2020年8月3日月曜日

第27回 ホームランを打つために強いバックスピン回転は必要なのか



 バックスピンで飛距離アップ? 


ホームランを打ちたいのなら、打球の飛距離を大きくすればいい。

そのためにどうしたらいいか。

「バックスピンをかけたらホップして飛距離伸びるんじゃないか?」

「ボールの中心より少し下打った方が飛ぶらしい。」

こんな意見を時々耳にすr。

確かに、バックスピン回転の増加により打球の飛距離が増加するといことはありえそうである。

そこで今回は、打球の軌道を計算して回転数が飛距離に与える影響を明らかにする。


 打球の軌道計算 


打球速度は140km/h、打球角度は上向き30度とする。

回転軸は完全なバックスピンとして、回転数を変数として打球の軌道計算をする。

[計算条件]

 バックスピン
 球速:v0=140[km/h]、打球角度:θ=30度(上向き)
 ミートポイント x0=0m(前方)、z0=1.0m(高さ) 
 ボール回転軸角度 θs=90度、Φs=-90度
 回転数 N=1500rpm (SP=0.15):抗力係数 CD=0.39、揚力係数CL=0.14
 回転数 N=2500rpm (SP=0.25):抗力係数 CD=0.41、揚力係数CL=0.22
 回転数 N=3500rpm (SP=0.35):抗力係数 CD=0.43、揚力係数CL=0.30
 回転数 N=5000rpm (SP=0.50):抗力係数 CD=0.48、揚力係数CL=0.39

 rpmは一分間当たりの回転数を表す単位。
 1500rpmはプロの投手でいうとチェンジアップ程度の低回転数で、2500rpmはスライダーほどの高回転数。
 3500rpmや5000rpmはもはや投球ではかけることができないレベルの超高回転である。


[計算結果]

上向き30度に打球速度140km/hで打ち上げた時の軌道計算結果は、以下のようになった。

回転数ごとの打球飛距離

2500rpmでは飛距離106.4mとなった。
この打球は両翼のホームから100m先にある高さ5mのフェンスをノーバウンドで超え、ホームランとなる。

 回転数の増加はたいして意味がない 

他の回転数の結果も詳しく見て行く。

3500rpmの飛距離は108.5mとなった。
これもホームランとなるが、1000rpmも回転が増えた割には飛距離が2.1mしか増加していない

5000rpmでは飛距離108.5mとなった。
さらに1500rpm回転数が増えたのだが、飛距離は変わらない。

回転数が増えるにつれ揚力は増加する。そのため頂点の高さは回転数に従い増加している。
しかし飛距離は伸びない。

なぜかというと、回転数の増加により揚力だけでなく、ブレーキとして働く抗力も増加してしまうからである。

「回転数が多いほど空気抵抗が減る」というイメージがあるが、実際には逆であり回転数が増えるほど抗力係数CDは増加する。

事実、回転数の多い藤川球児投手の4シームは、トラックマンのデータによると、プロの平均的な投手よりホップ量が大きい一方で、初速と終速の差は平均的な投手より2km/hほど多いのである。


(計算結果まとめ)
・2500rpmは飛距離106.4mでホームランとなる。
・3500rpmは飛距離108.5mでホームランとなる。2500rpmとあまり変わらない。
・5000rpmは飛距離108.5mでホームランとなる。3500rpmと変わらない。
・1500rpmは飛距離102.4mでホームランにはならないが、フェンス直撃の打球となる。

⇒回転数は打球飛距離にそれほど影響を与えない。
 回転数増加により揚力増加のメリットと抗力増加のデメリットが打ち消し合うため。

そのため、3500rpmまでは回転数増加により多少は飛距離が伸びるが、効果は小さい。
また、3500rpm以上では回転数が増えても飛距離は伸びない。



 高回転数はヒットを減らしてしまう 

また、これらの打球は、センター方向へのものであれば122m先にあるフェンスまで届かず、フェアゾーンに落ちる。
そのとき回転数が多いほど打球は高く上がり、落ちてくるまで時間がかかるため外野手にノーバウンドで捕球される確率が上がる。

2500rpmでは打ってから地面に落ちるまで4.91秒かかる。

それに対して3500rpmでは5.25秒かかり、0.34秒余計に外野手に打球を追う時間を与える。
この0.34秒の間に時速28km/hで走る外野手は2.6m移動する。
その結果、飛距離が2.1m伸びるアドバンテージは食いつぶされてしまう。

5000rpmでは飛距離は増えずに落下までの時間だけが増えるため、外野フライの確率はさらに上がる。

3500rpm以上ではフェンスまで届かない時、回転数が多いほど外野フライになりやすく、ヒットの可能性は下がる。

打球が外野フェンスを越えない場合、回転数を増やすと打球が高く上がり、落下までの時間が増加し、その結果ヒットにならず外野フライに終わる可能性が高くなる



 回転数は増やそうとしなくてよい 

打球の回転数を増やすためにはボールの中心からより外れた位置を打つことが必要である。しかし、それは打球速度の低下をともなう。

バッティングにおいて回転数と打球速度はトレードオフの関係にある。

チェンジアップ並みの1500rpmでさえ飛距離は102.4mである。ホームランにはならないものの、フェンス直撃の打球になる。

高回転でなくても、ある程度の回転があれば十分な飛距離を得られる

加えて上述のように回転数が大きすぎる場合とメリットはなく、デメリットだけが増える

そのため、回転数増加は打球速度を犠牲にしてまで追い求める価値のあるものではない


打球をドライブさせるようなトップスピンがかかってしまえば話は別であるが、これを心配する必要はない。
なぜなら打球を水平よりも上向きに打つために、打者には無意識でボールの中心よりもわずかに下を打つ習慣が身についており、そのため打球には自然とバックスピン回転がかかるからである。


高回転数がプレーに与える影響は投球と打球では異なる。

バッティングでは回転数増加による飛距離増加の恩恵は小さく、打球が高く上がり外野フライになるデメリットの方が大きい。

そのため飛距離の出るホームランを打ちたい打者は、回転のことなど気にせず、打球速度と打球角度のみ考えてあとは思い切りスイングすばよいのである。




では、また。





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