2021年1月30日土曜日

第53回 ポール際の打球はなぜ切れてファールになるのか?

 


様式美


会心の当たりがレフト線上へ飛んでいく。

ベンチも観客も思わず立ち上がる。

打球の勢いは十分でスタンドインする、と思ったら急激に左へ曲がりファールになる。

ため息をつきながら、ゆっくりと座る。


毎試合のように繰り返されるこの光景、もはやプロ野球の様式美の一つです。


なぜこうも、レフト線上(あるいはライト線上)に打ち上げられたホームラン性の打球は、ことごとくファールゾーンに向かって曲がってしまうのでしょうか。


斜めに当たると回転がかかる


それは勿論、ボールに横回転がかかっているから横に曲がるのです。

ゴルフでいう所の「フック」と同じです。

ではなぜ横回転がかかるかというと、バットがボールの軌道に対して斜めに当たるからです。


バッテリーラインとレフト線は45度角度がずれています。

そのためレフト線に打球を打つ場合、入射角と反射角が同じとすればバットの軸に対してボールは斜め22.5度の角度でぶつかってきます。

壁や床に向かって斜めにボールをぶつければ、横回転がかかることは容易に確かめられるでしょう。


実際の打球ではボールの少しだけ下を打ってバックスピン回転を与えるため、回転軸はバックスピン回転から少し傾いて横回転が混じった回転になると推測されます。またジャイロ回転は基本的に入らないと考えられます。


この少し横回転が混じった打球がセフト線上に打ち上げられた時、打球はどのくらい曲がるのでしょうか?

軌道シミュレータver.3.2で計算してみます。


ポール際の打球の軌道計算


[計算条件]

打球速度は150km/h,回転数は2500rpm、打球角度は上向き30度とします。

横方向の打球角度はレフト線と平行からフェアゾーン側に1度とします。

ミートポイントはホームベースの50cm手前で、地上から1mの高さとします。

ボールの回転軸は完全なバックスピンと、10度だけ左へ傾いたもの(フック)、の2種類を計算します。



[計算結果]

レフト線上に打ち上げられた打球の軌道計算結果は、以下のようになりました。

座標系はホームベース後端が原点で、+x方向はレフトポールへ向かう方向、-y方向がライトポールへ向かう方向です。y<0の領域がフェアゾーン、y>0がファールゾーンになります。

上から見下ろした視点であるx-yプロットには、レフトポールと外野フェンスも示しました。

レフト線に上がった打球の軌道計算


10度の傾きで、4.9メートル切れる


完全なバックスピンのかかった打球では横方向への揚力が働かないため、上から見て真っすぐ飛んでいきます。

レフト線から1度内側に向けて放たれたこの打球は、レフトポールの3m内側を通過してスタンドに飛び込むホームランとなります。

一方同じ角度で打ち出されたフックの打球は次第に+y方向、ファールゾーンへ向けて曲がっていきます。それでもx=70mで打球が頂点に達するあたりまではほぼ、レフト線の上空を飛んでいるため、このまままっすぐ進んでポール直撃のホームランになるように見えるでしょう。

そこから最後の30メートルでぐんと左に切れ、レフトポールの外側1.9m横を通過してスタンドに飛び込むファールとなり、期待を裏切ります。


完全なバックスピンの打球はポールの内側3mを、回転軸が10度傾いたフックはポールの外側1.9mを通過していきます。

というわけで、今回の条件では、ボールの回転軸が10度傾くと100m先のポールを通過する位置は横に4.9mずれるという結果になりました。


ホームランを打つのもテクニック


わずか10度で4.9mずれる。回転軸の傾きが大きくなればもっと大きく曲がり切れていきます。


ポール際にホームランを打ちたいのであれば、パワーだけでなく、横回転をなるべく与えないような打ち方をするテクニックもまた必要になります。

一般的にはインコースの球を引っ張るとき、体がの開きがはやいと打球が切れやすくなり、体を上手くどかしてバットが出てくるコースを空けてやると切れにくくなると言われているようです。

プロのバッターの中には反対にフェアゾーンに戻ってくるよう、ゴルフでいう所のスライス回転を与えるような打ち方を意図的にしている選手もいるそうです。



ポール際でなければ10度ぐらい構わない

さて、上下方向の軌道についてはどうでしょう。

フックの打球も完全なバックスピンも、真横から見たx-zプロットでは軌道がほぼ重なっており、その飛距離はほとんど同じです。

sin10°=0.985なので、回転軸が10度傾くことの上下軌道や飛距離への影響は1.5%程度しかないのです。

従ってポール際ではない、センターや左中間、右中間方向へ打つのならば、10度ぐらいの回転軸の傾きはホームランを狙う上で気にしなくてもよいと言えます。




端を狙うのが楽しい


ポール際、つまりフェアゾーンの端に打球を飛ばすから、わずかに曲がるだけでファールになるのです。

センター方向へ打てば少しぐらい曲がってもファールにはなりません。

そんなことはもちろん、選手も分かっていますが、それでもホームラン打者はポール際を狙います。

その理由は単純明快で、フェンスまでの距離が近いからです。

プロの標準的な球場の場合、センターフェンスを越えるには160km/h以上の打球で120m以上の飛距離を出さなければなりません。これがポール際なら、140km/h以上の打球で100m以上の飛距離でよくなり、条件はぐんと低くなります。

だからファールゾーンに外すリスクがあっても、ホームランになりやすいポール際へ打ちます。


思えば、これは他にも共通することです。

投球のストライクゾーンでは端にいくほど打たれにくくなりますが、少しでも外に外れてしまえばボール球になるリスクがあります。

サッカーのゴールも、テニスやバレーのコートも端に行くほど相手に捕られにくく得点になりやすくなりますが、少しでも外ればダメになるというのは同じです。


外せばダメになるリスクを背負いながら、成功率の高い端を狙ってボールと飛ばすという異なる競技に共通のこの行為は、一種のギャンブル性があり、だからやる人も見る人も引き付けられはまってしまうのではないでしょうか。

ポール際に上がった大飛球を目で追っているとき、人の脳内にはきっと快楽物質があふれだしているに違いありません。



では、また。


2021年1月23日土曜日

第52回 キャッチャーフライはどんな軌道を描くのか?



下を打ちすぎればキャッチャーフライ


バットがボールの中心とらえた時、打球速度は最も速くなります。

中心から少しだけ下を打つと打球速度はわずかに下がりますが、引き換えに打球角度が上がり、さらに適度なバックスピン回転がかかるため飛距離が最大になります。パワーのある打者ならホームランになります。

しかし下過ぎてしまえば打球は真上に上がり、強烈な回転がかかっていても前には飛んでくれません。

キャッチャーフライです。


回転数と打球速度の関係


ピッチングの4シームでは球速と回転数は比例関係にあり、一般に球が速いほど回転数も大きくなる傾向があります。

バッティングではどうかというと、同一の打者の場合で比べたとき、打球速度と回転数は一方が大きくなると、もう一方が小さくなる、トレードオフの関係にあります。

打つ位置がボール中心に近いほど打球速度は上がり回転数は減り、中心から外れるほど打球速度は下がり回転数は上がります。
衝突によりバットからボールに伝えられる力が、中心に近ければボールの重心の運動量変化に多く使われ、中心から遠ければボールの重心周りの角運動量の変化に多く使われるからです。


キャッチャーフライは中心からかなり外れた位置を打つため、プロの打者ではその回転数は4000rpmにも達するそうです。
プロ投手4シームの回転数が2200rpm程度ですので、その二倍近くもの回転がかかっているわけです。

回転数が大きければそれだけ回転による揚力(マグヌス力)の影響で軌道が大きく曲げられます。


曲がる方向が変わる


また、真上に打った打球はやがて重力より下に向かって落下してきます。ボールの速度の方向が途中で上向きから下向きに変わります。

それにより何が起こるかというと、打球が上がっていくときと落ちてくる時とでは速度の方向が反対になるため、マグヌス力の向きが反対になる、のです
打球が上がって行くときと落ちてくる時では軌道が曲げられる方向が逆になるわけです。


そこで今回は、高回転で、途中で曲げられる方向が逆になるキャッチャーフライの打球はどんな軌道を描くのか軌道シミュレータver.3.2で計算してみます。


キャッチャーフライの軌道計算 


打球速度は80km/hとします。
実際のプロの打者のキャッチャーフライが打ってから落ちてくるまでに約4秒かかるので、そこから逆算した値です。

真上に打ち上げた場合と、5度だけ前方(センター方向)に打ち上げた場合の2パターン計算します。

[計算条件]

 キャッチャーフライ
 球速 v0=80[km/h]、リリース角度 θ=90、95度(上向き)、Φ=0度(一塁方向)
 ミートポイント x0=18.0m(ホーム方向)、y0=0m(一塁方向)、z0=1.0m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=90度、Φs=90度
 回転数N=4000rpm(SP=0.70)、 抗力係数 CD=0.55、揚力係数CL=0.49

 回転軸は完全なバックスピンとします。


[計算結果]

キャッチャーフライで打ち上げられた打球の軌道計算結果は、以下のようになりました。
(投手と投球軌道は距離感のために示してあり、今回の計算とは無関係です。)

キャッチャーフライ軌道


真上に打ってもかなり後に落ちる


真上に打ち上げたθ=90°(上図、緑線)では、打球が上がっていくとき上向きの速度とバックスピン回転の組み合わせによりマグナス力がバックネット方向(+x方向)へ働きます。
そのため打球はまっすぐ上がらず後ろへとぐんぐん曲がっていき、頂点に達するときにはミートポイントよりも4メートル弱後ろの位置まで変化しています。

その後落下し始めると、最初はそのままの勢いで後ろへ進んで行きますが、やがて重力により下向き速度が大きくなってくるにつれ今度はセンター方向(-x方向)へマグナス力が働くようになります。
その結果ミートポイントから7.7m後方の地面に落下するとき、打球のx方向成分はほぼゼロになり、真っ直ぐ垂直に落ちてきます。

真上に打ち上げても、回転により打球が曲がることで、落ちてくる位置はかなり後ろになります。
それでもホームベースからバックネットまでの距離は18mほどファールゾーンが確保されていますので、十分捕ってアウトにすることができます。

というわけで、打球速度80km/h、回転数4000rpmの場合、真上に打ち上げたキャッチャーフライは7.7m後方に、垂直に落ちてくるという結果になりました。



5度前方へ打つとループする 


次に5度だけ前方、センター方向に打ち上げたθ=95°(上図、青線)の場合ですが、こちらも同様に上昇時にはバックネット方向へと打球が曲げられていきます。
打ち上げた瞬間こそ前方へ飛んでいきますが、高さ12メートルあたりでは前方への速度成分がなくなり軌道はほぼ垂直となり、その後はバックネット方向へと曲がっていきます。

頂点ではほぼミートポイントと同じx位置まで戻っています。

その後落下し始めると、最初はそのままの勢いで後ろへ進んで行きますが、やがて重力により下向き速度が大きくなってくるにつれ今度はセンター方向(-x方向)へマグナス力が働くようになります。

その結果、打球軌道は縦長の輪となり、ループ軌道を描いてミートポイントとほぼ同じ位置に戻ってきます。

地面に落下するときの打球軌道は垂直ではなく、センター方向(-x方向)への速度成分を持って斜めに落ちてきます。
捕手がセンター方向を向いていると背中の方から打球が飛んでくるため、ボールが見づらく捕りにくくなります。
バックネット方向を向けば自分に対して前から飛んでくるため捕りやすくなります。

「キャッチャーフライはバックネット方向を向いて捕るのが基本」といわれるのはこのためです。

というわけで、打球速度80km/h、回転数4000rpmの場合、真上からセンター方向へ5度の向きへ打ち上げたキャッチャーフライは、ループ軌道を描き、ミートポイントと同じ位置に、センター方向への速度を持ちながら斜めに落ちてくるという結果になりました。


ビル7階分


今回の計算条件では、打球は頂点で高さ21mまで上昇しました。
これはバッテリー間よりも長い距離で、ビルの7階に相当する高さです。

実際、プロの試合ではファールボールがナゴヤドームの5階席に飛び込むことさえあります。

打ちそこないの打球であっても、これだけの高さまで打球を飛ばすプロ打者のパワーはすごいものです。






では、また。




2021年1月16日土曜日

第51回 左打者はどれくらい一塁に近いのか?




左利き10% << 左打者40%  


左利きの人の割合は、人口の約10%です。

これは大昔から変わっておらず、数万年前の古代人も現代人と同じように左利きは10%程度でした。
どうやって調べたかというと、洞窟の壁画や石器の傷跡の向きからどちらの手で作業したか推測したそうです。

このことから利き腕は文化により決まるわけではなく、遺伝的に先天的に決まるのだと考えられています。

ただし、戦前日本においては左利きは不作法とみなされ矯正される文化であったため、
5%程度と低かったそうです。
本当は左利きの人が10%いても、箸を左手で持つ人は5%しかいなかったわけです。


さて、野球のバッターはどうでしょうか。
左利きの人はそのまま左打ちになりますが、右利きなのに左打ちに転向する人が結構います。
現代のプロ野球界において数えてみると、およそ左打者の割合は40もいます

左利き割合の4倍もの多さです。

引き算すると、右利きなのに左打ちに転向した選手が、全体の30%もいるということになります。

ちなみにプロゴルフの左打ちは約3%しかいません



なぜ左打ちが増えるのか  


野球においてこれほど左打ちの割合が多いのなぜでしょうか。

真っ先に思いつくのが、「左打者の方が一塁に近く、内野安打が増える」というメリットがあることです。

実際、NPB 2018年データを調べてみると、なんと、セ・パ両リーグの内野安打数トップ511人全てが左打者です。

右打者は一人もランクインしていません。

内野安打数トップ5(2018年シーズン)

これはもう、左打者の方が内野安打になりやすいということを疑う余地はありません。
 


そこで今回は、「左打者は右打者に比べどれくらい一塁に近い」のか、バッターボックスから一塁ベースまでの距離を、グラウンド寸法から幾何学的に計算してみました。



一塁ベースまでの距離計算 


[計算条件]

・スタート地点はホームベース後端から52cm離れた位置とする。
 (ボックスラインから約15cmの位置)

ゴール地点は一塁ベース手前ライン側の角とする。

[計算結果]

走路を斜辺とした直角三角形を考え、三平方の定理により計算します。


左打席
Ll = { (Lo/2)^2 + (Lo/2 - s)^2 }
   ={ (27.05/2)^2 + (27.05/2 – 0.52)^2 }
   =26.69 [m]

右打席
Lr = {(Lo/2)^2 + (Lo/2 + s)^2 }
   ={ (27.05/2)^2 + (27.05/2 – 0.52)^2 }
=27.42[m]

左右差
ΔL = Lr - Ll = 27.42 – 26.69 = 0.73[m]

[計算結果おわり]

打席から一塁までの距離は左打者が26.69mで、右打者が27.42mです。

その差は0.73m

よって右打者よりも、左打者のほうが一塁まで73cm近い、という結果になりました。


 






距離差以上に時間差あり

 
距離の差は上記の通りですが、では一塁到達までの時間の差はどれくらいになるでしょうか?

仮に、打者走者の一塁ベース付近における走速度を7.3[m/s](=26.3[km/h])とすると、この73cmの距離差は一塁到達時間にして0.1秒の差になります。



さて、これを実際に選手が走ったときのデータと比べると、どうでしょうか。

[実測データとの比較]

実測データによるとプロ野球の一塁到達時間はおおよそ、左打者が3.7-4.5秒、右打者が4.0-4.7秒となっています。

実際には左右の差は0.3秒ほどで、上記の計算結果0.1秒よりもさらに大きな差があります。

その要因として、次のことが考えられます。
・左打者はスイング後に体が一塁方向を向くためそのまま真っすぐ走り出せるのに対し、
 右打者は90度横に向かわなければならないためスタートが遅れる。
・走力が高い選手ほど左打ちに転向する傾向にある。

一つ目については、実際アウトローの球に泳いだ時やセーフティーバントのときには、その不利がなくなるため、右打者であっても一塁到達タイムが4.0秒を切ることがあるようです。
((参考)パリーグTV : https://www.youtube.com/watch?v=ygH6uLlmxWs)





では、また。



2021年1月9日土曜日

第50回 ピッチトンネル選球眼クイズ




ピッチトンネル

ピッチトンネルとは最近注目されている、ホームベースの手間7.2mほどの空中に仮想される、投球軌道が通過する円です。


ピッチトンネルを通過する時点までの軌道がストレート(4シーム)に近いほど、打者は変化球を見分けづらくなり、その結果、被打率が下がり空振り率が上がることが統計データから明らかになっています。

なぜかというと、打者はピッチトンネルを通過するあたりでスイングを開始するためです。それよりも後ろのタイミングでスイングを開始すると、間に合わず振り遅れの空振りになります。

ピッチトンネル通過時点は、すなわち打者がボールを見極めるデッドラインなのです。

ピッチトンネル通過前に変化球だと気づかないと、ストレートだと思ってバットを振り始めてしまってから変化球だと気づいて泳いだようなスイングになったり、あるいはボール球だと思って振るのをやめてから曲がって来てストライクになったりします。

「選球眼が良い」というのは、単に視力が良いだけでなく、このピッチトンネルを通過するまでの投球軌道でコースや球種を見抜き、その後の軌道やタイミングを正確に予測できるということです。




選球眼クイズ

そこで今回は、リリースからピッチトンネルまでの軌道だけを見て、ホームベース上におけるボール到達位置を当てる「選球眼クイズ」を作ってみました

トラッキングデータを基に、軌道シミュレータver.3.2で再現計算したダルビッシュ投手の投球軌道を使います。



ルール説明

ルールはシンプルです。

あなたは今、打席に立っています。

ランナーは満塁で、2アウト、フルカウント

これから勝負の分かれ目となる、最後の一球が自分に向かって投じられます。

見逃した場合、ストライクなら三振でチェンジ、ボールなら押し出しで点が入るという状況です。


リリースからピッチトンネルまで、時間にして0.2秒ちょとまでの軌道を見てストライクゾーンに来ると思ったらスイングする。ボール球になると思ったら見逃す、の二択で答えてください。


例題

まずは簡単な例題を。

青枠がストライクゾーン、赤枠はボールゾーンです。下の黒いのがホームベースです。

距離感のため、拾ってきたフリーの人物データを右打席と、ピッチャープレートに立たせてあります。本当はピッチングフォームのポーズをとらせたかったのですが、CADスキルの都合で突っ立たままです。

では、ストライクかボールか予想してみてください。


















例題の答え

正解はど真ん中のストライク。4シームです。

ストライクを選択した人は、ホームランで4打点です。ゆっくりベースを回りましょう。

ボールを選択した人は、見逃し三振です。肩を落としてベンチへ帰ってください。


第1問

では、ここからが本番です。

第1問。







第1問の答え


正解はアウトローいっぱいのストライク。カーブです。

ストライクを選択した人は、上手く右方向へ打ち返してタイムリー、2打点です。一塁ベース上でベンチに向かってガッツポーズをしましょう。

ボールを選択した人は、見逃し三振です。主審に文句を言いたいのを我慢しておとなしくベンチへ帰りましょう。



第2問

では、次にいきましょう。

第2問です。








第2問の答え


正解はインコースに入ってくるストライク。ハードカッターによるフロントドアです。

ストライクを選択した人は、三遊間を破るタイムリー、2打点です。一塁ベース上でコーチとグータッチです。

ボールを選択した人は、見逃し三振です。デッドボールじゃなかっただけマシと考えて下を向かずにベンチへ帰りましょう。




第3問

では、これで最後です。

第3問。








第3問の答え

正解はアウトコースに大きく外れるボール。スライダーです。

ストライクを選択した人は、腰を引きながらバットを伸ばすも全然届かずに空振りです。悔しくても環境保護のため、バットは折らないでください。

ボールを選択した人は、フォアボールで押し出し、1打点です。ベンチからの歓声を受けながらゆっくりと一塁へ向かいましょう。


******

いかがでしたか。

少し難しかったでしょうか?

それとも、余裕でしたか?




では、また。




2021年1月2日土曜日

第49回 ダルビッシュ有の「スプリット」をトラッキングデータから再現する

    


一試合で3,4球    


ダルビッシュ有投手はとても多くの球種を投げることができ、その数は10種類とも11種類とも言われています。

スプリットも投げます。

しかしその投球割合は3.8%弱と低く、およそ26球に1球程度です。
先発で一試合投げる中で3球か4球しか投げない計算になります。

田中将大や野茂英雄といった、多くの日本人メジャーリーガーがスプリットを武器に活躍したのとは対照的です。



図1:ダルビッシュ投手のトラッキングデータ
(引用元:ピッチングデザイン、集英社、お股ニキ著、2020年発行


かぶらないように落とす     


図1の変化量を見ると、スプリットは4シームの真下あたりに位置しています

真下に落とすことで、4シームに比べ左右に変化する2シームやハードカッターと変化量が同じにならないようにしています。

ここにも彼の器用さが見てとれます。

最近では中日の大野雄大投手やDeNAの山崎投手が投げているような、2シームなのかスプリットなのか分類しづらい軌道の挟んで落とす2シームが増えてきていますが、ダルビッシュ投手は少し沈む2シームと、スプリットをきちんと投げ分けているようです。

また球速が142.5km/hと速く、ホップ量が16cmであり、少しだけ沈む速球として投げているのも特徴です。
スラッターとかぶらないようあまり大きく落とさないように調整しているのかもしれません。



ダルビッシュ有スプリットの軌道計算

図1に示されるように、トラッキングデータでは変化量に加え、初速と回転数も測定されています。

これら三つのデータから、軌道シミュレータver3.2により投球軌道を計算し再現することができます。

今回はダルビッシュ有投手のスプリットについて、トラッキングデータの初速と回転数をインプットとして計算した結果がトラッキングデータの変化量と一致するよう、回転軸の値を調整します。

[トラッキングデータ]

図1の通りです。2019年シーズンの平均値です。


[計算条件]

軌道シミュレータver3.2へのインプットは以下のようです。
参考に以前計算した、4シームのものも示します。




回転軸は4シームからシュート成分、ジャイロ成分を増やす方向に傾いています。

[計算結果]

計算されたスプリットの軌道は以下のようになりました。

図中の点は0.02秒ごとの、一番右はホームベース上(x=18.44m)におけるボール位置です。

灰色線は同じ球速の自由落下軌道で、これとの差が先のトラッキンデータにおける変化量となります。



[計算結果2]

以下は以前計算した4シームと一緒にプロットしたものです。

同じ角度でリリースしたときのホームベース上(x=18.44m)における位置の差も、併せて表示しました。

gif動画(実際のスピード)




gif動画(1/10倍スロー)





静止画





4シームのとの比較   


●横の変化
4シームとスプリットのホームベース上(x=18.44m)における位置の違いを見ると、横方向(y方向)は6cmとなっています。

これは図1トラッキングデータの変化量、4シームが一塁側へ9.1cmと、スプリットが15cmの差そのままになります。

同じ角度でリリースされた球が、4シームは右打者のインコース甘めへ、スプリットはインコースやや厳しめへと分岐していきます。

6cmの差は、ボール1個分よりも小さい差です。

4シームを基準としてほぼ真下に落ちるような軌道です。



●縦の変化
上下方向の差をみると35cmとなっています。

これは図1の4シームが上へ40.8cmから、スプリットが上へ16cmを差し引いた25cmよりも、10cm大きくなっています。

この10cmは11km/hの球速差による重力を受けている時間の差によって生まれるものです。

同じ角度でリリースされた球が、4シームはストライクゾーンの高めへ、スプリットは真ん中からやや低目へと分岐していきます。

4シームと35cmも落差があり低目にコントロールすれば十分決め球にも使えるのにほとんど投げないのはもったいない気もします。
なにかこだわりがあるのかもしれませんね。




CADソフトでプロット


今回もCADソフトで、3D gif動画を作りました。

視点はキャッチャー方向からのものです。

青い半透明の四角はストライクゾーンで、下の黒いのはホームベースです。

距離感のために、右打席とピッチャープレートの位置に人体モデルを立たせてあります。

スプリット、4シームともに同じリリース角度で投げられています。

スプリットの4シームとの見分けにくさが伝わるでしょうか?




速球を四角く投げ分ける


ダルビッシュ投手は4シーム、2シーム、ハードカッター、そして今回のスプリットと、140km/hを超える速球を4種類投げています。

同じリリース角度で投げられた球が四方へ分岐していき、ホームベース上できれいな四角形を描くその投げ分けが見事なので、軌道を3Dプロットしました。



ダルビッシュ有4シームカッター2シームスプリット











では、また。