2020年5月9日土曜日

第15回 アンダースローの軌道計算



 アンダースローの武器 

アンダースローはリリースポイントの低さにより、下から上へと投げ上げる軌道になります。
オーバースローの上から投げおろしてくる軌道を見慣れている打者の感覚を、大いに狂わせます。

また腕の振りの角度が90度違うため、ボールの回転軸も自然と違ってきます。
例えば4シームは、オーバースローのようなホップ成分はなく、サイドスピンのシュート回転になります。

中でも特徴的であり、アンダースロー最大の武器ともいえるのが「シンカー」です。
オーバースローのシンカーはほぼサイドスピンのシュート回転で重力により落ちますが、アンダースローの場合はトップスピン回転をしており重力にマグナス力が加わることでより大きく落ちます。

昭和の大投手山田久志投手から、令和の高橋礼投手まで、活躍したアンダースローはみなシンカーを得意としています。

三冠王三度の落合博光も、現役時代最も苦しめられたのが山田久志投手のシンカーだったと、自身の著書で述懐しています。
ちなみに、落ちていくシンカーをすくい上げることができず、さんざん凡打を繰り返した挙句、開き直った逆転の発想で、上からたたきつぶすようにしたところ打ち返せるようになったそうです。


 アンダースローの軌道計算 

今回はそんなアンダースローの、4シームとシンカーの軌道を計算します。

[計算条件]

 4シーム
 球速:v0=130[km/h]、リリース角度:θ=6.0度(上向き)、Φ=3.0(一塁方向)
 リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=-0.7m(三塁方向)、z0=0.3m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=145度、Φs=45度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.19

 シンカー
 球速:v0=110[km/h]、リリース角度:θ=6.5度(上向き)、Φ=3度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=-110度、Φs=-70度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20


 ボール回転軸角度の定義

 

 θs : z軸からx-y平面に向かう角度(真上から水平に向かう角度)
 Φs : x軸からy軸に向かう角度(ホーム方向から一塁側へ向かう角度)



[計算結果]

ボール軌道の計算結果は以下のようになりました。
グラフ中の点は0.02秒ごとのボールの位置を表します。

アンダースローの軌道

4シームでは上向き6.0度で投げ上げられたのち、バッターの手元ではほぼ水平にな軌道になっています。

シンカーは上向き6.5度で投げ上げられ最初は4シームとほぼ同じ軌道で進みます。その後x=10mあたりで頂点に達したのち落下し始め、ホームベース上ではリリースポイントと同じぐらいの高さまで戻ります。4シーム軌道との上下差は50cm以上になります。

アンダースローのシンカーは低い位置で山なり軌道を描きます
地面から1m以下、打者の腰よりも低い位置を飛んでくる

また真上から見たx-y平面上のプロットを見ると、シンカーの方が4シームよりも一塁側への軌道になっています。
4シームではシュート成分が多くシンカーでは少ないためですが、これもオーバースローのシンカーと異なる点です。
アンダースローの4シームを見慣れているとシンカーはむしろスライドして行くように見えるのかもしれません。



 オーバースローとの軌道比較 


アンダースローとオーバースローの軌道を重ねて、どのくらい軌道が違うのか見てみましょう。

[計算条件2]

 4シーム(アンダースロー)
 球速:v0=130[km/h]、リリース角度:θ=6.0度(上向き)、Φ=3.0(一塁方向)
 リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=-0.7m(三塁方向)、z0=0.3m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=145度、Φs=45度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.19

 4シーム(オーバースロー)
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=-1.7度(上向き)、Φ=2.0(一塁方向)
 リリースポイント x0=1.8m(ホーム方向)、y0=-0.5m(三塁方向)、z0=1.8m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20


[計算結果2]

ボール軌道の計算結果は以下のようになりました。
グラフ中の点は0.02秒ごとのボールの位置を表します。

アンダースローとオーバースローの軌道の違い

アンダースローでは上向き6.0度でリリースしているのに対し、オーバースローでは下向き1.7度でリリースしています。

つまり、同じ高さのコースに投げる時、アンダースローとオーバースローでは、上下のリリース角度が7.7度も異なるのです。

またリリースポイントの高さも1.5m異なります。

これだけ差があると打者の感覚としては相当違和感があるでしょう。
打者は無意識のうちに投球軌道を予測し、あらかじめボールが来る位置に先回りして視線を移動させているという研究報告もあります。
アンダースローでは視線の移動方向が普段と上下反対になるためかなり打ちづらくなることでしょう。

女子ソフトボールの球を現役プロ選手が全然打てずに、空振りばかりしていると少し悲しくなってきますが、それも仕方ないことなのかもしれません。


 アンダースロー軌道の3D動画 

エクセルには3Dプロット機能が備わっていないので、代りにRinearnGraph3Dというフリーソフトを使って軌道を3Dプロットし、それをgifで動画ファイルにしました。

一コマ0.02秒で実際のスピードと同じにしてあります。

視点は右打席からのものを再現してみました。

オーバースローの4シーム→アンダースローの4シーム→アンダースローのシンカーの順で投げられます。

アンダースローの浮き上がってくる球筋が体感できるでしょうか。

[3Dプロット動画]

4シーム&シンカー
アンダースローのシンカー軌道3D動画





では、また。





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