2020年8月29日土曜日

第31回 ナゴドと東京ドームどちらが広いのか?

 

日本一ホームランの出ない球場            

ナゴヤドームは日本一ホームランの出にくい球場です。

一方で、東京ドームではホームランが出やすく、空調で追い風を起こしていると噂が立つほどです。

しかし両翼、センターフェンスまでの距離はどちらも同じで100m,122mです。


ではなぜ、ナゴヤドーム方がホームランが出にくいのでしょうか?


ナゴヤドーム                     

ナゴヤドームは1997年に開場した中日ドラゴンズが本拠地としている球場です。

名前の通り愛知県の名古屋市にあり、上空から見るとまん丸の形をしています。

過去にはAKB総選挙やボブサップvs曙が行われ、野球以外のイベントにも広く使用されます。

そんなナゴヤドームですが、外野フェンスの形状は下図の青線のようになっています。

一見、外野フェンスはホームベースを中心点とした円弧のように見えますが、そんなことはありません。

両翼100m、センター122mですので、ホームベースから外野フェンスまでの距離は一定ではありません。

引張ったり流し打ったりするよりも、センター返しした時の方が打球が速く遠くまで飛ぶため、野球場はどこも両翼よりもセンターの方が広く設計されています。


美しい円弧                      

しかしそれでも、円弧に見えます。

なので作図して調べてみました。


その結果、やっぱり円弧でした。

ただし、その円の中心点はそれはホームベースではなく、センターラインとインフィールドラインの交点あたりにありました。

ホームベースからピッチャープレートまでが18.44mであり、インフィールドラインはピッチャプレート中央を中心点とした半径約29mの円弧のため、ナゴヤドームの外野フェンスは半径74.5m(=122-18.44-29)の円弧になります。


また、外野フェンスの円弧の中心点は、ナゴヤドームという建造物全体の中心点と一致しています。

外観、5階席、外野席、そして外野フェンス。すべてが同じ点を中心点とした円弧、すなわち同心円になっています。

美しいですね。

同心円の幾何学的美しさを持つと同時に、両翼100m,センター122メートルというプロ野球の標準的寸法もクリアしている。

素晴らしい設計です。竹中工務店はいい仕事をします。


  • ナゴヤドームの外野フェンスは半径74.5mの円弧である。
  • その中心点は建物全体の中心点と一致しており、同心円になっている。

東京ドーム                     

東京ドームは東京都文京区にある、読売巨人軍が本拠地としている野球場です。

かつては日本ハムファイターズも本拠地としていましたが、何か不満があったようで北海道へと移転しました。

開場は1988年と古く、外野席の足元のコンクリートにはひび割れも多く見られます。

そんな東京ドームですが、外野フェンスの形状は下図の橙線のようになっています。


両翼とセンターを結ぶ右中間、左中間のフェンスをみると随分と真っすぐです。

ナゴヤドームの円弧の丸みとは対照的です。


凹んだ正方形                     

今では誰も言いませんが、開場当時はビッグエッグ(巨大な卵)という公式ニックネームがついていました。

しかし上空から見た形状は卵型ではなく、四角い形をしています。

内装を見ると内野席が非常に広く、外野席は極端に狭くなっています。

外野フェンスを含めたフェアゾーンをみるとやはり四角く、正方形に近いように見えます。

正方形なら対角線つまりホームからセンターまでの距離は100m×√2=141.4mとなるはずですが、センターまでの距離は122mなので実際は正方形からセンターを凹ませた形になっ
ています。

すこしいびつな形です。


  • 東京ドームの外野フェンスはまっすぐである。
  • フェアゾーンは正方形からセンターをへこませたような形である。


比較                         

ナゴヤドームと東京ドームは両翼、センターの距離は同じでも、外野フェンスの形状が大きく異なることが分かりました。

両者を重ねることでどのくらい違うのか見てみます。

下図のようになりました。

ホームから右中間、左中間フェンスまでの距離がまるで違います。

ナゴヤドームの円弧で描かれた外野フェンスは、その深いふくらみでもってホームランになるはずの大飛球をフェンス直撃のツーベースヒットに変えてしまいます。

東京ドームの外野フェンスは、浅いふくらみによりフェンス手前で捕られてしまうはずの外野フライをホームランに変えてしまいます。


*****
統一しろよと怒る人もいるかもしれませんが、メジャーリーグでは球場による違いはもっとばらばらです。

グリーン・モンスターやタルズ・ヒルなどひどいものですが、逆に名物として親しまれています。

多様性も含めて野球を楽しめるのが一番ではないでしょうか。




では、また。






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2020年8月22日土曜日

第30回 東京ドームは気圧により打球が飛ぶのか?



気圧の違い                      

クアーズ・フィールドという球場を知っていますか?

日本では野茂英雄投手が2度目のノーヒットノーランを達成した舞台として有名です。

もう一つMLB本拠地の中で最もよく点が入るバッター有利な球場としても有名で、それゆえ野茂投手の偉業は米国でも驚きを持って報じられました。

この球場がバッター有利である理由として、標高1600mとかなり高い場所にあり、そのため「気圧が低いのでボールがよく飛ぶ」ということが言われています。


ところで、気圧のせいでボールが飛ぶと噂されている球場は、日本にもあります。

東京ドームです。

天井を膨らませるために外よりも0.3%気圧を高くしてあり、「気圧が高いのでボールがよく飛ぶ」と言うわけです。


クアーズフィールドでは「気圧が低いから飛ぶと」言われ、東京ドームは「気圧が高いから飛ぶと」言われている。

矛盾しているのでどちらかあるいは両方が間違っているのでしょう。

そこで、今回は打球の軌道計算をして気圧の違いにより打球の飛距離がどれくらい変わるのか計算し、本当に東京ドームは気圧のせいで打球が飛ぶのか検証してみます。


気圧が飛距離に影響する理由              

気圧が打球飛距離に影響する理由は、以下のようです。 

・気圧Pが上がると、空気密度ρが上がる
・ボールが空気から受ける力(抗力D、揚力L)は、空気密度ρに比例する。
 ⇒そのためボールが空気から受ける力(抗力D、揚力L)は、気圧Pによって変化する。 

気圧Pの違いにより、抗力と揚力が大きく変わるのであれば打球の飛び方も変わってきます。

また、抗力が下がれば抵抗が減り飛距離が増えますが、揚力が下がればバックスピン回転で上に浮き上がろうとする力が弱くなり、早く地面に落ちるようになるため、飛距離が低下します。
抗力と揚力、どちらの変化の影響が大きいかによっても打球の飛び方が変わってきます。


気圧と空気密度                    

気圧P
気圧は高度ゼロメートルではP=1atmです。

高度が上がる程気圧は下がり、クアーズフィールドのある標高1600mではP=0.833atmまで下がります。

一方、東京ドームでは0.3%高めてあるので、P=1.003atmです。

空気密度ρ
気圧Pが変わると、空気密度ρが変わります。
気圧が高いと空気が圧縮されるので空気密度が上がるわけです。

空気密度は以下の式で計算されます。

ρ=1.293×P/(1+T/273.15)

ここでTは気温で、今回は20度で一定とします。

この式で計算すると空気密度は以下のようになります。

標準       :ρ=1.293×1/(1+20/273.15)=1.205 [kg/m^3]
クアーズフィールド:ρ=1.293×0.8333/(1+20/273.15)=1.003 [kg/m^3]
東京ドーム    :ρ=1.293×1.0003/(1+20/273.15)=1.208 [kg/m^3]

・クアーズフィールドの空気密度は、標準大気より17%低い。
・東京ドームの空気密度は、標準大気より0.2%高い

打球軌道計算                     

それでは、打球の軌道計算を行います。
打球速度は140km/h、回転数は2500rpmで完全なバックスピンとします。
rpmは一分間あたり回転数の単位で、2500rpmだと平均的なプロ投手の4シームより少し多めぐらいです。

これらの条件を一定にして、上記で計算した空気密度だけを変えて計算します。

[計算条件]

 バックスピン
 球速:v0=140[km/h]、打球角度:θ=30度(上向き)
 ミートポイント x0=0m(前方)、z0=1.0m(高さ) 
 ボール回転軸角度 θs=90度、Φs=-90度
 抗力係数 CD=0.41、揚力係数CL=0.22

 空気密度 ρ=1.205, 1.003, 1.208 [kg/m^3]

[計算結果]

各球場の気圧における空気密度で計算した、打球軌道は以下のようになりました。
クアーズフィールドと東京ドームの打球軌道

・クアーズフィールドでは、5.2m飛距離が増える
・東京ドームでは、飛距離は変わらない
・気圧が下がると、飛距離は伸びる

やはり飛ぶ球場だった                 

気圧差により、クアーズフィールドでは空気密度が標準よりも17%も小さくなります

空気密度が低いということは、空気が薄いということです。
飛翔中ボールにぶつかってくる空気分子の数がそれだけ、少なくなるので空気抵抗が減ることになります。

そのため、今回の計算において飛距離が5.2m、率にして5.1%ほど伸びました

一方でバックスピン回転による揚力も減るため、頂点の高さが標準より低くなっていますが、その差はわずか40cm程であり、飛距離には対して影響を与えないようです。

クアーズフィールでは気圧が低いことにより打球飛距離がアップするというのは本当、でした。


調整済み                       

標高のせいで飛距離が伸びるというのは、球場を設計した人達も事前に理解していたようで、クアーズフィールドは少し広めに作られています。

一番狭い左翼フェンスまでで、105.8mもあります。普通の球場なら100mです。

今回計算した打球軌道では、標準の打球は100m地点のフェンスを、クアーズフィールドの打球では105.8m地点のフェンスを、どちらもぎりぎり越えてホームランになります。

ホームランの出やすさに対してはちゃんと調整がなされているようです。

とはいえ、外野のフェアゾーンが広がればそれだけヒットになる確率は上がるので、やはり打者有利のバッターズパークであることは変わらないようです。

気圧が高いから、は迷信               

一方、東京ドームに関しては飛距離は全く増えていません。 
むしろほんのわずか、9cmほど飛距離がは落ちているくらいです。

気圧が上がっても飛距離は増加しない、ということが分かりました。

東京ドームでホームランが出やすい理由として「気圧が高いから」というのは完全な迷信です。

別の理由がある                    

それでも実際にホームラン発生率が他球場よりも高いのであれば、それは単にアンチのひがみではなく、何かしら理由があるはずです。

その一つは明らかで左中間、右中間の狭さです。
東京ドームは上から見ると四角くなっており左中間、右中間のふくらみがほとんどありません。
そのため、ポール際でなくてもホームランを量産することができます。


もう一つには、空調疑惑があります。

実際に試合で守ったことある大島選手(中日)が生放送ゲスト解説によばれたときに「東京ドームは、巨人の攻撃のときだけ、センター方向に追い風が吹く」と証言し、日テレアナウンサーと他の解説者を凍り付かせていました。

それは、滑ってしまったつまらないジョークだったのかもしれません。
それは、球界の未来を思った命がけの告発だったのかもしれまん。




では、また。







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2020年8月15日土曜日

第29回 真夏の打球は春先よりも飛ぶのか?



夏はホームランがでやすい?             

猛暑日が続いていますが、皆さん体調いかがでしょうか?

例年ならば夏の甲子園が行われている季節です。

真夏の炎天下、気温35度を超えるグラウンドの上で全身から玉のような汗を吹きだしながら、必死に、戦う高校球児たち。

負けたら終わりのトーナメントで一試合でも多く今の仲間たちと戦うためにチームの勝利を追い求める選手、もいれば、プロのスカウトに見てもらえるラストチャンスと、少しでも印象に残るようホームランを狙う、野心家、もいます。


ところで、「春先よりも、気温の高い夏の方が打球が飛んでホームランになりやすい」と言う話をたまに耳にします。


その可能性はあると思います。


なぜなら、気温が上がれば、空気密度は下がるからです。
空気密度が下がるというこは、空気抵抗が減るということです。

空気密度が下がると打球飛距離が増加することは、クアーズ・フィールドの例で明らかになっています。
(クアーズフィールの計算もしたのでまた後日投稿しますね。)

そこで、今回は春先と真夏、気温による空気密度の差により打球飛距離がどのくらい変わるのかを軌道計算により検証し、夏の方がホームランが出やすいのか真偽を確かめてみます。


気温と空気密度の関係                

気温が高いと空気が膨張するため、空気の密度は下がります。 

空気密度ρと気温の関係は以下の式で表されます。

ρ=1.293×P/(1+T/273.15)

ここでTは気温で、今回は春先は20℃、真夏は35℃とします。
また、Pは気圧で、今回は春先は1atm、真夏は少し下がって0.993atmとします。(*)

この式により計算すると、空気密度は以下のようになります。

春先(20℃):ρ=1.293×1/(1+20/273.15)=1.205 [kg/m^3]
真夏(35℃):ρ=1.293×0.993/(1+35/273.15)=1.138 [kg/m^3]

真夏の空気密度は春先より5.6%低くなります。(1-1.138/1.205=-0.056)

(*)夏になると天気予報でよく「高気圧に覆われて晴天が続きます」などと言いますがが、それは周りのエリアと比べて相対的に高いということで、他の季節より高いというわけではないそうです。

打球軌道計算                    

それでは、準備ができましたので、打球の軌道計算を行います。 

打球速度は140km/h、回転数は2500rpmで完全なバックスピンとします。
rpmは一分間あたり回転数の単位で、2500rpmだと平均的なプロ投手の4シームより少し多めぐらいです。

これらの条件を一定にして、上記で計算した空気密度だけを変えて計算します。

[計算条件]

 バックスピン
 球速:v0=140[km/h]、打球角度:θ=30度(上向き)
 ミートポイント x0=0m(前方)、z0=1.0m(高さ) 
 ボール回転軸角度 θs=90度、Φs=-90度
 抗力係数 CD=0.41、揚力係数CL=0.22

 空気密度 ρ=1.205, 1.138 [kg/m^3]

[計算結果]

春先と真夏の気温における空気密度で計算した、140km/hで上向き30度に打ち上げた打球の軌道は以下のようになりました。

気温による打球軌道の違い

・真夏の方が春先よりも、打球飛距離は1.7m伸びる。(=108.1-106.4)


ホームラン激増とはならない             

春先20℃のとき飛距離106.4mだった打球が、真夏の35℃になると108.1mまで増加する。
その差は1.7mで、飛距離の増加率でいうと1.2% です。(108.1/106.4=1.012)

飛距離が増えるのは事実ですが、そこまで大きな差は出ませんでした。

そのため、春の甲子園と夏の甲子園で大会全体のホームラン発生率を大きく変化させるほどの影響力はなさそうです。

紙一重のプレーに影響を与える            

影響があるのはある程度きわどい、ぎりぎりのきわどいプレーだけに限られるようです。

フェンス最上段直撃の2ツーベスが最前列へのホームランになったり、飛びついた外野手のグラブに収まる大飛球が芝の上に跳ねたり、外野手の強肩でアウトになるタッチアップがぎりセーフになったりと、きわどい紙一重のプレーほどこのわずか1.2%の飛距離の増加により影響を受けてしまいます。

そして、負けたら終わりの一発勝負では、そのワンプレーでドラマの結末が変えられてしまうこともあるでしょう。


では、また。






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2020年8月8日土曜日

第28回 ホームランを打つために必要な打球速度



 打球が速ければ遠くまで飛ぶ 

ホームランを打ちたいのなら、打球の飛距離を大きくすればいい。

打球の飛距離を大きくするためには打球速度を上げたらいい。

打球が速いほど遠くまで飛ぶ。

それは、間違いない。まぎれもない事実。

そこで今回は、打球の軌道を計算して打球速度によりどれくらい飛距離増えるのか、さらにホームランを打つためには何キロ以上の打球速度が必要なのかを明らかにする。


 打球の軌道計算 

打球角度は上向き30度、回転軸は完全なバックスピンで回転数は2500rpmとする。

打球速度を変数として打球の軌道計算をする。

[計算条件]

 バックスピン
 球速:v0=130-160[km/h]、打球角度:θ=30度(上向き)
 ミートポイント x0=0m(前方)、z0=1.0m(高さ) 
 ボール回転軸角度 θs=90度、Φs=-90度、回転数 N=2500rpm
 球速 v0=130km/h (SP=0.27):抗力係数 CD=0.415、揚力係数CL=0.237
 球速 v0=140km/h (SP=0.25):抗力係数 CD=0.411、揚力係数CL=0.222
 球速 v0=150km/h (SP=0.23):抗力係数 CD=0.407、揚力係数CL=0.209
 球速 v0=160km/h (SP=0.22):抗力係数 CD=0.404、揚力係数CL=0.197

 rpmは一分間当たりの回転数を表す単位。
 スピンパラメータSPは球速と回転数の比に比例する値で、大きいほど抗力係数CDおよび揚力係数CLが増加する。

[計算結果]

上向き30度に2500rpmのバックスピン回転がかかった打球を打ち上げた時の、各打球速度における軌道計算結果は以下のようになった。

打球速度の飛距離の相関

飛距離は打球速度にほぼ比例する結果となった。

 
 

 最低でも140km/hは必要 

各打球速度の結果を見て行く。

打球速度130km/hの飛距離は96mである。
この打球はホームから最も近い100m離れた両翼フェンスまで届かず、手前でワンバウンドする。
つまり、130km/hの打球ではホームランを打つことはできない

打球速度140km/hでは飛距離は106mであり、この打球はホームから100mの位置にある高さ5mの両翼フェンスをぎりぎり越えてホームランとなる。

しかし、これがセンター方向への打球ならば、ホームから122m先にあるセンターフェンスまでは届かない。
115m程先にある左中間、右中間のフェンスにも届かない。

140km/hの打球は最も狭いポール際でのみホームランとなる。

従ってこの140km/hという打球速度が、ホームランになるかならないかの境界線、閾値となる。

つまり、100m以上の飛距離を出してホームランを打つにためには最低でも、打球速度140km/h以上が必要である。


事実MLBのトラックマンのデータによれば、打球速度140km/h以下でのホームランは、ほぼゼロである。

(「ほぼ」というのは、ランニングホームランがあるため。)



 160km/h超ならどこにだって打てる  

打球速度が上がり、150km/hになると飛距離はさらに伸びて117mとなる。 

打球速度が160km/hに達すると、飛距離は126mまで増加する。
つまり、160km/hの打球はホームから最も離れた122m先にある高さ5mのセンターフェンスでさえ超えて行く。

プロの球場では大きめのもので、両翼が最も狭く100m、右中間と左中間は116m、センター方向が最も深く122mとなっている。

そのため、この160km/hという打球速度がホームランになるか否かの、もう一つの閾値となる。

140km/hの打球では最も狭い両翼付近でしかホームランにならず、140km/hから160km/hの間えはフェンスまでの距離によって、したがって打球方向によって、ホームランになったりならなかったりする。
これが、160km/h以上になると打球方向によらず、フェアゾーンのどこへ打ってもホームランとなる


 だから大谷翔平はセンター方向へHRを打つ 

事実、打球速度がメジャーリーグの中でもトップクラスである大谷翔平はセンター方向へのホームランの割合が高い

彼の平均打球速度は149km/hであるが、ゴロを除きライナーかフライに限定すればその平均打球速度は157km/hまで跳ね上がる。

多くのバッターにとってセンターへのホームランは年に数回しかない会心の当たりに限定されるため、ホームランを量産するためには距離の短いポール際を狙って無理に引っ張らなければならない。

しかし大谷の場合は、自身の平均より少しだけいい当たりをすれば打球速度は160km/hを超えるので、どの方向に打ってもホームランになる

そのため、打球方向を気にする必要がなく、「いい当たりをすること」だけを考えて打つことができる。

その結果、タイミングを合わせやすく、自然に打ち返せるセンター方向への打球が増えるのだと推測される。


 打球速度に合わせた戦術 

今回の結果から、自分の打球速度が分かれば、それに合わせたバッティングスタイルを選択することができる。

打球速度が140km/h未満ならホームランは打てないので、あきらめてアベレージヒッターを目指すか、あるいは打球速度を上げるためのフォーム改造や筋力トレーニングを行うべきである。

打球速度が150km/h程度なら、低目や外角でもどのコースの球に対しても、すくい上げて引っ張り込んでポール際に打球を打ち上げる技術を身に付けるべきである。

打球速度が160km/h以上なら、芯でとらえる確率を上げてどの方向でも良いから強く角度の良い打球を飛ばす確率を高める技術を磨くべきである。





では、また。






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2020年8月3日月曜日

第27回 ホームランを打つために強いバックスピン回転は必要なのか



 バックスピンで飛距離アップ? 


ホームランを打ちたいのなら、打球の飛距離を大きくすればいい。

そのためにどうしたらいいか。

「バックスピンをかけたらホップして飛距離伸びるんじゃないか?」

「ボールの中心より少し下打った方が飛ぶらしい。」

こんな意見を時々耳にすr。

確かに、バックスピン回転の増加により打球の飛距離が増加するといことはありえそうである。

そこで今回は、打球の軌道を計算して回転数が飛距離に与える影響を明らかにする。


 打球の軌道計算 


打球速度は140km/h、打球角度は上向き30度とする。

回転軸は完全なバックスピンとして、回転数を変数として打球の軌道計算をする。

[計算条件]

 バックスピン
 球速:v0=140[km/h]、打球角度:θ=30度(上向き)
 ミートポイント x0=0m(前方)、z0=1.0m(高さ) 
 ボール回転軸角度 θs=90度、Φs=-90度
 回転数 N=1500rpm (SP=0.15):抗力係数 CD=0.39、揚力係数CL=0.14
 回転数 N=2500rpm (SP=0.25):抗力係数 CD=0.41、揚力係数CL=0.22
 回転数 N=3500rpm (SP=0.35):抗力係数 CD=0.43、揚力係数CL=0.30
 回転数 N=5000rpm (SP=0.50):抗力係数 CD=0.48、揚力係数CL=0.39

 rpmは一分間当たりの回転数を表す単位。
 1500rpmはプロの投手でいうとチェンジアップ程度の低回転数で、2500rpmはスライダーほどの高回転数。
 3500rpmや5000rpmはもはや投球ではかけることができないレベルの超高回転である。


[計算結果]

上向き30度に打球速度140km/hで打ち上げた時の軌道計算結果は、以下のようになった。

回転数ごとの打球飛距離

2500rpmでは飛距離106.4mとなった。
この打球は両翼のホームから100m先にある高さ5mのフェンスをノーバウンドで超え、ホームランとなる。

 回転数の増加はたいして意味がない 

他の回転数の結果も詳しく見て行く。

3500rpmの飛距離は108.5mとなった。
これもホームランとなるが、1000rpmも回転が増えた割には飛距離が2.1mしか増加していない

5000rpmでは飛距離108.5mとなった。
さらに1500rpm回転数が増えたのだが、飛距離は変わらない。

回転数が増えるにつれ揚力は増加する。そのため頂点の高さは回転数に従い増加している。
しかし飛距離は伸びない。

なぜかというと、回転数の増加により揚力だけでなく、ブレーキとして働く抗力も増加してしまうからである。

「回転数が多いほど空気抵抗が減る」というイメージがあるが、実際には逆であり回転数が増えるほど抗力係数CDは増加する。

事実、回転数の多い藤川球児投手の4シームは、トラックマンのデータによると、プロの平均的な投手よりホップ量が大きい一方で、初速と終速の差は平均的な投手より2km/hほど多いのである。


(計算結果まとめ)
・2500rpmは飛距離106.4mでホームランとなる。
・3500rpmは飛距離108.5mでホームランとなる。2500rpmとあまり変わらない。
・5000rpmは飛距離108.5mでホームランとなる。3500rpmと変わらない。
・1500rpmは飛距離102.4mでホームランにはならないが、フェンス直撃の打球となる。

⇒回転数は打球飛距離にそれほど影響を与えない。
 回転数増加により揚力増加のメリットと抗力増加のデメリットが打ち消し合うため。

そのため、3500rpmまでは回転数増加により多少は飛距離が伸びるが、効果は小さい。
また、3500rpm以上では回転数が増えても飛距離は伸びない。



 高回転数はヒットを減らしてしまう 

また、これらの打球は、センター方向へのものであれば122m先にあるフェンスまで届かず、フェアゾーンに落ちる。
そのとき回転数が多いほど打球は高く上がり、落ちてくるまで時間がかかるため外野手にノーバウンドで捕球される確率が上がる。

2500rpmでは打ってから地面に落ちるまで4.91秒かかる。

それに対して3500rpmでは5.25秒かかり、0.34秒余計に外野手に打球を追う時間を与える。
この0.34秒の間に時速28km/hで走る外野手は2.6m移動する。
その結果、飛距離が2.1m伸びるアドバンテージは食いつぶされてしまう。

5000rpmでは飛距離は増えずに落下までの時間だけが増えるため、外野フライの確率はさらに上がる。

3500rpm以上ではフェンスまで届かない時、回転数が多いほど外野フライになりやすく、ヒットの可能性は下がる。

打球が外野フェンスを越えない場合、回転数を増やすと打球が高く上がり、落下までの時間が増加し、その結果ヒットにならず外野フライに終わる可能性が高くなる



 回転数は増やそうとしなくてよい 

打球の回転数を増やすためにはボールの中心からより外れた位置を打つことが必要である。しかし、それは打球速度の低下をともなう。

バッティングにおいて回転数と打球速度はトレードオフの関係にある。

チェンジアップ並みの1500rpmでさえ飛距離は102.4mである。ホームランにはならないものの、フェンス直撃の打球になる。

高回転でなくても、ある程度の回転があれば十分な飛距離を得られる

加えて上述のように回転数が大きすぎる場合とメリットはなく、デメリットだけが増える

そのため、回転数増加は打球速度を犠牲にしてまで追い求める価値のあるものではない


打球をドライブさせるようなトップスピンがかかってしまえば話は別であるが、これを心配する必要はない。
なぜなら打球を水平よりも上向きに打つために、打者には無意識でボールの中心よりもわずかに下を打つ習慣が身についており、そのため打球には自然とバックスピン回転がかかるからである。


高回転数がプレーに与える影響は投球と打球では異なる。

バッティングでは回転数増加による飛距離増加の恩恵は小さく、打球が高く上がり外野フライになるデメリットの方が大きい。

そのため飛距離の出るホームランを打ちたい打者は、回転のことなど気にせず、打球速度と打球角度のみ考えてあとは思い切りスイングすばよいのである。




では、また。





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