2021年7月31日土曜日

第79回 ボールの持つ運動エネルギーが、No.1の競技は何か?




異なるボール、異なる速度  

東京オリンピックの真っただ中です。野球も含め様々な競技を観る機会が増え、楽しい毎日を過ごしています。

当然のことですが、競技ごとにルールが異なります。
使われるボールも異なりますし、ボールが飛び交う速度もまた、異なります。

小さく軽いボールが超高速で飛んでいくスポーツもあれば、大きく重たいボールがそれほど速くない速度で飛ぶものもあります。

そして、重量と速度が異なれば、ボールが持っている運動エネルギーも異なります。

では、運動エネルギーが、最も大きい競技は、一体なんでしょうか?



運動エネルギー

運動エネルギーは、ボールの重量と速度に依存します。

数式で表すと、以下のようです。高校物理の教科書にも載っているので、ご存知の方も多いかと思います。

E = 1/2・m・v^2 -① :運動エネルギー

(m:ボール重量、v:球速)

細かいことを言うと、上記は重心の並進運動エネルギーです。
重心周りの回転運動エネルギーも存在します。しかし、並進よりもずっと小さく、野球の投球では、回転運動エネルギーは、並進運動エネルギーの2,3%にすぎません。
そのため、今回は省略します。

では、各競技におけるボールが持つ運動エネルギーを①式で計算し、比較してみます。

野球は、No.1になれるでしょうか。



類似競技対決  

まずは、野球と、それによく似たスポーツである「ソフトボール」で比べてみます。
金メダル、おめでとうございます!

野球の投手が体を横回転させて投げるのに対し、ソフトボールの投手は、ウインドミルと呼ばれる、腕を縦にぐるっと一回転させるダイナミックな動きで投げます。



[計算条件]
野球             : m=0.145kg, v=160km/h
ソフトボール : m=0.188kg, v=120km/h

球速は、トップクラス投手を想定した値です。
球速は野球の方が上ですが、ボール重量はソフトボールのが上です。


[計算結果]
SI単位系で計算します。そのため、球速は時速を3.6で割って、秒速に変換しています。

野球            :E = 1/2 × 0.145 × (160/3.6)^2 =  143[J]
ソフトボール:E = 1/2 × 0.188 × (120/3.6)^2 =  104[J]

ソフトボールよりも、野球の方が運動エネルギーが大きいという結果になりました。
Jは、ジュールと読む、エネルギーの単位です。

棒グラフで表すと、以下のようです。
野球vsソフトボール



腕vs脚  

野球もソフトボールも、ボールを手で持って投げます。

腕よりも筋肉量が多く、長さもある脚でボールを加速した方が、より大きな運動エネルギーを与えられると予想されます。

そこで次は、「サッカー」を計算してみます。



[計算条件2]
サッカー : m=0.430kg, v=130km/h

[計算結果2]
サッカー:E = 1/2 × 0.430 × (130/3.6)^2 =  280.4[J]

野球(143J)よりも、ずっと大きく、約2倍の値となりました。

下半身の力は偉大です。

サッカーボールの運動エネルギーは、野球の約2倍大きい、という結果になりました。

野球vsサッカー


素手vs打具  

野球の投手は、素手で、ボールを持って投げます。

道具を使ってボールを打つ方が、リーチが長い分、もっと球速が大きくなります。そのため、運動エネルギーも大きいと予想されます。

そこで次は、「テニス」で計算してみます。

ビッグサーバーと呼ばれるような選手では、サーブスピードが200km/hを超えてきます



[計算条件3]
テニス : m=0.065kg, v=234km/h

[計算結果3]
テニス:E = 1/2 × 0.065 × (234/3.6)^2 =  138.2[J]

野球(143J)とほぼ、同じです。テニスの方が、少しだけ小さくなりました。
テニスのサーブの球速はすさまじいですが、ボールが軽いため、運動エネルギーとしてはそこまで大きくならないのです。

というわけで、テニスボールの運動エネルギーは、野球と同程度という結果になりました。




最速対決  

運動エネルギーは、速度の2乗に比例して大きくなります。

球速が200km/hを超えるテニスよりも、さらに速いスポーツが存在します。
「ゴルフ」と「バドミントン」です。

ゴルフのドライバーで打つティーショットは打球速度300km/h超、さらにバトミントンのスマッシュでは500km/h近い速度にも達します。

次は、この2競技を計算します。


[計算条件4]
バドミントン : m=0.00512kg, v=493km/h
ゴルフ          : m=0.046kg, v=328km/h

[計算結果4]
バドミントン:E = 1/2 × 0.00512 × (493/3.6)^2 =  48.0[J]
ゴルフ         :E = 1/2 × 0.046 × (328/3.6)^2 =  190.6[J]

野球(143J)と比べて、ゴルフの方が大きい値になりました。しかし、球速差のわりにはあまり差がなく、1.3倍程度です。
バドミントンは、野球も含め、ここまで計算した中で最も小さい運動エネルギーです。

普段100km/h台の速度で野球をやっている感覚からすると、300km/hや400km/hなんていうのは、想像もつかないくらいのスピードです。しかし、テニス同様に重量が軽いため、運動エネルギーとしてはそれほど大きくならなりませんでした。

バドミントンのシャトルでは、重量がわずか5.12gしかありません。野球ボールの1/70程度の軽さです。

逆に言えば、重量が軽いからこそ、これだけの超高速を出せるのだ、とも言えます。

というわけで、バドミントのシャトルの運動エネルギーは野球の1/3程度、ゴルフボールの運動エネルギーは野球の1.3倍程度という結果になりました。

野球vsゴルフ



ヘビー級対決、No.1決定  

ここまでの計算により、速度が速くても、重量が軽いと運動エネルギーはあまり大きくならない、ということが分かりました。

そこで次は、重い物体を飛ばすスポーツ、「陸上の投てき」を対象に計算してみます。

やり投げ、砲丸投げ、およびハンマー投げを計算します。
やり投げのやりは重量0.8kg、砲丸投げとハンマー投げでは鉄球重量は7.26kgにもなります。
ちなみに、ハンマー投げでは、鉄球と一緒に飛んでいくワイヤーやハンドルも含めて、砲丸投げと同じ重量になっているそうです。




[計算条件5]
やり投げ       : m=0.800kg, v=109km/h
砲丸投げ       : m=7.260kg, v=50km/h
ハンマー投げ : m=7.260kg, v=120km/h

[計算結果5]
やり投げ      :E = 1/2 × 0.800 × (109/3.6)^2 =  364.8[J]
砲丸投げ      :E = 1/2 × 7.260 × (50/3.6)^2 =  711.5[J]
ハンマー投げ:E = 1/2 × 7.260 × (120/3.6)^2 =  3267.0[J]

野球(143J)と比べて、どれもずっと大きな運動エネルギーとなりました。

特にハンマー投げはあの重量でありながら、120km/hという高速のため、その運動エネルギーはけた違いです。

やり投げのやりの運動エネルギーは野球の2.5倍、砲丸投げの鉄球の運動エネルギーは野球の5倍という結果になりました。

そして、ハンマー投げの鉄球(+ワイヤー&ハンドル)の運動エネルギーは野球の23倍にもなりました。
圧勝です。


以上の結果から、あらゆる球技、投てき競技の中で、最も大きな運動エネルギーを持って飛んでいくものは、ハンマー投げの「ハンマー」、という結論になりました。

棒グラフで表すと、以下のようです。差が大きいので、対数軸にしました。
野球vs陸上投てき


運動エネルギーを最大にする飛ばし方  

ハンマー投げのハンマー(120km/h)が、砲丸投げの砲丸(50km/h)と同じ重量でありがなら、その2.4倍もの速度が出せるのは、ひとえに、ワイヤーによるアーム長さのおかげです。

投てき物の運動エネルギーを最も大きくする飛ばし方は、投げるでも、蹴るでもなければ、道具で打つのでもなく、長いアームで振り回すことです。

ゴルフでは、ドライバーの長さを利用して加速されたヘッド部で打つことにより、打球速度を上げています。最新の材質によりシャフトを極限まで細く軽くすることで、長くても慣性モーメントが大きくならないよう工夫されています。

ソフトボールでは、ウインドミル投法で腕を振り回すことにより速度を上げています。

また、古代兵器の投石器(スリング)や、20世紀末に当時の女子高生が武器としてルーズソックスに石を詰めて振り回していたものも、同じ原理です。




軽量級対決  

さて、運動エネルギーNo.1は上記のようにハンマー投げに決定しましたが、おまけとして、運動エネルギー最小の競技も決定してみたいと思います。

候補の一つは、ここまで最小のバドミントン(48J)です。

バドミントンのシャトルに匹敵するほど軽いものといえば、「卓球」のピンポン玉を置いて、他にありません。

バドミントンのシャトル重量は5.12gという軽さですが、卓球のピンポン玉は、それをさらに下回る2.7gです。

最後は、卓球の運動エネルギーを計算して、バドミントンと比べてみます。



[計算条件6]
卓球 : m=0.0027kg, v=180km/h

[計算結果6]
卓球:E = 1/2 × 0.0027 × (180/3.6)^2 =  3.4[J]


卓球の運動エネルギーは、これまで最小のバドミント(48J)を、さらに一桁以上下回りました。

圧倒的な小ささです。No.1のハンマー投げ(3267J)と比べると、1000倍の違いです。

というわけで、運動エネルギー最小は「卓球」、という結果になりました。





*****

競技により、ボールや投てき物の運動エネルギーが3桁も異なる、というのはとても興味深い結果です。
人間はあらゆる動物の中で、もっとも多彩な動きのできる体を持っています。
それがスポーツの多様性という形で表れ、われわれを楽しませてくれます。




では、また。



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