2020年8月15日土曜日

第29回 真夏の打球は春先よりも飛ぶのか?



夏はホームランがでやすい?             

猛暑日が続いていますが、皆さん体調いかがでしょうか?

例年ならば夏の甲子園が行われている季節です。

真夏の炎天下、気温35度を超えるグラウンドの上で全身から玉のような汗を吹きだしながら、必死に、戦う高校球児たち。

負けたら終わりのトーナメントで一試合でも多く今の仲間たちと戦うためにチームの勝利を追い求める選手、もいれば、プロのスカウトに見てもらえるラストチャンスと、少しでも印象に残るようホームランを狙う、野心家、もいます。


ところで、「春先よりも、気温の高い夏の方が打球が飛んでホームランになりやすい」と言う話をたまに耳にします。


その可能性はあると思います。


なぜなら、気温が上がれば、空気密度は下がるからです。
空気密度が下がるというこは、空気抵抗が減るということです。

空気密度が下がると打球飛距離が増加することは、クアーズ・フィールドの例で明らかになっています。
(クアーズフィールの計算もしたのでまた後日投稿しますね。)

そこで、今回は春先と真夏、気温による空気密度の差により打球飛距離がどのくらい変わるのかを軌道計算により検証し、夏の方がホームランが出やすいのか真偽を確かめてみます。


気温と空気密度の関係                

気温が高いと空気が膨張するため、空気の密度は下がります。 

空気密度ρと気温の関係は以下の式で表されます。

ρ=1.293×P/(1+T/273.15)

ここでTは気温で、今回は春先は20℃、真夏は35℃とします。
また、Pは気圧で、今回は春先は1atm、真夏は少し下がって0.993atmとします。(*)

この式により計算すると、空気密度は以下のようになります。

春先(20℃):ρ=1.293×1/(1+20/273.15)=1.205 [kg/m^3]
真夏(35℃):ρ=1.293×0.993/(1+35/273.15)=1.138 [kg/m^3]

真夏の空気密度は春先より5.6%低くなります。(1-1.138/1.205=-0.056)

(*)夏になると天気予報でよく「高気圧に覆われて晴天が続きます」などと言いますがが、それは周りのエリアと比べて相対的に高いということで、他の季節より高いというわけではないそうです。

打球軌道計算                    

それでは、準備ができましたので、打球の軌道計算を行います。 

打球速度は140km/h、回転数は2500rpmで完全なバックスピンとします。
rpmは一分間あたり回転数の単位で、2500rpmだと平均的なプロ投手の4シームより少し多めぐらいです。

これらの条件を一定にして、上記で計算した空気密度だけを変えて計算します。

[計算条件]

 バックスピン
 球速:v0=140[km/h]、打球角度:θ=30度(上向き)
 ミートポイント x0=0m(前方)、z0=1.0m(高さ) 
 ボール回転軸角度 θs=90度、Φs=-90度
 抗力係数 CD=0.41、揚力係数CL=0.22

 空気密度 ρ=1.205, 1.138 [kg/m^3]

[計算結果]

春先と真夏の気温における空気密度で計算した、140km/hで上向き30度に打ち上げた打球の軌道は以下のようになりました。

気温による打球軌道の違い

・真夏の方が春先よりも、打球飛距離は1.7m伸びる。(=108.1-106.4)


ホームラン激増とはならない             

春先20℃のとき飛距離106.4mだった打球が、真夏の35℃になると108.1mまで増加する。
その差は1.7mで、飛距離の増加率でいうと1.2% です。(108.1/106.4=1.012)

飛距離が増えるのは事実ですが、そこまで大きな差は出ませんでした。

そのため、春の甲子園と夏の甲子園で大会全体のホームラン発生率を大きく変化させるほどの影響力はなさそうです。

紙一重のプレーに影響を与える            

影響があるのはある程度きわどい、ぎりぎりのきわどいプレーだけに限られるようです。

フェンス最上段直撃の2ツーベスが最前列へのホームランになったり、飛びついた外野手のグラブに収まる大飛球が芝の上に跳ねたり、外野手の強肩でアウトになるタッチアップがぎりセーフになったりと、きわどい紙一重のプレーほどこのわずか1.2%の飛距離の増加により影響を受けてしまいます。

そして、負けたら終わりの一発勝負では、そのワンプレーでドラマの結末が変えられてしまうこともあるでしょう。


では、また。






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