天井直撃弾
東京ドームで、天井に打球を直撃させたことのある選手は誰でしょうか?
大谷翔平選手、ゴジラ松井秀喜さん、55発アレックス・カブレラなど。
いずれも超がつくパワーヒッターばかりです。
天井の高さは計算上、打球が絶対当たらないように設計されました。
彼らは設計者の予想を上回る打球を打ってしまいました。
天井の高さ
東京ドームの天井の高さは、最高部で地上56.2メートルです。
グランド面は地面から下へ5.5メートル掘り下げられています。
そのため、グラウンド面から天井までの高さはこれらを足して61.7メートルとなります。(*1)
天井高さは一様ではなく大きな玉子のように湾曲しながら、ホームからセンター方向に向かって下がっていきます。
下図は、TOKYO DOME CITYホームページ記載の雨水貯留システム図(*1)を参考に推定した天井のラインをプロットしたものです。
センターフェンスの上では35メートルほどまで下がっています。
なお上図はセンターラインの断面でありレフト、ライト方向へ行くほどもう少し低くなっています。
また、旧スピーカー位置はネット画像からの推定です。
参考Web
(*1)東京ドームシティHP
https://www.tokyo-dome.co.jp/dome/about/
ラルフ・ブライアント
さて、天井直撃した選手と言われたら、近鉄バッファローズのラルフ・ブライアントを思い浮かべた人もいるのではないでしょうか。
彼が当てたのは天井ではなく、天井からつるされたスピーカーです。
(ひっかけ問題みたいですみません。)
そのスピーカー直撃弾は史上初の、認定ホームランになりました。
今はもうブライアント選手は引退し、近鉄はオリックスに吸収合併され、スピーカーは2016年の巨人創立80周年記念事業でより音質のよいものに替えられた際撤去されてしまいました。
さみしい気がしますが、ブライアント伝説はいつまでも残ります。
どこが当てやすいか
天井やスピーカーに当てるには相当高く、打球を打ち上げなければなりません。
そのためには大きな打球速度が必要です。
ホーム付近は天井高さが最も高いため当たりにくくなっています。
高さだけ考えればセンター方向に打った方が有利です。
しかしセンター方向へ行くほど、水平方向にも遠くまで飛ばさなければなりません。
一長一短です。
どこへ打っても大きな打球速度が必要になります。
今回は軌道計算で東京ドームの天井に当てるにはどのくらいの打球速度が必要であるか求めてみます。
東京D天井直撃弾の打球軌道計算
打ち出すときの打球上向き角度を80,60,45,40,30度と5パターンで変えて、それぞれで天井に当たるときの打球速度を求めます。
センター方向への打球で、毎分1500回転のバックスピン回転とします。
[計算条件]
軌道シミュレータver.3.2へのインプット値は以下のようです。
[計算結果]
計算結果は以下のようになりました。
上向き80度、垂直に近いとても高い角度、で打ち出した場合、155km/h以上で天井に当たります。これは天井に当たらなければ浅い内野フライなるような打球です。
上向き60度、これもかなり高い角度、で打ち出した場合は160km/h以上です。これは当たらなければ大きな外野フライになります。
上向き45度の場合175km/h以上で天井に当たります。これは天井に当たらなければ、飛距離133メートルで特大のホームランとなります。
40度では182km/h以上が必要で、飛距離は143メートルです。これも当たらなければ特大ホームランです。
今回の結果によれば、ブライアントのスピーカー直撃弾はこのレベルかそれ以上の打球だったことになります。
認定ホームランになったのは正当な評価です。
遠くへ打つほど大きな打球速度が必要
低い角度で遠くに打つほど必要な打球速度は大きくなっていきます。
上向き30度では200km/h以上となりますが、この打球速度を出した選手は存在しません。実質的に当てるのは不可能です。
真上に打った方がより小さい打球速度で当てられます。
しかしこれも難しいです。
投球もスイング軌道も水平に近い中で、垂直に近い角度で打ち上げるためにはボールの中心から外れた位置を打つ必要があり、打球速度が出にくくなります。
プロの選手なら打球速度155km/hは珍しくありませんが、これをほぼ真上に向かって打てる選手はいません。
(そもそもそんな打球を打とうとしませんが)
つまりは、打球がどの角度で飛んでも当たりにくいようになっています。
センター方向に向かって天井が低くなっている形状は、打球が当たるのを回避するうえで実に理にかなっています。
もちろんこれはたまたまそうなっているわけではなく、計算ずくでそのように設計した建築家の匠の技によるものです。
では、また。
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