2020年4月4日土曜日

第10回 シュート、シンカーの軌道計算



エクセルで作成した"軌道シミュレータver3.2"を使ってシュート、シンカーの軌道を計算し、4シームの軌道と比較します。

 シュートの軌道計算 


まずはシュートです。

シュートは最近では2シームのバリエーションの一つとして分類されることが一般的になりました。2シームの中で横への曲りが大きいものが従来のシュートと同義です。

もともと4シームも完全なバックスピン回転ではなく回転軸が傾いているためいくらかシュートしています。シュートは2シームの握りで意図的に回転軸の傾きを大きくし、サイドスピン成分を増やすことによって投げられます。

[計算条件]

 シュート
 球速 v0=135[km/h]、リリース角度 θ=-0.5度(下向き)、Φ=2.0度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=145度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.41、揚力係数CL=0.20

 4シーム
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=-1.0度(下向き)、Φ=2.0度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20

 ボール回転軸角度の定義
 
 シュートの回転軸

 θs : z軸からx-y平面に向かう角度(真上から水平に向かう角度)
 Φs : x軸からy軸に向かう角度(ホーム方向から一塁側へ向かう角度)

[計算条件終わり]


[計算結果]

ボール軌道の計算結果は以下のようになりました。
グラフ中の点は0.02秒ごとのボールの位置を表します。

シュートの軌道

・高さ方向の軌道は4シームに近い
・右打者インコースに小さく変化している


 シュートは小さく鋭くインコースへ食い込む 


上下の軌道を見てみると、シュートのリリース角度は4シームよりも0.5度だけ上向きで、投げた瞬間の軌道はほぼ重なっています。
その後も、シュートもある程度上向き揚力が作用し、また球速の差も5km/hしかないため、両者の軌道の上下位置にはあまり差ができません
ストライクゾーンを通過するときの最大の上下位置差は8cm、ボール一個分程度です。

次に横方向の変化を見てみると、リリースから11mまではほぼ軌道が重なっています。

そこから残りの7mで両者の差ができ、ストライクゾーンを通過するときには4シームの軌道がほぼ真ん中であるのに対し、シュートはその23cmほど内側のボールゾーンを通過していきます。

右打者からすると、ど真ん中の4シームだと思い喜んで振ったら、徐々にインコースに食い込んできて根っこに当たりぼてぼてのゴロが転がり、親指の痛みに耐えながら懸命に一塁へダッシュすることになるでしょう。


 シンカーの軌道計算 

次は、シンカーです。

シンカーはシュートしながら沈む球です。

シュートよりもさらに回転軸を傾けシュート成分を大きくするので、その分ホップ成分がなくなり4シームと比べ落ちる変化も加わります。
シンカーという球種名は英語のsink(沈む)という意味です。

腕の振りの方向と大きくずれた向きに回転をかけるため他の球種に比べて投げるのが難しい球です。しかしその分投げる投手が少なく、打者が不慣れであるという利点があるため、物にできれば大きな武器となります。

メジャーリーグでは4シーム並みの球速でもシンカーが投げられていますが、ここではチェンジアップ気味の緩いシンカーを計算対象とします。

[計算条件2]

 シンカー
 球速 v0=120[km/h]、リリース角度 θ=-0.5度(下向き)、Φ=2.0度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=-150度、Φs=35度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.18

 4シーム
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=-1.0度(下向き)、Φ=2.0度(一塁方向)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20

 

[計算条件終わり]


[計算結果]

ボール軌道の計算結果は以下のようになりました。
グラフ中の点は0.02秒ごとのボールの位置を表します。



・4シームに比べ大きくお辞儀し沈む
右打者インコースに小さく変化している

 シンカーは縦にしたバットをすり抜ける 


シンカーのリリース角度は4シームよりも0.5度だけ上向きで、投げた瞬間の軌道はほぼ重なっています。
その後シンカーにはほとんど揚力が作用せず、また球速も20km/h遅いため落差は大きくなります。
ストライクゾーンを通過するときの4シームとの上下位置差は50cmになります。

横の変化量はシュートと同じぐらいです。

右打者からすると、ど真ん中の4シームだと思ったら、ひざ元へ向かって曲がりながら沈みこでくるので、左ひざを突っ張ってバットを縦にすることでコースになんとか対応できた、と思ったら緩い球でタイミングが合わず空振りしてしまった、という感じになるでしょうか。

[計算結果2おわり]



 シュート軌道の3D動画 

エクセルには3Dプロット機能が備わっていないので、代りにRinearnGraph3Dというフリーソフトを使って軌道を3Dプロットし、それをgifで動画ファイルにしてみました。

一コマ0.02秒で実際のスピードと同じにしてあります。

視点は捕手からのものです。

4シームとシュートが交互に投げられます。

[3Dプロット動画]

4シーム&シュート
シュート軌道3D動画








では、また。




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