2020年10月17日土曜日

第38回 テニスのサーブと野球の球どちらが速いか?

テニスと野球どちらがはやいか

 

テニスと野球は同じぐらい    

テニスは私が野球の次に好きなスポーツです。

しかしあまりルールに詳しくないので調べていたら、あることに気が付きました。

テニスのサーブがノーバウンドで飛んでいく距離は、野球のバッテリー間とほぼ同じなのです。

テニスコート、バッテリー間


テニスのサーブは自陣ベースラインの位置から打ち、相手コートのサービスラインよりも手前でワンバウンドさせます。

サービスラインを越えてしまうと”フォルト”と呼ばれる無効打になります。

テニスは2回、野球は4回    

野球の場合は4球ボールでフォアボールになりますが、テニスは2回のフォルトで相手のポイントになってしまいます(ダブルフォルト)。

また、野球の場合フォアボールとホームランでは受ける損失がまるで違うため、3ボールからでもそれなりのコースを攻めます。

一方、テニスではダブルフォルトもリターンエースも損失は同じ1ポイントです。

そのため、強く打ち返えされるとしても自滅するよりはマシ、という考えで、セカンドサーブはスピードを落として確実に入れに行きます。

野球でいうところの「置きに行く」わけです。


テニスは一撃、野球は3球    

野球の場合は2ストライクからストライクを取ってようやく三振になるため、最低でも3球必要になります。
そのため初球よりも追い込んでからの決め球に力を入れて投げることが多くなります。

一方、テニスではサービスエースを決めればたった1球で済んでしまいます。
そのためまだ失敗が許されるファーストサーブはフルパワーで打たれます

世界のトップ選手ではファーストサーブの初速が200km/hを超えることもざらです。

野球の球は世界トップレベルの投手でも160km/hほどなので、テニスの球速がいかに速いかが分かります。


どっちが速い?    

とはいえ、テニスの場合はサービスライン手前でワンバウンドした後さらにベースラインまで飛んでから相手選手に打ち返されるため、野球のバッテリー間よりも長い距離になります。

加えて、バウンドによる減速があること、ボールが大きさの割に軽いため空気抵抗による減速が大きいこと、を考えると、体感速度として必ずしも野球よりも速いとは言い切れない気がします。

そこで、今回はテニスのサーブと野球の投球でどちらが体感速度として速いのかを、軌道シミュレータver.3.2により計算して求めてみたいと思います。


テニスサーブの軌道計算     

体感速度とは言ったものの、人間の感覚を計算で正確に出すことは容易ではないので、ここでは放たれてから到達するまでの時間で比較することにします。

テニスはサーブが打たれてから相手のベースラインに到達するまでとして、24メートルに到達するまでの時間とします。
野球は投手がリリースしてからキャッチャーミットに収まるまでとして、19.5メートルに到達するまでの時間とします。

[計算条件]
テニスはフラットサーブで、無回転の自由落下と仮定します。

今回計算してみて初めて知ったのですが、200km/hを超えるような高速サーブでは野球のようにバックスピンをかけると角度的にどうやってもサービスラインを越えてしまいフォルトになります。
これはテニスに詳しい人にとっては常識らしいです。

また、バウンド前後で水平方向は25%、垂直方向は50%減速するとします。

野球は150km/h、2300rpmのストレートとします。

以下のような条件で計算します。
ボールに関するパラメータもテニスに合わせて変更しました。



[計算結果]

時速200km/hのテニスのサーブと、150km/hの野球の投球の軌道計算結果は以下のようになりました。

両者を重ねてプロットしてみました。
緑線がテニスコート、青線が野球のグラウンドです。

gif動画(実際のスピード)
テニスサーブvs野球



gif動画(1/10倍スロー)
テニスサーブ軌道計算

静止画(点は0.02秒ごとのボールの位置を表す)
テニスサーブ軌道計算


・野球(150km/h)はリリースから捕球まで0.45秒かかる
・テニスサーブ(200km/h)はサーブを打ってからレシーブまで0.67秒かかる


200km/hでも追い抜けない     

真横から見たx-z平面における計算結果をみると、テニスのサーブは野球ボールを一度も追い抜くことができていません。



意外な結果でした。

200km/hのテニスサーブは、150km/hの野球ボールよりも初速が50km/hも速いのに追い抜くことができない理由の一つとして、野球の方がスタートラインが前であることがあります。テニスはベースライン(x=0)からサーブが打たれるのに対し、野球ではプレート(x=0)よりも1.8mも前でボールをリリースしています。

またテニスでは角度をつけて斜めに打つために、ほぼ真っ直ぐ飛んでいく野球よりも距離が長くなります。

加えて、ボールが大きさの割に軽いため空気抵抗による減速が大きいことも影響しているようです。

その結果到達時間で比べると、野球が0.45秒、テニスが0.67秒と、テニスの方が0.22秒遅くなっています。

従って、体感速度としてはテニスサーブよりも野球の方が速い、と言えそうです。


左右へ移動     

考えてみれば、テニスのレシーバーは左右に移動してボールを打ち返すだけの時間があるのに対し、野球のバッターはバッターボックスの中で移動するような時間はないのだから、今回の計算結果は当然のことです。

しかし、ではテニスのレシーブの方が野球のバッティングよりも簡単か、といえばそうは言い切れないでしょう。
打ち返すことの難しさはまた別の問題です。

ストライクゾーンの横幅よりもずっと広い範囲をテニスのレシーバーはカバーしなければなりません。

テニスのサーブを野球選手は捕れない  

数年前に広島カープの菊池選手が、KYOKUGEN2017というテレビ番組で、テニスコートのベースラインに立ち、サーブをグラブで捕球できるのか、という企画に挑戦しました。

結果は、惨敗です。

あの名手菊池選手がまるで捕れないのです。

サーブを打っていたのは日本人トッププレイヤーですが、言い換えると世界では決してトップレベルではないような選手です。

それでも何球打っても一球も取ることができず、最後には気づかいで真正面に打ってもらってようやく捕れてめでたし、めでたし。

野球好きとしては見ていて悔しかったですが、やはりテニスのサーブはそれだけ速くてすごいのだと、改めて思い知らされました。



では、また。







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