2020年5月23日土曜日

第17回 3種類のスライダーの軌道比較



 スライダーのバリエーション 

スライダー、と一口に言っても、その変化の方向は様々です。

縦、横、斜め。

投手によって曲がる方向が違ったり、一人で数種類を使い分ける器用な投手もいます。


 横のスライダー 

元々はスライダーといえば横へ変化するものを指していました。
オリジナル、元祖のスライダーです。

回転はサイドスピンに近く、マグナス力で横へ大きく曲がります。

右対右、左対左でアウトコースに投げるのが効果的で、バットの先に当たったり、届かず空振りをとったりできます。

主な使い手は、ダルビッシュ(カブス)、伊藤智仁(元ヤクルト)、斎藤正樹(元巨人)などです。


 縦のスライダー 

2000年前後に広まった、比較的新しい球種です。

ジャイロ回転により揚力を働かなくすることにより、フォークボールのような落ち方をします。

使い方もフォークボールと同じで、低めに投げてストライクゾーンからボールゾーンへと変化させることで、空振りをとることができます。

主な使い手は、松坂大輔(西武)、田中将大(ヤンキース)、大塚晶則(元パドレス)などです。


また、山岡投手(オリックス)のように、球速の速いトップスピン回転の球も、最近では縦スラと呼ばれるようです。


 斜めスライダー 

一番投げやすく、投げる投手の多い球です。

回転はサイドスピンとジャイロ回転の中間で、斜めに曲がり落ちて行きます。

アウトコースはもちろん、打者のひざ元インローに投げても効果的なので、相手打者が左右どちらでも使える便利な球です。

主な使い手は、岩瀬投手(元中日)、前田健太(ツインズ)などです。



 3種のスライダー軌道計算 

今回はこの3種類のスライダーの軌道を計算して、比較してみます。
球速、回転数、リリース角度を同じにして、回転軸のみ変えます。
比較のため回転軸は完全なサイドスピン、ジャイロ回転、その中間とします。

また軌道比較のため、4シームの軌道も併せて計算します。

[計算条件]

 横スライダー(完全なサイドスピン)
 球速:v0=130[km/h]、リリース角度:θ=0.0度(水平)、Φ=1.0度(一塁方向)
 リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=0.5m(一塁方向)、z0=1.8m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=0度、Φs=0度
 回転数N=2500rpm(SP=0.27) : 抗力係数 CD=0.42、揚力係数CL=0.24

 縦スライダー(完全なジャイロ回転)
 ボール回転軸角度 θs=90度、Φs=0度
 (その他は、横スライダーと同じ。)

 斜めスライダー(サイドスピンとジャイロ回転の中間)
 ボール回転軸角度 θs=90度、Φs=0度
 (その他は、横スライダーと同じ。)

 4シーム
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=-1.0度(下向き)、Φ=1.0度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 回転数N=2200rpm(SP=0.22) : 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20

 回転軸定義
 



[計算結果]
3種類のスライダーの軌道計算結果は以下のようになりました。

グラフ中の点は0.02秒ごとのボールの位置を表します。
3種類のスライダー軌道計算結果

・上下の軌道、落下量は3種類とも同じである。
・横方向の変化は、横、斜めスライダーで大きく曲がる。


 縦の変化量 

サイドスピンも、ジャイロ回転も、その中間の回転も、上下方向の揚力はゼロです。
そのため上下方向の軌道は横スラ、縦スラ、斜めスラの3種類とも同じ、ホップ量ゼロの自由落下となます。x-z平面へのプロットでは完全に重なっています。
1度下向きにリリースされた4シームに比べて、その軌道は下を通過する沈む球となります。ホームベース上での上下軌道の差、落差は30cmになります。

プロの投手が投げる本当に真横に曲がるようなスライダーは、完全なサイドスピンではなく、バックスピン成分も与えて落下量を抑えていると考えられます。

反対に斜めのスライダーではトップスピン成分をいくらか与えて、より下への変化量を大きくしているパターンもあります。

スライダーは回転軸を少し変えるだけで、豊富なバリエーションを生み出すことができるのです。



 横の変化量 

ホームベース上における横方向の変化量は、縦スラはゼロ、横スライダーは58cmです。
一方、斜めスライダーは41cmです。回転軸が縦スラと横スラの中間でも、変化量は中間にはなりません。cos(45度)=0.71で横スライダーの71%の変化量になるためです。

横スライダー、斜めスライダーとも変化量の計算結果は、トラックマンのデータと比べて大きくなっています。
そのため、実際の投手が投げる球の回転軸はバックスピン、トップスピン、ジャイロ成分がもっと混じっているものと思われます。



 軌道の3Dプロット 

今回計算した軌道を3Dプロットしました。




gif動画も作りました。

視点は左打席後方からのものです。
一コマ0.02秒で、実際のスピードと同じにしてあります。

上下の落差が同じでも、サイドスピンの横スライダーは横へ曲がり、ジャイロ回転の縦スラは下へ落ちる、という印象を受けます。

どのスライダーが、一番打ちにくそうでしょうか?

横スライダー(サイドスピン回転)&4シーム



縦スライダー(ジャイロ回転)&4シーム



斜めスライダー(中間の回転)&4シーム



では、また。




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