近いフェンス
ソフトボールと野球のルールの違いの一つに、外野フェンスまでの距離があります。
ソフトボールは女子一般が67.06メートル、男子一般が76.20メートルです。野球はプロ野球の標準的な球場で両翼100メートル、センター122メートルです。
これはそのホームランに必要な打球飛距離の違いであり、打者の能力としては打球速度の違いとして求められます。
ソフトボールの方がフェンスまでの距離が近いため、野球ほどの打球速度は必要ないことが予想されます。試合で飛び交う打球を目視しても野球より遅いのは明らかです。
ではソフトボールでホームランを打つためにはどのくらいの打球速度があれば十分でしょうか?
今回はソフトボールでホームランを打つために必要な打球速度を軌道計算で求めてみます。
ソフトボールホームランの軌道計算
[計算条件]
ソフト・野球の各フェンスを越える飛距離となるときの打球速度を求めます。
球速以外の条件は飛距離を出すのに適した上向き30度と完全なバックスピン回転の組み合わせで、回転数はソフトが1000rpm、野球1500rpmとします。
飛距離アップのためには高く打ち上げることと、バックスピン回転を与えることが重要である(*1)のは野球と同じです。
シミュレータへのインプット値は以下のようです。
ボールの違いも考慮しました。抗力係数CDおよび揚力係数CLの値は参考文献(*2)の計算式に基づいています。
[計算結果]
計算結果は以下のようです。
参考に各外野フェンスも表してあります。距離は上述の通りで高さはソフトが1.2メートル、野球は4.8メートルとしています。
ソフトボールでホームランを打つために必要な打球速度は女子一般で120km/h、男子一般で130km/hとなりました。
野球より遅い
ソフトボールのホームラン打球速度は野球よりも20~30km/h遅い、という結果になりました。
順番的にはソフトボールの方が野球よりも打球速度がでないため、それに合わせ外野フェンスが近く設定されています。
打球速度が遅いのはソフト選手の能力が劣るせいではなく、道具の、バットとボールの問題です。
大谷翔平選手の特大ホームランよりも、そこらへんのプロゴルファーのティーショットの方が遠くまで飛ぶのと同じです。
大学生で95km/h、トップでも110km/h弱
女子ソフトボール選手が120km/hの打球速度を出すのは、どれくらい大変でしょうか?
プロ野球の感覚になれていると大したことないと思いがちですが、そんなことはありません。
打球速度の実測データによると、大学女子ソフトボール部員で90km/h強が最大です(*3)(*4)。
JDリーグの選手でも110km/h弱(*5)です。(JDリーグは"Japan Diamond Softball League"の略で、参加しているのは社会人チームです。女子大生ではないです。)
120km/h以上出すのはソフトボール強国日本の、国内トップリーグ選手でも容易ではないレベルだということです。
同じ速度帯
ホームランを打つのに必要な打球速度は、トップレベル投手の投球速度とちょうど同じ速度帯になっています。
野球でもホームランを打つために必要な打球速度と、トップレベル投手の球速が近い値になっています。
高速で飛んできた球が、同じぐらいの高速で打ち返され遠くまで飛んでいく。
それがソフト・野球をプレーおよび観戦する人間が無意識下で、楽しさや心地よさを感じる要因の一つになっているのかもしれません。
ではまた。
参考資料
(*1) qooninTV 【弾道オバケ】日本代表4番のソフトボールを飛ばすコツ|飛距離60mアップでホームラン連発
(*2) ソフトボールの打球解析と防球ネット解析 長島慎二 NLABO.BIZ
(*3) 大学女子ソフトボール選手における後方トス・バッティング練習が打撃パフォーマンスに与える即時的影響 嘉屋 千紘,熊野 陽人
(*4) 大学ソフトボールにおけるホワイトボールとイエローボールの違いについて 河邉 まな美
(*5) 女子ソフトボールチームに対するスポーツ科学サポート 澤井 拓実 公益財団法人岐阜県スポーツ協会岐阜県スポーツ科学センター 表1
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