2020年7月20日月曜日

第25回 バックホーム送球は、ダイレクトとワンバウンド、どちらが早く届くのか



 捕殺は外野手の見せ場 

外野へ抜けるヒット、迷いなく三塁ベースを回るランナー。

まずい点を取られる、と思った次の瞬間、強烈なバックホームで間一髪タッチアウト。


肩の強い外野手にとって捕殺は最高の見せ場です。

 ワンバウンド送球は無駄な進塁を防ぐ 

プロ野球の外野手では一人で50m以上の距離を投げることもざらです。

そういう長い距離を投げる時には、
「山なりのノーバウンドではなく、低いワンバウンドで送球しろ」と

そう教わった人が多いのではないでしょうか。

ワンバウンドの方が良い理由として、暴投のリスクが少ないことがあります。
ノーバウンドで投げて高く逸れるとジャンプしても取れないが、ワンバウンド送球なら体に当てて止めることができる。

また、低い送球の方が途中で内野手がカットできることもメリットです。
バックホームしたが間に合いそうもない時には、内野手がカットすることでバッターランナーが送球間に二塁まで進むのを防ぐことができます。

ワンバウンド送球は無駄な進塁を与えないことというメリットがあります。

 どちらが早く届くか 

では、狙ったランナーをアウトにすることに関してはどうでしょうか。

ノーバウンドのダイレクト送球とワンバウンド送球と、どちらが投げてからベースまで早く届くのでしょうか。

今回はそれを検証するために、ダイレクト送球およびワンバウンド送球の軌道計算をおこない比較してみます。


 ワンバウンド送球の有利、不利 

ダイレクト送球、ワンバウンド送球で球速v0は同じとします。

●リリース直後
長い距離を投げる時には水平よりも上向きにリリースしますが、この上向きリリース角度θが小さいほど速度の水平成分vx0が大きくなります。(vx0=v0×cosθ)
ダイレクト送球よりワンバウンド送球の方が水平に近い角度で投げるため、速度の水平成分vx0が大きいという点ではワンバウンド送球の方が有利になります。

 ワンバウンド送球のθ    <  ダイレクト送球のθ
 ワンバウンド送球のvx0 > ダイレクト送球のvx0



●バウンド前後
一方、ワンバウンド送球ではバウンドにより減速する不利があります。

今回は上下方向速度vzはバウンド前後で逆向きで0.5倍の大きさになり、水平方向速度vxは0.7倍に減速すると仮定します。

硬式ボールの反発係数がおよそ0.4ですが、バックスピン回転で上に跳ねることを考慮して0.5倍としました。
また水平成分はテニスのフラットサーブがバウンド前後で0.75倍程度に減速するというデータがありましたので、バックスピン回転によるブレーキを考慮して0.7倍としました。


ワンバウンド送球がダイレクト送球に勝てるか否かは、速度の水平成分の有利が勝るか、バウンドによる減速の不利が勝るか、次第ということになります。


 ダイレクト送球、ワンバウンド送球の軌道計算 

60メートルの距離で外野からのバックホームした場合を計算します。
送球はプロ投手4シーム相当とし、ホームベース上におけるボールの高さが1m程度になるようなリリース角度とします。


[計算条件]
 外野手のリリースポイントをx=0とし、そこからホームベースに向かう方向を+x方向にとります。

 4シーム
 球速:v0=140[km/h]、リリース角度:θ=8.0、5.0度(上向き)、Φ=0.0度
 リリースポイント x=0(前方)、z0=1.8m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20




[計算結果]

球速140km/hでダイレクト送球およびワンバウンドで送球したときの軌道計算結果は以下のようになりました。
グラフ中の点はワンバウンド送球が地面についた瞬間(t=1.55秒)および、ダイレクト送球がホームベース上に届いた瞬間(t=1.95秒)の両者のボール位置を表します。

バックホームの軌道

●バウンド前
ワンバウンド送球の方がリリース角度が水平に近く、速度の水平成分が大きいため途中までは先行します。

しかしそれは、わずかな差です。

リリースから1.55秒後、x=50m手前でワンバウンドする瞬間の、ワンバウンド送球のリードはわずかに0.28m(=28cm)です。

リリース直後の速度の水平成分を見てみると、ワンバウンド送球がvx0=139.5km/h(=140×cos5°)、ダイレクト送球がvx0=138.6km/h(=140×cos8°)で、わずか0.6%の違いです。

●バウンド後
バウンドによる減速の後、あっさりと抜かれてしまいます
ダイレクト送球がホームに届くリリースから1.95秒後では、逆に2.76mの遅れをとります。
そして、その後ワンバウンド送球はダイレクト送球から0.16秒遅れてホームベース上に到達します。

この0.16秒の間に時速27km/hで走るランナーは1.2メートル進みます。


というわけで、球速140km/hで60メートルの距離を送球する場合、ダイレクト送球の方がワンバウンド送球よりも0.16秒早く届く、という結果になりました。


●カットマンが捕れるか
一方で、カットをするためにはやはりワンバウンド送球が必要です。

ホームベース20メートル手前のx=40m位置にカットマンがいるとします。
ワンバウンド送球では高さ1.7mを通過していくため取りやすくなっています。
一方、ダイレクト送球では高さ4.1mを通過していくためジャンプしても取ることはできません。

球速140km/hで60メートルの距離を送球する場合、内野手がカットできるようにするためにはワンバウンド送球しなければならないのです。



 強肩でない外野手の送球軌道計算 

もう少し肩が弱くダイレクト送球だと山なりになってしまう場合も計算してみます。

球速を110km/hとします。


[計算条件2]

 4シーム
 球速:v0=110[km/h]、リリース角度:θ=19.0、12.0度(上向き)、Φ=0.0度
 リリースポイント z0=1.8m(高さ)
 ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
 抗力係数 CD=0.40、揚力係数CL=0.20


[計算結果2]

球速110km/hでダイレクトおよびワンバウンドで送球したときの軌道計算結果は以下のようになりました。
グラフ中の点はワンバウンド送球が地面についた瞬間(t=1.94秒)および、ダイレクト送球がホームベース上に届いた瞬間(t=2.61秒)の両者のボール位置を表します。

ワンバウンド送球の軌道

●アウトにしたいならノーバウンド送球すべき

送球軌道はだいぶ山なりになりましたが、結果は同じで、球速が遅くてもダイレクト送球の方がワンバウンド送球よりも早く届きます

ワンバウンド送球はダイレクト送球に2.0メートル差を付けられ、0.15秒遅れてホームベース上に到達します。

だから、少々肩が弱くても、山なりでも、送球がそれるリスクがあっても、そんなことは構わないから、サヨナラの場面などできわどいタイミングだけれどどうしてアウトにしたいならのならば、一か八かのダイレクト送球を試みるべきです。


●肩が弱いとワンバウンドでもカットしづらい

また球速が遅いとワンバウンド送球でも山なりになり、カットマンが先ほどと同じホームベースから20メートル手前のx=40mにいると高さ2.8mを通過していくためジャンプしても取れないかもしれません。
取りやすい高さにするためカットマンはよりホームベースに近づく必要があります。


 バックホーム送球の3D動画 

エクセルには3Dプロット機能が備わっていないので、代りにRinearnGraph3Dというフリーソフトを使って軌道を3Dプロットし、それをgifで動画ファイルにしてみました。

一コマ0.02秒で実際のスピードと同じにしてあります。

視点は三塁ベンチ側からのものです。

60メートルの距離を140km/hの送球です。ノーバウンドのダイレクト送球とワンバウンド送球の軌道が同時にプロットされます。

[3Dプロット動画]

60メートル140km/h送球
外野からの送球軌道





では、また。





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