2020年5月30日土曜日

第18回 今中慎二の超スローカーブを再現




 最初に覚えた変化球 

あなたが最初に覚えた変化球は何か?

日本では「カーブ」を最初に覚えることが多い。

カーブは4シームよりも球速がかなり遅い。

そのため緩急がつく。

さらに回転が鈍く揚力であまり曲がらなかったとしても、重力で山なりとなり4シームとそれになりに軌道差ができるため、子供や初心者にも使いやすいというメリットもある。

レベルが上がり腕の振りの速度が上がり回転がかかりやすくなると、曲がりすぎて早い段階で打者に見分けられやすいカーブよりもスライダーを投げる投手が増えてくる。

また、欧米ではカーブでなくチェンジアップを最初に教えることが多いというが、これも球速差をつけることが目的である。

速い球の後に緩い球が来ると、分かっていてもタイミングを合わせきれず泳いでバットの先に当たったり、空振りをしてしまう。

 最も遅い球種 

プロ投手なら最も速い4シームが140km/hほどで、次いで2シームやカットボールが130km/h代、フォークやスライダーやチェンジアップが120km/h代である。

そして、イーファスやナックルボールといった特殊球を除けば、カーブが110km/h代と最も遅い。

4シームとは緩急差が30kh/mもつく。

 スローカーブといえば 

これだけでも十分な緩急差であるが、この倍の60km/hの緩急差がつく超スローカーブを投げる投手がかつていた。

元中日の今中慎二である。

元々ドラフト1位で入団し、2年連続2ケタ勝利を挙げるようなすごい投手だったが、けがをした。

しかし、それでだめになるどころか、リハビリ中に超スローカーブを習得したことで無双状態となり、最多勝や沢村賞まで獲得するようになった。

普通の4シームで投げると痛みがあったため、キャッチボールや遠投まで全てカーブで投げていたらいつの間にか投げれるようになっていたそうである。

山本昌のスクリューボール取得のエピソードにしてもそうだが、運命をかえるような変化球のとの出会いはセレンディピティが欠かせないのかもしれない。


その数年後にまたケガをしてしまい、活躍した期間は短かったが、山本昌とならぶレジェンント左腕としてファンの間では記憶に残る。

今回はその今中投手の80km/h代の超スローカーブの軌道を計算して再現する。

 今中慎二超スローカーブの軌道計算 

昔の投手のため回転数などのデータは推測となる。

本人曰く、「カーブには曲げるカーブと抜くカーブがあり、自分のは抜くカーブ」とのことなので回転数はそれほど多くないと考えられる。

[計算条件]

 4シーム
 球速:v0=143[km/h]、リリース角度:θ=-2.5度(下向き)、Φ=-1.5(三塁方向)
 リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=0.5m(一塁方向)、z0=1.8m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=-70度、Φs=80度
 回転数 N=2300rpm (SP=0.22) : 抗力係数 CD=0.41、揚力係数CL=0.20

 スローカーブ
 球速:v0=85[km/h]、リリース角度:θ=6.0度(上向き)、Φ=-1.0度(三塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=-120度、Φs=-45度
 回転数 N=2300rpm (SP=0.38) : 抗力係数 CD=0.44、揚力係数CL=0.32

 rpmは一分間当たりの回転数を表す単位。

 ボール回転軸角度の定義
 
 

 θs : z軸からx-y平面に向かう角度(真上から水平に向かう角度)
 Φs : x軸からy軸に向かう角度(ホーム方向から一塁側へ向かう角度)


[計算結果]

今中投手の超スローカーブと4シームの軌道を再現計算した結果は以下のよう。
グラフ中の点は0.02秒ごとのボールの位置を表す。

今中超スローカーブ軌道

スローカーブは投げた瞬間から4シームとは全く違う軌道で、大きく弧を描いて落下する。


 上に向かって投げる角度はアンダースローのごとく 

プロのオーバースロー投手の場合、ボールは水平よりも下向きの角度で投げられる。
水平よりも上向きに投げると高めのボール球になるからである。

今回の計算結果でも、4シームは低めに投げるために水平よりも下向き2.5度の角度でリリースしている。

ところが、スローカーブでは上向き6.0度の角度で投げられている

これは異常なことである。

どれくらい異常かというと、地面すれすれから投げ上げてくるアンダースロー投手の4シームと同じくらい上向きのリリース角度なのである。

オーバースローのリリースポイントから、アンダースロー並みの角度で上に向かって投げられた球。
普通なら大暴投であるが、それが頭上から曲がり落ちてきストライクゾーン低目を通過していく。

水平よりも下向きにリリースされる球を見慣れている打者にとっては、そうとう厄介であろう。


 早く来いよ 

球速差による緩急もすごいものである。

4シームはリリースから0.45秒後にホームベース上(x=18.44m)に到達するが、スローカーブその時まだx=11.9m地点にいる。
スローカーブは4シームに6.6mも前後位置差を付けられる

それから0.32秒後、リリースから0.76秒経過してようやくホームベース上に到達する。
スローカーブは4シームの1.7倍もの時間がかかるのである。


4シームにタイミングを合わせていた打者は、スローカーブだと気づき、踏み出してしまった足のかかとを地面に付けないよう必死にこらえながら「早く来いよ」とイライラしながら我慢強くボールが来るのを待つ。
しかし、結局はこらえきれず、無様に泳いで空振りをしてしまうのであった。


 スローカーブの3D動画 

今回計算した今中投手の超スローカーブの軌道を3Dプロットして、gifで動画にした。

超スローカーブと4シームが交互に投げられる。

視点は右打席からのものである。

一コマ0.02秒で実際の球速と同じにしてあるので、スピード感を感じてもらえたらと思う。
4シームの後にくるスローカーブにタイミングを合わせることができるだろうか。

今中慎二85km/h超スローカーブ&4シーム
今中スローカーブ軌道3D動画





では、また。






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2020年5月23日土曜日

第17回 3種類のスライダーの軌道比較



 スライダーのバリエーション 

スライダー、と一口に言っても、その変化の方向は様々です。

縦、横、斜め。

投手によって曲がる方向が違ったり、一人で数種類を使い分ける器用な投手もいます。


 横のスライダー 

元々はスライダーといえば横へ変化するものを指していました。
オリジナル、元祖のスライダーです。

回転はサイドスピンに近く、マグナス力で横へ大きく曲がります。

右対右、左対左でアウトコースに投げるのが効果的で、バットの先に当たったり、届かず空振りをとったりできます。

主な使い手は、ダルビッシュ(カブス)、伊藤智仁(元ヤクルト)、斎藤正樹(元巨人)などです。


 縦のスライダー 

2000年前後に広まった、比較的新しい球種です。

ジャイロ回転により揚力を働かなくすることにより、フォークボールのような落ち方をします。

使い方もフォークボールと同じで、低めに投げてストライクゾーンからボールゾーンへと変化させることで、空振りをとることができます。

主な使い手は、松坂大輔(西武)、田中将大(ヤンキース)、大塚晶則(元パドレス)などです。


また、山岡投手(オリックス)のように、球速の速いトップスピン回転の球も、最近では縦スラと呼ばれるようです。


 斜めスライダー 

一番投げやすく、投げる投手の多い球です。

回転はサイドスピンとジャイロ回転の中間で、斜めに曲がり落ちて行きます。

アウトコースはもちろん、打者のひざ元インローに投げても効果的なので、相手打者が左右どちらでも使える便利な球です。

主な使い手は、岩瀬投手(元中日)、前田健太(ツインズ)などです。



 3種のスライダー軌道計算 

今回はこの3種類のスライダーの軌道を計算して、比較してみます。
球速、回転数、リリース角度を同じにして、回転軸のみ変えます。
比較のため回転軸は完全なサイドスピン、ジャイロ回転、その中間とします。

また軌道比較のため、4シームの軌道も併せて計算します。

[計算条件]

 横スライダー(完全なサイドスピン)
 球速:v0=130[km/h]、リリース角度:θ=0.0度(水平)、Φ=1.0度(一塁方向)
 リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=0.5m(一塁方向)、z0=1.8m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=0度、Φs=0度
 回転数N=2500rpm(SP=0.27) : 抗力係数 CD=0.42、揚力係数CL=0.24

 縦スライダー(完全なジャイロ回転)
 ボール回転軸角度 θs=90度、Φs=0度
 (その他は、横スライダーと同じ。)

 斜めスライダー(サイドスピンとジャイロ回転の中間)
 ボール回転軸角度 θs=90度、Φs=0度
 (その他は、横スライダーと同じ。)

 4シーム
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=-1.0度(下向き)、Φ=1.0度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 回転数N=2200rpm(SP=0.22) : 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20

 回転軸定義
 



[計算結果]
3種類のスライダーの軌道計算結果は以下のようになりました。

グラフ中の点は0.02秒ごとのボールの位置を表します。
3種類のスライダー軌道計算結果

・上下の軌道、落下量は3種類とも同じである。
・横方向の変化は、横、斜めスライダーで大きく曲がる。


 縦の変化量 

サイドスピンも、ジャイロ回転も、その中間の回転も、上下方向の揚力はゼロです。
そのため上下方向の軌道は横スラ、縦スラ、斜めスラの3種類とも同じ、ホップ量ゼロの自由落下となます。x-z平面へのプロットでは完全に重なっています。
1度下向きにリリースされた4シームに比べて、その軌道は下を通過する沈む球となります。ホームベース上での上下軌道の差、落差は30cmになります。

プロの投手が投げる本当に真横に曲がるようなスライダーは、完全なサイドスピンではなく、バックスピン成分も与えて落下量を抑えていると考えられます。

反対に斜めのスライダーではトップスピン成分をいくらか与えて、より下への変化量を大きくしているパターンもあります。

スライダーは回転軸を少し変えるだけで、豊富なバリエーションを生み出すことができるのです。



 横の変化量 

ホームベース上における横方向の変化量は、縦スラはゼロ、横スライダーは58cmです。
一方、斜めスライダーは41cmです。回転軸が縦スラと横スラの中間でも、変化量は中間にはなりません。cos(45度)=0.71で横スライダーの71%の変化量になるためです。

横スライダー、斜めスライダーとも変化量の計算結果は、トラックマンのデータと比べて大きくなっています。
そのため、実際の投手が投げる球の回転軸はバックスピン、トップスピン、ジャイロ成分がもっと混じっているものと思われます。



 軌道の3Dプロット 

今回計算した軌道を3Dプロットしました。




gif動画も作りました。

視点は左打席後方からのものです。
一コマ0.02秒で、実際のスピードと同じにしてあります。

上下の落差が同じでも、サイドスピンの横スライダーは横へ曲がり、ジャイロ回転の縦スラは下へ落ちる、という印象を受けます。

どのスライダーが、一番打ちにくそうでしょうか?

横スライダー(サイドスピン回転)&4シーム



縦スライダー(ジャイロ回転)&4シーム



斜めスライダー(中間の回転)&4シーム



では、また。




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2020年5月16日土曜日

第16回 フロントドア、バックドアの軌道計算



 球種ではない 

メジャーリーグでは常套手段として使われていた「フロントドア」と「バックドア」ですが、元ヤンキースの黒田投手により日本球界にも知られるようになりました。

これらは球種の名前ではなく、投げるコースや使い方を示します。

投げる球種は2シーム、シンカー、スライダー、カットボールなど横に曲がる球を使います。

どちらも投げた瞬間はボールゾーンの4シーム、と思いきや横に曲がってストライクゾーンを通過するような軌道で投げます。
そうやってバットを振らせず、見逃しストライクを狙うわけです。


まあ、卑怯な球です。

 名前の由来 

バッターの体に近い方のインサイドへ投げればフロントドア、遠いほうのアウトコースに投げればバックドアと呼ばれます。
そのため投手にとって投げた球は全く同じでも、相手打者の左右により呼び方が変わります。

フロントドア(front door)は表玄関、バックドア(back door)は裏口の意味です。

ホーム(home)は家なので、そこへ入るためのドアというわけですね。


今回はフロントドア、バックドアの軌道を軌道シミュレータver.3.2を使って、計算していきます。

 フロントドアの軌道計算 

まずは、フロントドアです。

右投手が左打者のインコースに2シームを投げた場合を対象とします。

比較のために、同じ水平方向角度でリリースした、ボール球になる4シームも計算します。

[計算条件]

 2シーム(シュート)
 球速 v0=135[km/h]、リリース角度 θ=-0.5度(下向き)、Φ=3.5度(一塁方向)
 リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=-0.5m(三塁方向)、z0=1.8m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=145度、Φs=-80度
 回転数 N=2000rpm (SP=0.21) : 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.19

 4シーム
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=-1.0度(下向き)、Φ=3.5度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 回転数 N=2200rpm (SP=0.22) : 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20

 rpmは一分間あたりの回転数を表す単位です。

 ボール回転軸角度の定義
 
 シュートの回転軸

 θs : z軸からx-y平面に向かう角度(真上から水平に向かう角度)
 Φs : x軸からy軸に向かう角度(ホーム方向から一塁側へ向かう角度)

[計算結果]

左打者へのフロントドアの軌道計算を以下に示ます。

グラフ中の点は0.02秒おきの、一番右の点のみx=18.44mにおけるボールの位置を表します。

フロントドア軌道計算結果

・フロントドアとして投げた2シームは、4シームに比べ21cmホームベース側に曲がり、ストライクゾーンをかすめて行く

x=11mあたりまで両者の軌道は重なっており、ほぼ見分けはつかないでしょう。
4シームならバッターボックス内を通過していく軌道のため、打者は当てられると思って腰を引いて避けようとしてしまいます。

「フロントドア」は、打者がびっくりして怖がる姿を見るとつい口元が緩んでしまう、そんな嗜虐的な性格の投手にお勧めです。

 バックドアの軌道計算 

次はバックドアの軌道計算をしてみます。
右投手が左打者のアウトコースにカットボールを投げる場合を対象とします。

比較のために、同じ水平方向角度でリリースして、ボール球になる4シームも計算します。

[計算条件2]

 カットボール
 球速 v0=135[km/h]、リリース角度 θ=-1.2度(下向き)、Φ=0.8度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=80度、Φs=-20度
 回転数 N=2300rpm (SP=0.24) : 抗力係数 CD=0.41、揚力係数CL=0.21

 4シーム
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=-2.0度(下向き)、Φ=0.8度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 回転数 N=2200rpm (SP=0.22) : 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20

 



[計算結果2]

左打者へのバックドアの軌道計算を以下に示します。
グラフ中の点は0.02秒おきの、一番右の点のみx=18.44mにおけるボールの位置を表します。

バックドア軌道計算結果

・バックドアとして投げたカットボールは、4シームに比べ26cmホームベース側に曲がり、ストライクゾーンをかすめて行く

x=11mあたりまで両者の軌道は重なっており、やはりほぼ見分けはつかないでしょう。
4シームならバッターボックスのライン上を通過していく軌道のため、打者はボール球だと思ってバットを振るのを止めてしまでしょう。

「バックドア」は、もし曲がらなくてもただのボール球になるだけのため、気の弱い投手にお勧めです。


 3Dプロット 

今回計算したフロントドア、バックドアの軌道を3Dプロットにしました。
ストライクゾーンの枠、ホームベースも併せて表示しました。

視点は左打者後方からのものです。

動画は1コマ0.02秒で実際のスピードと同じにしてあります。

瞬時にストライク、ボールを見分けて対処しなければならない打者の苦労を、体感できるでしょうか。

インコースへのボール球(4シーム)


フロントドア(2シーム)


gif動画(フロントドア(2シーム)&4シーム)






アウトコースへのボール球(4シーム)



バックドア(カットボール)


gif動画(バックドア(カットボール)&4シーム)









では、また。




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2020年5月9日土曜日

第15回 アンダースローの軌道計算



 アンダースローの武器 

アンダースローはリリースポイントの低さにより、下から上へと投げ上げる軌道になります。
オーバースローの上から投げおろしてくる軌道を見慣れている打者の感覚を、大いに狂わせます。

また腕の振りの角度が90度違うため、ボールの回転軸も自然と違ってきます。
例えば4シームは、オーバースローのようなホップ成分はなく、サイドスピンのシュート回転になります。

中でも特徴的であり、アンダースロー最大の武器ともいえるのが「シンカー」です。
オーバースローのシンカーはほぼサイドスピンのシュート回転で重力により落ちますが、アンダースローの場合はトップスピン回転をしており重力にマグナス力が加わることでより大きく落ちます。

昭和の大投手山田久志投手から、令和の高橋礼投手まで、活躍したアンダースローはみなシンカーを得意としています。

三冠王三度の落合博光も、現役時代最も苦しめられたのが山田久志投手のシンカーだったと、自身の著書で述懐しています。
ちなみに、落ちていくシンカーをすくい上げることができず、さんざん凡打を繰り返した挙句、開き直った逆転の発想で、上からたたきつぶすようにしたところ打ち返せるようになったそうです。


 アンダースローの軌道計算 

今回はそんなアンダースローの、4シームとシンカーの軌道を計算します。

[計算条件]

 4シーム
 球速:v0=130[km/h]、リリース角度:θ=6.0度(上向き)、Φ=3.0(一塁方向)
 リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=-0.7m(三塁方向)、z0=0.3m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=145度、Φs=45度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.19

 シンカー
 球速:v0=110[km/h]、リリース角度:θ=6.5度(上向き)、Φ=3度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=-110度、Φs=-70度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20


 ボール回転軸角度の定義

 

 θs : z軸からx-y平面に向かう角度(真上から水平に向かう角度)
 Φs : x軸からy軸に向かう角度(ホーム方向から一塁側へ向かう角度)



[計算結果]

ボール軌道の計算結果は以下のようになりました。
グラフ中の点は0.02秒ごとのボールの位置を表します。

アンダースローの軌道

4シームでは上向き6.0度で投げ上げられたのち、バッターの手元ではほぼ水平にな軌道になっています。

シンカーは上向き6.5度で投げ上げられ最初は4シームとほぼ同じ軌道で進みます。その後x=10mあたりで頂点に達したのち落下し始め、ホームベース上ではリリースポイントと同じぐらいの高さまで戻ります。4シーム軌道との上下差は50cm以上になります。

アンダースローのシンカーは低い位置で山なり軌道を描きます
地面から1m以下、打者の腰よりも低い位置を飛んでくる

また真上から見たx-y平面上のプロットを見ると、シンカーの方が4シームよりも一塁側への軌道になっています。
4シームではシュート成分が多くシンカーでは少ないためですが、これもオーバースローのシンカーと異なる点です。
アンダースローの4シームを見慣れているとシンカーはむしろスライドして行くように見えるのかもしれません。



 オーバースローとの軌道比較 


アンダースローとオーバースローの軌道を重ねて、どのくらい軌道が違うのか見てみましょう。

[計算条件2]

 4シーム(アンダースロー)
 球速:v0=130[km/h]、リリース角度:θ=6.0度(上向き)、Φ=3.0(一塁方向)
 リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=-0.7m(三塁方向)、z0=0.3m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=145度、Φs=45度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.19

 4シーム(オーバースロー)
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=-1.7度(上向き)、Φ=2.0(一塁方向)
 リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=-0.5m(三塁方向)、z0=1.8m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20


[計算結果2]

ボール軌道の計算結果は以下のようになりました。
グラフ中の点は0.02秒ごとのボールの位置を表します。

アンダースローとオーバースローの軌道の違い

アンダースローでは上向き6.0度でリリースしているのに対し、オーバースローでは下向き1.7度でリリースしています。

つまり、同じ高さのコースに投げる時、アンダースローとオーバースローでは、上下のリリース角度が7.7度も異なるのです。

またリリースポイントの高さも1.5m異なります。

これだけ差があると打者の感覚としては相当違和感があるでしょう。
打者は無意識のうちに投球軌道を予測し、あらかじめボールが来る位置に先回りして視線を移動させているという研究報告もあります。
アンダースローでは視線の移動方向が普段と上下反対になるためかなり打ちづらくなることでしょう。

女子ソフトボールの球を現役プロ選手が全然打てずに、空振りばかりしていると少し悲しくなってきますが、それも仕方ないことなのかもしれません。


 アンダースロー軌道の3D動画 

エクセルには3Dプロット機能が備わっていないので、代りにRinearnGraph3Dというフリーソフトを使って軌道を3Dプロットし、それをgifで動画ファイルにしました。

一コマ0.02秒で実際のスピードと同じにしてあります。

視点は右打席からのものを再現してみました。

オーバースローの4シーム→アンダースローの4シーム→アンダースローのシンカーの順で投げられます。

アンダースローの浮き上がってくる球筋が体感できるでしょうか。

[3Dプロット動画]

4シーム&シンカー
アンダースローのシンカー軌道3D動画





では、また。





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2020年5月2日土曜日

第14回 サイドスローの軌道計算



 カーブはまるでフリスビー 

横から投げるサイドスローは、左右の揺さぶりが得意です。

ボール角度がつきやすく、また4シームがシュート気味に来るため反対方向へと曲がるカーブ、スライダー系統の球種の威力がアップします。

サイドスローのカーブは、「フリスビー」に例えられるほど大きく横へ変化します。

腕の振りの角度の違いにより、オーバースローの投手のカーブがサイドスピンとトップスピンの中間ぐらいの回転軸であるのに対し、サイドスローではほぼサイドスピンとなるためです。

今回はそんな、サイドスローのボールの軌道を計算します。

 サイドスローの軌道計算 

カーブと4シームを計算対象とします。

[計算条件]

 4シーム
 球速:v0=135[km/h]、リリース角度:θ=2.0度(上向き)、Φ=5.0、3.5度(一塁方向)
 リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=-0.8m(三塁方向)、z0=1.0m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=160度、Φs=-30度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20

 カーブ
 球速:v0=120[km/h]、リリース角度:θ=3.5度(上向き)、Φ=2.5度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=20度、Φs=90度
 抗力係数 CD=0.42、揚力係数CL=0.25

 ボール回転軸角度の定義
 
 
 
 θs : z軸からx-y平面に向かう角度(真上から水平に向かう角度)
 Φs : x軸からy軸に向かう角度(ホーム方向から一塁側へ向かう角度)


[計算結果]

ボール軌道の計算結果は以下のようになりました。
グラフ中の点は0.02秒ごとのボールの位置を表します。

サイドスローの軌道

・上向きにリリースされ、浅い山なり軌道を描く。
・4シーム、カーブともに横方向への変化量が大きい。

 サイドスローは投げ上げる 

サイドスローではリリースポイントが低いため、ストライクゾーンに投げるために、リリース角度は水平よりも上向きになります。
4シーム、カーブともに上向きに投げ上げられた球は、x=10mあたりで頂点になり、その後緩やかな落下軌道でストライクゾーンを通過していきます。
サイドスローの球は、浅めの山なり軌道を描くのです。

オーバースローが水平よりも下向きに投げおろすのとは対照的です。

オーバースローの軌道を見慣れている打者にとっては、この上下方向の軌道の違いだけでも、少し、打ちづらさを感じることでしょう。

 右へ左へ大きく曲がる 

加えて、横の軌道の違いです。

真上から見たx-y平面上での軌道を見るとカーブがとても大きく曲がっていることが分かります。

右打者インコースへの4シームよりも、アウトコースへのカーブの方がリリース角度は三塁側になっています。
それでいてホームベース上では、アウトコースへのボールゾーンに外れるほど変化量です。

途中でカーブだと気づいた打者は、慌てて腰を引きながら腕を伸ばしてカットしようとするも、バットは届かず無残に空振りすることになるでしょう。


またアウトコースへの4シームは、投げた瞬間はボールになると思いきや、シュート成分が多いためストライクゾーンの方へ戻ってきます。

そのため、アウトコースへの4シームは、バックドアのような軌道になります。


 サイドスロー軌道の3D動画 

エクセルには3Dプロット機能が備わっていないので、代りにRinearnGraph3Dというフリーソフトを使って軌道を3Dプロットし、それをgifで動画ファイルにしてみました。

一コマ0.02秒で実際のスピードと同じにしてあります。

視点は捕手からのものです。

4シーム(右打者インコース)→4シーム(右打者アウトコース)→カーブの順で投げられます。

[3Dプロット動画]

4シーム&カーブ
サイドスローの軌道3D動画





では、また。






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