2021年11月6日土曜日

第93回 バンテリンドーム左中間の深さはどのくらいか


パークファクター最小

バンテリンドーム ナゴヤ(旧ナゴヤドーム)は日本一ホームランの出ない球場として有名です。

統計指標を評価する際に球場による差異を補正するためのパークファクターという値があるのですが、バンテリンドームは毎年当たり前のように1.0を下回り、12球団本拠地中最小の値を獲得しています。

なぜそんなにホームランが出ないのかというと、外野フェンスが高いこと、フェンスの濃い青色により心理的圧迫感があること、マウンドの質が良く投手が投げやすいこと、ホームにしている中日が投高打低のチームであることなど複数の理由が挙げられます。その中でも特に左中間、右中間のふくらみが大きく深いことが大きく影響しているのではないか、と言われています。

そこで今回は、前回Excelで作図した野球グラウンドを使って、バンテリンドームの左中間、右中間はどのくらい深いのか計算してみたいと思います。


同心円の円弧

バンテリンの外野フェンスは、真円のドーム全体や5階席と同じ中心点を持つ、同心円で描かれています。幾何学的に非常に整った形状をしています。

前回求めたように、バンテリンドームの外野フェンスはホームベースからセンター方向へ47.612メートルの位置に中心点を持つ、半径74.388メートルの円弧です。中心点はセンターラインとインフィールドラインが交わるあたりになります。


外野フェンスまでの距離の計算式

上記の条件から左右の打球方向角度と、外野フェンスまでの距離の関係式を導くことができます。

下図のように、外野フェンス上の点をa、ホームベースから外野フェンスまでの距離をr、打球の左右方向角度をセンターラインを基準にθとします。

r'とO'は外野フェンスの円弧の半径と中心点です。値は上記のようにr'=74.388[m]およびO'の座標(xo,yo)=(0,47.612)です。

バンテリンドームナゴヤの外野フェンスは同心円の円弧である

では円弧である外野フェンス上の点aの座標をx,yとして、式を計算していきます。
まず、三平方の定理から
r'^2=x^2+(y-yo)^2 -①
です。
次にx,yをセンターラインからの角度θでそれぞれ円筒座標系表示に変換すると
x = r・sinθ -②
y = r・cosθ -③
です。
①式に②、③を代入すると、
r'^2 =(r・sinθ)^2+(r・cosθ-yo)^2 
=r^2 - 2r・yo・cosθ + yo^2     
rについて整理すると、
r^2 - 2r・yo・cosθ - (r'^2 - yo^2 ) = 0 ‐④
となります。
④は二次方程式なので公式を使うとその解は、
r = yo・cosθ + √{(r'・cosθ)^2 + (r'^2 - yo^2 )} -⑤
です。
この⑤式に既知の数値r'およびyoを入力すれば、バンテリンドームにおける左右の打球方向角度θと外野フェンスまでの距離rの関係式

r = 47.612・cosθ + √{(74.388・cosθ)^2 + (74.388^2 - 47.612^2 )}

  47.612・cosθ + √{5533.537・(cosθ)^2 + 3266.611} -⑤'


が導れます。



打球方向による外野フェンスまでの距離

では、上記⑤'式を使って打球角度θごとのフェンスまでの距離rを計算していきます。
計算するのはフェアゾーンのレフトポールからセンターを通ってライトポールまでの範囲のなので、-45°≦θ≦45°です。

Excelを使って値を計算し、θとrのグラフで表すと以下のようになります。


レフトポールとセンターの中間、θ=-22.5°、つまり左中間ど真ん中ではホームから外野フェンスまで116.1メートルもあります。
両翼100メートルとセンター122メートルの中間値111メートルではなく、それよりも5メートルも遠くにフェンスがあります。
最も狭い両翼100メートルよりも16メートル以上飛ばさないとホームランにならないわけです。
これでは、左中間は深くてホームランが出にくいと感じるのも無理ないことです。

しかしながら、TVや動画中継で時々使われる「左中間の一番深いところ」という表現は誤りです。ポール際からセンター方向へ向かうにつれ、フェンスまでの距離rは単調増加で増え続けます。極大点は存在しません。


グラウンド上へプロット

さて、上記の左中間ど真ん中のフェンスまでの距離を、グランド上にプロットすると以下のようです。
参考に、ホームベース後端((x,y)=(0,0))を中心点とした半径100~120の同心円も灰色線で示しました。

ナゴド左中間フェンスまでの距離計算結果

こうしてみると野球場というのは打球の左右方向によって外野フェンスまでの距離が全然違ってくることが分かります。ちなみにソフトボールではどの方向でも同じになっています。
センター返しが得意なバッターよりも、引っ張りがちなプルヒッターの方がホームランを打つことに関してはずっと有利です。少し不公平な気さえします。

そのため、ホームランを量産するためには打球速度、回転、打球上向き角度の3要素に加え、距離の近い両翼よりの方向を狙いつつ切れてファールにはならないような打ち方をする技術もまた欠かせないということです。

HRを量産するコツ

三冠王落合博満さんはレフトへライトへの広角打法でした。これは広角に打つのが目的ではなく、距離の遠いセンター方向を避けることで効率よくホームランを量産していたということです。

大谷選手もメジャー1年目の2018年はセンター方向へのホームランが多かったですが、今シーズン21年ではライト方向へのホームランの割合がかなり増えました。それがシーズン46本塁打という日本人記録の大幅な更新に繋がった一因だといえます。

強打者ならばセンター方向へ打ってもホームランは打てますが、それは年に数回しかない本当の会心の当たりのときのみです。年に何十回とは打てません。

例えば、155km/hの打球速度ではセンター方向へ打つと122メートル未満の飛距離しか出ないためフェンスまで届きません。それならば、もっとタイミングを遅らせて仮に5km/h打球速度を落としてでもライトポール際へ流し打つことができれば、これはホームランになります。150km/hの打球速度でも100メートル以上の飛距離は十分出せるためです。


ホームランテラス待望論

さて、今回計算したようにバンテリンドームは左中間、右中間が深くなっており、そのためホームランが出づらい球場です。正直ファンからも不評でホームランテラス待望論が上がっています。

テラスが設置されれば得点が入りやすくなり、もっと試合が面白くなるかもしれません。

しかし個人的にはテラスには反対なのです。

何故かというと一つには、同心円の幾何学的な建築物としての美しさが損なわれるからです。

もう一つは、中日が強くなることに繋がらないと考えられるからです。

投高打低のチームですが、それはバンテリンドームに限ったことでなくビジターの狭い球場でも打線は同じように点をとれていません。そのためバンテリンが狭くなっても得点が増えるとは期待できません。

広いバンテリンでは外野手が後ろに下がっているため、前に落ちるヒットが増えます。ランナーが出て得点圏になるとバックホームのために前に出てきます。そうすると同じ当たりでも捕られてしまい結果、チャンスは作れてもあと一本が出ず無得点に終わります。

これが狭いビジター球場だと最初から前にいるためチャンスすら作れずに終わってしまいます。

またそのような貧打線にも関わらず投手陣の踏ん張りにより、ホームのバンテリンでは勝ち越しています。良い結果が出ているならば、下手に変えない方が得策です。

さいわい立浪新監督もテラス設置は要望せず、石川昴弥選手など有望選手の長打力を伸ばしていく方針のようなので期待して来シーズンを待ちたいと思います。







では、また。



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