5.33メートル手前
テレビでおなじみの「女子ソフト投手vsプロ野球打者」。
楽しみにして観るのですが、いつも女子ソフトが圧勝します。
プロ野球の打者は振り遅れたかっこ悪い空振りやしょぼい内野ゴロを繰り返し、野球ファンとしては少し悲しくなります。
女子ソフトの速球は110km/hほどで、野球で言えばスローボールに分類される遅さです。
にもかかわらず振り遅れるのは、ソフトボールの方が距離が近いからです。
野球のバッテリー間は18.44メートルですが、女子ソフトボールは13.11メートルで、野球よりも5.33メートルも手前から投げているのです。
さらに野球同様、実際のリリースポイントはプレートよりもだいぶ前であるため、ボールが飛んでくる距離はこれよりも短くなります。
野球よりもずっと近い距離から投げられるため、球速が速くなくても、リリースからホームベースに到達する時間は短くなり、速いと感じるのです。
スイング開始前のボールを見極める時間は同じ球速でも野球よりもずっと短くなり打つのが難しくなります。
テレビなどでは女子ソフトのボールの速球は、野球での160km/hに相当するという意味で、「体感速度160キロ」という表現がされます。
そこで、今回はソフトボールの速球が体感速度として本当に野球の160km/hに相当するのかを、軌道シミュレータver.3.2により計算して求めてみたいと思います。
軌道計算
体感速度とは言ったものの、人間の感覚を計算で正確に出すことは容易ではないので、ここでは投手がリリースしてからホームベース上に到達するまでの時間で比較することにします。[計算条件]
ソフトはライズボールを想定し、バックスピン回転とします。
ソフトはライズボールを想定し、バックスピン回転とします。
野球は160km/h、2450rpmのストレートとします。
以下のような条件で計算します。
ボールに関するパラメータもソフトボールに合わせて変更しました。
[計算結果]
時速110km/hのソフトボールの投球と、160km/hの野球の投球の軌道計算結果は以下のようになりました。
時速110km/hのソフトボールの投球と、160km/hの野球の投球の軌道計算結果は以下のようになりました。
両者を重ねてプロットしてみました。
灰色線が野球の、青線がソフトのマウンドとプレートです。ホームベースの位置は合わせてあります。
動画(実際の速度)
動画(1/10倍スロー)
静止画(点は0.02秒ごとのボールの位置を表す)
・野球(160km/h)はリリースからホーム到達まで0.398秒かかる。
・ソフトボール(110km/h)はリリースからホーム到達まで0.404秒かかる。
動画(実際の速度)
動画(1/10倍スロー)
静止画(点は0.02秒ごとのボールの位置を表す)
・野球(160km/h)はリリースからホーム到達まで0.398秒かかる。
・ソフトボール(110km/h)はリリースからホーム到達まで0.404秒かかる。
正確だった
野球の160キロは0.398秒、ソフトの110キロは0.404秒。リリースからホームまでの到達時間はほぼ同じでした。
つまり、「体感速度160キロ」というのは、到達時間を基準とすればかなり正確な表現であることが証明されました。
もしかしたら、最初に体感速度と言い出した人もテレビ局の人も自分の感覚で適当に言ったわけではなく、スロー再生した動画から時間を計測したのかもしれませんね。
ルールごとのチャンピオン
格闘技界にはこんな言葉があります。
「世界最強の男なんて存在しない。存在するのはルールごとのチャンピオンだけだ。」
核心をついていると思います。
ボクシングの元ヘビー級王者がキックボクシングの試合に出れば、ローキックを蹴られ続けて何もできなくなる。
キックボクシングの選手が総合の試合に出れば、タックルからのアキレスけん固めで秒殺されるし、ボクシングへの転向に挑戦すれば失敗したりする。
キックと総合の両方で活躍した選手もアマチュアレスリングに復帰すれば二回戦で腕を折られて敗退する。
格闘技転向後は醜態をさらした元横綱の曙も、本職の相撲なら、引退後数年たっていてもボブサップやアリスターオームレイムようなパワーファイターを圧倒できる。
枚挙にいとまがありせん。
レベルが高くなりそれぞれの専門性が高まる程、わずかなルールの違いで強弱が簡単に逆転してしまうのです。
野球でもソフトバンクの周東選手が陸上100mに出場したり、桐生選手が代走で盗塁をしたりしても、きっと大した結果は残せないでしょう。
女子に負けても
バッティングも同じです。
ソフトボールと野球は似て非なるスポーツです。
ホーム到達時間が野球の160キロと同じほどの短時間であることに加え、見慣れないウインドミルのフォームと下から投げ上げてくる軌道。
ソフトボールと野球で打者のフォームを見比べるとタイミングをとるための、足の動きがかなり違います。
バットやボールも野球とは異なります。
はたから見ればわずかな違いでも、プレイヤーにとっては大きな違いです。
だから、一流のプロ野球選手が女子の球を打てないと恥じることはないのです。
素直に女子ソフト選手のすごさをたたえればよいのです。
では、また。
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