意表をつく
ダルビッシュ有投手はとても多くの球種を投げることができ、その数は10種類とも11種類とも言われています。
当然カーブも投げられます。
しかしその投球割合は全球種中で5%と低く、20球に1球ぐらいの"たまにしか投げない球"です。
MLBのように打者のレベルが高いと変化の大きい球種は見破れやすくなるため、投球割合を減らし打者の狙い球から外れることで、意表をつく球として使われます。
これは全体的に見られる傾向なので、特にダルビッシュ投手がカーブを苦手だからあまり投げない、というわけではなさそうです。
4シームと対極の変化量
ダルビッシュ投手のカーブの変化量のトラッキングデータは以下のようです。
図1:ダルビッシュ投手のトラッキングデータ
(引用元:ピッチングデザイン、集英社、お股ニキ著、2020年発行)
図1の変化量を見ると、カーブは原点から右下へ大きく離れた位置へプロットされており、全球種の中で最も4シームと離れた位置にプロットされていることが分かります。
さらに球速も最も遅く、4シームとの球速差も全球種中で最大です。
- カーブは4シームと反対方向のマグナス力をうけ、反対方へ曲がる。
- カーブは4シームと球速差が大きい分、より長い時間重力を受け、落下量が大きい。
- カーブは4シームと球速差が大きい分、ストライクゾーン到達時間の差、つまり前後位置の差が大きい。
カーブは全てにおいて4シームと対極な球種です。
そのため変化球がろくに投げられない素人にとっては、4シームと差を出しやすい便利な球です。
しかし高いレベルになると差が大きすぎて、早い段階で見分けられやすくなるという弱点を持ちます。
そのためカーブを多投するには、狙っていても打たれない程の威力が必要となります。
ダルビッシュ投手のカーブの回転数は2570rpm程ですが、メジャーリーグの中には3000rpmを超えるような投手もいます。
そのレベルなら意表をつかなくとも、常時投げられるメインウェポンとして使えるようです。
もっとも、ダルビッシュ投手は他の球種が十分威力あるので、特にカーブにこだわる理由もないでしょうが。
ダルビッシュ有スライダーの軌道計算
図1に示されるように、トラッキングデータでは変化量に加え、初速と回転数も測定されています。
これら三つのデータから、軌道シミュレータver3.2により投球軌道を計算し再現することができます。
今回はダルビッシュ有投手のカーブについて、トラッキングデータの初速と回転数をインプットとして計算した結果がトラッキングデータの変化量と一致するよう、回転軸の値を調整します。
[トラッキングデータ]
図1の通りです。2019年シーズンの平均値です。
[計算条件]
軌道シミュレータver3.2へのインプットは以下のようです。参考に前々回計算した、4シームのものも示します。
カーブの回転軸は4シームの回転軸を180度反対にした後、左上に向けた向きになっています。トップスピン成分が多く、加えてサイドスピン成分も含んでいます。
[計算結果]
計算されたカーブの軌道は以下のようになりました。
図中の点は0.02秒ごとの、一番右はホームベース上(x=18.44m)におけるボール位置です。
灰色線は同じ球速の自由落下軌道で、これとの差が先のトラッキンデータにおける変化量となります。
[計算結果2]
以下は前々回計算した4シームと一緒にプロットしたものです。
同じ角度でリリースしたときのホームベース上(x=18.44m)における位置の差も、併せて表示しました。
gif動画(実際のスピード)
gif動画(1/10倍スロー)
静止画
4シームのとの比較
●横の変化
4シームとカーブのホームベース上(x=18.44m)における位置の違いを見ると、横方向(y方向)は39cmとなっています。
4シームとカーブのホームベース上(x=18.44m)における位置の違いを見ると、横方向(y方向)は39cmとなっています。
これは図1トラッキングデータの変化量、4シームが一塁側へ9.1cmとカーブが30cmを足したものそのままになります。
同じ角度でリリースされた球が、4シームは右打者のインコースへ、カーブはアウトコースのボールゾーンへと分岐していきます。
39cmの差は、ホームベースの幅よりも少し小さいぐらいの差です。
十分すぎるほど大きな変化ですが、スライダーよりは横変化は小さくなっています。
●縦の変化
上下方向の差をみると116cmとなっています。
これは図1の4シームが上へ40.8cmと、カーブが下へ30cmを足し合せた70.8cmよりも、47mほど大きくなっています。
この47cmは球速の差による重力を受けている時間の差によって生まれるものです。
同じ角度でリリースされた球が、4シームは打者の頭の高さへ、カーブは低目のゾーンいっぱいへと分岐していきます。
そのため、4シームを狙っているときにカーブを投げると、投げた瞬間高めのボール球と判断しスイングを止めてしまうので、見逃しをとることができます。
一方で、同じリリース角度で、4シームとカーブ両方をストライクゾーンに入れることはできないため、注意していれば見抜かれやすくなってしまいます。
CADソフトで3Dプロット
今回もFreeCADという3D CADソフトを使って軌道をプロットして、動画にしてみました。
視点はキャッチャー方向からのものです。
青い半透明の四角はストライクゾーンで、下の黒いのはホームベースです。
距離感のため、右打席とピッチャープレートの位置に人体データを立たせてあります。
ストライクゾーンに入るようリリース角度を、4シームは下向きに、カーブは三塁方向に少し変更してあります。
両者の軌道の違いの大きさが伝わるでしょうか?
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次回はスプリットの再現計算をする予定です。
では、また。
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