という結果がでている。(*1)

ヘッドスライディングはケガをしやすい上に、早くならないのである。通常は足スライディングをするのがよい。

ヘッドスライディングをするメリットは、足より自在に動く手でタッチをかいくぐれることである。左手を前に出しておき、タッチが来たら引っ込め右手で三塁ベースを触るテクニックはプロ野球でも成功例がみられる。

また牽制球の帰塁時は、速度がゼロの重心を足で加速しながらスライディングする必要があるため頭から戻る。

(*1) 参考文献:BBMスポーツ科学ライブラリー 科学する野球 バッティング&ベースランニング 平野裕一著 ベースボール・マガジン社



ヘッスラvs駆け抜け

ちなみに上記の参考文献によると、内野ゴロで打者走者が1塁へ走るときについても調べられている。

結果は「ヘッドスライディングより駆け抜けた方が早い」、ただし「スライディング距離を短くして1塁のやや右へヘッドスライディングすれば、駆け抜けよりも早いが、けがのリスクも高まる」とのこと。

うまくやればヘッドスライディングのほうが早くなる可能性はあるが、10・8の立浪監督のようになるリスクのほうが高い。
一塁へのヘッドスライディングはチームメイトの精神を高揚させ、士気を上げる効果もあるが、けがしてしまってはそれも叶わない。




ヘッドスライディングのコツ

ヘッドスライディンで早くベースに到達するためコツは、重心から手先までの距離L2が大きくなるような姿勢をとることである。

そのためには足の膝から先を後ろへ、真っすぐ伸ばせばよい。膝下の重量分だけ重心が手と反対方向へ移動しL2が増加する。

ヘッドスライディンのコツ
図2


守備でダイビングキャッチをするときも同様である。

足を真っすぐ伸ばすことで、グラブをボールに近づけることができる。名手のダイビングキャッチを美しいと感じるのは、手足がきれいに伸ばされているからである。

またバレーボールではスパイクを打つ選手も、それをブロックする選手も足がまっすぐ伸びている。ネットを挟んだ敵同士の選手が同じような姿勢をとる。足を真っすぐ伸ばし重心を体の下の方へ移動させることで、同じ重心の高さでもL2が大きい分、手の位置を高くすることができる。





足スライディングのコツ

足からのスライディンで早くベースに到達するためコツは、重心から足先までの距離L1が大きくなるような姿勢をとることである。

そのためには上半身を後ろへ倒せばよい。上半身の重量分だけ重心が足先と反対方向へ移動しL1が大きくなる。

図3上のポンチ絵のように完全なあおむけでは背中が地面と接し摩擦によりブレーキがかかるし、前が見えないので、実際は少し起こす。

足スライディングのコツ
図3

両手を上に挙げると手の重量分だけ重心は足先から遠ざかるので、なおよい。岡林選手のように、あおむけでなく、体を横向きにするタイプは片手を地面に擦るようにして足先から遠ざけるとよい。

またベースに触れないほうの足の膝を曲げると、これによっても重心が遠ざかるのでよい。
言われなくても選手は皆そうしており、滑り台のように両足を前に伸ばしてスライディングする人は見たことがない。


次の塁を狙うために

余裕でセーフのタイミングならば上半身は深く倒さず、図3中のように少し起こした姿勢の方がスライディング後に素早く立ち上がれるので、むしろよい。

重心の位置が高いため、ベースに触れる足先との高低差がモーメントアームとなり、図で左回りのトルクが発生するためである。

また可能ならば右足を前に伸ばしてスライディングすると、立ち上がった時体が次の塁の方を向きスタートを切りやすい。


2022年1月29日土曜日

第104回 コリオリの力により、投球軌道はどれくらい曲がるか?

 コリオリの力japan

第5の力

空中を飛んでいく野球ボールには「重力」「抗力」「揚力」の3つの支配的な力と、無視できるほど弱い「浮力」が作用します。

しかし、厳密に言えばもう1つ力が、存在します。

上記4つの力に加え、第5の力ともいえる「コリオリの力」が作用します。


地球とは

我々は地球上で野球をします。

地球とは何でしょうか?

哲学的なものを含め無数の回答がありますが、一つには、地球は「巨大な質量を持つ物体」です。

質量があると重力場が生じ、重力がボールの軌道を下に曲げます。

ブレーキとして働く抗力と、軌道を曲げる力として働く揚力は共に空気から受ける力ですが、その空気は重力により地表にとどめられています。もし地球の重力場が弱ければ空気は宇宙空間へ霧散してしまい、抗力と揚力は発生しなくなります。

また浮力も大気と重力により発生する力で、重力により下に曲がるのを弱める力とみなすことができます。「重力」「抗力」「揚力」「浮力」これら4つの力は直接的にしろ間接的にしろ地球の巨大な質量が生み出す重力場により発生します。

これに対して、コリオリの力は重力とも大気とも無関係に発生する力です。


回転する球体

地球とは何でしょうか?

もう一つの回答は、地球とは「回転する巨大な球体」です。

回転(自転)する地球上では、北半球で北の方角に向かって物体を飛ばすとコリオリの力と呼ばれる慣性力が働き、東へ曲がって逸れます。野球のボールもそうです。

これは緯度が上がるほど、自転軸からの回転半径が小さくなり、地球外から見た東への速度が小さくなるためです。地球上で真北に向かって発射された物体は、地球外から見れば東向き向きの速度も持っています。発射された瞬間では、地面の東方向の速度成分と物体に与えられたそれは同じなので、地球上の発射地点から見れば東への速度成分はゼロです。しかし発射地点よりも北へ行くと、地面の東方向速度がより遅いため、相対的に物体は東向きの速度を持つように見えます。そのため東へ曲がっていきます。

この説明は分かりにくいかもしれません。


トラックに乗って

思考実験をしてみます。

自転する地球上ではなく、間隔をあけて一定速度で並走する二台の軽トラックの荷台に乗った投手から捕手へ投球する場合を考えます。考えやすさのために空気抵抗と重力は無視します。



トラックが止まっている(v1=v2=0)場合は、通常の投球と同じで、投手が投げたボールは真っ直ぐ捕手へと届きます。

二台のトラックが同じ速度(v1=v2>0)で走っている場合も、相対速度がゼロなので、同じく投手が投げたボールは真っ直ぐ捕手へと届きます。実際に行うのは危険ですが、頭の中で考えるだけなら安全です。思考実験の良いところです。
このとき投手や捕手にとっては投球方向に真っ直ぐボールが投げられたように見えますが、地面の上に静止している人から見れば横向きにv1の速度を持って斜めの方向にボールが飛んでいくように見えます。
観測する人の立場によってボールの軌道は異なって見えるのです。

では、捕手側のトラックの速度が少し遅い(v1>v2)場合、どうなるでしょうか?


速さが違うと逸れる

この場合、投手の投げたボールはキャッチャーミットに向かわず、捕手側トラックの前方へ逸れてしまいます。

投手の方からは、捕手側のトラックが上図で左の方へ移動していくように見えます。運転席の窓にボールが当たって怒られたら、「そっちが後ろに下がったからだ」と言い訳するでしょう。

捕手の方から見ると状況が異なります。トラックの相対速度v1-v2分だけ横向きの速度を持ってボールが投げられたように見えます。「こいつが投げ損なった」と証言するでしょう。

回転する地球の上で緯度の異なる位置にいる二人がキャッチボールをする場合もこれと同じことが起こります。


東への速度

話を再び地球上に戻します。

地球は自転しているため、地球外から見ると中にいる人間やボールは地面ごと東向きの速度を持って動いています。南側にいる投手は速度v1で、北側にいる捕手は速度v2です。
より緯度が高い位置にいる捕手の方が、地球の自転軸に近く回転半径が小さい分だけ、地球の外からみた東方向への速度は小さくなります(v1>v2)。回転と並進の違いはありますが、両者の相対速度によりボールが逸れていくのはトラックの場合と同じです。



この状態で投手から捕手に向かって北向きに真っ直ぐボールを投げると、地球の中にいる人からは東向きの力を受けて曲がって逸れて行くように見えます。
この力がコリオリの力です。コリオリの力は遠心力と同じ慣性力で、地球と一緒に回転している人から観測される見かけの力です。





コリオリ力による曲り幅の計算式


では、コリオリの力により真北に向かって投げた投球がどれくらい曲げられるのか、計算してみます。
簡略化のため重力と空気力を無視して、概算します。

日本のプロ野球本拠地の中では甲子園球場や楽天生命パークがホームベースをマウンドから見て北の方角に設置しており、投手は北に向かって投球します。

[計算式]
コリオリの力の計算式は以下のようです。

P = m・ω・sinθ・v   -① : コリオリの力
(m:ボール重量、ω:地球自転の角速度、θ:緯度、v:球速)

ボールを曲げようとする加速度は、①式を重量mで割って、

α = P / m = ω・sinθ・v -② : コリオリ力による加速度

となります。
概算で球速vを一定とすれば、コリオリ力による横への曲り幅は、②式の加速度を時間で2回積分して、

Δy = 1/2・α・t^2 
     = 1/2・ω・sinθ・v・t^2   -③ : コリオリ力による曲り幅

(ω:地球自転の角速度、θ:緯度、v:球速、t:ボールの飛行時間) 


を得ます。


コリオリ力による、投球の曲り幅計算結果

[計算条件]
球速はv=150[km/h]、ボールの飛行時間はキリよくt=0.5[s]とします。
緯度θは甲子園球場における値、θ=34.72度を使用します。(緯度はgoole mapで簡単に調べることができます。map上でマウスを右クリックすると出てくる小ウインドウの左上の数字です。)

角速度ωは、地球は24時間で一回転、つまり2π[rad]回転するので、ω=2π/(24×3600) [rad/s]です。

[計算結果]
③式に、上記条件の値を代入して計算します。SI単位系で計算します。

Δy = 1/2・ω・sinθ・v・t^2 
   = 1/2×2π/(24×3600)×sin(34.72×π/180)×(150/3.6)×0.5^2
   = 0.00043 [m]

値が小さいので単位をミリに変換します。

Δy = 0.00043 ×1000 = 0.43 [mm] : コリオリ力による曲り幅

というわけで、甲子園球場で北に向かって投げられた150km/hの投球は、0.4ミリほど東側の右打席の方へ曲がる、という結果になりました。

とても小さい値です。これでは曲がっていることに誰も気がつきませんね。


コリオリ力による、打球の曲り幅計算結果

③式に見るように、コリオリ力による曲り幅はボールの飛行時間tの2乗に比例します。
ということは、投球よりも長時間飛んでいるホームランの打球の方がより大きく曲がるはずです。

次は、ホームランの打球の曲がり幅を計算します。


[計算条件2]
打球の飛行時間はキリよく、上記の投球の10倍でt=5.0[s]とします。その他条件は投球の計算と同じで、北に向かって打球を飛ばすとします。

[計算結果2]
曲り幅Δyはt^2に比例するため、上記の投球の計算結果にtの比の2乗をかけることで、打球の曲り幅を計算します。飛行時間を10倍にしたので、曲り幅はその2乗で100倍になります。

Δy = 0.00043 × 10^2 [m]
     = 0.043 [mm]

単位をセンチに変換します。 

Δy = 0.043 × 100 = 4.3 [cm] : コリオリ力による曲り幅

北に向かって打たれた150km/hのホームラン性の打球は、4.3cmほど東へ、従ってライト方向へ曲がる、という結果になりました。

投球の場合よりは大きいですが、回転や風による軌道変化に比べればまだずっと小さい値です。
甲子園球場ではライトからレフト方向に向かって浜風が吹くのでその影響にかき消されてしまいます。


北でも南でも

今回の計算結果を誇張した図で示すと以下のようです。
コリオリ力を受ける投球、打球の曲がり誇張図

ホームベースから見て北の方角にあるレフトポールに向かって打球を飛ばすと、東側のフェアゾーンの方向へ曲がります。

ちなみに、レフトポールが南の方角だったらどうかと言うと、北の場合と同じです。
南に向かって打球を飛ばすと反対の西へ逸れますが、このときは西側がフェアゾーンになっています。北に向かってボールを飛ばしても、南に向かってボールを飛ばしても、「飛ばした人から見て右へ逸れる」と覚えておくと便利です。



*****

いつかもし、北あるいは南の方角にあるレフトポール目がけて高々と打ち上げられフェアかファールかと見守っていた打球が、ポールの外側をかすってホームランになるのを見たら、その時はコリオリの力のことを思い出してあげてください。




では、また。





2022年1月22日土曜日

第103回 野球場はどちらの方角を向いているか?

 


ホームはどっちだ

今年の恵方は、北北西です。ところで、野球場のホームベースはマウンドから見てどちらの方角に設置されているでしょうか?

プロ野球12球団の本拠地が何県何市にあるかは知っても、ホームベースの方角まで知っている人は少ないのではないでしょうか。

気になることがあったのでプロの野球場がどちらの方角を向いているのか調べてみました。



甲子園

まずは有名な阪神甲子園球場です。

所在地は兵庫県西宮市です。阪神タイガーズの本拠地あると同時に、高校野球の全国大会開催地でもあります。その都合でタイガースはシーズン開幕戦を他球場で行い、8月は長期ロードに出かけます。

投手の疲労が蓄積しやすい傾斜の浅いマウンドと、エラーの発生しやすい土の内野と天然芝の外野が劇的なドラマを生み出します。

Google mapで見てみると、ホームベースは画面の上側、すなわち北の方角にあります。投手は北に向かってボールを投げ、打者は南に向かって打球を打ち返します。




マツダスタジアム

次は、マツダスタジアムです。

正式名称は、MAZDA Zoom-Zoom スタジアム 広島。広島東洋カープの本拠地で、JR山陽新幹線の線路沿いにあります。

新幹線を降りた後、在来線に乗り換えることなく徒歩15分ほどで直接行くことができるため、県外からの旅行者にも優しい立地です。ビジター応援席の造りが辛辣なのが残念です。

Google mapで見てみると、ホームベースは画面の左側、すなわち西の方角にあります。先ほどの甲子園とは90度横を向いています。投手は西に向かってボールを投げ、打者は東に向かって打球を打ちます。

地図を縮小すると投手は対馬に向かってボールを投げ、打者は淡路島に向かって打球を打っていることが分かります。ペイペイドームのある福岡市や、甲子園のある西宮市は真西、真東ではなく、少し南北にずれています。





ばらばら

上記のような感じで幾つか調べてみた結果、以下のようでした。

球場          球団 ホームベースの方角
甲子園         阪神 北
マツダスタジアム    広島 西
バンテリンドームナゴヤ 中日 北西
東京ドーム       巨人 南東
楽天生命パーク     楽天 北
横浜スタジアム     横浜 南 


みんなばらばらの方向を向いています。寄生獣たちの会議のようです。
昨今の個性や多様性がもてはやされる風潮には、マッチしているかもしれません。


MLBボールパーク

メジャーリーグの球場はどうでしょうか。
なじみのあるものをいくつか調べてみると、以下のようでした。

球場         球団      ホームベースの方角 主な日本人選手
エンゼル・スタジアム エンジェルス  西南        大谷翔平
T-モバイル・パーク  マリナーズ   西南        イチロー、菊池雄星
ヤンキーススタジアム ヤンキース   西南西       松井秀喜、伊良部秀輝
フェンウェイパーク  レッドソックス 西南         松坂大輔、上原浩治
 
概ね同じ方向を向いているようです。日本と違ってみなそろって西南を向いています。
日本はバラバラで、メジャーは統一されています。


 




ルールブック

なぜ日本の野球場は、ばらばらの方角を向いているのでしょうか?ルール上の問題はないのでしょうか?

ルールブックには、以下のような記述があります。

公認野球規則 2.01
「本塁から投手板を経て二塁へ向かう線は、東北東に向かっていることを理想とする」

センター側を東北東にするのが理想ということなので、反対側のホームベースは西南西が理想ということです。今回調べた中では、唯一マツダスタジアムだけが従っています。

理想と明記されている以上、絶対に従わなければならない義務ではありません。そのため、球場によって向きがばらばらになっていてもルール上は問題なしです。



ファンはホームベース側から

では、公認規則の理想に従っていない日本の野球場の向きは、どのように決められたのでしょうか。

甲子園球場ではホームベースが北側にありますが、そのさらに北には阪神電車の甲子園駅があります。マツダスタジアムの西側にあるホームベースのさらに西には、JR広島駅があります。楽天生命パークでは北にホームベースで、その北にJR宮城野原駅があります。
ホームベースの方角と、球場から見た最寄駅の方角が同じになっていることが多いようです。それはつまり、最寄駅から歩いてきたファンが入ってくる方角にホームベースを置く傾向があるようです。

ホームベース側を正面玄関と考え、球場に訪れるファンを最もベストな向きで迎え入れようとしているのではないでしょうか。
あるいはもっとドライな商売根性で上客を優遇し、料金の高いホーム側の座席ほど駅に近くしただけかもしれません。




太陽を背に

さて次の疑問は、球場の方角によりプレーへの影響はないか?ということです。

まず思いつくのは太陽の向きです。

大昔の話ですが1934年11月20日、伝説の投手沢村栄治さんはベーブ・ルースやルー・ゲーリック擁するメジャーリーグ選抜を相手に8回1失点の好投をしました。この日の試合後、抑え込まれたメジャーリーガーたちは、「投手が太陽を背にして投げていたため、まぶしくてボールが見づらかった」と言っていたそうです。
これが真実であればこの日の好投は実力ではなかったことになります。実際、別日の試合では沢村投手も他の日本人投手と一緒にぼこぼこに打たれています。

この試合が行われた草薙球場(正式名称:静岡県草薙総合運動場硬式野球場)の方角を確認してみると、ホームベースは北側にあります。当時も同じ向きであったならば、沢村投手はその日、確かに南にある太陽を背負って投げていたことになります。

 

とはいえ、ほぼ同じ方角を向いている甲子園球場では朝から日没までデーゲームのあらゆる時間帯で高校野球が行われていますが、そういう話は全然聞きません。太陽のせいで見づらかった、というのはプライドの高いメジャーリーガーたちの負け惜しみだった可能性もあります。




北へ投げると東へ曲がる


最後は少し、唐突な話になります。

物理学においては、北半球で北の方角へ向かって物体を飛ばすと、東へ曲がって逸れるという現象が起こることが知られています。これは決してオカルトや似非科学ではなく、実際に起こる現象でありその原因も解明されています。
自転する地球上では「コリオリの力」と呼ばれる力が働くためです。台風のうずがいつも反時計回りになるのもこの力のためです。

反対に南に向かって物体を飛ばすと、西へ曲がって逸れます。

そのため、ホームベースが北の方角にある甲子園球場で野球をすると、北に向かって投げた投球は東の右打席側へ逸れ、南に向かってセンター返しした打球は西のライト側へ逸れます


この「コリオリの力」により投球や打球が具体的にどれくらいそれるのかは、また次回計算する予定です。






では、また。












2021年7月31日土曜日

第79回 ボールの持つ運動エネルギーが、No.1の競技は何か?




異なるボール、異なる速度  

東京オリンピックの真っただ中です。野球も含め様々な競技を観る機会が増え、楽しい毎日を過ごしています。

当然のことですが、競技ごとにルールが異なります。
使われるボールも異なりますし、ボールが飛び交う速度もまた、異なります。

小さく軽いボールが超高速で飛んでいくスポーツもあれば、大きく重たいボールがそれほど速くない速度で飛ぶものもあります。

そして、重量と速度が異なれば、ボールが持っている運動エネルギーも異なります。

では、運動エネルギーが、最も大きい競技は、一体なんでしょうか?



運動エネルギー

運動エネルギーは、ボールの重量と速度に依存します。

数式で表すと、以下のようです。高校物理の教科書にも載っているので、ご存知の方も多いかと思います。

E = 1/2・m・v^2 -① :運動エネルギー

(m:ボール重量、v:球速)

細かいことを言うと、上記は重心の並進運動エネルギーです。
重心周りの回転運動エネルギーも存在します。しかし、並進よりもずっと小さく、野球の投球では、回転運動エネルギーは、並進運動エネルギーの2,3%にすぎません。
そのため、今回は省略します。

では、各競技におけるボールが持つ運動エネルギーを①式で計算し、比較してみます。

野球は、No.1になれるでしょうか。



類似競技対決  

まずは、野球と、それによく似たスポーツである「ソフトボール」で比べてみます。
金メダル、おめでとうございます!

野球の投手が体を横回転させて投げるのに対し、ソフトボールの投手は、ウインドミルと呼ばれる、腕を縦にぐるっと一回転させるダイナミックな動きで投げます。



[計算条件]
野球             : m=0.145kg, v=160km/h
ソフトボール : m=0.188kg, v=120km/h

球速は、トップクラス投手を想定した値です。
球速は野球の方が上ですが、ボール重量はソフトボールのが上です。


[計算結果]
SI単位系で計算します。そのため、球速は時速を3.6で割って、秒速に変換しています。

野球            :E = 1/2 × 0.145 × (160/3.6)^2 =  143[J]
ソフトボール:E = 1/2 × 0.188 × (120/3.6)^2 =  104[J]

ソフトボールよりも、野球の方が運動エネルギーが大きいという結果になりました。
Jは、ジュールと読む、エネルギーの単位です。

棒グラフで表すと、以下のようです。
野球vsソフトボール



腕vs脚  

野球もソフトボールも、ボールを手で持って投げます。

腕よりも筋肉量が多く、長さもある脚でボールを加速した方が、より大きな運動エネルギーを与えられると予想されます。

そこで次は、「サッカー」を計算してみます。



[計算条件2]
サッカー : m=0.430kg, v=130km/h

[計算結果2]
サッカー:E = 1/2 × 0.430 × (130/3.6)^2 =  280.4[J]

野球(143J)よりも、ずっと大きく、約2倍の値となりました。

下半身の力は偉大です。

サッカーボールの運動エネルギーは、野球の約2倍大きい、という結果になりました。

野球vsサッカー


素手vs打具  

野球の投手は、素手で、ボールを持って投げます。

道具を使ってボールを打つ方が、リーチが長い分、もっと球速が大きくなります。そのため、運動エネルギーも大きいと予想されます。

そこで次は、「テニス」で計算してみます。

ビッグサーバーと呼ばれるような選手では、サーブスピードが200km/hを超えてきます



[計算条件3]
テニス : m=0.065kg, v=234km/h

[計算結果3]
テニス:E = 1/2 × 0.065 × (234/3.6)^2 =  138.2[J]

野球(143J)とほぼ、同じです。テニスの方が、少しだけ小さくなりました。
テニスのサーブの球速はすさまじいですが、ボールが軽いため、運動エネルギーとしてはそこまで大きくならないのです。

というわけで、テニスボールの運動エネルギーは、野球と同程度という結果になりました。




最速対決  

運動エネルギーは、速度の2乗に比例して大きくなります。

球速が200km/hを超えるテニスよりも、さらに速いスポーツが存在します。
「ゴルフ」と「バドミントン」です。

ゴルフのドライバーで打つティーショットは打球速度300km/h超、さらにバトミントンのスマッシュでは500km/h近い速度にも達します。

次は、この2競技を計算します。


[計算条件4]
バドミントン : m=0.00512kg, v=493km/h
ゴルフ          : m=0.046kg, v=328km/h

[計算結果4]
バドミントン:E = 1/2 × 0.00512 × (493/3.6)^2 =  48.0[J]
ゴルフ         :E = 1/2 × 0.046 × (328/3.6)^2 =  190.6[J]

野球(143J)と比べて、ゴルフの方が大きい値になりました。しかし、球速差のわりにはあまり差がなく、1.3倍程度です。
バドミントンは、野球も含め、ここまで計算した中で最も小さい運動エネルギーです。

普段100km/h台の速度で野球をやっている感覚からすると、300km/hや400km/hなんていうのは、想像もつかないくらいのスピードです。しかし、テニス同様に重量が軽いため、運動エネルギーとしてはそれほど大きくならなりませんでした。

バドミントンのシャトルでは、重量がわずか5.12gしかありません。野球ボールの1/70程度の軽さです。

逆に言えば、重量が軽いからこそ、これだけの超高速を出せるのだ、とも言えます。

というわけで、バドミントのシャトルの運動エネルギーは野球の1/3程度、ゴルフボールの運動エネルギーは野球の1.3倍程度という結果になりました。

野球vsゴルフ



ヘビー級対決、No.1決定  

ここまでの計算により、速度が速くても、重量が軽いと運動エネルギーはあまり大きくならない、ということが分かりました。

そこで次は、重い物体を飛ばすスポーツ、「陸上の投てき」を対象に計算してみます。

やり投げ、砲丸投げ、およびハンマー投げを計算します。
やり投げのやりは重量0.8kg、砲丸投げとハンマー投げでは鉄球重量は7.26kgにもなります。
ちなみに、ハンマー投げでは、鉄球と一緒に飛んでいくワイヤーやハンドルも含めて、砲丸投げと同じ重量になっているそうです。




[計算条件5]
やり投げ       : m=0.800kg, v=109km/h
砲丸投げ       : m=7.260kg, v=50km/h
ハンマー投げ : m=7.260kg, v=120km/h

[計算結果5]
やり投げ      :E = 1/2 × 0.800 × (109/3.6)^2 =  364.8[J]
砲丸投げ      :E = 1/2 × 7.260 × (50/3.6)^2 =  711.5[J]
ハンマー投げ:E = 1/2 × 7.260 × (120/3.6)^2 =  3267.0[J]

野球(143J)と比べて、どれもずっと大きな運動エネルギーとなりました。

特にハンマー投げはあの重量でありながら、120km/hという高速のため、その運動エネルギーはけた違いです。

やり投げのやりの運動エネルギーは野球の2.5倍、砲丸投げの鉄球の運動エネルギーは野球の5倍という結果になりました。

そして、ハンマー投げの鉄球(+ワイヤー&ハンドル)の運動エネルギーは野球の23倍にもなりました。
圧勝です。


以上の結果から、あらゆる球技、投てき競技の中で、最も大きな運動エネルギーを持って飛んでいくものは、ハンマー投げの「ハンマー」、という結論になりました。

棒グラフで表すと、以下のようです。差が大きいので、対数軸にしました。
野球vs陸上投てき


運動エネルギーを最大にする飛ばし方  

ハンマー投げのハンマー(120km/h)が、砲丸投げの砲丸(50km/h)と同じ重量でありがなら、その2.4倍もの速度が出せるのは、ひとえに、ワイヤーによるアーム長さのおかげです。

投てき物の運動エネルギーを最も大きくする飛ばし方は、投げるでも、蹴るでもなければ、道具で打つのでもなく、長いアームで振り回すことです。

ゴルフでは、ドライバーの長さを利用して加速されたヘッド部で打つことにより、打球速度を上げています。最新の材質によりシャフトを極限まで細く軽くすることで、長くても慣性モーメントが大きくならないよう工夫されています。

ソフトボールでは、ウインドミル投法で腕を振り回すことにより速度を上げています。

また、古代兵器の投石器(スリング)や、20世紀末に当時の女子高生が武器としてルーズソックスに石を詰めて振り回していたものも、同じ原理です。




軽量級対決  

さて、運動エネルギーNo.1は上記のようにハンマー投げに決定しましたが、おまけとして、運動エネルギー最小の競技も決定してみたいと思います。

候補の一つは、ここまで最小のバドミントン(48J)です。

バドミントンのシャトルに匹敵するほど軽いものといえば、「卓球」のピンポン玉を置いて、他にありません。

バドミントンのシャトル重量は5.12gという軽さですが、卓球のピンポン玉は、それをさらに下回る2.7gです。

最後は、卓球の運動エネルギーを計算して、バドミントンと比べてみます。



[計算条件6]
卓球 : m=0.0027kg, v=180km/h

[計算結果6]
卓球:E = 1/2 × 0.0027 × (180/3.6)^2 =  3.4[J]


卓球の運動エネルギーは、これまで最小のバドミント(48J)を、さらに一桁以上下回りました。

圧倒的な小ささです。No.1のハンマー投げ(3267J)と比べると、1000倍の違いです。

というわけで、運動エネルギー最小は「卓球」、という結果になりました。





*****

競技により、ボールや投てき物の運動エネルギーが3桁も異なる、というのはとても興味深い結果です。
人間はあらゆる動物の中で、もっとも多彩な動きのできる体を持っています。
それがスポーツの多様性という形で表れ、われわれを楽しませてくれます。




では、また。



2021年4月24日土曜日

第65回 野球こども相談室(架空)

 

(ナビゲーター)

みなさん、こんにちは。

架空の相談者からの質問に、架空の解説者が回答する、架空の野球こども相談室のお時間です。

それではさっそく、最初の質問者さんです。


👦A君(東京都、中学1年生):カーブが曲がりません(T_T)

ピッチャーをやっています。今年から中学生になり変化球を覚えないといけないのですが、カーブが全然曲がりません。キャッチボールのパートナーから回転はカーブになっていると言われます。

このまま投げられないなら、野手に転向しろと先輩から言われ悩んでいます。



🙋O氏(大阪府、元プロ野球投手):小指を前にして投げなさい

回転はかかっているのに曲がらんということは、回転数が足りとらんとゆうことやね。

カーブばっかし投げて200勝した、私の投げ方を教えましょう。

人差し指と中指をくっつけて、縫い目に横向きになるように握る。そんで投げる時に、小指側を前にしてリリースする。手首のひねりはいらん。手首は固定する感じで、リリースの瞬間、握力をぐっとかける。それでもボールは腕の振りのスピードで後ろに引っ張られる感じで、人差し指と小指の間から後ろに抜けていく。慣性力の仕業やね。

そうすると回転がようかかる。

小指側からリリースするには肘を柔らかく使うのがコツ。私なんか人よりもずっと柔らかいから、小指どころか手の甲を前にしてリリースしとったよ。だけどこれは、天性のものだからね、硬い人が無理したらいかん。



👨Y氏(愛知県、気象予報士):風上に向かって投げろ!

カーブが曲がるのは、回転のかかったボールの両側では気圧差が生じるからです。マグナス力と呼ばれる、空気からボールが受ける力です。

このマグナス力はボールと空気の「相対速度」の2乗に比例します。ボールの球速が同じでも、空気の方がボールに向かって動いていれば相対速度が大きくなり、マグナス力が大きくなります。

ですから風の強い日に風上に向かって、つまり、強い向かい風を受けるようにしてカーブを投げれば大きく曲るようになるはずです。

ちなみに、雨が降った次の日が狙い目です。

遠ざかっていく低気圧に向かって空気が流れ込むため、風が強くなることが多いでしょう。




👩M氏(福岡県、保育士):ボールを軽くしてごらん(゜▽゜) 

ピンポン玉ってよく曲がりますよね。

それは中が空洞になっていて、大きさのわりに軽いからです。

ボールの加速度はマグナス力をボール重量で割った値になりますので、分母の重量が小さいほど加速度が大きくなって変化量が増えるのです。

だからボールの大きさはそのままで、軽くするとよく曲がるようになります。

軟式ボールならのこぎりで2つに割って、中の黒い部分を削って軽くして、接着剤でくっつければインチキ軽量ボールが作れます。

試合では使えないので注意してね。




(ナビゲーター)

はい、皆さんありがとうございました。

A君はどうかな、参考になったかな?


(A君)

はい、なりました。Oさんの投げ方に変えたら、球速は80km/hのままだけど、回転数が1000rpmから1500rpmにアップしそうな気がします。


(ナビゲーター)

それはよかったです。では、さっそく、こちらのブルペンで投げ比べてもらいましょう。

最大風速20m/sの大型送風機と、中をくり抜いて重さを半分にしたボールも用意しましたので、どうぞこちらも使ってみてください。


(A君)

えいっ。

中学一年生のカーブ






(ナビゲーター)

わあ、すごい。回転数が増えてボール一個分ぐらい大きく曲がるようになりました。

重さ半分の軽量ボールと、送風機による風速20m/sの向い風はそれ以上です。

A君、良かったですね。


では、A君がこれからも投手を続けられることを願いつつ、お別れです。






では、また。




2021年4月17日土曜日

第64回 一塁手がジャンプ捕球すると、どれくらいセーフになりやすいのか?



長身が有利 

一塁手には長身の選手が向いています。

内野手からの送球が逸れた時、ベースを離れてボールを捕りにいき、それからベースを踏みに戻れば、それだけ時間をロスします。

背が高く手足が長ければ、逸れた送球でもベースから足を離さずに捕球できます。


上は最悪


送球は前後左右、どちらに逸れるのも良くないですが、中でも上に高く逸れるのが一番よくありません。

なぜなら、低く逸れてワンバウンドになるならば、一塁手が上手く捕ることでカバーできます。
また、横に逸れた場合は一塁手が機敏に動くことで、捕球後にベースに素早く戻ることができます。

しかし、高く逸れた送球を捕るために空中へジャンプした場合、素早くベースに戻ることができないのです。

そのため上に送球が逸れた時、最も時間をロスします。



落ちるのを待つだけ


人間が横に移動する時、脚が地面を押して、その反力を受け体の重心が横へ移動します。
つまり脚の筋肉により体を動かしています。

一方、空中へジャンプした後、下へ移動する場合は、地面からの反力を得られません。重力によってのみ体の重心は加速されます。

そのためジャンプした後は素早くベースを踏みたいと思っても、重力により自然に落ちてくるのを待つしかないのです。

ガリレオが斜塔で行った実験で知られるように、重たいものも軽いものも重力により落下する速さはおなじです。
つまり体重の大きい一塁手も、軽量な一塁手も、同じ高さジャンプしたら、地面降りてくるまでにかかる時間は同じなのです。

太って重たい選手が有利ということもなく、身軽で俊敏な選手も、脚力の強い選手も、みな等しく空中で時間をロスします。

そのため、高く逸れてもジャンプせず、ベースから離れずに捕球できる長身選手が有利なのです。



逸れなければアウトだったのに


上記のように、一塁手がジャンプして捕球するとベースを踏むまで時間をロスしますが、それは具体的にどのくらいの時間なのでしょうか。

ごく短時間なら、騒ぐほどの影響はないでしょう。

しかし、実際のプレーを見ると送球が逸れなければアウトだったのに、と思われることが多々あります。

そこで今回は、一塁手がジャンプしてボールを捕球するとどのくらいの時間をロスするのか計算してみます。




ジャンプでロスする時間の計算

ジャンプの頂点でボールを捕球すると仮定します。

[計算式]
重力により落下する距離は、重力加速度gを2回時間積分すれば求まります。式で書くと下のように表されます。

  h=-1/2×g×t^2 : 落下距離

 (g:重力定位数g(=9.81[m/s^2])、t:落下時間)

落下距離hがジャンプした高さh0と同じなるとき、ジャンプした一塁手の足が再びベースに触れます。
そのため、ジャンプによりロスする時間は下式のようになます。

 ho-1/2×g×t^2 = 0
 t=√(2×ho/g) : ジャンプによりロスする時間


[計算結果]

では上記の式に数字を入れて、計算していきます。


30cmジャンプした場合
 
 t=√(2×0.3/9.81) = 0.247 [s]

10cmジャンプした場合

 t=√(2×0.1/9.81) = 0.143 [s]


一塁への送球が高く逸れ、一塁手が30cmジャンプして捕球すると0.25秒時間をロスする、という結果になりました。
同様に、10cmジャンプすると0.14秒時間をロスします。


一塁手が空中にいる間に打者走者は1.8メートルを駆け抜ける 


30cmのジャンプで0.25秒時間をロスする、ということが分かりました。

ではこの時間ロスは内野ゴロアウトをセーフに変えるのに、どのくらい影響するのでしょうか。

0.25秒の間に、時速27km/hで走る打者走者がどのくらい進むのか計算してみると、1.85m(=0.25×27/3.6)も進みます。

一塁手が空中にいる間に、打者走者は1.8メートルを駆け抜けるのです。 

これだけ進むのであれば、セーフになる確率はかなり増えるでしょう。



10cmのジャンプ、0.14秒のロスでさえ、打者走者は1.07m進みます。

内野手の一塁送球がわずか数十センチ高く逸れるだけで、打者走者は1メートル以上進んでしまうのです。
もちろんジャンプしても捕れない程高く逸れてしまえば、一塁でアウトにできないどころか二塁まで進塁を許してしまいます。

そのため、内野手の一塁送球は絶対に、高く逸れてはいけないのです。

高く逸れるならワンバウンドになる方がまだマシ、という意識で投げるべきです。
特に肩の弱い内野手ほど、球速のばらつきにより上下のコントロールが大きくばらつくため、注意が必要です。(第63回参照









よい球がきたら、前に伸びて捕る 




さて、ここまで送球が逸れた場合について計算をしてきましたが、反対に、内野手から低い良い送球が来た場合には、一塁手は両足を大きく開き、前に伸びて捕球します。

できるだけ前方で捕ることにより、捕球するまでの時間を短縮できるからです。

プロやメジャーの選手も、きわどいタイミングのときはできるだけ伸びてとっていますから、それなりに効果があると考えられます。

送球が逸れた場合にはこれができなくなります。
そのため、送球が高く逸れた場合、上記のジャンプによりロスする時間に加え、伸びて前方で捕ることで得られるはずだった時間短縮分もロス時間となります。


次は、一塁手が前に伸びて捕球することにより、どのくらい時間を短縮できるのか計算してみます。


前に伸びて短縮できる時間の計算 


[計算条件]
一塁手が伸びることにより、ベース上よりも1.5m前で捕球できると仮定します。

また、送球の球速は100km/hと仮定します。

内野手は球速よりも捕ってから投げるまでの時間を短くすることを重視する、また一塁手に届くころには空気抵抗により投げた瞬間よりも減速するという点を考慮して、球速は少し遅めとしました。

[計算式]
1.5mという短い距離における球速の変化は無視できるとし、球速を一定とすると、短縮される時間tは伸びた距離を球速で割ることで求められます。
はじきです。

 t = s / v : 短縮された時間

 (s:一塁手が前に伸びた距離、v:送球の球速)


[計算結果]

1.5m手前で捕球した場合
 
 t=1.5 / (100/3.6) = 0.054 [s]


一塁手が1.5メートル前に伸びて捕球すると、0.05秒時間を短縮できる、という結果になりました。


一塁手が伸びると打者走者は40cm走れなくなる 

一塁手が伸びて1.5m手前で捕球することで、短縮できる時間は0.05秒でした。

この間に、時速27km/hで走る打者走者が進む距離は40.5cm(=0.054×27/3.6*100)です。


つまり、伸びずにベース上で捕球すると同着セーフになる場合に、一塁手が伸びて1.5m手前で捕球すれば打者走者がベースを踏む40cm手前でアウトにできるということになります。

言い換えると、一塁手が前に伸びることにより、打者走者の進む距離を40cm奪えるのです。

ざっくり、走速度は送球速度の1/4程度ですから、一塁手が前に伸びた距離の1/4ぐらいの走距離を打者走者から奪うことができるわけです。

そのためきわどいタイミングであれば、伸びることでセーフをアウトに変えるだけの効果十分はあると言えます。





ジャンプで失うトータル時間


送球が高く逸れてジャンプした場合、重力で落ちてくる時間のロスと、前に伸びて捕るこがはできないための時間ロス、この2つが合わさります。

[結論]
 ・一塁手が30cmジャンプして捕球すると、0.25秒ロスし、その間打者走者は1.85m進む。
 ・一塁手が伸びて1.5m手前で捕球すると、0.05秒短縮し、打者走者が進む距離を40cm奪える。
 ⇒そのため、一塁手が30cmジャンプし前に伸びれずに捕球すると、0.30秒(=0.25+0.05)時間をロスし、その間に打者走者は2.25m(=1.85+0.40)進む


内野送球が高く逸れることで、トータルで打者走者が2.25mも進むだけの時間をロスしてしまうという結果になりました。

予想以上に大きな影響です。

内野ゴロ送球におけるコントロールの重要性が、改めて示される結果となりました。








では、また。

2021年3月6日土曜日

第58回 塁を回るランナーの体は、遠心力をどのくらい受けているのか?




外野に飛んだら膨らむ  


内野ゴロを打ったバッターは、真っ直ぐ一塁ベースへ走っていきます。真っ直ぐ走るのが、最短距離だからです。

一方、ツーベースヒットになるような外野へ飛んだ打球の場合には、真っ直ぐではなく、ファールゾーンの方へ斜めに走っていきます。そして、ベースの手前から曲がり始め、膨らんだ軌道でベースを駆け抜けていきます。

ベースのところで急に90度向きを変えるよりも、あらかじめ膨らんでおいた方が走軌道の曲率が大きくなり、体に作用する遠心力が小さく抑えられるからです。

この走り方は、オーバーランと呼ばれます。



もう一つの遠心力対策


ベースを回るランナーはオーバーランに加えて、もう一つ、遠心力に対抗する策を行っています。

ベースを踏むとき、ランナーは体をピッチャーマウンドの方へ大きく傾けているのです。

なぜ傾けるのでしょうか?

それは、体を傾けることで、足が地面から受ける反力の向きを斜めにし、曲がるための横向きの力を発生させているのです。

左に曲がるときの力のベクトル
この横向きの力を「向心力」といいます。

なじみのある「遠心力」は、この向心力と釣り合う仮想的な力、慣性力のことです。

走動作に限らず、曲がるとき曲がりたい方向に体や機体を傾けるというのは、重力のある地球上での常套手段です。

下向き重力と斜め上向きの地面反力を合成すると、上下方向の力が打ち消し合い、横方向の向心力のみが残るからです。

自転車もバイクも、曲がるときには車体を傾けます。

航空機も、ローリングしてバンク角を大きし、翼に働く揚力の向きを真上から斜め上向きに傾けることで、向心力を生み出しています。マッハを超える戦闘機では、ほとんど垂直近くまで機体を傾けて急旋回することもあります。



遠心力の計算 


では、全力疾走しながらベースを回るランナーの体には、いったいどれほどの遠心力が働いているでしょうか?

計算してみます。

[計算式]

遠心力は以下の式で計算されます。

Pc = m×v^2 / r ‐①

ここで、m:選手の体重、v:走速度、r:回転半径。

[計算結果]

体重m=80kg、走速度v=27km/h、回転半径r=9.0mとします。

Pc = 80×(27/3.6)^2 / 9.0 = 500 [N]

力の単位をニュートンから、なじみのあるキロに変換します。

Pc = 500 / 9.81 = 51 [kgf] : 遠心力

一塁ベースを回るをランナーの体には51kgfの遠心力が働いている、という結果になりました。



何Gの遠心力が働いているのか 


計算式①から明らかなように、遠心力は体重に比例します。体重が大きいほど、遠心力も大きくなるのです。
一方、体に作用する重力も体重に比例します。例えば体重80kgの体には、80kgfの重力が働きます。

そのため、重力と遠心力の比で考えてみます。

Pc/m=51/80= 0.64 

従って、一塁ベースを回るランナーの体には重力の0.64倍、つまり0.64Gの遠心力が作用している、ということになります。



人類最速の男  


さて、上記①式に見るように、遠心力Pcは走速度vの二乗に比例します。
そのため、速く走るほど遠心力は大きくなります。

地球上で最も速く走った人は誰か、と聞かれたら、多くの人は彼を思い浮かべることでしょう。

人類最速の男ウサイン・ボルト。

彼の最高走速度は11.6m/sにも達っします。時速に換算すると、41.9km/hです。

ガソリンエンジンもなく、筋肉だけでこれだけの速度を出すのはすごいことです。

これほどの速度で走るとき、いったいどれほどの遠心力が作用するのでしょうか?



ウサイン・ボルトの遠心力  


では、計算してみましょう。

彼は野球選手ではなく、陸上選手ですので、陸上のトラックを走っているときの遠心力を計算対象とします。

100m走ではまっすぐ走り、曲がらないので遠心力は作用しません。
①式で言えばr=∞でPc=0となります。

彼は200m走でも世界記録を持っています。

上記の最高走速度11.6m/sは、200メートル走でスタートから70m地点で記録された値ですが、200メートル走は最初にコーナー部を120m走り、その後直線部を80m走ってゴールするというルールになっているため、最高速度はコーナー部を走っているときの速度ということになります。

また、陸上トラックの回転半径rは37.898mと定められています。これは内側のコースでも外側のコースでも同じです。

[計算結果2]

体重m=94kg、走速度v=11.6m/s、回転半径r=37.898mです。

Pc = 94×11.6^2 / 37.898 = 335 [N]
Pc = 335 / 9.81 = 34 [kgf]

200m走でコーナーを走るボルトの体には、34kgfの遠心力が働いている、という結果になりました。

重力と遠心力の比も計算します。
Pc/m=34/94= 0.36。

200m走でコーナーを走るボルトの体に作用する遠心力は、0.36Gです。


つまり、200m走を人類最高速度で走っているウサイン・ボルトよりも、ツーベースヒットを打って一塁ベースを回る野球のバッターランナーの方が、ずっと大きな遠心力を受けているのです。

それは野球の方が回転半径がずっと小さいためです。



イチローは30度、ボルトは17度  


野球では走る距離を短くするため、なるべくオーバーランによる走路のふくらみを抑えて小さい回転半径で曲がろうとします。
その結果、大きな遠心力を受けることになります。

そしてそれに対抗すべく、大きく体を傾けるのです。滑って転んでしまわないぎりぎりまで傾けます。

下の写真は、ツーベースヒットを打って一塁ベースを回るイチロー選手(左)と、200m走でコーナーを走るウサイン・ボルト選手(右)です。
イチロー選手の体は30度と大きく傾いているのに対し、ボルト選手はその半分程度の17度しか傾いていません。
遠心力の大きい前者の方が、体の傾きもより大きくなっているわけです。





******

以下はデータ参照元の補足です。

野球の回転半径r=9.0mは、ネットで一般公開されている愛知東邦大学の論文から引用したデータをもとに、以下のような作図で推測しました。
高校生のデータとのことなので、プロやメジャーリーガーの走路とは少し違いがあるかもしれません。




また、ウサイン・ボルトの走速度のデータは下記のネットで一般公開されている筑波大学のデータを参考にしました。
http://rikujo.taiiku.tsukuba.ac.jp/column/2016/67.html






では、また。



2020年12月12日土曜日

第46回 ダルビッシュ有の「2シーム」をトラッキングデータから再現する

   


変化する2シーム


ダルビッシュ有投手はとても多くの球種を投げることができ、その数は10種類とも11種類とも言われています。

2シームも1種類ではなく、回転数を減らして少し落とすものと、大きく真横に曲げるものと2種類投げ分けているように見受けられます。

4シームに比べて少しだけ横に変化するような従来のツーシームは被打率などの指標が意外と悪いので、それを避けるために落としたり、曲り幅を大きくしたりしているそうです。

同じ呼び名の変化球でも、統計的な指標が良い方へとすこしずつ球質が変化していくようです。




4シームとほぼ同じ球速


ダルビッシュ投手の2シームの変化量のトラッキングデータは以下のようです。

図1:ダルビッシュ投手のトラッキングデータ
(引用元:ピッチングデザイン、集英社、お股ニキ著、2020年発行

図1の変化量を見ると、2シームは4シームよりも横の変化が大きく、縦の変化が小さくなっています。

マイナス横方向のへの変化量は全球種中最大ですが、4シームとの差でみると曲がる方向が同じなので小さめの変化になっています。

球速は4シームと1キロしか差がなくほぼ同じであり、一方で回転数は250rpmほど、割合で言うと約10%ほど少なくなっています。

2シームは4シーム同様にファストボール(速球)でありながら、回転軸で横へ変化させつつ、回転数により下へ落とすことで軌道の違いを生み出しています。




ダルビッシュ有2シームの軌道計算


図1に示されるように、トラッキングデータでは変化量に加え、初速と回転数も測定されています。

これら三つのデータから、軌道シミュレータver3.2により投球軌道を計算し再現することができます。

今回はダルビッシュ有投手の2シームについて、トラッキングデータの初速と回転数をインプットとして計算した結果がトラッキングデータの変化量と一致するよう、回転軸の値を調整します。


[トラッキングデータ]

図1の通りです。2019年シーズンの平均値です。


[計算条件]

軌道シミュレータver3.2へのインプットは以下のようです。
参考に以前計算した、4シームのものも示します。






[計算結果]

計算された2シームの軌道は以下のようになりました。

図中の点は0.02秒ごとの、一番右はホームベース上(x=18.44m)におけるボール位置です。

灰色線は同じ球速の自由落下軌道で、これとの差が先のトラッキンデータにおける変化量となります。





[計算結果2]

以下は以前計算した4シームと一緒にプロットしたものです。

同じ角度でリリースしたときのホームベース上(x=18.44m)における位置の差も、併せて表示しました。

gif動画(実際のスピード)




gif動画(1/10倍スロー)





静止画



4シームのとの比較


●横の変化
4シームと2シームのホームベース上(x=18.44m)における位置の違いを見ると、横方向(y方向)は22cmとなっています。

これは図1トラッキングデータの変化量、4シームが一塁側へ9.1cmを、2シームが30.5cmから引いたそのままになります。

2シーム自体の変化量は30.5cmと大きいですが、曲がる方向が4シームと同じなので、両者の差は小さめになっています。

それでも22cmの差はボール3個弱なので、俗に言われるボール1個分動く、よりはかなり大きな変化をしています。

同じ角度でリリースされた球が、4シームは右打者のインコースへ、2シームはインコースのボールゾーンへと分岐していきます。


●縦の変化
上下方向の差をみると19cmとなっています。

これは図1の4シームが上へ40.8cmから、2シームが上へ22.5cmを引いた18.3cmと、ほぼ同じになっています。

これは球速差が1キロしかなく重力を受けている時間の差があまりないためです。

同じ角度でリリースされた球が、4シームはストライクゾーンの高めへ、2シームは真ん中の高さへと分岐していきます。

19cmの差は、ボール2個半ぐらいの小さめの差です。

横の差が22cmなので、横にも縦にも同じぐらいの差で変化をしてることになります。

右打者の場合、ストライクゾーン高めの4シームだと思って打ちに行くと、右ひじに当たってしまうような軌道になっています。


CADソフトで3Dプロット


FreeCADという3D CADソフトを使って軌道をプロットして、動画にしました。

視点はキャッチャー方向からのものです。

青い半透明の四角はストライクゾーンで、その外の赤い半透明はボールゾーンです。
下の黒いのはホームベースです。

今回は人物のCADデータを右打席と、ピッチャープレート上に配置してみました。
すこし不気味な感じになってしまいましたが、距離感が分かりやすくなっていればよいなと思います。

2シームと4シームは同じリリース角度で投げられています。

両者を見分ける難しさや、打ちに行ったら右ひじに当たってしまいそうになる感じが伝わるでしょうか?

















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次回はハードカッターの再現計算をする予定です。



では、また。