2021年11月27日土曜日

第96回 三盗を成功させるのは、どれくらい難しいのか?

 


三盗はごくわずか

盗塁はそのほとんどが二塁を狙った二盗です。三塁を狙った三盗はめったに見られません。

なぜか、といえば、グラウンドを見て分かるようにホームベースから、つまり送球をしてくる捕手からの距離が二塁ベースは遠く、三塁ベースは近いからです。



簡単と言うけれど


オリックスバファローズの前身である阪急ブレーブスで活躍した、福本豊さんはNPB記録となる通算1065盗塁を成功させました。シーズン盗塁数が100を超えた年もありました。
その福本さんがソフトバンクの周東選手と対談した際、三盗について「簡単や。リードが大きくとれる。セカンド、ショートが下がってるし、そんなに速いけん制球も来ない。タイミングを合わせやすい。」(*1)と語っています。
周東選手もこれに同意しています。

(*1)スポーツ報知webサイト 2020年1月28日

では実際どうだったのかと記録を見てみると、1065個のうち三盗はわずか149個です。割合で言うと二盗が86%で、三盗は14%です。
二盗成功後は二塁上にいるわけで、三塁ランナーがいなければ三盗を狙える状況です。もし本当に簡単であれば、すかさず三盗し、結果、三盗の数は二盗と同じぐらいになるはずですがそのようにはなっていません。

口では簡単と言っても、やはり距離の近い三盗は難しく、福本さんほどの選手であってもそれほど多くは走れなかったわけです。簡単と言ったのは、量産できるという意味ではなく、隙をついて走れた時は成功率が高いという意味なのだと思われます。



そこで今回は、盗と二盗で捕手からの送球が届く時間がどれくらい違うのか軌道計算で求めてみます。


送球距離

ホームベースから三塁、二塁ベースまでの距離は、ルールブックに定められています。

ホームベースの角から三塁ベース後端までの距離は27.431メートル、二塁ベース中心までが38.80メートルです。三塁ベースの方が11.37メートル(=38.80-27.431)近く、割合で言うと0.7倍(=27.431/38.80)になっています。

これは正方形の一辺と対角線の長さの比、1/√2倍(≒0.707)とほぼ同じです。




送球時間の軌道計算

では次はこの距離の差が、捕手がボールをリリースしてから三塁および二塁に届くまでの時間(送球時間)の差としてどのくらいになるのかを、軌道シミュレータver3.2で計算します。


[計算条件]

送球の球速は130km/h、回転は完全なバックスピン回転の1800rpmとします。送球開始点はホームベース角の位置とします。

計算しやすいように、ホームベース角を原点として、三塁、および二塁ベースに向かってそれぞれx軸をとるような座標系で計算します。

軌道シミュレータver.3.2へのインプット値は以下のようです。





[計算結果]

ホームから三塁ベース及二塁ベースへの送球軌道および、送球時間の計算結果は、以下のようです。

結果のプロットを静止画とgif動画で示しています。gif動画は実際のスピードと同じにしてあり、また以前作図したグラウンド上にもプロットしました。


gif動画
盗塁送球の軌道計算gif

静止画
盗塁送球の軌道計算


0.4秒、3.2メートル

今回の条件ではホームから三塁までの送球時間は0.84秒、二塁までは1.24となりました。
そのため三盗の方が0.40秒(=1.24-0.84)早く送球が届き、ランナーはそれだけ走れる時間が短くなります。

投げた瞬間は130km/hの送球でも27.431メートル飛んでいく間に空気抵抗で減速します。減速して遅くなった状態で差分の11.37メートルを飛ぶため、二塁送球との時間差は大きくなります。

上記にgif動画に見るように感覚的にもだいぶ時間差があります。


リードなしで成功させる


仮にランナーの走速度が8m/s(=28.8km/h)とすると、この0.40秒の間に3.2メートル(=8×0.40)走って進むことができます。

メジャー通算509盗塁のイチローさんは現役時代にリードを3.5メートルくらいとっていた言われていますので、それよりも少し短いくらいの距離です。

つまり大雑把に言えば、三盗を成功させるのはリードなしで二盗成功するのと同じぐらい難しい、ということになります。

やはりよほどうまく隙をついた時でなければ成功しないわけです。









では、また。



2021年11月20日土曜日

第95回 内野で一番肩の強さが必要なポジョションはどこか?

守備位置(actual) 


遊撃手最強説

内野手4つのポジョションのうち、最も肩の強さが求められるのはどこでしょうか?

一般的に一塁手と三塁手は守備力の優先度が低く、体が大きく長が力があるががその分動きが鈍重なパワーヒッターが起用されます。

二塁手、遊撃手は守備の上手い選手が起用されます。特にショートはチーム内でも最も守備力の優れた選手が努める花形のポジションで、セカンドよりも肩の強さが求められます。

三遊間の深い位置で逆シングルからのジャンピングスローなどはまさに見せ場です。



154km/hの遊撃手

ソフトバンクの今宮選手は高校時代にMAX154km/hを記録した剛球投手でしたが、プロ入り後は最初から野手に専念しました。もったいないと当時は思いましたが、この判断は正解でした。

ショートとしてその強肩を活かすことで、選手層がどこよりも厚いソフトバンクでレギュラーを奪い、ゴールデングラブ賞を5回も受賞しました。


MLBが欲しがらない二塁手

二塁手でも肩の強い選手はいます。

ゴールデングラブ賞8回受賞の広島カープ菊池選手は大学時代までショートでしたが、プロ入りに後にチーム事情で二塁手にコンバートされ、これがはまりました。

菊池選手は守備範囲がとても広く、打った瞬間ヒットだと思われる打球でもことごとく追いついてしまいます。

なぜ菊池選手が他の選手では追いつけないような打球まで追いつくことができるかというと、普通の守備位置よりも後ろに守っているからです。テレビ中継ではあまり映らないので分かりづらいですが、球場で見るとそんなとこにいるのかと思うくらい後ろに守っています。普通の守備位置はインフィールドラインより少し前ぐらいですが、菊池選手はラインの後ろ1,2メートルの位置にいます。

だから他の選手ももっと後ろに守れば、より多くの打球に追いつけるようになります。

問題はそこからです。後ろに守ればそれだけ打ってから打球を捕るまでの時間が長くなり、また一塁までの送球距離が長くなります。打球に追いついても内野安打になってしまっては意味がありません。菊池選手は捕るまでの時間と送球距離を補えるだけの肩の強さがあるからこそ、通常よりも後ろに守ることができるのです。


そんなすごい守備力の菊池選手ですが、20年オフにメジャー挑戦を目指した際には、残念ながらどこの球団からもメジャー契約のオファーがなく、日本にとどまりました。

メジャーでは二塁手は守備よりも打撃、とりわけ長打が求められるので、それにマッチしなかったためだと言われています。代理人は二塁だけでなくショートや三塁も守れるユーティリティープレイヤーであるとして売り込みましたが、プロでの実績がないため相手にされませんでした。

またメジャーの球場は、人工芝よりも打球の勢いが弱まる天然芝のため、極端に後ろに守る菊池選手では当たりそこないの内野安打が増えると懸念されたのではないかとも考えられます。

いずれにせよあれほどの選手が30もあるメジャー球団のどこからも見向きもされなかったのは悔しい気持ちです。オリンピックで世界を相手に活躍し見返して欲しいところでしたが、これも全然ダメでした。日本に残ったのは正解だったかもしれません。


内野手の守備位置プロット

さて、今回は内野手の各ポジションでどのくらい求められる肩の強さが異なるのか、検証をしてみたいと思います。そのための一つの方法として、内野ゴロを一塁送球でアウトにする場合の、ボールの飛んでいく距離を各ポジションごとに計算しどれぐらい違うのか見てみます。


当然ながら内野手の守備位置は、状況により変わります。打者の右左、予想される打球の速さと走力との兼ね合い、ゲッツー狙いかバックホーム狙いか、などなど細かく上げればきりがないほどです。

今回は典型的な例として、冒頭の写真の守備位置を参考にしました。以前Excelで作図した野球場に内野手の守備位置をプロットすると以下のようです。

内野守備位置(assumed)

一塁手(1B)と三塁手(3B)の守備位置はベースよりも少し後ろです。二塁手(2B)とショート(SS)はインフィールドラインのあたりです。


内野ゴロのボール移動距離、計算結果

上記の守備位置に基づき、ホームから守備位置まで打球が飛んでいく距離rおよび、内野手が一塁まで送球する距離Lを、2次元座標から計算します。

rおよびLが大きいほど打ってから一塁にボールが届くまで時間がかかるため、より肩の強さが求められることになります。

実際には内野手は守備位置からいくらか動いで打球を捕球し、捕球位置からステップを踏んで投げますが、ここでは簡易的に守備位置まで打球が飛び、守備位置から送球を開始するとします。


計算結果を上記の図に書き込んだものが、以下です。




ポジションごとのボール移動距離

上図はごちゃごちゃしてしまったので、各ポジションごとのボール移動距離を棒グラフにしました。下の灰色が打球が飛んで来る距離r、上の黒が送球距離Lです。r+Lの、棒グラフが高いほど、ボールの移動距離が長く、より肩の強さが求められるポジションということになります。

内野ゴロ、ポジション別ボール移動距離


ショートvs三塁手

ショートから一塁への送球距離Lは、全ポジション中最も長く41.6メートルです。
一方、三塁からは39.1メートルで、ショートより2.5メートルだけ短くなっています。ショートから一塁への送球距離は、三塁からとそれほど大きく変わらない、ということが分かりました。
どちらもダイヤモンドの対角線より少し長い距離で、強い肩が必要です。

差が大きいのは、打球の飛んでくる距離rです。ホームから守備位置まで、打球が飛んで来る距離はショートが45メートル、三塁手はその約2/3の32メートルです。ホームからより遠いショートは打球が届き捕球するまでの時間が長く、その間に打者ランナーは一塁に向かって長い距離を走れてしまうため、送球のために残された時間の猶予が短くなります。
これを取り返すためには球速の速い送球が必要となります。

また三遊間への当たりの場合、三塁手は捕球のために走ってきた方向へそのまま投げるため、勢いがついており投げやすい体勢です。対してショートは走ってきた方と逆へ投げるため、踏ん張って体の勢いを止めてから投げるか、あるいはジャンピングスローで下半身の力を使わずに投げるかしなければなりません。とってから投げるまでの時間はより長くかかり、球速も遅くなります。この捕球した時の体勢の悪さが、ショートのスローイングをより難しいものにしています。悪い体勢からでもそれなりの送球を投げるためには、地肩の強さが必要となります。

かつては三遊間の打球は、正面に入り捕球するのが基本とされていました。そうすれば例えはじいた時でも体に当てて前に落とせるからです。しかしそれで一塁に間に合わないなら外野に抜けていっても、ホームに帰るランナーがいないときなら同じ結果です。
ならば一塁に投げやすく間に合う可能性の高い逆シングルの方がよいという考え方に近年変わってきています。正面に入る方が誠実で一生懸命な印象を受けますが、実際には逆シングルの方が合理的でよい結果に繋がりやすいのです。

ショートは三塁手に比べ、送球距離は少し長い程度だが、捕球までの時間が長く、また捕球時の体勢が悪いため、より肩の強さが求められます。




ショートvs二塁手

二塁手はショートと同じぐらい深い位置に守ります。どちらもインフィールドライン当たりです。そのため打球の飛んでくる距離rは同程度です。

違いは送球距離Lのみで、これはショートの41.6メートルに対し、二塁手は25.3メートルとずいぶん短くなっています。ショートがダイヤモンドの対角線よりも長い距離を投げるのに対して、二塁手は塁間よりも短い距離しか投げなくてよいのです。

ショートは二塁手に比べ、送球距離がずっと長いため、捕球までの時間は同程度でも、より肩の強さが求められます。



ショートvs一塁手

一塁手は改めて比べるまでもありませんが、打球の飛んでくる距離r、送球距離Lともにショートよりもずっと短くなっています。

先の棒グラフの高さはショートの半分ほどです。
ショートゴロでは打ってから一塁手が送球を捕るまでにボールは86.6メートル(=45+41.6)の距離を移動します。一方、一塁ゴロでは45メートル(=35+10)しか移動しません。




というわけで、やはりショートが最も肩の強さが求められるポジションである、という結果になりました。





では、また。







2021年11月13日土曜日

第94回 右前打はどのくらい三進しやすいか




1塁から3塁へ

ランナー1塁の場面でライト方向へヒットが出たとき、一気に3塁まで進むという場面が多くあります。
エンドランの時はもちろん、打球が少し深い位置まで飛んだ時や左右にずれたときには、ランナーコーチが手をぐるぐる回し、それを見たランナーは迷わず2塁ベースを蹴り、加速しながら3塁へ向かっていきます。

一方、レフト前ヒットでは2塁でストップするケースのほうが多いです。

なぜでしょうか?
と、問うまでもありません。

グラウンドを見ればわかるように3塁ベースまでの送球距離はライトからの方がレフトからよりも遠くなります。送球距離が長い分だけ、3塁ベースにボールが届くまで長く時間がかかるので、その間にランナーはより多くの距離を進むことができます。


ライトには強肩を

ライトの選手起用方針は野球のレベルにより、反対になります。

小中学生や草野球など、それほどレベルが高くない野球では、守備の苦手な選手をライトに起用します。
右打者の割合が多く、流し打ちの上手な打者も少ないため、ライトに強い打球が飛ぶ頻度が低いためです。また長方形のグラウンドでは一般的に狭い方をライト側にするため、守備範囲も狭くて済みます。

一方、プロ野球やメジャーリーグ、それに近いレベルの野球では、ライトに守備の得意な選手を配置します。とりわけ肩の強い選手を起用します。打球の飛距離が伸び、グラウンドも広いため、送球開始位置はより遠くなり、ライト方向へのヒットで1塁ランナーが一気に3塁へ進みやすくなるため、それを阻止する狙いがあります。

イチローさんのレーザービームも、ライトを守っていたからこそ生まれたビッグプレーです。


そこで、今回はライトから3塁への送球はレフトからに比べ、どれくらい遠く、どれくらい届くのが遅いのか軌道計算をして求めてみます。




送球距離の幾何学計算

ライト、レフトから3塁ベースまでの送球距離は、2次元平面上の2点間距離として幾何学的に求めることができます。

送球開始点のx,y座標値から3塁ベースのx,y座標値をそれぞれ差し引いたものを2乗して、足し合せて、ルートをとれば求められます。三平方の定理です。


[計算条件]

今回は、センターラインに対し左右対称な右前打と左前打を想定します。センターラインとファールラインの中間の方向、センターラインから22.5°の方向に、ホームベースから70メートル離れた位置から送球を開始するとします。


[計算結果]

ライト及びレフトから3塁ベースまでの送球距離の計算結果は、以下のようです。

前々回で作図したグラウンドを使って、結果をプロットしました。

ライト、レフトの3塁までの送球距離

今回の条件では、ライトからの3塁までの送球距離は64.7メートル、レフトからは45.9メートルとなりました。
ライトからの方が18.8メートル(=64.7-45.9)遠くなっています。ライトの選手はバッテリー間距離(18.44メートル)と同じぐらいの距離だけ余分に遠くまで投げなればならないわけです。




送球時間の軌道計算

では次は、この距離の差がボールが届くまでの時間、送球時間の差としてどのくらいになるのかを、軌道シミュレータver3.2で計算してみたいと思います。


[計算条件]

球速140km/h、回転は完全なバックスピン回転で2000rpmで、ノーカット、ノーバウンド送球とします。

計算しやすいように、3塁ベースを原点として、ライトおよびレフトの送球開始点に向かってx軸をとるような座標系で計算します。

軌道シミュレータver.3.2へのインプット値は以下のようです。





[計算結果]

ライト及びレフトから3塁ベースまでの送球軌道および、送球時の計算結果は、以下のようです。

結果のプロットを静止画とgif動画で示しています。gif動画は実際のスピードと同じにしてあります。


ライト、レフトから3塁への送球軌道



ライト、レフトから3塁への送球軌道gif

今回の条件では、ライトから3塁まで送球が届くのにかかる時間は2.14秒、レフトからは1.40秒となりました。
ライトからの方が0.74秒(=2.14-1.40)遅くなっています。

投げた瞬間は140km/hの送球も45.9メートル飛んで来る間に空気抵抗でかなり減速します。減速して遅くなった状態で差分の18.8メートルを飛ぶため時間差は大きくなります。
またノーバウンドで投げる場合、距離が長いほど山なり軌道になるため、速度の水平成分が減ります。これによっても少し時間差が広がります。

仮にランナーの走速度が8m/s(=28.8km/h)とすると、この0.74秒の間に5.9メートル(=8×0.74)進むことができます。歩幅を2メートル弱とすると、3歩分ほどです。





というわけで、今回の条件では、右前打で1塁ランナーが3塁へ進むときは、左前打に比べ、送球距離が18.8メートル長くボールが届くのが0.74秒遅れるため、その間にランナーは3歩走って5.9メートル余分に進める、ということが分かりました。

これは、走らないと損ですね。







では、また。



2021年11月6日土曜日

第93回 バンテリンドーム左中間の深さはどのくらいか


パークファクター最小

バンテリンドーム ナゴヤ(旧ナゴヤドーム)は日本一ホームランの出ない球場として有名です。

統計指標を評価する際に球場による差異を補正するためのパークファクターという値があるのですが、バンテリンドームは毎年当たり前のように1.0を下回り、12球団本拠地中最小の値を獲得しています。

なぜそんなにホームランが出ないのかというと、外野フェンスが高いこと、フェンスの濃い青色により心理的圧迫感があること、マウンドの質が良く投手が投げやすいこと、ホームにしている中日が投高打低のチームであることなど複数の理由が挙げられます。その中でも特に左中間、右中間のふくらみが大きく深いことが大きく影響しているのではないか、と言われています。

そこで今回は、前回Excelで作図した野球グラウンドを使って、バンテリンドームの左中間、右中間はどのくらい深いのか計算してみたいと思います。


同心円の円弧

バンテリンの外野フェンスは、真円のドーム全体や5階席と同じ中心点を持つ、同心円で描かれています。幾何学的に非常に整った形状をしています。

前回求めたように、バンテリンドームの外野フェンスはホームベースからセンター方向へ47.612メートルの位置に中心点を持つ、半径74.388メートルの円弧です。中心点はセンターラインとインフィールドラインが交わるあたりになります。


外野フェンスまでの距離の計算式

上記の条件から左右の打球方向角度と、外野フェンスまでの距離の関係式を導くことができます。

下図のように、外野フェンス上の点をa、ホームベースから外野フェンスまでの距離をr、打球の左右方向角度をセンターラインを基準にθとします。

r'とO'は外野フェンスの円弧の半径と中心点です。値は上記のようにr'=74.388[m]およびO'の座標(xo,yo)=(0,47.612)です。

バンテリンドームナゴヤの外野フェンスは同心円の円弧である

では円弧である外野フェンス上の点aの座標をx,yとして、式を計算していきます。
まず、三平方の定理から
r'^2=x^2+(y-yo)^2 -①
です。
次にx,yをセンターラインからの角度θでそれぞれ円筒座標系表示に変換すると
x = r・sinθ -②
y = r・cosθ -③
です。
①式に②、③を代入すると、
r'^2 =(r・sinθ)^2+(r・cosθ-yo)^2 
=r^2 - 2r・yo・cosθ + yo^2     
rについて整理すると、
r^2 - 2r・yo・cosθ - (r'^2 - yo^2 ) = 0 ‐④
となります。
④は二次方程式なので公式を使うとその解は、
r = yo・cosθ + √{(r'・cosθ)^2 + (r'^2 - yo^2 )} -⑤
です。
この⑤式に既知の数値r'およびyoを入力すれば、バンテリンドームにおける左右の打球方向角度θと外野フェンスまでの距離rの関係式

r = 47.612・cosθ + √{(74.388・cosθ)^2 + (74.388^2 - 47.612^2 )}

  47.612・cosθ + √{5533.537・(cosθ)^2 + 3266.611} -⑤'


が導れます。



打球方向による外野フェンスまでの距離

では、上記⑤'式を使って打球角度θごとのフェンスまでの距離rを計算していきます。
計算するのはフェアゾーンのレフトポールからセンターを通ってライトポールまでの範囲のなので、-45°≦θ≦45°です。

Excelを使って値を計算し、θとrのグラフで表すと以下のようになります。


レフトポールとセンターの中間、θ=-22.5°、つまり左中間ど真ん中ではホームから外野フェンスまで116.1メートルもあります。
両翼100メートルとセンター122メートルの中間値111メートルではなく、それよりも5メートルも遠くにフェンスがあります。
最も狭い両翼100メートルよりも16メートル以上飛ばさないとホームランにならないわけです。
これでは、左中間は深くてホームランが出にくいと感じるのも無理ないことです。

しかしながら、TVや動画中継で時々使われる「左中間の一番深いところ」という表現は誤りです。ポール際からセンター方向へ向かうにつれ、フェンスまでの距離rは単調増加で増え続けます。極大点は存在しません。


グラウンド上へプロット

さて、上記の左中間ど真ん中のフェンスまでの距離を、グランド上にプロットすると以下のようです。
参考に、ホームベース後端((x,y)=(0,0))を中心点とした半径100~120の同心円も灰色線で示しました。

ナゴド左中間フェンスまでの距離計算結果

こうしてみると野球場というのは打球の左右方向によって外野フェンスまでの距離が全然違ってくることが分かります。ちなみにソフトボールではどの方向でも同じになっています。
センター返しが得意なバッターよりも、引っ張りがちなプルヒッターの方がホームランを打つことに関してはずっと有利です。少し不公平な気さえします。

そのため、ホームランを量産するためには打球速度、回転、打球上向き角度の3要素に加え、距離の近い両翼よりの方向を狙いつつ切れてファールにはならないような打ち方をする技術もまた欠かせないということです。

HRを量産するコツ

三冠王落合博満さんはレフトへライトへの広角打法でした。これは広角に打つのが目的ではなく、距離の遠いセンター方向を避けることで効率よくホームランを量産していたということです。

大谷選手もメジャー1年目の2018年はセンター方向へのホームランが多かったですが、今シーズン21年ではライト方向へのホームランの割合がかなり増えました。それがシーズン46本塁打という日本人記録の大幅な更新に繋がった一因だといえます。

強打者ならばセンター方向へ打ってもホームランは打てますが、それは年に数回しかない本当の会心の当たりのときのみです。年に何十回とは打てません。

例えば、155km/hの打球速度ではセンター方向へ打つと122メートル未満の飛距離しか出ないためフェンスまで届きません。それならば、もっとタイミングを遅らせて仮に5km/h打球速度を落としてでもライトポール際へ流し打つことができれば、これはホームランになります。150km/hの打球速度でも100メートル以上の飛距離は十分出せるためです。


ホームランテラス待望論

さて、今回計算したようにバンテリンドームは左中間、右中間が深くなっており、そのためホームランが出づらい球場です。正直ファンからも不評でホームランテラス待望論が上がっています。

テラスが設置されれば得点が入りやすくなり、もっと試合が面白くなるかもしれません。

しかし個人的にはテラスには反対なのです。

何故かというと一つには、同心円の幾何学的な建築物としての美しさが損なわれるからです。

もう一つは、中日が強くなることに繋がらないと考えられるからです。

投高打低のチームですが、それはバンテリンドームに限ったことでなくビジターの狭い球場でも打線は同じように点をとれていません。そのためバンテリンが狭くなっても得点が増えるとは期待できません。

広いバンテリンでは外野手が後ろに下がっているため、前に落ちるヒットが増えます。ランナーが出て得点圏になるとバックホームのために前に出てきます。そうすると同じ当たりでも捕られてしまい結果、チャンスは作れてもあと一本が出ず無得点に終わります。

これが狭いビジター球場だと最初から前にいるためチャンスすら作れずに終わってしまいます。

またそのような貧打線にも関わらず投手陣の踏ん張りにより、ホームのバンテリンでは勝ち越しています。良い結果が出ているならば、下手に変えない方が得策です。

さいわい立浪新監督もテラス設置は要望せず、石川昴弥選手など有望選手の長打力を伸ばしていく方針のようなので期待して来シーズンを待ちたいと思います。







では、また。