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2022年9月3日土曜日

第128回 150km/hの縫い目の軌跡

 

投手の投げたボールは回転しながらキャッチャーミットに向かって飛んでいきます。

ボールの重心は並進運動をし、ボール表面上の点は重心回りに円運動をします。

この2つが組み合わさった縫い目はどのような軌跡を描くでしょうか?

計算してみます。


縫い目の位置の計算式

ボールが速度vでx方向に飛んでいくとき、重心位置は下式のようになります。

ボール重心の位置

xo = vt ,  zo=0 

(t: 経過時間)

ここで、t=0での重心位置を原点とし、x-z平面上で動くとします。xが投球方向,zが上空方向です。

今回はリリース直後のみを想定し、重力と空気力の影響は無視します。


ボールが回転数Nでy軸周りに回転する(バックスピン回転)とき、縫い目の位置は下式のようになります。

縫い目の位置

x=r・cos(ωt+θ)+xo , z=r・sin(ωt+θ)

ここで、ω=2πN

(r:ボール半径、ω:角速度、t: 経過時間、θ:初期角度)



縫い目の軌跡計算

球速v=150km/h、回転数N=2300rpmとして上式で重心および縫い目2か所の軌跡を計算した結果が、以下です。


gif動画
1/100倍スローです。
野球ボール縫い目の軌跡gif


静止画
グラフ上の点は0.001秒ごとの位置を表します。点と点の間隔の広いほど速い速度で動いています。

野球ボール縫い目の軌跡

縫い目が上側来たときは間隔が狭く、下側では広くなっています。

上図で左回りのバックスピン回転により、上側では後ろに戻る方向に動き、速度が遅くなります。下側は前に進む方向なので速くなります。

縫い目は重心に対し32.5km/hで回転しているため、上側は117.5km/h(=150-32.5)、下側は182.5km/h(=150+32.5)でそれぞれ動いています。

上下の差は65km/h(=32.5×2)にもなります。

この上下の速度差が空気の圧力差を生み出し、それがボールをホップさせる上向き揚力となります。



*****

球速と回転数、つまり中心点の移動速度と角速度、には関連がないためこの曲線はサイクロイドでもなければ、サインカーブでもありません。

数学上の呼び名は特にありませんが、幾何学的な美しさがあり見ていて心地のよい曲線です。




ではまた。

2022年2月19日土曜日

第107回 【問題】狙い球を変えるべきか、変えざるべきか


 

問題編

打席に立っているA選手は、高卒4年目で通算打率1割5分のぱっとしない成績です。今期はずっと2軍暮らしが続き、優勝もCSも決まった最終戦で、ようやく1軍初打席が回ってきました。

他の選手にはどうでもいい試合でも、A選手は必死です。ヒットを打てなければシーズン終了後の自由契約が確実で、この1打席が今後の選手生命をかけたラストチャンスだったからです。

ところが、あっさり2ストライクに追い込まれてしまいました。

相手投手はストレート、スライダー、フォークの3球種を同じ投球割合でバランスよく投げ込んできます。どの球も威力十分で、全ての球をマークしていてはとても打てません。そこでA選手は腹をくくり、山を張ることに決めました。

「よし、一番得意な真っ直ぐに絞って思い切り振ろう」そう決心しました。

緊張と強く振ろうという力みで、構えはがちがちです。それを見かねた相手捕手のB選手が小声で話しかけてきました。彼はA選手とは高校時代のチームメイトでともに甲子園に出場し、プロ入り後も毎年自主トレをともにしている間柄です。

「お前なに狙っとるんや?」

「真っすぐだ。それでだめなら俺は終わりだ。」

「...フォークは投げない。情けはこれだけだ、八百長はできん。」

投手は振りかぶり、投球動作に入りました。


さて、問題です。

A選手はどの球種を狙うべきでしょうか?最初のままストレートでしょうか、それともスライダー狙いに変えるべきでしょうか?

これは確率論の問題です。

B捕手は嘘をついていないので、フォークは来ません。また八百長はしないので、A選手が狙っていたストレートが来るか来ないかは教えませんでした。サインは会話の前に出されており、以降変更されていません。



解答編

B捕手が話しかけてくる前なら、話は簡単です。3球種なので、どの球を狙い球にしても同じ1/3の確率で当たります。どの球も"同様に確からしい確率"です。

B捕手が「フォークはない」と言ったことで、状況は変わります。選択肢が3つから、2つに減りました。

ここで「選択肢が2つならどちらを選んでも同じ1/2ではないか。ストレートでもスライダーでも同じ1/2の確率ではないか」と思いがちですが、これがそうではないのです。

ほとんどの人がここで騙されてしまいます。


この問題のポイントは「"答えを知っている"B捕手が、"A選手の選択した球種を知った後で”、はずれの選択肢を一つ消した」という所です。A選手の選択が当たりか外れかは教えず、またサインを出した球が来ないという嘘もつきません。この"意図的な操作"が入ることにより、完全に運任せの純粋な確率論と違ってくるのです。

答えを知っているB捕手がフォークはないと言っていたので、フォークが来る確率はゼロになりました。当たりは、残りのストレートかスライダーのどちらかになります。

つまり、「ストレートの確率+スライダーの確率 = 1」です。

これを書き換えると、「スライダーの確率 = 1 - ストレートの確率」です。答えに近づいてきました。

A選手は最初選択肢が3つありどれも等しい確率のときに真っすぐを選んだので、真っすぐがくる確率は1/3です。これはB捕手と話した後でも変わりません。なぜなら、B捕手はA選手が最初に選んだものを知っていて、それが当たりであっても、はずれであっても、いずれの場合も選択肢に残すからです。

従って、スライダーの確率は、1 - 1/3 = 2/3 となります。

最初のストレート狙いが当たる確率が1/3で、スライダー狙いに変えたら当たる確率は2/3です。スライダー狙いに変えた方が当たる確率が2倍高いのです。


というわけで、正解は「スライダー狙いに変えるべき」でした。






場合の数を正しく数える

上記の説明が分かりにくいという人のために。確率は場合の数を正しく数えるのがコツです。以下順を追って数え上げていきます。


①A選手ははじめストレートを選択(A)

このときサイン(S)はどの球種も等しい確率で出されているため、3回やれば以下3パターンが等しい確率で発生します。

    ストレート   スライダー フォーク   
 A ,S  
2 A S 
3 A  S


6回やれば同じものが2回ずつで、以下6パターンが等しい確率で発生します。

 ストレート    スライダー     フォーク       
     A, S  
2        A, S  
3 
4 
5 
6 



②B捕手が外す球種を選択(B)

B捕手はA選手の選択がはずれかどうかは教えず、またサインを出したものが来ないという嘘はつきません。従って、A選手が選択したものと、サインを出したもの、どちらも避けて外します。

パターン1,2では外すことができるものが2つあるので、スライダーを外すのと、フォークを外すのとが同じ確率で発生し1回ずつになります。パターン3,4では外せるものがフォークしかないのでどちらもフォークを外します。パターン5,6も同様でどちらもスライダーを外します。

結果、以下の6パターンが等しい確率で発生します。

 ストレート   スライダー    フォーク      
1        A, S  
2A, S B
3S
B
5
6B

③B捕手がフォークが来ないことを教える

最後にフォークが来ないことをA選手に教えます。これで、B選手がフォークを外すものとして選択したパターン2,3,4だけが残ります。スライダーを外したパターン1,5,6は起こらない未来となり、除外されます。

残った以下の3パターンが、等しい確率で発生します。これが問題編の状況です。

 ストレート    スライダー    フォーク      
2     A, S  
A


A選手が最初に選んだストレートが来るのはパターン2のみで、3回中1回です。最初に選ばなかったスライダーが来る確率はパターン3,4の2つで、3回中2回です。
ストレートがくる確率は1/3で、スライダーは2/3です。



モンティホール問題

もしかしたら、上記の説明を読んでも納得できないかもしれません。嘘だと思われるかもしれません。

この問題は「モンティホール問題」という有名なもので、当初は大学の数学教授でも間違う人がいたほどですから、無理もありません。

逆さに伏せた三つの紙コップのどれかにコインを隠し、誰かに当ててもらうゲームを数十回と繰り返せば、変えた方が2倍多い回数当てられることが確認できます。自分が当てる方を担当すれば、手品のように驚かせることもできます。


*****

野球は打率や勝率など、さまざまな確率計算と親和性の高いスポーツです。野球好きな人は数学嫌いが多いので少し残念です。両方好きな人がもっと増えればよいなと思います。



ではまた。





2021年11月6日土曜日

第93回 バンテリンドーム左中間の深さはどのくらいか


パークファクター最小

バンテリンドーム ナゴヤ(旧ナゴヤドーム)は日本一ホームランの出ない球場として有名です。

統計指標を評価する際に球場による差異を補正するためのパークファクターという値があるのですが、バンテリンドームは毎年当たり前のように1.0を下回り、12球団本拠地中最小の値を獲得しています。

なぜそんなにホームランが出ないのかというと、外野フェンスが高いこと、フェンスの濃い青色により心理的圧迫感があること、マウンドの質が良く投手が投げやすいこと、ホームにしている中日が投高打低のチームであることなど複数の理由が挙げられます。その中でも特に左中間、右中間のふくらみが大きく深いことが大きく影響しているのではないか、と言われています。

そこで今回は、前回Excelで作図した野球グラウンドを使って、バンテリンドームの左中間、右中間はどのくらい深いのか計算してみたいと思います。


同心円の円弧

バンテリンの外野フェンスは、真円のドーム全体や5階席と同じ中心点を持つ、同心円で描かれています。幾何学的に非常に整った形状をしています。

前回求めたように、バンテリンドームの外野フェンスはホームベースからセンター方向へ47.612メートルの位置に中心点を持つ、半径74.388メートルの円弧です。中心点はセンターラインとインフィールドラインが交わるあたりになります。


外野フェンスまでの距離の計算式

上記の条件から左右の打球方向角度と、外野フェンスまでの距離の関係式を導くことができます。

下図のように、外野フェンス上の点をa、ホームベースから外野フェンスまでの距離をr、打球の左右方向角度をセンターラインを基準にθとします。

r'とO'は外野フェンスの円弧の半径と中心点です。値は上記のようにr'=74.388[m]およびO'の座標(xo,yo)=(0,47.612)です。

バンテリンドームナゴヤの外野フェンスは同心円の円弧である

では円弧である外野フェンス上の点aの座標をx,yとして、式を計算していきます。
まず、三平方の定理から
r'^2=x^2+(y-yo)^2 -①
です。
次にx,yをセンターラインからの角度θでそれぞれ円筒座標系表示に変換すると
x = r・sinθ -②
y = r・cosθ -③
です。
①式に②、③を代入すると、
r'^2 =(r・sinθ)^2+(r・cosθ-yo)^2 
=r^2 - 2r・yo・cosθ + yo^2     
rについて整理すると、
r^2 - 2r・yo・cosθ - (r'^2 - yo^2 ) = 0 ‐④
となります。
④は二次方程式なので公式を使うとその解は、
r = yo・cosθ + √{(r'・cosθ)^2 + (r'^2 - yo^2 )} -⑤
です。
この⑤式に既知の数値r'およびyoを入力すれば、バンテリンドームにおける左右の打球方向角度θと外野フェンスまでの距離rの関係式

r = 47.612・cosθ + √{(74.388・cosθ)^2 + (74.388^2 - 47.612^2 )}

  47.612・cosθ + √{5533.537・(cosθ)^2 + 3266.611} -⑤'


が導れます。



打球方向による外野フェンスまでの距離

では、上記⑤'式を使って打球角度θごとのフェンスまでの距離rを計算していきます。
計算するのはフェアゾーンのレフトポールからセンターを通ってライトポールまでの範囲のなので、-45°≦θ≦45°です。

Excelを使って値を計算し、θとrのグラフで表すと以下のようになります。


レフトポールとセンターの中間、θ=-22.5°、つまり左中間ど真ん中ではホームから外野フェンスまで116.1メートルもあります。
両翼100メートルとセンター122メートルの中間値111メートルではなく、それよりも5メートルも遠くにフェンスがあります。
最も狭い両翼100メートルよりも16メートル以上飛ばさないとホームランにならないわけです。
これでは、左中間は深くてホームランが出にくいと感じるのも無理ないことです。

しかしながら、TVや動画中継で時々使われる「左中間の一番深いところ」という表現は誤りです。ポール際からセンター方向へ向かうにつれ、フェンスまでの距離rは単調増加で増え続けます。極大点は存在しません。


グラウンド上へプロット

さて、上記の左中間ど真ん中のフェンスまでの距離を、グランド上にプロットすると以下のようです。
参考に、ホームベース後端((x,y)=(0,0))を中心点とした半径100~120の同心円も灰色線で示しました。

ナゴド左中間フェンスまでの距離計算結果

こうしてみると野球場というのは打球の左右方向によって外野フェンスまでの距離が全然違ってくることが分かります。ちなみにソフトボールではどの方向でも同じになっています。
センター返しが得意なバッターよりも、引っ張りがちなプルヒッターの方がホームランを打つことに関してはずっと有利です。少し不公平な気さえします。

そのため、ホームランを量産するためには打球速度、回転、打球上向き角度の3要素に加え、距離の近い両翼よりの方向を狙いつつ切れてファールにはならないような打ち方をする技術もまた欠かせないということです。

HRを量産するコツ

三冠王落合博満さんはレフトへライトへの広角打法でした。これは広角に打つのが目的ではなく、距離の遠いセンター方向を避けることで効率よくホームランを量産していたということです。

大谷選手もメジャー1年目の2018年はセンター方向へのホームランが多かったですが、今シーズン21年ではライト方向へのホームランの割合がかなり増えました。それがシーズン46本塁打という日本人記録の大幅な更新に繋がった一因だといえます。

強打者ならばセンター方向へ打ってもホームランは打てますが、それは年に数回しかない本当の会心の当たりのときのみです。年に何十回とは打てません。

例えば、155km/hの打球速度ではセンター方向へ打つと122メートル未満の飛距離しか出ないためフェンスまで届きません。それならば、もっとタイミングを遅らせて仮に5km/h打球速度を落としてでもライトポール際へ流し打つことができれば、これはホームランになります。150km/hの打球速度でも100メートル以上の飛距離は十分出せるためです。


ホームランテラス待望論

さて、今回計算したようにバンテリンドームは左中間、右中間が深くなっており、そのためホームランが出づらい球場です。正直ファンからも不評でホームランテラス待望論が上がっています。

テラスが設置されれば得点が入りやすくなり、もっと試合が面白くなるかもしれません。

しかし個人的にはテラスには反対なのです。

何故かというと一つには、同心円の幾何学的な建築物としての美しさが損なわれるからです。

もう一つは、中日が強くなることに繋がらないと考えられるからです。

投高打低のチームですが、それはバンテリンドームに限ったことでなくビジターの狭い球場でも打線は同じように点をとれていません。そのためバンテリンが狭くなっても得点が増えるとは期待できません。

広いバンテリンでは外野手が後ろに下がっているため、前に落ちるヒットが増えます。ランナーが出て得点圏になるとバックホームのために前に出てきます。そうすると同じ当たりでも捕られてしまい結果、チャンスは作れてもあと一本が出ず無得点に終わります。

これが狭いビジター球場だと最初から前にいるためチャンスすら作れずに終わってしまいます。

またそのような貧打線にも関わらず投手陣の踏ん張りにより、ホームのバンテリンでは勝ち越しています。良い結果が出ているならば、下手に変えない方が得策です。

さいわい立浪新監督もテラス設置は要望せず、石川昴弥選手など有望選手の長打力を伸ばしていく方針のようなので期待して来シーズンを待ちたいと思います。







では、また。



2021年10月30日土曜日

第92回 Excelで野球場を作図する



幾何学的

野球のグラウンドはルールにより各寸法が定められており、それは幾何学的に整った形をしています。
そのため、適当な座標系を指定し、簡単な寸法計算をするだけで作図することができます。

そこで今回は野球のグラウンドを、Excelを使って描いてみたいと思います。


ホームベース

まず最初は、ホームベースです。

投球のストライクゾーンおよび、得点を定める肝心かなめの存在です。

家のような形をしているため"ホーム"ベースと呼ばれますが、正五角形ではなく、一辺が43.2cmの正方形の角2つを辺の中点で結ぶラインで切り落とした形をしています。

ベース後端(捕手側)の点を原点にとり、センターラインをy軸、一塁方向を+x軸にとります。

Excelで計算した値と式、および散布図でプロットした結果は以下のようです。単位はメートルです。

ホームベースの作図



バッターボックス、ファールライン

次は左右のバッターボックスとライト、レフトのファールラインです。

打者はバッターボックスの外に完全に足が出た状態でボールを打つと、アウトになります。

ファールラインは長打のヒットとファールを分ける、あるいは絶妙なバントとファールを分け、時に勝負の行方を左右する存在です。

バッターボックスは縦1.824メートル、横1.219メートルの長方形です。前後の中心はホームベースの中点(上図の点1)で、左右のバッタボークスはホームベースを挟んで73.66メートル離れた左右対称な配置になっています。

寸法の値に小数点以下が多い数字になっているのは、野球発祥国であるアメリカで使われている長さの単位フィートでキリの良い値にされているのを、メートルに換算しているためです。

ファールラインはホームベース後端(上図の点0)からセンターラインに対しそれぞれ45度の方向に100メートル先まで伸ばされた直線(線分)です。45度のため、√2で割るだけでの伸ばした先の端点、すなわち両翼ポールの点のx,y座標を求めることができます(cos45°=sin45°=1/√2)。またファールライには通常バッターボックスの前端から線を引かれます。


Excelで計算した値と式、および散布図でプロットした結果は以下のようです。

バッターボックス、ファールラインの作図



123塁ベース、ピッチャープレート

次は1,2,3塁の各ベースと、ピッチャープレートです。

1塁ベースはライト線上、ホームベース後端から27.431メートルの位置を後端とする、一辺38.1cmの正方形です。

2塁ベースの中心点はセンターライン上、ホームベース後端から38.795メートルの位置にあります。サイズは一塁と同じです。

3塁ベースは、1塁ベースをセンターラインに対して左右反転させた位置にあります。サイズは1塁と同じです。

ピッチャープレートはホームベース後端から18.44メートルの位置ある、縦15.2cm、横60.9cmの長方形です。

Excelで計算した値と式、および散布図でプロットした結果は以下のようです。

これで、直線で描ける部分は完成です。

ベース、ピッチャープレートの作図


けん制球が難しい理由

私は子供の頃からずっと野球をしているのですが、今回作図をしていて初めて気づいたことがあります。

ピッチャープレートは1塁と3塁を結ぶライン上ではなく、少し手前の、ホームベース寄りにあります(y29=18.44 < y21=19.397) 。

けん制球というのはどうも投げづらいものだと常々思っていたのですが、このせいだということが分かりました。案外気が付かないものです。

3塁へのけん制球はセットポジションから体の真正面でなく、1メートル弱右側に向かって投げているわけです。同様に1塁けん制では180度真後ろではなく、もう少し深い角度まで回転して投げなければいけません。

また2塁けん制では、ホームに投げるよりも2メートル弱長い距離を投げる(y29=18.44 < y25-y29 =20.355)ことになります。ホームと同じつもりで投げると届かずワンバウンドを放ってしまいます。




ピッチャーマウンド、インフィールドライン

さて次は、ピッチャーマウンドとインフィールドラインです。これは円と円弧で描かれます。

ピッチャーマウンドは土が盛られているだけで、グランド上に線は描かれません。

またインフィールドラインは、学生野球や草野球のグランウンドでは通常省略され、プロやメジャーリーグの球場でも内野が土の場合は外野の芝生との境目で代用し省略されます。

そのため無くても良いのですが、あったほうが雰囲気が出るので、作図します。

ちなみにインフィールドラインは、審判がインフィールドフライを宣告するか否かの判断をする際の目安として引かれているものです。目安でしかなく、宣告するか否かは審判の個々の判断に任されます。選手や観客には直接関係ありませんが、内野手の守備位置の深さを見る際の目安として利用できます。


マウンドの中心点はプレート上ではなく、その45.7cm手前にあります。(x,y)=(0,18.44-0.457)を中心とした、半径2.743メートルの円形です。

インフィールドラインはピッチャープレートを中心点とした、半径28.956メートルの円弧です。そのためホームベースからの距離はファールライン際では近く、センターラインよりでは遠くなっています。


点を結んで正確な円や円弧を描こうとすると、無数の点が必要となります。実用的な方法として、等角度おきに点を配置した正多角形で近似します。正多角形で近似する方法は円周率の値を求める際などにも利用されます。

今回はマウンドは15度おきにします。360/15=24なので、正24角形となります。

インフィールドラインは半径が大きいので、プロットした時線がガタガタにならないようもう少し細かくして10度おきにします。

cosとsinでxとyの座標値を計算していくのですが、Excel数式では三角関数を計算する際、角度をなじみのある度(deg)から、ラジアン(rad)に必要があることに注意です。セルへの数式入力の仕方は"RADIANS"を使って、例えば"=2.743*COS(RADIANS(0))"とします(下図のx33の場合)。

Excelで計算した値と式、および散布図でプロットした結果は以下のようです。

いい感じになってきました。

ピッチャーマウンド、インフィールドラインの作図



外野フェンス

最後は、外野フェンスです。

ホームランと2ベースヒットを仕分ける存在であり、選手がプレーするグラウンドと観客席を隔てる存在でもあります。

他の寸法と異なり、一定ではなく、球場により形状が異なるのが特徴です。


[バンテリン]

今回は、バンテリンドームナゴヤ(以下、バンテリン)の外野フェンスを作図します。

バンテリンの外野フェンスは他球場よりも右中間、左中間が深くホームランが出にくいのが特徴です。正直、ファンからも不評でホームランテラス待望論が出ていますが、私はこの形が好きです。

なぜかというと、バンテリンの外野フェンスは幾何学的に美しい同心円だからです。円形をしたドーム全体や内外野をぐるっと一周する5階席と同じ中心点で描かれた、円弧になっています。

巨大建築の美しさは古来から幾何学的美しさと切っても切れない関係です。エジプトのピラミッドが何千年も姿を姿を保ちながら多くの考古学者や観光客を魅了しているのも正四角すいの持つ幾何学的な力があるからこそです。




[円弧の中心点]

バンテリンの外野フェンスは円弧ですが、その中心点はどこにあるでしょうか?

外野フェンスは両翼100メートル、センター122メートルです。

一般的な数学の定理として、円弧上の3点の位置が分かれば、その中心点を求めることができます。下図のように3点a,b,cがあれば、aとbをつなぐ直線の垂直二等分線と、bとcをつなぐ直線の垂直二等分線が交わるところ、そこが円弧の中心点です。この方法は、紙の上に作図する際はコンパスと定規で簡単にできるのですが、座標値を計算するのは意外と面倒です。

そこで今回は、外野フェンスが左右対称で点bとOがセンターライン上にある、つまりx座標が0であることを利用して計算します。

外野フェンスの中心点

中心点Oの座標を(x,y)=(0,yo)とおくと、点bの座標は(0,122)なので、円弧の半径rは
r=122-yo -①
となります。
また点aの座標は(100/√2,100/√2)なので、円弧の半径rは三平方の定理から
r^2 = (100/√2)^2 + (100/√2 - yo)^2 -②
となります。
①を②に代入してrを消し、yoについて整理すると
yo=(122^2-100^2)/(2×122 - 100×√2) = 47.612 [m]
を得ます。
このyoの値を①式に代入すれば、
r=122-47.612=74.388 [m]
を得ます。

というわけで、バンテリンドームナゴヤの外野フェンスは、ホームベースからセンター方向へ47.612メートルの位置に中心点を持つ、半径74.388メートルの円弧である、ということが分かりました。


[作図]
では、これを基に外野フェンスの座標を5度おきで計算していきます。Excelで計算した値と式、および散布図でプロットした結果は以下のようです。
外野フェンスの作図

完成です!

座標計算した103個の点たちを結ぶことで、野球場を描くことができました。




*****
このグランウンドを使って次回以降、打球や送球の計算をしてみたいと思います。






では、また。



2020年10月3日土曜日

第36回 後攻をとれる確率



どちらが有利か?       

野球の試合で先攻と後攻を選べるなら、どちらにしますか?

一般的には後攻の方が有利だといわれており、人気があるようですね。

プロ野球では後攻の方が勝率が高い、という統計的な結果が出ています。

しかしながら、後攻の時は必ずホームゲームなので、ホームゲームが有利という要因も上乗せされており、純粋に後攻が有利とする根拠には弱いようです。

ホームゲームの関係ないアマチュア野球については意見が分かれますが、後攻有利説がやや優勢なようです。


唐突な問題       

さてここで、

唐突に数学の問題です。

[問題]

1/3を順に掛けて行くと、以下のようになります。

1/3 = 0.333333333
1/3×1/3 = 1/9 = 0.111111111
1/3×1/3×1/3 = 1/27 = 0.037037037
1/3×1/3×1/3×1/3 = 1/81 =0.0123456789


では、

これをずっと永遠に続けて行き、全部足し合せたらいくつになるでしょう?

1/3 + (1/3×1/3) + (1/3×1/3×1/3) + (1/3×1/3×1/3×1/3) +
=(1/3)^1 + (1/3)^2 + (1/3)^3 + (1/3)^4 +
=????


[問題おわり]


これは等比級数の和の公式を使うことで解くことができます。

※ここからしばらく数学の計算が続きます。
面倒な方は(*゚▽゚)まで読み飛ばしてください。


[解答]

等比級数の和の公式
Sn = a + a×r + a×r^2 +a×r^3 + … + a×r^n
= a×(1-r^n)/(1-r)

今回の場合
a=1
r=1/3
求める解x =Sn-a
なので、

x= a×(1-r^n)/(1-r)- a
    =(1-(1/3)^n)/(1-(1/3)) 1

 ここで、
1より小さい数はかけるごとに小さくなっていくため
n=∞のとき、(1/3)^n0となる。

従って
x=(1-0)/(1-(1/3)) 1
 =3/(3-1)-1 = 3/2 - 1 = 1/2

[解答おわり]

(*゚▽゚)

と言うわけで全部足し合せると1/2になります。

実はこの問題、
こんなにきちんと計算しなくても答えは分かるのです。



別解         

話を元に戻します。

先攻、後攻についてですが、高校野球の甲子園ではルールとして「審判委員立会いのもと、両校主将のジャンケンで決定される」ことになっているそうです。

では、二人でジャンケンしましょう。




一回目で勝つ確率はグー、チョキー、パーどれをだしても1/3です。
一回目はあいこで、二回目に勝つ確率は1/3×1/3です。
一、二回目ともあいこで、三回目に勝つ確率は1/3×1/3×1/3です。

気づきましたか?

何回目でもよいからとにかく勝つ確率は

1/3 + (1/3×1/3) + (1/3×1/3×1/3) +(1/3×1/3×1/3×1/3)+

です。

そうです、

先ほどの問題と同じです。

ジャンケンで勝つ確率が1/2なのは自明ですね。


逆に言えば、ジャンケンは数学的に完全に平等であることが証明されているので、安心して勝負を運にまかせることができるのです。

パチンコや競馬などは胴元が確率を巧妙に操作しており、運任せではかならず消費者が損をするようにできています。

野球賭博もです。

気を付けてくださいね。


余談         

こんな話もあります。

 


ゆうとくんは誕生日に、魔法のケーキと魔法のナイフをもらいました。

魔法のケーキはいつまでたってもくさりません。
魔法のナイフはどんなに適当に切ってもちょうどに半分になります。

ゆうとくんはケーキが大好きなので毎日毎日
このナイフでケーキを半分に切って一切れずつたべます。

一日目はホールのケーキを半分に切って、片方を食べて、片方をとっておきました。

二日目はとっておいたケーキを半分に切って、その片方を食べて、もう片方をとっておきました。

三日目も、四日目も同じです。

人にあげたりせず、全部ひとりでたべるつもりです。


ところで、もうひとつもらったものがあります。


それは「永遠の命」です。

さて、今から一億年後の未来、
ゆうとはどれだけたくさんのケーキを食べているでしょう?



...そう、たった一個です。





では、また。







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2020年8月29日土曜日

第31回 ナゴドと東京ドームどちらが広いのか?

 

日本一ホームランの出ない球場            

ナゴヤドームは日本一ホームランの出にくい球場です。

一方で、東京ドームではホームランが出やすく、空調で追い風を起こしていると噂が立つほどです。

しかし両翼、センターフェンスまでの距離はどちらも同じで100m,122mです。


ではなぜ、ナゴヤドーム方がホームランが出にくいのでしょうか?


ナゴヤドーム                     

ナゴヤドームは1997年に開場した中日ドラゴンズが本拠地としている球場です。

名前の通り愛知県の名古屋市にあり、上空から見るとまん丸の形をしています。

過去にはAKB総選挙やボブサップvs曙が行われ、野球以外のイベントにも広く使用されます。

そんなナゴヤドームですが、外野フェンスの形状は下図の青線のようになっています。

一見、外野フェンスはホームベースを中心点とした円弧のように見えますが、そんなことはありません。

両翼100m、センター122mですので、ホームベースから外野フェンスまでの距離は一定ではありません。

引張ったり流し打ったりするよりも、センター返しした時の方が打球が速く遠くまで飛ぶため、野球場はどこも両翼よりもセンターの方が広く設計されています。


美しい円弧                      

しかしそれでも、円弧に見えます。

なので作図して調べてみました。


その結果、やっぱり円弧でした。

ただし、その円の中心点はそれはホームベースではなく、センターラインとインフィールドラインの交点あたりにありました。

ホームベースからピッチャープレートまでが18.44mであり、インフィールドラインはピッチャプレート中央を中心点とした半径約29mの円弧のため、ナゴヤドームの外野フェンスは半径74.5m(=122-18.44-29)の円弧になります。


また、外野フェンスの円弧の中心点は、ナゴヤドームという建造物全体の中心点と一致しています。

外観、5階席、外野席、そして外野フェンス。すべてが同じ点を中心点とした円弧、すなわち同心円になっています。

美しいですね。

同心円の幾何学的美しさを持つと同時に、両翼100m,センター122メートルというプロ野球の標準的寸法もクリアしている。

素晴らしい設計です。竹中工務店はいい仕事をします。


  • ナゴヤドームの外野フェンスは半径74.5mの円弧である。
  • その中心点は建物全体の中心点と一致しており、同心円になっている。

東京ドーム                     

東京ドームは東京都文京区にある、読売巨人軍が本拠地としている野球場です。

かつては日本ハムファイターズも本拠地としていましたが、何か不満があったようで北海道へと移転しました。

開場は1988年と古く、外野席の足元のコンクリートにはひび割れも多く見られます。

そんな東京ドームですが、外野フェンスの形状は下図の橙線のようになっています。


両翼とセンターを結ぶ右中間、左中間のフェンスをみると随分と真っすぐです。

ナゴヤドームの円弧の丸みとは対照的です。


凹んだ正方形                     

今では誰も言いませんが、開場当時はビッグエッグ(巨大な卵)という公式ニックネームがついていました。

しかし上空から見た形状は卵型ではなく、四角い形をしています。

内装を見ると内野席が非常に広く、外野席は極端に狭くなっています。

外野フェンスを含めたフェアゾーンをみるとやはり四角く、正方形に近いように見えます。

正方形なら対角線つまりホームからセンターまでの距離は100m×√2=141.4mとなるはずですが、センターまでの距離は122mなので実際は正方形からセンターを凹ませた形になっ
ています。

すこしいびつな形です。


  • 東京ドームの外野フェンスはまっすぐである。
  • フェアゾーンは正方形からセンターをへこませたような形である。


比較                         

ナゴヤドームと東京ドームは両翼、センターの距離は同じでも、外野フェンスの形状が大きく異なることが分かりました。

両者を重ねることでどのくらい違うのか見てみます。

下図のようになりました。

ホームから右中間、左中間フェンスまでの距離がまるで違います。

ナゴヤドームの円弧で描かれた外野フェンスは、その深いふくらみでもってホームランになるはずの大飛球をフェンス直撃のツーベースヒットに変えてしまいます。

東京ドームの外野フェンスは、浅いふくらみによりフェンス手前で捕られてしまうはずの外野フライをホームランに変えてしまいます。


*****
統一しろよと怒る人もいるかもしれませんが、メジャーリーグでは球場による違いはもっとばらばらです。

グリーン・モンスターやタルズ・ヒルなどひどいものですが、逆に名物として親しまれています。

多様性も含めて野球を楽しめるのが一番ではないでしょうか。




では、また。






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