硬式球vs軟式球
硬式球と軟式球、どちらが変化球がよく曲がるか?子供の頃は軟式野球、高校や大学の野球部では硬式を経験し、社会人になってからの趣味の野球では再び軟式でプレー。
多くの野球愛好家がたどる王道パターンです。
そんな軟式と硬式どちらも経験してきたプレーヤーの間で、たびたび話題になるのがこのテーマです。
そこで今回は、硬式球と軟式球どちらがよく曲がるのか計算してみました。
そこで今回は、硬式球と軟式球どちらがよく曲がるのか計算してみました。
ボールの曲がりやすさ
ボールによって曲がりやすいものと曲がりにくいものがありますが、それらはどのように決まるのでしょうか?
重量および直径は上下限の中間値を使用しました。
[計算式2]
軟式野球をプレーしている人はご存知と思いますが、2018年から軟式球の仕様が変わりました。
ボールの軌道を曲げる力は、ボールの進行方向と垂直な向きに作用する「揚力」です。回転によって発生するマグナス力はこの揚力の一種です。
[計算式]
揚力Lは以下の式で表されます。
L = CL×(1/2×ρ×v^2)×A ‐①
(CL:揚力係数、ρ:空気の密度、v:ボールの速度、A:ボールの断面積)
ここで、断面積は
A=π×d^2 / 4 ‐② (d:ボールの直径)。
ボールが曲がる方向への加速度d2y/dt2は、揚力を重量で割ればよいので、以下のようになります。
d2y/dt2 = L/m ‐③ (m:ボールの重量)
従って、③式のLに①式を代入し、Aに②式を代入すると、以下のようになります。
d2y/dt2
= (CL×ρ×v^2×π/8) × (d^2/m) ‐④ 。
④式から、d^2/mの値に比例して、ボールが曲がる方向への加速度d2y/dt2が大きくなることが分かります。
つまり、直径の二乗を重量で割った値(d^2/m)が、そのボールがもつ「曲がりやすさ」を表します。
(厳密には揚力係数CLもスピンパラメータSp(∝d)を介して直径dに依存しますが、ここでは省略しています。)
では、この曲がりやすさの値を硬式球、軟式球それぞれについて計算してみましょう。
[計算結果]
硬式球
重量 : m=145[g]、直径 : d=7.4[cm]、曲がりやすさ : d^2/m=0.375[cm^2/g]
軟式球
重量 : m=138[g]、直径 : d=7.2[cm]、曲がりやすさ : d^2/m=0.376[cm^2/g]
重量および直径は上下限の中間値を使用しました。
d^2/mの値は両者ともほぼ同じです。
つまり、硬式球と軟式球ではボールのもつ「曲がりやすさ」はほぼ同じ、ということです。
つまり、硬式球と軟式球ではボールのもつ「曲がりやすさ」はほぼ同じ、ということです。
回転のかかりやすさ
それならば、変化球の曲がり具合はどちらも同じ、では、ありません。
ボールを横に曲げる揚力は、ボールの回転に起因するマグヌス力です。
ボールの回転数が多いほどマグヌス力は大きくなり、変化球は良く曲がります。
具体的には上記の揚力式の中に含まれている揚力係数CLが回転数により大きくなります。
ボールの回転数が多いほどマグヌス力は大きくなり、変化球は良く曲がります。
具体的には上記の揚力式の中に含まれている揚力係数CLが回転数により大きくなります。
硬式球と軟式球どちらの球がより回転数が大きくなりやすい、つまり、どちらの球が回転がかかりやすいか、について計算していきます。
ボールにトルクを与えるとボールは回転します。
トルクと回転数の関係は下式で表されます。
トルクTを時間積分した力積が、角運動量(I×ω )と等しくなります。
トルクTを時間積分した力積が、角運動量(I×ω )と等しくなります。
∫T dt = I×ω = I × N/(2π)
(T:トルク、I:慣性モーメント、ω:角速度、N:回転数)
そのため回転数Nは、
N = ω/(2π) = (∫T dt) / I 。
同じ力積(∫T dt)が与えられる場合、慣性モーメントIに反比例して回転数Nが大きくなります。
つまり、慣性モーメントの逆数1/Iが、そのボールの「回転のかかりやすさ」を表します。
中身が違う
この慣性モーメントIの値が、硬式球と軟式球では違ってきます。
なぜなら、硬式球は中身が詰まっているが、軟式球は空洞だからです。
[計算式2]
球体の慣性モーメントIは以下の式で表されます。
中空
I = 2/5×m×(r^5-ri^5)/(r^3-ri^3) -①
(m:ボール重量、r:ボールの外半径、ri:ボールの内半径)
中実
①式にri=0を代入。
I = 2/5×m×r^2 -②
この式を使ってボールの回転のかかりやすさの値を硬式球、軟式球それぞれについて計算します。
[計算結果2]
硬式球
重量 : m=145[g]、半径 : r=7.4/2=3.69[cm]、
慣性モーメント : I=2/5×m×r^2 =791[g-cm^2]
回転のかかりやすさ : 1/I=1.26×10^-3[1/(g-cm^2)]
軟式球
重量 : m=138[g]、外半径 : r=7.2/2=3.60[cm]、内半径 : r=2.81[cm]、
慣性モーメント : I=2/5×m×(r^5-ri^5)/(r^3-ri^3) r^2 =968[g-cm^2]
回転のかかりやすさ : 1/I=1.03×10^-3[1/(g-cm^2)]
1/Iの値は、硬式球の方が軟式球よりも1.22倍(1.26/1.03=1.22)大きくなりました。
つまり、硬式球の方が、約1.2倍ボールに「回転がかかりやすい」、ということです。
つまり、硬式球の方が、約1.2倍ボールに「回転がかかりやすい」、ということです。
重量が軽く、径の小さい軟式の方が回転がかかりにくいというのは意外に思われるかもしれません。
中空であるということはそれだけボールの重量がボールの中心、つまり回転軸から離れた位置に偏っていることになるため、一様に重量が分布している中実球よりも慣性モーメントが大きくなるのです。
結論
というわけで、結論は以下のようになりました。
・硬式球と軟式球ではボールの持つ「曲がりやすさ」は同じ。
・硬式球の方が中実のため慣性モーメントIが小さく、より「回転がかかりやすい」
・その結果、「硬式球の方が変化球がよく曲がる」。
・その結果、「硬式球の方が変化球がよく曲がる」。
*****
余談:M>A?
一般向けのA号球と中学生向けのB号球は統一されてM号球に、小学生はC号球からJ号球に変わりました。
旧式のA号球よりも新型のM号球の方が、打球飛距離がアップしたことが公にされています。
一方、変化球の曲がり具合については、特に、情報公開されていません。
そのため個人の感想になりますが、私がプレーした感覚や、他の人に聞いた範囲ではA号球よりも、M号球の方が変化球の曲がりがかなり大きくなっています。
M号球の方がA号球よりもボールの直径dが少し大きいため、ボールの曲がりやすさd^2/mの値が大きくなった一方で回転のかかりにくさIの値はそこまで増加していないということがあるのかもしれません。
あるいは一部で話題になった、あのハート形の表面形状により、同じ回転数でも揚力係数CLがアップしているのかもしれません。
真相は分かりませんがM号球の開発に関わった専門家たちはA号球が硬式球より曲がらないことを事前に把握しており、硬式球に近づけるために何かしらの科学技術をM号球へ投入したのではないか、と推測されます。
では、また。
0 件のコメント:
コメントを投稿