世界一を決めたスライダー
ダルビッシュ有投手はとても多くの球種を投げることができ、その数は10種類とも11種類とも言われています。
スライダーは4シームよりも回転数が200rpm大きく、球速が20キロ弱遅くいため、スピンパラメータSPが大きくなります。
逆に言えば、スライダーの方がSPは大きいのに変化量がそれほど変わらないことから、スライダーの方が回転軸のジャイロ成分がより多いということを意味しています。
これは図1トラッキングデータの変化量、4シームが一塁側へ9.1cmとスライダーが42.5cmを足したものそのままになります。
同じ角度でリリースされた球が、4シームは右打者のインコースへ、カッターはアウトコースのボールゾーンへと分岐していきます。
52cmの差は、ホームベースの幅よりも大きいほどの差です。
この25cmは球速の差による重力を受けている時間の差によって生まれるものです。
同じ角度でリリースされた球が、4シームはストライクゾーンの高めへ、スライダーは低目のボールゾーンへと分岐していきます。
62cmの差は、ストライクゾーンの上下幅と同じぐらいの大きな差です。
横の差が52cmなので、横の差よりも、縦の差の方が大きいというのは、見た目の印象と違って意外な気がします。
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では、また。
その中でも追い込んでから空振りをとる、決め球として使われるのが横へ大きく曲がる「スライダー」です。
2009年WBC決勝戦、最後の一球も、このスライダーでした。
右打者のアウトコースへの信じられない程大きく曲りがながら逃げていく軌道はまるでイリュージョンのようで、必死に伸ばされたバットが空を切った瞬間、日本の世界二連覇が決まりました。
当時の感動は忘れられません。
4シーム以上の変化量
図1:ダルビッシュ投手のトラッキングデータ
(引用元:ピッチングデザイン、集英社、お股ニキ著、2020年発行)
図1の変化量を見ると、スライダーは原点から大きく横へ離れた位置へプロットされており、全球種の中で最も横への変化量が大きいことが分かります。
回転数が多い(SPが大きい)ほど、また回転軸のジャイロ成分が少ないほど、上下、左右に限らず原点から離れていく、つまり自由落下軌道からのかい離が大きくなります。スライダーは4シームよりも回転数が200rpm大きく、球速が20キロ弱遅くいため、スピンパラメータSPが大きくなります。
SPが大きいほど揚力係数CLが大きくなります。
(SP詳細はこちらを参照)
原点からの距離を見るとわずかですが、スライダーは4シームよりも大きくなっており、より大きく変化していることが分かります。
変化量絶対値
スライダー : 42.6cm (=√( 42.48^2 + 3.52^2) )4シーム : 41.8cm (=√( 40.79^2 + (-9.11^2) )
逆に言えば、スライダーの方がSPは大きいのに変化量がそれほど変わらないことから、スライダーの方が回転軸のジャイロ成分がより多いということを意味しています。
器用なダルビッシュ投手でも回転数を落とさずジャイロ成分を含まない、完全なサイドスピン回転でスライダーを投げるのは難しいのかもしれません。
あるいは投げようとすれば投げられるが曲りが大きくなりすぎるのを避けるために、あえて投げないようにしているのかもしれません。
ダルビッシュ有スライダーの軌道計算
図1に示されるように、トラッキングデータでは変化量に加え、初速と回転数も測定されています。
これら三つのデータから、軌道シミュレータver3.2により投球軌道を計算し再現することができます。
今回はダルビッシュ有投手のスライダーについて、トラッキングデータの初速と回転数をインプットとして計算した結果がトラッキングデータの変化量と一致するよう、回転軸の値を調整します。
[トラッキングデータ]
図1の通りです。2019年シーズンの平均値です。
[計算条件]
軌道シミュレータver3.2へのインプットは以下のようです。参考に前々回計算した、4シームのものも示します。
[計算結果]
計算されたスライダーの軌道は以下のようになりました。
図中の点は0.02秒ごとの、一番右はホームベース上(x=18.44m)におけるボール位置です。
灰色線は同じ球速の自由落下軌道で、これとの差が先のトラッキンデータにおける変化量となります。
[計算結果2]
以下は前々回計算した4シームと一緒にプロットしたものです。
同じ角度でリリースしたときのホームベース上(x=18.44m)における位置の差も、併せて表示しました。
gif動画(実際のスピード)
gif動画(1/10倍スロー)
静止画
4シームのとの比較
●横の変化
4シームとスライダーのホームベース上(x=18.44m)における位置の違いを見ると、横方向(y方向)は52cmとなっています。
4シームとスライダーのホームベース上(x=18.44m)における位置の違いを見ると、横方向(y方向)は52cmとなっています。
これは図1トラッキングデータの変化量、4シームが一塁側へ9.1cmとスライダーが42.5cmを足したものそのままになります。
同じ角度でリリースされた球が、4シームは右打者のインコースへ、カッターはアウトコースのボールゾーンへと分岐していきます。
52cmの差は、ホームベースの幅よりも大きいほどの差です。
十分すぎるほど大きな変化ですが、回転軸がジャイロ回転とサイドスピンの中間ぐらいの回転をしているため、完全なサイドスピンの場合と比べるとこれでもまだ7割程度の変化量に抑えられています(cos46°=0.69)。
変化が大きいため手を伸ばして当てようとしてもまるで届かないところまで逃げていくので、右打者から空振りをとるのに有効な球です。
変化が大きいため手を伸ばして当てようとしてもまるで届かないところまで逃げていくので、右打者から空振りをとるのに有効な球です。
一方で左打者には曲がりすぎて当ててしまう危険があるため、スラッターほど投球割合が高くないのかもしれません。
●縦の変化
上下方向の差をみると62cmとなっています。
これは図1の4シームが上へ40.8cmから、スライダーが上へ3.5cmを引いた37.3cmよりも、25cmほど大きくなっています。
●縦の変化
上下方向の差をみると62cmとなっています。
これは図1の4シームが上へ40.8cmから、スライダーが上へ3.5cmを引いた37.3cmよりも、25cmほど大きくなっています。
この25cmは球速の差による重力を受けている時間の差によって生まれるものです。
同じ角度でリリースされた球が、4シームはストライクゾーンの高めへ、スライダーは低目のボールゾーンへと分岐していきます。
62cmの差は、ストライクゾーンの上下幅と同じぐらいの大きな差です。
横の差が52cmなので、横の差よりも、縦の差の方が大きいというのは、見た目の印象と違って意外な気がします。
横だけでなく縦にも大きくかい離するため、最も打ちにくい球種の一つとなっています。
CADソフトで3Dプロット
今回もFreeCADという3D CADソフトを使って軌道をプロットして、動画にしてみました。
視点はキャッチャー方向からのものです。
青い半透明の四角はストライクゾーンで、下の黒いのはホームベースです。
スライダーはストライクゾーンに入るよう、少しリリース角度を三塁方向および上向きに変更してあります。
スライダーの横変化の大きさが伝わるでしょうか?
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次回はツーシームの再現計算をする予定です。
では、また。
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