球種ではない
メジャーリーグでは常套手段として使われていた「フロントドア」と「バックドア」ですが、元ヤンキースの黒田投手により日本球界にも知られるようになりました。これらは球種の名前ではなく、投げるコースや使い方を示します。
投げる球種は2シーム、シンカー、スライダー、カットボールなど横に曲がる球を使います。
どちらも投げた瞬間はボールゾーンの4シーム、と思いきや横に曲がってストライクゾーンを通過するような軌道で投げます。
そうやってバットを振らせず、見逃しストライクを狙うわけです。
まあ、卑怯な球です。
名前の由来
バッターの体に近い方のインサイドへ投げればフロントドア、遠いほうのアウトコースに投げればバックドアと呼ばれます。そのため投手にとって投げた球は全く同じでも、相手打者の左右により呼び方が変わります。
フロントドア(front door)は表玄関、バックドア(back door)は裏口の意味です。
ホーム(home)は家なので、そこへ入るためのドアというわけですね。
今回はフロントドア、バックドアの軌道を軌道シミュレータver.3.2を使って、計算していきます。
フロントドアの軌道計算
まずは、フロントドアです。右投手が左打者のインコースに2シームを投げた場合を対象とします。
比較のために、同じ水平方向角度でリリースした、ボール球になる4シームも計算します。
[計算条件]
2シーム(シュート)
球速 v0=135[km/h]、リリース角度 θ=-0.5度(下向き)、Φ=3.5度(一塁方向)
リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=-0.5m(三塁方向)、z0=1.8m(高さ)
ボール回転軸角度 θs=145度、Φs=-80度
回転数 N=2000rpm (SP=0.21) : 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.19
4シーム
球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=-1.0度(下向き)、Φ=3.5度(一塁方向)
ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
回転数 N=2200rpm (SP=0.22) : 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20
rpmは一分間あたりの回転数を表す単位です。
ボール回転軸角度の定義
θs : z軸からx-y平面に向かう角度(真上から水平に向かう角度)
Φs : x軸からy軸に向かう角度(ホーム方向から一塁側へ向かう角度)
[計算結果]
左打者へのフロントドアの軌道計算を以下に示ます。
グラフ中の点は0.02秒おきの、一番右の点のみx=18.44mにおけるボールの位置を表します。
・フロントドアとして投げた2シームは、4シームに比べ21cmホームベース側に曲がり、ストライクゾーンをかすめて行く。
x=11mあたりまで両者の軌道は重なっており、ほぼ見分けはつかないでしょう。
4シームならバッターボックス内を通過していく軌道のため、打者は当てられると思って腰を引いて避けようとしてしまいます。
「フロントドア」は、打者がびっくりして怖がる姿を見るとつい口元が緩んでしまう、そんな嗜虐的な性格の投手にお勧めです。
バックドアの軌道計算
次はバックドアの軌道計算をしてみます。右投手が左打者のアウトコースにカットボールを投げる場合を対象とします。
比較のために、同じ水平方向角度でリリースして、ボール球になる4シームも計算します。
[計算条件2]
カットボール
球速 v0=135[km/h]、リリース角度 θ=-1.2度(下向き)、Φ=0.8度(一塁方向)
ボール回転軸角度 θs=80度、Φs=-20度
回転数 N=2300rpm (SP=0.24) : 抗力係数 CD=0.41、揚力係数CL=0.21
4シーム
球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=-2.0度(下向き)、Φ=0.8度(一塁方向)
ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
回転数 N=2200rpm (SP=0.22) : 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20
[計算結果2]
左打者へのバックドアの軌道計算を以下に示します。
グラフ中の点は0.02秒おきの、一番右の点のみx=18.44mにおけるボールの位置を表します。
・バックドアとして投げたカットボールは、4シームに比べ26cmホームベース側に曲がり、ストライクゾーンをかすめて行く。
x=11mあたりまで両者の軌道は重なっており、やはりほぼ見分けはつかないでしょう。
4シームならバッターボックスのライン上を通過していく軌道のため、打者はボール球だと思ってバットを振るのを止めてしまでしょう。
「バックドア」は、もし曲がらなくてもただのボール球になるだけのため、気の弱い投手にお勧めです。
3Dプロット
今回計算したフロントドア、バックドアの軌道を3Dプロットにしました。ストライクゾーンの枠、ホームベースも併せて表示しました。
視点は左打者後方からのものです。
動画は1コマ0.02秒で実際のスピードと同じにしてあります。
瞬時にストライク、ボールを見分けて対処しなければならない打者の苦労を、体感できるでしょうか。
インコースへのボール球(4シーム)
フロントドア(2シーム)
gif動画(フロントドア(2シーム)&4シーム)
アウトコースへのボール球(4シーム)
バックドア(カットボール)
gif動画(バックドア(カットボール)&4シーム)
では、また。
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