2020年3月28日土曜日

第9回 スライダー、カットボールの軌道計算



エクセルで作成した"軌道シミュレータver3.2"を使ってスライダー、カットボールの軌道を計算し、4シームの軌道と比較します。


スライダーの軌道計算

まずはスライダーです。

スライダーは真横へ滑るように曲がるものからフォークのように縦に落ちるものまでバリエーション豊富ですが、ここでは斜めに曲がり落ちるスライダーを計算対象とします。
斜めのスライダーは重力により下へ、回転によるマグナス力(揚力)により横へと変化します。

4シームが重力による落下をマグナス力で打ち消し直線に近い軌道になるのとは対照的に、スライダーは小さな弧を描く軌道となります。

[計算条件]

 スライダー
 球速 v0=130[km/h]、リリース角度 θ=-0.5度(下向き)、Φ=2度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=60度、Φs=0度
 抗力係数 CD=0.42、揚力係数CL=0.24

 4シーム
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=-1.5度(下向き)、Φ=2.5度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20

 ボール回転軸角度の定義
 

  θs : z軸からx-y平面に向かう角度(真上から水平に向かう角度)
  φs : x軸からy軸に向かう角度(ホーム方向から一塁側へ向かう角度)


[計算結果]

ボール軌道の計算結果は以下のようになりました。
グラフ中の点は0.02秒ごとのボールの位置を表します。

スライダーの軌道

4シームに比べ下へ落ち、さらに外へ曲がりながら逃げて行く軌道になっています。

下へも横へも変化する

スライダーの方が4シームよりも1度上向きにリリースされているため、投げた瞬間から途中まではスライダーの落下は目立たずほぼ4シームの軌道と重なっています。
その後徐々に下方向へ変化が大きくなり、12mあたりから軌道がかい離し始めます。
そこから残りの6mで両者の差は広がり、ストライクゾーンを通過するときには4シームの軌道が真ん中の高さであるのに対し、スライダーの軌道はその28cmほど下、低目を通過していきます。

横方向への変化も同様に、スライダーの方が4シームよりも0.5度三塁側寄りの角度にリリースされているため、投げた瞬間から途中まではスライダーの曲りは目立たずほぼ4シームの軌道と重なっています。
その後徐々に一塁方向への方向へ変化が大きくなり、11mあたりから軌道がかい離し始めます。
そこから残りの7mで両者の差は広がり、ストライクゾーンを通過するときには4シームの軌道が右打者アウトコースやや甘めであるのに対し、スライダーの軌道はその29cmほど外側のボールゾーンを通過していきます。

打者からすると、投げた瞬間は甘めの球なので強振したら、途中から曲がり落ちて外へと逃げて行くので急いで腰を引き腕を伸ばしたが、ボール球のため芯を外しバットの先に当たり手がしびれ力ないゴロになってしまった、という感覚になるでしょう。



カットボールの軌道計算

次はカットボールです。

カットボールは4シームの回転軸をずらしてホップ成分は残したまま、カーブ成分を少し持たせることにより、マグナス力(揚力)により重力による落下を抑えつつ小さく横へ変化します。
松坂投手が「カットボールの投げ損ないがジャイロボールになることがある」というだけあって、ジャイロ成分の多い回転軸になっています。

4シームは重力による落下をマグナス力で打ち消しながら少しだけシュートして横へも曲がる軌道であるため、それと比べてカットボールは横方向に小さく変化するような軌道となります。

[計算条件2]

 カットボール
 球速 v0=135[km/h]、リリース角度 θ=-0.2度(下向き)、Φ=2.5度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=80度、Φs=-20度
 抗力係数 CD=0.41、揚力係数CL=0.21

 4シーム
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=-1.0度(下向き)、Φ=3.0度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20

 


[計算結果2]

ボール軌道の計算結果は以下のようになりました。

カットボールの軌道

4シームに比べ上下の軌道差はほとんどなく、ホームベース付近でわずかに外へ軌道がかい離していきます。


見分けがつかない

カットボールのリリース角度は4シームよりも0.8度だけ上向きで、投げた瞬間の軌道はほぼ重なっています。
その後も、カットボールは4シーム同様に上向き揚力が作用し、また球速の差も5km/hっしかないため、両者の軌道の上下位置にはほとんど差ができません。
ストライクゾーンを通過するまでカットボールと4シームの軌道の上下位置差は最大でも5.5cmしかありません。
軌道の山なり具合で球種を見抜くことはかなり難しいでしょう。

横方向の変化を見てみると、リリースから15m過ぎまでほぼ軌道が重なっています。
そこから残りの3mで両者の差ができ、ストライクゾーンを通過するときには4シームの軌道が右打者アウトコースいっぱいであるのに対し、カットボールの軌道はその10.5cmほど外側のボールゾーンを通過していきます。

ボールの直径は7.4cmです。
打者からすると、ずっと4シームだと思っていたのに、バットに当たる瞬間手元でボール一個分ほど曲がった、という感覚になるでしょう。


芯を10cm外すことの意味

バットの芯は先端から約15cmの位置にあり、芯に近い位置でボールをとらえるほど強い打球になります。

例えば芯でとらえた時の打球速度が160km/hの打者の場合、芯から先端または根っこへ10cmずれた位置で打つと打球速度は120km/hまで低下します。

10cm芯を外すことにより打球速度を40km/h低下させることができます。

これはホームランを平凡な外野フライに変えるのに十分なだけの効果があります。

カットボールは空振りをとる確率はフォークボールやチェンジアップに劣りますが、芯を外し弱い打球打たせるためにはとても効果的な球種です。



*****

今回計算したカットボールと、4シームの軌道を3Dプロットにするとこんな感じです。
視点は左打席からのものです。
カットボールの3D軌道




では、また。






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