長身が有利
一塁手には長身の選手が向いています。
内野手からの送球が逸れた時、ベースを離れてボールを捕りにいき、それからベースを踏みに戻れば、それだけ時間をロスします。
背が高く手足が長ければ、逸れた送球でもベースから足を離さずに捕球できます。
上は最悪
送球は前後左右、どちらに逸れるのも良くないですが、中でも上に高く逸れるのが一番よくありません。
なぜなら、低く逸れてワンバウンドになるならば、一塁手が上手く捕ることでカバーできます。
また、横に逸れた場合は一塁手が機敏に動くことで、捕球後にベースに素早く戻ることができます。
しかし、高く逸れた送球を捕るために空中へジャンプした場合、素早くベースに戻ることができないのです。
そのため上に送球が逸れた時、最も時間をロスします。
落ちるのを待つだけ
人間が横に移動する時、脚が地面を押して、その反力を受け体の重心が横へ移動します。
つまり脚の筋肉により体を動かしています。
一方、空中へジャンプした後、下へ移動する場合は、地面からの反力を得られません。重力によってのみ体の重心は加速されます。
そのためジャンプした後は素早くベースを踏みたいと思っても、重力により自然に落ちてくるのを待つしかないのです。
ガリレオが斜塔で行った実験で知られるように、重たいものも軽いものも重力により落下する速さはおなじです。
つまり体重の大きい一塁手も、軽量な一塁手も、同じ高さジャンプしたら、地面降りてくるまでにかかる時間は同じなのです。
太って重たい選手が有利ということもなく、身軽で俊敏な選手も、脚力の強い選手も、みな等しく空中で時間をロスします。
そのため、高く逸れてもジャンプせず、ベースから離れずに捕球できる長身選手が有利なのです。
逸れなければアウトだったのに
上記のように、一塁手がジャンプして捕球するとベースを踏むまで時間をロスしますが、それは具体的にどのくらいの時間なのでしょうか。
ごく短時間なら、騒ぐほどの影響はないでしょう。
しかし、実際のプレーを見ると送球が逸れなければアウトだったのに、と思われることが多々あります。
そこで今回は、一塁手がジャンプしてボールを捕球するとどのくらいの時間をロスするのか計算してみます。
ジャンプでロスする時間の計算
ジャンプの頂点でボールを捕球すると仮定します。
[計算式]
重力により落下する距離は、重力加速度gを2回時間積分すれば求まります。式で書くと下のように表されます。
h=-1/2×g×t^2 : 落下距離
(g:重力定位数g(=9.81[m/s^2])、t:落下時間)
落下距離hがジャンプした高さh0と同じなるとき、ジャンプした一塁手の足が再びベースに触れます。
そのため、ジャンプによりロスする時間は下式のようになます。
ho-1/2×g×t^2 = 0
t=√(2×ho/g) : ジャンプによりロスする時間
[計算結果]
では上記の式に数字を入れて、計算していきます。
30cmジャンプした場合
t=√(2×0.3/9.81) = 0.247 [s]
10cmジャンプした場合
t=√(2×0.1/9.81) = 0.143 [s]
一塁への送球が高く逸れ、一塁手が30cmジャンプして捕球すると0.25秒時間をロスする、という結果になりました。
同様に、10cmジャンプすると0.14秒時間をロスします。
一塁手が空中にいる間に打者走者は1.8メートルを駆け抜ける
30cmのジャンプで0.25秒時間をロスする、ということが分かりました。
ではこの時間ロスは内野ゴロアウトをセーフに変えるのに、どのくらい影響するのでしょうか。
0.25秒の間に、時速27km/hで走る打者走者がどのくらい進むのか計算してみると、1.85m(=0.25×27/3.6)も進みます。
これだけ進むのであれば、セーフになる確率はかなり増えるでしょう。
10cmのジャンプ、0.14秒のロスでさえ、打者走者は1.07m進みます。
内野手の一塁送球がわずか数十センチ高く逸れるだけで、打者走者は1メートル以上進んでしまうのです。
もちろんジャンプしても捕れない程高く逸れてしまえば、一塁でアウトにできないどころか二塁まで進塁を許してしまいます。
そのため、内野手の一塁送球は絶対に、高く逸れてはいけないのです。
高く逸れるならワンバウンドになる方がまだマシ、という意識で投げるべきです。
特に肩の弱い内野手ほど、球速のばらつきにより上下のコントロールが大きくばらつくため、注意が必要です。(第63回参照)
よい球がきたら、前に伸びて捕る
さて、ここまで送球が逸れた場合について計算をしてきましたが、反対に、内野手から低い良い送球が来た場合には、一塁手は両足を大きく開き、前に伸びて捕球します。
できるだけ前方で捕ることにより、捕球するまでの時間を短縮できるからです。
プロやメジャーの選手も、きわどいタイミングのときはできるだけ伸びてとっていますから、それなりに効果があると考えられます。
送球が逸れた場合にはこれができなくなります。
そのため、送球が高く逸れた場合、上記のジャンプによりロスする時間に加え、伸びて前方で捕ることで得られるはずだった時間短縮分もロス時間となります。
次は、一塁手が前に伸びて捕球することにより、どのくらい時間を短縮できるのか計算してみます。
前に伸びて短縮できる時間の計算
[計算条件]
一塁手が伸びることにより、ベース上よりも1.5m前で捕球できると仮定します。
また、送球の球速は100km/hと仮定します。
内野手は球速よりも捕ってから投げるまでの時間を短くすることを重視する、また一塁手に届くころには空気抵抗により投げた瞬間よりも減速するという点を考慮して、球速は少し遅めとしました。
[計算式]
1.5mという短い距離における球速の変化は無視できるとし、球速を一定とすると、短縮される時間tは伸びた距離を球速で割ることで求められます。
はじきです。
t = s / v : 短縮された時間
(s:一塁手が前に伸びた距離、v:送球の球速)
[計算結果]
1.5m手前で捕球した場合
t=1.5 / (100/3.6) = 0.054 [s]
一塁手が1.5メートル前に伸びて捕球すると、0.05秒時間を短縮できる、という結果になりました。
一塁手が伸びると打者走者は40cm走れなくなる
一塁手が伸びて1.5m手前で捕球することで、短縮できる時間は0.05秒でした。
この間に、時速27km/hで走る打者走者が進む距離は40.5cm(=0.054×27/3.6*100)です。
つまり、伸びずにベース上で捕球すると同着セーフになる場合に、一塁手が伸びて1.5m手前で捕球すれば打者走者がベースを踏む40cm手前でアウトにできるということになります。
言い換えると、一塁手が前に伸びることにより、打者走者の進む距離を40cm奪えるのです。
ざっくり、走速度は送球速度の1/4程度ですから、一塁手が前に伸びた距離の1/4ぐらいの走距離を打者走者から奪うことができるわけです。
そのためきわどいタイミングであれば、伸びることでセーフをアウトに変えるだけの効果十分はあると言えます。
ジャンプで失うトータル時間
送球が高く逸れてジャンプした場合、重力で落ちてくる時間のロスと、前に伸びて捕るこがはできないための時間ロス、この2つが合わさります。
[結論]
・一塁手が30cmジャンプして捕球すると、0.25秒ロスし、その間打者走者は1.85m進む。
・一塁手が伸びて1.5m手前で捕球すると、0.05秒短縮し、打者走者が進む距離を40cm奪える。
⇒そのため、一塁手が30cmジャンプし前に伸びれずに捕球すると、0.30秒(=0.25+0.05)時間をロスし、その間に打者走者は2.25m(=1.85+0.40)進む。
内野送球が高く逸れることで、トータルで打者走者が2.25mも進むだけの時間をロスしてしまうという結果になりました。
予想以上に大きな影響です。
内野ゴロ送球におけるコントロールの重要性が、改めて示される結果となりました。
では、また。
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