三盗はごくわずか
盗塁はそのほとんどが二塁を狙った二盗です。三塁を狙った三盗はめったに見られません。
なぜか、といえば、グラウンドを見て分かるようにホームベースから、つまり送球をしてくる捕手からの距離が二塁ベースは遠く、三塁ベースは近いからです。
簡単と言うけれど
オリックスバファローズの前身である阪急ブレーブスで活躍した、福本豊さんはNPB記録となる通算1065盗塁を成功させました。シーズン盗塁数が100を超えた年もありました。
その福本さんがソフトバンクの周東選手と対談した際、三盗について「簡単や。リードが大きくとれる。セカンド、ショートが下がってるし、そんなに速いけん制球も来ない。タイミングを合わせやすい。」(*1)と語っています。
周東選手もこれに同意しています。
(*1)スポーツ報知webサイト 2020年1月28日
では実際どうだったのかと記録を見てみると、1065個のうち三盗はわずか149個です。割合で言うと二盗が86%で、三盗は14%です。
二盗成功後は二塁上にいるわけで、三塁ランナーがいなければ三盗を狙える状況です。もし本当に簡単であれば、すかさず三盗し、結果、三盗の数は二盗と同じぐらいになるはずですがそのようにはなっていません。
口では簡単と言っても、やはり距離の近い三盗は難しく、福本さんほどの選手であってもそれほど多くは走れなかったわけです。簡単と言ったのは、量産できるという意味ではなく、隙をついて走れた時は成功率が高いという意味なのだと思われます。
そこで今回は、三盗と二盗で捕手からの送球が届く時間がどれくらい違うのか軌道計算で求めてみます。
送球距離
ホームベースから三塁、二塁ベースまでの距離は、ルールブックに定められています。
ホームベースの角から三塁ベース後端までの距離は27.431メートル、二塁ベース中心までが38.80メートルです。三塁ベースの方が11.37メートル(=38.80-27.431)近く、割合で言うと0.7倍(=27.431/38.80)になっています。
これは正方形の一辺と対角線の長さの比、1/√2倍(≒0.707)とほぼ同じです。
送球時間の軌道計算
では次はこの距離の差が、捕手がボールをリリースしてから三塁および二塁に届くまでの時間(送球時間)の差としてどのくらいになるのかを、軌道シミュレータver3.2で計算します。
[計算条件]
送球の球速は130km/h、回転は完全なバックスピン回転の1800rpmとします。送球開始点はホームベース角の位置とします。
計算しやすいように、ホームベース角を原点として、三塁、および二塁ベースに向かってそれぞれx軸をとるような座標系で計算します。
軌道シミュレータver.3.2へのインプット値は以下のようです。
[計算結果]
ホームから三塁ベース及二塁ベースへの送球軌道および、送球時間の計算結果は、以下のようです。
結果のプロットを静止画とgif動画で示しています。gif動画は実際のスピードと同じにしてあり、また以前作図したグラウンド上にもプロットしました。
gif動画
静止画
0.4秒、3.2メートル
そのため三盗の方が0.40秒(=1.24-0.84)早く送球が届き、ランナーはそれだけ走れる時間が短くなります。
投げた瞬間は130km/hの送球でも27.431メートル飛んでいく間に空気抵抗で減速します。減速して遅くなった状態で差分の11.37メートルを飛ぶため、二塁送球との時間差は大きくなります。
上記にgif動画に見るように感覚的にもだいぶ時間差があります。
リードなしで成功させる
仮にランナーの走速度が8m/s(=28.8km/h)とすると、この0.40秒の間に3.2メートル(=8×0.40)走って進むことができます。
メジャー通算509盗塁のイチローさんは現役時代にリードを3.5メートルくらいとっていた言われていますので、それよりも少し短いくらいの距離です。
つまり大雑把に言えば、三盗を成功させるのはリードなしで二盗成功するのと同じぐらい難しい、ということになります。
やはりよほどうまく隙をついた時でなければ成功しないわけです。
では、また。
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