2020年6月27日土曜日

第22回 ホップする4シーム(4)「ボールの球速とホップ量の関係」について検証してみた



 いつもより速い球を打つと、ボールの下を空振りする 

バッティングセンターでいつも100km/hの球を打っている人が、今日はなんか調子がいいからと140km/hに挑戦すると、だいたい空振りします。

ただ振り遅れるだけでなく、ボールのはるか下を振ってしまいます。

球速が速いと予想よりもボールが上に来るためです。

打者の目には80km/hの球は山なり、100km/hはまっすぐ、140km/hは上に向かって浮き上がるといった感じで認識されます。

そこで今回は、球速によりどれだけボールの軌道が上に行くのか、各球速における4シームの軌道をエクセルで作った軌道シミュレータver3.2で計算し比較することで、球速とホップ量の関係を明らかにしていきます。


 各球速における4シームの軌道計算 


ボールの球速を様々に変えた場合の軌道を計算します。

回転数は球速に比例し、スピンパラメータは球速に要らず一定と仮定し、抗力係数CDおよび揚力係数CLは球速によらず一定とします。

[計算条件]

 4シーム
 球速:v0=100~160[km/h]、リリース角度:θ=0.0度(水平)、Φ=2.5度(一塁方向)
 リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=-0.5m(三塁方向)、z0=1.8m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20

 ボール回転軸角度の定義








 θs : z軸からx-y平面に向かう角度(真上から水平に向かう角度)
 Φs : x軸からy軸に向かう角度(ホーム方向から一塁側へ向かう角度)


[計算結果]

ボール軌道の計算結果は以下のようになりました。
球速v0=100km/h, 120km/h, 140km/h, 160km/hの4つをグラフ表示します。

グラフ中の点は0.02秒ごとの、一番右の点のみホームベース後端(x=18.44m)におけるボール位置を表します。

球速とホップ量の関係

・ホームベース上で球速140km/hの球は、100km/hの球の95cm上を通過していきます。

 球速による上下位置差 

細かく見て行きます。

球速100km/hでは、軌道が大きく下へお辞儀しており、x=18.44mにおける高さはz=0.34mです。
これは膝の高さのボールです。

一方球速160km/hでは、ほぼ直線的な軌道で、x=18.44mにおける高さは1.51mです。
これは顔の高さのボールです。
100km/hの軌道の比較すると160km/hの軌道は118cm(=151-34)も相対的にホップしています。

球速140km/hでは、x=18.44mにおける高さが1.28mなので、100km/hに対して相対的に95cm(=1.28-0.34)ホップしています。


普段100km/hの球を打ちなれている打者が急に140km/hの球を投げられたら、ボールはいつもの軌道よりも95cmも上を通過していくため、まるでボールが浮き上がるかのような錯覚を受けるわけです。

いつも100km/hを打っている打者には「水平に投げられたボールは膝の高さに来る」という経験に基づく感覚を持っており、それにより軌道を予測して、低めに向けてスイングを開始します。
しかし水平に投げられた140km/hの球は実際には、高めのボールゾーンを通過していきます。
そのため予想は裏切られ、ボールのはるか下を空振りすることになります。

 球速による前後位置差 

さらに球速が速いほどリリースからホームベース到達までの時間が短くなるため、球速が速いほど振り遅れます。

各球速におけるリリースから0.4秒後までの軌道を表すと以下のようになります。


160km/hではリリースから0.4秒後にはもうホームベースを通過しています。

140km/hでは同時刻にまだx=16.5mあたりでホームベースの1.5m手前にいます。そしてリリースから0.45秒後にx=18.44mに到達します。160km/hの球と比べると2m、0.5秒ほど差を付けられてしまいます。

球速の違いにより生み出される前後位置差は、上下位置差以上に大きくなります。

球速が速いということは、上下位置差(ホップ)と前後位置差(タイミング)の両方を増す効果があるのです。


 各球速における相対的ホップ量 

上記の計算結果を、「100km/hの軌道に対して各軌道がどれくらい上を通過していくか」という「相対的なホップ量」でグラフ化してみました。

またリリースからホームベース上(x=18.44m)に到達するまでの時間も併せてて示します。



ご覧の様に、相対的なホップ量は球速が上がるほど増加します。

これは、逆に考えると球速を落とすだけで、軌道を下に変化させることができるということでもあります。

普段140km/hの4シームを投げている投手が同じ腕の振りの速さから、20km/h遅い120km/hの4シームを投げた時、相対的ホップ量は36cm低下します。
回転軸を変化させなくても、球速を落とすだけでタイミングをずらした上に、落ちる変化球として使えるわけです。
プロの投げているチェンジアップも、もしかしたらそういうもので、そこらへんの高校生が全力で投げる4シームと同じような球なのかもしれません。


 各球速における絶対的ホップ量 

ここまで球速の異なる4シーム同士の軌道を比較し、相対的なホップ量を見てきました。

トラックマンやラプソードなど最新の機器で測定されるホップ量は、これとは異なり、「同じ球速同士で、揚力が働かない自由落下軌道と比べた場合のホップ量」です。

これをここでは便宜上、「絶対的ホップ量」と呼ぶことにします。

次は各球速における絶対的ホップ量を計算します。


[計算条件2]

 4シーム
 球速:v0=100~160[km/h]、リリース角度:θ=0.0度(水平)、Φ=2.5度(一塁方向)
 リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=-0.5m(三塁方向)、z0=1.8m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20

 自由落下
 球速:v0=100~160[km/h]、リリース角度:θ=0.0度(水平)、Φ=2.5度(一塁方向)
 リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=-0.5m(三塁方向)、z0=1.8m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.00

自由落下は揚力係数以外は4シームと同じです。

[計算条件2終わり]


[計算結果2]

ボール軌道の計算結果は以下のようになりました。
球速v0=140km/h, 160km/hの2つのグラフ表示をします。

グラフ中の点は0.02秒ごとの、一番右の点のみホームベース後端(x=18.44m)におけるボール位置を表します。

140km/hの4シームのホップ量
球速140km/hでは、4シームのx=18.44mにおける高さは1.28m、自由落下の高さが 0.83mです。
その差をとると絶対的ホップ量は45.0cm(=128-83)となります。


160km/hの4シームのホップ量
球速160km/hでは、4シームのx=18.44mにおける高さは1.51m、自由落下の高さが 1.06mです。
その差をとると絶対的ホップ量は44.8cm(=151-106)となります。

140km/hの場合とほとんど同じです。


各球速における絶対的ホップ量をグラフ化すると以下のようになります。



トラックマンなどで測定される絶対的ホップ量は球速によらずほぼ一定になります。


 絶対的ホップ量が、速度によらず一定になる理由 

なぜこのようになるかというと、次のような理屈です。

ボールは飛翔中に重力と揚力を受けます。
重力により軌道は下へ下へと曲げられます。
それをボール回転のバックスピン成分による上向き揚力(マグヌス力)が上へと曲げ返すことで直線に近い軌道になります。

この上向き揚力Lは以下のような式で表されます。






 (CL:揚力係数、ρ:空気の密度、v:ボールの速度、A:ボールの断面積)


話を簡潔にするため飛翔中ボールの速度は一定、球速によらずCLは一定であるとします。

まず、ボールに作用する揚力Lは速度vの二乗に比例します。
L ∝ v^2 -①

ボールのホップ量Δzはこの揚力Lを時間で二回積分したものになるため、リリースからホームベース上(x=18.44m)に到達するまでの時間tの二乗に比例します。
Δz ∝ L×t^2 -②

そしてホームベース上に到達するまでの時間tは速度vに反比例します。
t ∝ 1/v -③

②式に①、③式を代入すると速度vが分子と分母で打ち消し合って消えてしまいます。
そのためホップ量Δzは速度vによらず一定となります。
Δz ∝ L×t^2 ∝ v^2 × (1/v)^2 = const.

速度による揚力増加分と、速度による揚力を受ける時間の短さの影響がぴったりと打ち消し合うわけです。

相対的ホップ量に関しても同じように揚力によるホップ量は球速によらず一定であり、上下の軌道差は重力を受ける時間の短さに起因しています。



 トラックマンの落とし穴 

トラックマンで測定される自由落下軌道を基準とした絶対的ホップ量は球速がアップしても増加しません。

この絶対的ホップ量で投手の能力を評価することには欠点があります。

それは打者の感覚とは異なるということです。なぜなら140km/hの4シームを投げる投手が140km/hのフォールボールを投げてくることはないからです。

人間である打者が体感として感じるのは普段打っている球速での軌道を基準とした相対的ホップ量のほうです。


だから例えば、「球速140km/hだった投手が必死にトレーニングして160km/hまでアップしたが、トラックマンでホップ量を測定したら全く増えていなかった」というとき、がっかりする必要はないのです。

これまでの140km/hの4シームに比べて相対ホップ量は23cmもアップしているからです。
上下方向にも、前後方向にも大幅に威力を増しています。


勿論、球速が変わっていないのに、回転数や回転軸の改善でトラックマンの絶対的ホップ量が増加したなら、それは良いことです。



では、また。





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2020年6月20日土曜日

第21回 ホップする4シーム(3)「ボールの回転数とホップ量の関係」について検証してみた



4シームのホップ量を増やしたい。

投手なら誰もが望むことです。

それを実現するためにはどうしたらよいか?

真っ先に思い浮かぶのは「ボールの回転数を増やすこと」です。



そこで今回は、回転数によりボールの軌道がどれくらい上下に変動するのか、各回転数における4シームの軌道をエクセルで作った軌道シミュレータver.3.2で計算し比較することで、回転数とホップ量の関係を明らかにしていきます。


 各回転数における4シームの軌道計算 


球速は固定し、回転数に合わせて揚力係数CLおよび抗力係数CDの値を変えることで、各回転数における軌道を計算します。

[計算条件]

 4シーム
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=0.0度(水平)、Φ=2.5度(一塁方向)
 リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=-0.5m(三塁方向)、z0=1.8m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度

 回転数N=0 (SP=0) : 抗力係数 CD=0.368、揚力係数CL=0
 回転数N=700[rpm] (SP=0.07) : 抗力係数 CD=0.378、揚力係数CL=0.067
 回転数N=2200[rpm] (SP=0.22) : 抗力係数 CD=0.404、揚力係数CL=0.198
 回転数N=2700[rpm] (SP=0.27) : 抗力係数 CD=0.415、揚力係数CL=0.237

 rpm(revolutions per minute)は一分間あたりの回転数表す単位です。
 スピンパラメータSPは回転数と球速の比に比例する値で、これにより抗力係数CDおよび揚力係数CLが決まります。(SPについては前回を参照ください。)

 回転数N=0は揚力ゼロの自由落下です。
 回転数N=700rpmはフォークボール並の低回転、2200rpmはNPB平均、2700rpmは阪神の藤川投手レベルの高回転数です。

 ボール回転軸角度の定義
 

 θs : z軸からx-y平面に向かう角度(真上から水平に向かう角度)
 Φs : x軸からy軸に向かう角度(ホーム方向から一塁側へ向かう角度)

[計算条件終わり]


[計算結果]

各回転数におけるボール軌道の計算結果は以下のようになりました。
グラフ中の点は0.02秒ごとの、一番右の点のみホームベース後端(x=18.44m)におけるボール位置を表します。

回転数による4シーム軌道の違い

自由落下のN=0では、水平に投げらえたボールは大きくお辞儀し、ホームベース上(x=18.44m)における高さは0.84mです。

プロ野球平均並みのN=2200rpmでは、ホームベース上のおける高さは1.28mです。自由落下のN=0の軌道に比べ44cm上を通過していきます。つまり、この回転数におけるホップ量は44cmとなります。

プロ野球トップクラスのN=2700rpmでは、ホームベース上の高さは1.37mで、ホップ量は53cmです。
N=2200rpmよりも8.7cmホップ量が大きくなっています。
グラフで見るとN=2700rpmと2200rpmの差はあまりないように見えますが、ボール直径が7.4cm、バット芯部の直径が6.6cmということを考えると、両者の差8.7cmはボールの下を空振りさせるに十分なものだと言えます。

フォークボール並のN=700rpmではホームベース上での高さが0.99m、ホップ量は15cmです。
N=2200rpmと比べホップ量は29cm小さく、落ちる球となっています。実際のフォークボールでは4シームよりも球速が遅いためその効果も加わり、さらに落差は大きくなります。


 回転数とホップ量の関係 


140km/hの球で、回転数とホップ量の関係をグラフ化すると以下のようになります。

回転数とホップ量

ホップ量はほぼ回転数Nに比例して増加していきます。

そのため、1500prmの低回転から2000rpmの並みレベルの回転数に向上した場合も、2200rpmのNPB平均レベルの回転数から2700rpmのNPBトップレベルになった場合も、同じようにホップ量が増加します。

回転軸改善によるホップ量増加のように、上級者では改善効果が薄れてしまい頭打ちになるということはありません。

回転数が増えた分だけホップ量も増えます。

回転数増加の努力は投手のレベルに関わらず、みなに等しく効果をもたらします。




では、また。






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2020年6月13日土曜日

第20回 ホップする4シーム(2)「球速140km/hのボールは、時速170.6km/hで動いている」



時速140km/hで投じられたボールは何キロで動いているでしょうか?

言っている意味が分かりませんか?


ボールの中心点である重心は140km/hでホーム方向へ動ています。

しかしボール表面の皮や縫い目はそうではありません。もっと速かったり、遅かったりします。

なぜなら、ボールには回転がかかっているからです。


 回転速度と並進速度の合成 


バックスピン回転の投球を三塁側から見た場合を考えます。

ボール表面部はボール重心周りに回転しています。

ボールの上側ではボールの進行方向とは反対方向へ戻るように動き、下側では進行方向と同じ方向へ進む方向へ動きます。

そのため重心の並進速度とこの回転速度を合成すると、ボールの上側では球速よりもゆっくりに、ボールの下側では球速よりも速いスピードになります。



具体的に数字を計算してみます。

球速(重心の移動速度)をV=140[km/h]=38.9[m/s]、
バックスピンの回転数をN=2200[rpm]=36.7[rps]とします。

rpm(revolutions per minute)は一分間あたりの回転数、rps(revolutions per second)は一秒あたりの回転数を表す単位です。
2200rpmはプロ投手4シームの平均的な回転数です。

 ボールの角速度 : ω = N × 2π = 36.7× 2π = 230 [rad/s]
 ボール直径 : d = 0.074[m]
 ボール半径 : r = d/2 = 0.037[m]
 ボール表面の回転速度 : Vr = r × ω = 0.037 × 230 = 8.5 [m/s]
                                    Vr = 8.5 × 3600/1000 = 30.6 [km/h]


というわけで、回転数が2200rpmのとき、ボール表面や縫い目が重心まわりを回る回転速度Vrは、時速30.6km/hです。

ボール上側の合成速度は球速からこの回転速度を引いて、
V-Vr = 140-30.6=109.4km/hになります。

下側では球速にこの回転速度をたして、V+Vr=140+30.6=170.6km/hとなります。

プロの投げる4シームのボール上側は中学生の球速並みの109.4km/hの遅い速度で動き、その一方で、ボール下側ではチャップマンが記録した歴代最高球速である169km/hよりも速い高速度で動いています。

回転がかかっていることによりボールの上側と下側で、これほどの速度差が出ているのです。


 スピンパラメータSPと揚力係数CL 


ボールの上下で速度の差があると何が起こるか。

ボールの上下で空気の圧力差が発生し、ボール進行方向と垂直方向への力である揚力(マグヌス力)が作用し、その結果ボールの軌道は曲げられます。

バックスピン回転なら上へホップする方向への揚力が作用します。


揚力Lは下のような式で表されます。





(CL:揚力係数、ρ:空気の密度、v:ボールの速度、A:ボールの断面積)

回転数が大きいほど揚力係数CLが大きくなり、それに比例して揚力Lが大きくなります。

近年の研究で揚力係数CLは回転数に依存するスピンパラメータSPという値により決まるということが明らかになってきました。

スピンパラメータと揚力係数の関係(姫野博士の論文より引用)

スピンパラメータは以下の式で表されます。

 スピンパラメータ : SP = π×d×N / V

 (d:ボール直径、N:ボール回転数、V:球速)

分子のπ×d×Nですが、これは先ほどのボール表面の回転速度Vrと同じものです。
(ω = N × 2π およびr = d/2 のため、Vr = r × ω = d/2×N×2π = d×N×π 。)

スピンパラメータはボール表面の回転速度Vrと球速Vの比です。

ですので、先の例でスピンパラメータの値を計算すると
SP = Vr / V = 30.6/140 = 0.22 となります。

これを上のスピンパラメータSPと揚力係数CLのグラフに当てはめると、CL=0.20という値が得られます。



また、ボールが受ける空気抵抗(抗力)は抗力係数CDに比例しますが、この抗力係数CDも同様にスピンパラメータから求めることができます。



では、また。





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2020年6月6日土曜日

第19回 ホップする4シーム(1)「ボールの回転軸とホップ量の関係」について検証してみた





大きくホップする4シームでボールの下を空振りさせて三振を奪う。

投手にとって最高の快感です。

そんな球を投げられるように多くの投手が日夜トレーニングに励んでいます。

ホップ量を増やすためには回転数が多いことに加えて、回転軸が重要であることが近年の研究で明らかになってきました。

ボールの回転軸が地面と平行で全く傾いていない、完全なバックスピン回転が最もホップ量が大きくなります。
しかし、人間は体の横回転を利用して投げるため腕の振りが斜めになり、ボールの回転軸も傾きます。
そのためオーバースローで真上から投げ下ろすフォームにしたり、リリースの時に手首を立てたりし、回転軸が完全なバックスピンに近づくよう努力をします。

最近ではボールの回転軸を測定できる装置も増えてきたので、自分の球の回転軸が何度くらい傾いているのか知ることができるようになりました。


ところで、回転軸を何度から何度に改善したら、ホップ量は何センチ増加するのでしょうか?

そこで今回は、ボールの回転軸が何度の時ホップ量がどのくらいになるのか、ボールの回転軸角度とホップ量の関係を、エクセルで作った軌道シミュレータver.3.2を使った軌道計算により、明らかにしてみたいと思います。


 回転軸ごとの軌道計算 

4シームのボール回転軸を様々に変えた場合の軌道を計算します。

[計算条件]

 4シーム
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=0.0度(水平)、Φ=2.5度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=90~180度、Φs=-90度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20

 ボール回転軸角度の定義
 
 

 θs : z軸からx-y平面に向かう角度(真上から水平に向かう角度)
 Φs : x軸からy軸に向かう角度(ホーム方向から一塁側へ向かう角度)

 θs=90度:完全なバックスピン、θs=180度:完全なサイドスピン(シュート)

[計算条件終わり]


[計算結果]

ボール軌道の計算結果は以下のようになりました。
重なると見づらいため、θs=90度、135度、180度の3つのみグラフ表示します。また、y-z平面上に捕手側から見た回転軸の図を示します。
グラフ中の点は0.02秒ごとのボールの位置を表します。

完全なサイドスピンθs=180度は揚力が働かないため重力により大きく落下します。
それに対して、完全なバックスピンθs=90度は揚力が大きいため大きくホップしています。
中間の回転軸角度であるθs=135度の軌道を見ると、θs=180度と90度の中間ではなく、90度よりであることが分かります。これは揚力が完全なバックスピンθs=90度の半分ではなく、71%作用するためです(cos45°=1/√2=0.71)。



x-y平面上の軌道をみると、完全なサイドスピンθs=180度は横方向への揚力が大きいため大きくシュートして横へ曲がっています。
それに対して、完全なバックスピンθs=90度は横方向への揚力が働かないため直進しています。
中間の回転軸角度であるθs=135度の軌道を見ると、θs=180度と90度の中間ではなく、180度よりであることが分かります。これは横方向への揚力が完全なサイドスピンθs=180度の半分ではなく、71%作用するためです(sin45°=1/√2=0.71)。


 ボールの回転軸とホップ量の関係 

ボールの回転軸を完全なバックスピンθs=90度から完全なサイドスピンθs=180度まで少しずつ変えた場合のホップ量、横変化量をグラフ化すると以下のようになります。

ボール回転軸とホップ量の関係

θs=90付近ではボール回転軸の変化に対して、ホップ量の変化は緩やかであり、一方で横方向変化量の変化は急激です。
反対にθs=180度付近ではボール回転軸の変化に対して、ホップ量の変化が急激であり、横方向変化量の変化は緩やかです。

ボール回転軸の変化に対してホップ量と横方向変化量は同じ割合で変化しない、というのがみそです。



 回転軸改善によるホップ量増加 

プロ野球投手の4シーム回転軸角度は、θs=100度から120度、つまり完全なバックスピンに比べ10度から30度傾いています。

今回の計算条件の場合、θs=100度のホップ量は47.9cm、θs=120度のボップ量は42.1cmです。その差は5.8cmでボール一個分(7.4cm)以下です。

仮にθs=120度だった投手が、苦労して回転軸を20度も完全なバックスピン側に近づけるように改善しても、その効果はボール一個分にも満たないわけです。

一方でθs=140度だった投手が、回転軸を20度改善してθs=120度になれば、ホップ量は31.3cmから42.1cmへ10.9cmもアップします。ボール一個半ぐらいです。
上記の投手の2倍近い効果を得られます。

つまり、現時点で回転軸が傾いている投手ほど回転軸改善によるホップ量増加の効果は大きくなります。



阪神の藤川投手では回転軸がθs=95度、完全なバックスピンに比べわずか5度しか傾いていないと言われています。

このあたりになると回転軸の変化に対してホップ量の変化はほぼ横ばいです。

彼が更なる努力をしてあと5度回転軸を改善し、完全なバックスピン回転の球を投げられるようになったとしても、ホップ量の増加はたったの2ミリです。

これ以上改善する価値はなく、もう十分だと言えます。


 上級者にとって重要なこと 

既に回転軸がθs=120度以下で、完全なバックスピンから30度以下しか傾いていないような上級者にとっては、回転軸改善でボール一個分に満たないホップ量増加をめざすよりも、もっとやるべきことがあります。

それはボールの回転軸を安定させることです。

普段θs=110度の回転軸で4シームを投げている投手が、少し力んだせいで回転軸が10度ずれてθs=120度になったら。それがもし2ストライクに追い込んでから仕留めに行った右打者アウトコース低目、ストライクゾーンの角を狙った一球だったら、どうなるか。

横方向変化量はθs=110度で16.6cm、θs=120度で24.3cm、その差7.7cmです。つまり、シュートしてボール一個分あまく入ることになります。

回転軸が完全なバックスピンに近い場合、回転軸の角度変化に対してホップ量はあまり変わらないのに対し、横方向(シュート方向)変化量は大きく変わるのです。

一球ごとに回転軸がばらつくと、シュート成分の曲り幅の違いせいで横方向のコントロールがばらついてしまいます。

そのため、既に質のよい4シームで完全なバックスピンに近い回転軸角度の球を投げている投手ほど、コントロールを安定させるために、回転軸を安定させることが重要になります。

また逆の考え方をすれば、バックスピンに近い回転軸角度の投手は意図的に少し回転軸を傾けるだけで大きくシュート成分が増えるため、回転軸を意図的に制御できるであれば2シームを持ち球に加えやすいとも言えます。




では、また。





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