2020年2月29日土曜日

第5回 軌道シミュレータver.3.0 -抗力-








エクセルで作った軌道シミュレータver.2に、空気力を追加しver.3にアップデートします。

空気力にはブレーキとして作用する「抗力」と、曲げる力として作用する「揚力」の二種類があります。

まずは抗力を追加します。

また今回は速度成分の大きいx方向(ホーム方向)のみ抗力を考えます。


抗力Dはボールの進行方向、つまり速度vと逆方向に働きブレーキをかける力です。




抗力Dは以下のような式で表されます。


 (CD:抗力係数、ρ:空気の密度、v:ボールの速度、A:ボールの断面積)

抗力Dは速度vに依存しますが、その速度vは抗力Dを受け減速します。

抗力Dをボール重量で割ったものが加速度で、これを時間積分したものが速度の変化量となります。

そのため投げた瞬間から、Dvはお互いに影響しあって時間変化していきます。

そのせいで、重力のように時間によらず一定の力が働く場合と比べて
少し複雑な計算になります。



では、式を立てます。


[計算式]

x軸をホーム方向、y軸を一塁方向、z軸を上空方向と定義


x方向
 


(vx : ボール速度のx方向成分)

上記3式から、
加速度と速度の関係



t=0秒の時



y,z方向
ver.2と同じ



ここで、
v0:リリース時の球速、x0,y0,z0:リリース位置、
θ:上向きリリース角度、φ:横向きリリース角度、t:リリース後経過時間

[計算式おわり]

ボール位置x,y,zのうち、xについてはtを代入すれば求まる形の式にできないため
エクセルで数値積分の方法により求めます。

では、エクセルへ入力していきます。

単位系はSI単位系です。

[エクセル入力]

まず初期条件を入力。
ver.2の時と同じにしました。
 

次に空気密度とボール特性を追加します。
抗力係数CDは個人で計算や実測をするのが難しいので
ネットで拾った値を使います。


次に時間tを少しずつ増加させて複数入力します。
ver.2と同じく、0.02秒おきにしました。
数値積分をするので時間間隔が小さいほど計算結果は正確になります。


時間t列のとなりに、d2x/dt2dx/dtの列を挿入します。
そしてdx/dt列の一番上のセルに、時間t=0における速度を入力します。(④式)


d2x/dt2列に、dx/dtからd2x/dt2を計算する式を入力します。(①式)

再びdx/dt列に戻り、t>0のセルに数式を入力します。
②式の計算を数値積分で行うために下図のように数式を入力します。


x列の一番上のセルに、時間t=0におけるx位置を入力します。(⑤式)


xt>0について③式の計算を数値積分で行うために下図のように数式を入力します。
x位置の計算はこれで完成です。

あとはy,zver.2と同様に入力します。

yの数式を入力します。(⑥式)


zの数式を入力します。(⑦式)







これで各時刻におけるボール位置x,y,zの値が計算できました。


[エクセル入力おわり]


計算した値を、散布図でグラフ表示します。

[エクセルグラフ化]

このようになりました。


抗力なしのver.2と重ねてみました。見やすいように0.3m上にずらしてあります。
結構ブレーキがかかっています。

リリース時に140[km/h]だった球速は、18.44m位置では127[km/h]まで減速して
います。
抗力なしと比べ0.77mの差を付けられ、0.022秒遅れて18.44mに到達します。

[エクセルグラフ化おわり]




では、また。




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2020年2月22日土曜日

第4回 月の上で遠投




月の重力は地球の1/6です。

上に向かってボールを投げると重力が弱い分なかなか落ちてきません。

もしも月面上で全力で遠投をしたならば、地球上のときよりもはるか遠くまで投げられて
さぞかし気持ちが良いことでしょう。

一体どれくらい、飛距離が出るでしょうか?

エクセルで作成した軌道シミュレータver.2で計算してみたいと思います。

重力が弱いと投球モーションにも影響が出ますが、そこは無視して地球上と同じ球速とします。
宇宙服を着ていると投げづらいというのも無視します。

[計算条件]

 
球速: 140[km/h]
リリース角度: 上方45
重力加速度: 1.62[m/s^2](月面上)
     (9.81[m/s^2](地球上))

[計算結果]


 以下のような軌道になりました。
 参考に、地球上での軌道も併せてプロットします。 
 
 

 140[km/h]の場合、月面上で遠投をすると飛距離は935mです


この軌道計算は空気抵抗なしの条件で行っています。
そのため、地球上で156mも飛んでいますが、実際は110mぐらいになるようです。

月面上では大気がなく空気力は働かないため、今回の計算結果通りの軌道となります。

[計算結果おわり]



935m。よく飛びます。

遠投といえば、英智(元中日)がナゴヤドームでホームから投げてセンターフェンスへ直撃させた一投が有名ですが、935mだとナゴヤドームから大曽根駅の手前ぐらいまでの距離になります。


 
  
さて、他の星ではどうでしょう。

地球より大きく重力の強い星では反対に飛距離が落ちるはずです。

太陽系で最大の惑星である木星で投げた場合を計算してみました。

 

[計算条件] 

 
球速: 140[km/h]
リリース角度上方45
重力加速度: 24.79[m/s^2](木星上)
                (1.62[m/s^2](月面上)、9.81[m/s^2](地球上))
 

[計算結果2]


 以下のような軌道になりました。
 参考に、月面上、地球上での軌道も併せてプロットします。  
 
 


 140[km/h]の場合、木星の上で遠投をすると飛距離は63mです
 
木星の大気はそのほとんどが水素とヘリウムで構成されています。

地球の大気を構成する窒素、酸素と比べ密度は1/10程度であり、
従ってボールに作用する空気力も1/10程度となります。
  
そのため、ほぼ今回の計算結果通りの軌道になると考えられます。
  

 [計算結果2おわり]


  
63m、全然飛びません。プロならポテンヒットの飛距離です。

  
  

では、また。



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2020年2月15日土曜日

第3回 軌道シミュレータver.2 -自由落下運動-



  



エクセルで作った軌道シミュレータver.1に、重力の効果を追加しver.2にアップデート
します。
 
 
地球上の全ての物体には重力が作用します。
 
もちろん野球のボールにもです。

ボールの軌道は重力の法則に支配されます。
 

重力があるとボールは下向きに一定の力を受けるため、軌道は放物線を描きます。
 
このような動きを「自由落下運動」と呼びます。

ボールに作用する重力は、ボールの重量(質量)mに重力加速度をかけた値になります。
重力加速度は重力の強さを表す定数で、地球上ではg=9.8[m/s^2]です。

 
  
ボールの加速度は作用する重力をボールの重量で割った値となるため
重力加速度の値そのものになります。

加速度 = 重力/重量 = (重量×重力加速度)/重量 = 重力加速度(定数)
          =mg/m = g

これは物体を空中に落とすと、重い物でも軽い物でも同じように
1秒後には秒速9.8[m/s]まで加速されるという意味です。

ガリレオがピサの斜塔で行った実験が有名ですが、物理学において重力質量と慣性質量が
同じであることは決して自明のことではなかったので、大きな発見でした。



それでは数式化します。

なお、空気力は今回もなしです。

上記のように加速度は定数、つまり落下し始めてからの時間によって変化せず
ずっと同じ大きさです。
これは加速度を時間積分して変位量を求める計算を大変容易にしてくれます。

重力によるz方向変位量
 
 

[計算式]

x軸をホーム方向、y軸を一塁方向、z軸を上空方向と定義

zに上記の重力による項が追加されます。その他はver.1と同様です。

ここで、
v0:リリース時の球速、x0,y0,z0:リリース位置、
θ:上向きリリース角度、φ:横向きリリース角度、t:リリース後経過時間

[計算式おわり]


ボールの空間位置x,y,zを時間tの関数として数式化できたので
これをエクセルへ入力していきます。

単位系はSI単位系です。

[エクセル入力]


まず初期条件を入力。
ver.1の時と同じにしました。
 

次に重力加速度を追加します。
 
 
次に時間tを少しずつ増加させて複数入力。
0.02秒おきにしました。
     
 
そして、x,y,zの数式を入力。
角度の単位は数式中で、度(deg)ではなく、ラジアン(rad)になることに注意です。

x位置(①式)
ver.1と同じです。
 
y位置(②式)
ver.1と同じです。
 
z位置(③式)
重力による項が追加されます。
 

 
これで各時刻におけるボール位置x,y,zの値が計算できました。

[エクセル入力おわり]



計算した値を、散布図でグラフ表示します。

[エクセルグラフ化]


こんな感じです。グラフ中の点は0.02秒ごとのボール位置を表します。
 
 
無重力のver.1と重ねてみました。

よく落ちています。

[エクセルグラフ化おわり]



ちなみにpitch f/xなどのMLB実測データ変化量は
この自由落下軌道を基準にした値で表されています。



では、また。




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2020年2月7日金曜日

第2回 ストライクゾーンの幅はどのくらいか





ストライクゾーンの横幅は、ホームベースの横幅で、43.1cmです。

実際に投げてみると分かりますが、ストライクを取るのは結構難しいものです。

さて、このストライクゾーンの横幅は、
投手のリリース角度に換算すると何度ぐらいの幅になるでしょうか?
 
 
前回エクセルで作成した軌道シミュレータver.1で計算してみたいと思います。

 
 

[計算結果]

 
プレート中央から横へ50cm、前方へ1.8mの位置でリリースした場合、
アウトコースおよびインコースをぎりぎりかすめる軌道を計算した結果は
以下のようになりました。

アウトコースいっぱいへのリリース角度は2.65度、インコースいっぱいへのリリース
角度は0.87度です。
ストライクゾーンに入れるためにはこの範囲内にリリース角度を調整してやる必要が
あります。


従って、ストライクゾーンの横幅は、リリース角度に換算すると1.78(=2.65-0.87)
となります。
 

 

[計算結果おわり]

 
1.78度。かなり狭いですね。

18.44m先にある幅43.1cmのストライクゾーンを狙うピッチングという行為は
これほどの高い精度を必要とします。


参考にサッカーのPKで同様の計算してみると
10.97m先にある横幅7.32mのゴール枠内に入れるためには、
キックの角度を34度の範囲内に調整すればよいという結果になります。

ストライクゾーンの約20倍の角度幅です。

乱暴に言ってしまえば、投手がストライクを取るのはPKを入れる20倍も難しいのです。




さて、
プロ野球中継で打たれたとき解説者がよく「ボール一個分あまく入った」と言いますが、

このボール一個分の幅はリリース角度だと何度くらいになるでしょうか。

[計算結果2]


 先ほどと同様の条件で軌道を計算した結果、
以下のようになりました。

アウトコースいっぱいへのリリース角度は2.65度、
そこからボール一個分あまいコースへのリリース角度は2.40度です。

従ってボール一個分の横幅は、リリース角度に換算すると0.25(=2.65-2.40)です。

   

 
 

[計算結果2おわり]

      
わずか0.25度ずれただけであまいと言われる。
 
プロの世界はシビアです。



では、また。




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