2020年6月6日土曜日

第19回 ホップする4シーム(1)「ボールの回転軸とホップ量の関係」について検証してみた





大きくホップする4シームでボールの下を空振りさせて三振を奪う。

投手にとって最高の快感です。

そんな球を投げられるように多くの投手が日夜トレーニングに励んでいます。

ホップ量を増やすためには回転数が多いことに加えて、回転軸が重要であることが近年の研究で明らかになってきました。

ボールの回転軸が地面と平行で全く傾いていない、完全なバックスピン回転が最もホップ量が大きくなります。
しかし、人間は体の横回転を利用して投げるため腕の振りが斜めになり、ボールの回転軸も傾きます。
そのためオーバースローで真上から投げ下ろすフォームにしたり、リリースの時に手首を立てたりし、回転軸が完全なバックスピンに近づくよう努力をします。

最近ではボールの回転軸を測定できる装置も増えてきたので、自分の球の回転軸が何度くらい傾いているのか知ることができるようになりました。


ところで、回転軸を何度から何度に改善したら、ホップ量は何センチ増加するのでしょうか?

そこで今回は、ボールの回転軸が何度の時ホップ量がどのくらいになるのか、ボールの回転軸角度とホップ量の関係を、エクセルで作った軌道シミュレータver.3.2を使った軌道計算により、明らかにしてみたいと思います。


 回転軸ごとの軌道計算 

4シームのボール回転軸を様々に変えた場合の軌道を計算します。

[計算条件]

 4シーム
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=0.0度(水平)、Φ=2.5度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=90~180度、Φs=-90度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20

 ボール回転軸角度の定義
 
 

 θs : z軸からx-y平面に向かう角度(真上から水平に向かう角度)
 Φs : x軸からy軸に向かう角度(ホーム方向から一塁側へ向かう角度)

 θs=90度:完全なバックスピン、θs=180度:完全なサイドスピン(シュート)

[計算条件終わり]


[計算結果]

ボール軌道の計算結果は以下のようになりました。
重なると見づらいため、θs=90度、135度、180度の3つのみグラフ表示します。また、y-z平面上に捕手側から見た回転軸の図を示します。
グラフ中の点は0.02秒ごとのボールの位置を表します。

完全なサイドスピンθs=180度は揚力が働かないため重力により大きく落下します。
それに対して、完全なバックスピンθs=90度は揚力が大きいため大きくホップしています。
中間の回転軸角度であるθs=135度の軌道を見ると、θs=180度と90度の中間ではなく、90度よりであることが分かります。これは揚力が完全なバックスピンθs=90度の半分ではなく、71%作用するためです(cos45°=1/√2=0.71)。



x-y平面上の軌道をみると、完全なサイドスピンθs=180度は横方向への揚力が大きいため大きくシュートして横へ曲がっています。
それに対して、完全なバックスピンθs=90度は横方向への揚力が働かないため直進しています。
中間の回転軸角度であるθs=135度の軌道を見ると、θs=180度と90度の中間ではなく、180度よりであることが分かります。これは横方向への揚力が完全なサイドスピンθs=180度の半分ではなく、71%作用するためです(sin45°=1/√2=0.71)。


 ボールの回転軸とホップ量の関係 

ボールの回転軸を完全なバックスピンθs=90度から完全なサイドスピンθs=180度まで少しずつ変えた場合のホップ量、横変化量をグラフ化すると以下のようになります。

ボール回転軸とホップ量の関係

θs=90付近ではボール回転軸の変化に対して、ホップ量の変化は緩やかであり、一方で横方向変化量の変化は急激です。
反対にθs=180度付近ではボール回転軸の変化に対して、ホップ量の変化が急激であり、横方向変化量の変化は緩やかです。

ボール回転軸の変化に対してホップ量と横方向変化量は同じ割合で変化しない、というのがみそです。



 回転軸改善によるホップ量増加 

プロ野球投手の4シーム回転軸角度は、θs=100度から120度、つまり完全なバックスピンに比べ10度から30度傾いています。

今回の計算条件の場合、θs=100度のホップ量は47.9cm、θs=120度のボップ量は42.1cmです。その差は5.8cmでボール一個分(7.4cm)以下です。

仮にθs=120度だった投手が、苦労して回転軸を20度も完全なバックスピン側に近づけるように改善しても、その効果はボール一個分にも満たないわけです。

一方でθs=140度だった投手が、回転軸を20度改善してθs=120度になれば、ホップ量は31.3cmから42.1cmへ10.9cmもアップします。ボール一個半ぐらいです。
上記の投手の2倍近い効果を得られます。

つまり、現時点で回転軸が傾いている投手ほど回転軸改善によるホップ量増加の効果は大きくなります。



阪神の藤川投手では回転軸がθs=95度、完全なバックスピンに比べわずか5度しか傾いていないと言われています。

このあたりになると回転軸の変化に対してホップ量の変化はほぼ横ばいです。

彼が更なる努力をしてあと5度回転軸を改善し、完全なバックスピン回転の球を投げられるようになったとしても、ホップ量の増加はたったの2ミリです。

これ以上改善する価値はなく、もう十分だと言えます。


 上級者にとって重要なこと 

既に回転軸がθs=120度以下で、完全なバックスピンから30度以下しか傾いていないような上級者にとっては、回転軸改善でボール一個分に満たないホップ量増加をめざすよりも、もっとやるべきことがあります。

それはボールの回転軸を安定させることです。

普段θs=110度の回転軸で4シームを投げている投手が、少し力んだせいで回転軸が10度ずれてθs=120度になったら。それがもし2ストライクに追い込んでから仕留めに行った右打者アウトコース低目、ストライクゾーンの角を狙った一球だったら、どうなるか。

横方向変化量はθs=110度で16.6cm、θs=120度で24.3cm、その差7.7cmです。つまり、シュートしてボール一個分あまく入ることになります。

回転軸が完全なバックスピンに近い場合、回転軸の角度変化に対してホップ量はあまり変わらないのに対し、横方向(シュート方向)変化量は大きく変わるのです。

一球ごとに回転軸がばらつくと、シュート成分の曲り幅の違いせいで横方向のコントロールがばらついてしまいます。

そのため、既に質のよい4シームで完全なバックスピンに近い回転軸角度の球を投げている投手ほど、コントロールを安定させるために、回転軸を安定させることが重要になります。

また逆の考え方をすれば、バックスピンに近い回転軸角度の投手は意図的に少し回転軸を傾けるだけで大きくシュート成分が増えるため、回転軸を意図的に制御できるであれば2シームを持ち球に加えやすいとも言えます。




では、また。





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2 件のコメント:

  1. こんばんは��面白い記事でした 私は回転数と回転軸を、改善させる事を研究してるので
    解りやすい解説ありがとうございます
    因みに既に回転数と回転軸は 改善方法は確立しております 世の中には出てませんが
    アマの投手で実証炭ですm(__)m

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    1. 読んでもらいありがとうございます。(^-^)
      改善方法ぜひ公開してほしいです。本に第1関節を曲げ第2関節をまっすぐ伸ばすと回転数が増えると書いてあったのですがやると難しいです。

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