2020年5月30日土曜日

第18回 今中慎二の超スローカーブを再現




 最初に覚えた変化球 

あなたが最初に覚えた変化球は何か?

日本では「カーブ」を最初に覚えることが多い。

カーブは4シームよりも球速がかなり遅い。

そのため緩急がつく。

さらに回転が鈍く揚力であまり曲がらなかったとしても、重力で山なりとなり4シームとそれになりに軌道差ができるため、子供や初心者にも使いやすいというメリットもある。

レベルが上がり腕の振りの速度が上がり回転がかかりやすくなると、曲がりすぎて早い段階で打者に見分けられやすいカーブよりもスライダーを投げる投手が増えてくる。

また、欧米ではカーブでなくチェンジアップを最初に教えることが多いというが、これも球速差をつけることが目的である。

速い球の後に緩い球が来ると、分かっていてもタイミングを合わせきれず泳いでバットの先に当たったり、空振りをしてしまう。

 最も遅い球種 

プロ投手なら最も速い4シームが140km/hほどで、次いで2シームやカットボールが130km/h代、フォークやスライダーやチェンジアップが120km/h代である。

そして、イーファスやナックルボールといった特殊球を除けば、カーブが110km/h代と最も遅い。

4シームとは緩急差が30kh/mもつく。

 スローカーブといえば 

これだけでも十分な緩急差であるが、この倍の60km/hの緩急差がつく超スローカーブを投げる投手がかつていた。

元中日の今中慎二である。

元々ドラフト1位で入団し、2年連続2ケタ勝利を挙げるようなすごい投手だったが、けがをした。

しかし、それでだめになるどころか、リハビリ中に超スローカーブを習得したことで無双状態となり、最多勝や沢村賞まで獲得するようになった。

普通の4シームで投げると痛みがあったため、キャッチボールや遠投まで全てカーブで投げていたらいつの間にか投げれるようになっていたそうである。

山本昌のスクリューボール取得のエピソードにしてもそうだが、運命をかえるような変化球のとの出会いはセレンディピティが欠かせないのかもしれない。


その数年後にまたケガをしてしまい、活躍した期間は短かったが、山本昌とならぶレジェンント左腕としてファンの間では記憶に残る。

今回はその今中投手の80km/h代の超スローカーブの軌道を計算して再現する。

 今中慎二超スローカーブの軌道計算 

昔の投手のため回転数などのデータは推測となる。

本人曰く、「カーブには曲げるカーブと抜くカーブがあり、自分のは抜くカーブ」とのことなので回転数はそれほど多くないと考えられる。

[計算条件]

 4シーム
 球速:v0=143[km/h]、リリース角度:θ=-2.5度(下向き)、Φ=-1.5(三塁方向)
 リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=0.5m(一塁方向)、z0=1.8m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=-70度、Φs=80度
 回転数 N=2300rpm (SP=0.22) : 抗力係数 CD=0.41、揚力係数CL=0.20

 スローカーブ
 球速:v0=85[km/h]、リリース角度:θ=6.0度(上向き)、Φ=-1.0度(三塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=-120度、Φs=-45度
 回転数 N=2300rpm (SP=0.38) : 抗力係数 CD=0.44、揚力係数CL=0.32

 rpmは一分間当たりの回転数を表す単位。

 ボール回転軸角度の定義
 
 

 θs : z軸からx-y平面に向かう角度(真上から水平に向かう角度)
 Φs : x軸からy軸に向かう角度(ホーム方向から一塁側へ向かう角度)


[計算結果]

今中投手の超スローカーブと4シームの軌道を再現計算した結果は以下のよう。
グラフ中の点は0.02秒ごとのボールの位置を表す。

今中超スローカーブ軌道

スローカーブは投げた瞬間から4シームとは全く違う軌道で、大きく弧を描いて落下する。


 上に向かって投げる角度はアンダースローのごとく 

プロのオーバースロー投手の場合、ボールは水平よりも下向きの角度で投げられる。
水平よりも上向きに投げると高めのボール球になるからである。

今回の計算結果でも、4シームは低めに投げるために水平よりも下向き2.5度の角度でリリースしている。

ところが、スローカーブでは上向き6.0度の角度で投げられている

これは異常なことである。

どれくらい異常かというと、地面すれすれから投げ上げてくるアンダースロー投手の4シームと同じくらい上向きのリリース角度なのである。

オーバースローのリリースポイントから、アンダースロー並みの角度で上に向かって投げられた球。
普通なら大暴投であるが、それが頭上から曲がり落ちてきストライクゾーン低目を通過していく。

水平よりも下向きにリリースされる球を見慣れている打者にとっては、そうとう厄介であろう。


 早く来いよ 

球速差による緩急もすごいものである。

4シームはリリースから0.45秒後にホームベース上(x=18.44m)に到達するが、スローカーブその時まだx=11.9m地点にいる。
スローカーブは4シームに6.6mも前後位置差を付けられる

それから0.32秒後、リリースから0.76秒経過してようやくホームベース上に到達する。
スローカーブは4シームの1.7倍もの時間がかかるのである。


4シームにタイミングを合わせていた打者は、スローカーブだと気づき、踏み出してしまった足のかかとを地面に付けないよう必死にこらえながら「早く来いよ」とイライラしながら我慢強くボールが来るのを待つ。
しかし、結局はこらえきれず、無様に泳いで空振りをしてしまうのであった。


 スローカーブの3D動画 

今回計算した今中投手の超スローカーブの軌道を3Dプロットして、gifで動画にした。

超スローカーブと4シームが交互に投げられる。

視点は右打席からのものである。

一コマ0.02秒で実際の球速と同じにしてあるので、スピード感を感じてもらえたらと思う。
4シームの後にくるスローカーブにタイミングを合わせることができるだろうか。

今中慎二85km/h超スローカーブ&4シーム
今中スローカーブ軌道3D動画





では、また。






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