トレーニングとして大量にバットを振り込むのなら、素振りは避けるべきである。
素振りは全力で空振りを繰り返すことであり、これが体にダメージを与える。
空振りは1.7倍
以下は前回の打球速度計算結果である。
打つ前に120km/hだったバットの速度は、打った後71km/hに減速している。
もしボール当たらず、空振りをすればバット速度は120km/hのままである。
空振りした場合、打った場合と比べてバット速度は1.7倍(=120/71)大きく、バットが持っている運動量も同じ割合で大きい。バットを止めるために選手の体がバットに与えなければならない力積もまた同じ割合である。
空振りはバットを止めるために体が受ける負担も1.7倍大きい。
1スイングなら大したことがなくても、毎日毎日数百回の全力空振りを繰り返せば蓄積するダメージの差は相当なものになる。
腰にぶつける後藤投手
女子ソフトの後藤投手は、リリースのタイミングで腰に小指をわずかにぶつけて投げる。そうしないと「腕がどこかに飛んでいく」(*1)そうである。
レベルが高く出力が大きいほど、「安全な減速」はケガ予防のために重要となる。
参考Webサイト
(*1)吉見一起 コントロールチャンネル
ブレーキ筋
ボクシング選手は試合中に数百発のパンチを打つが、半分以上は避けられ空振りする。
空振りし勢いを保ったままの拳に引っ張られ、肩を痛めてしまわないためには、自分でブレーキをかける必要がある。
またすぐ次のパンチを打つためにも、顎をガードするためにも素早く拳を引き戻す必要がある。
結果、パンチ力の強い選手ほどブレーキとして働く背中の筋肉が発達する。
この筋肉はかつて勘違いからヒッティングマッスルと呼ばれていたが、たとえ鬼の顔に見えるほどに発達していても、パンチを加速する役には立たない。
リミッター
素振りを毎日300回など、回数を目標にして頑張っている選手もいるだろう。
しかしダメージの大きい素振りを繰り返していると、無意識で防衛本能が働き、本人も自覚のないままにスイングを弱めてしまうことがある。
結果、やってもやっても、スイングスピードは上がらないということが起きる。
試合でもリミッターがかかったままで、フルスイングができない選手になってしまう恐れもある。
再びボクシングを例に挙げると、グローブとサンドバックで練習をしているボクシング選手のほうが、素手で巻き藁を突いている空手の選手よりもパンチ力が強い傾向がある。
イチローの子供時代
イチローは子供時代、父と共に毎日ティー打撃を行い、バッティングセンターに頻繁に通っていた。素振りではなく、ボールをたくさん打っていた。
日本の学生野球の古き悪しき習慣である大量の素振りは、そもそも「とりあえずなんかやらせとけ」から始まったように思う。
練習環境が整わず、部員の多かった昭和時代。ボールを使った練習は2,3年生だけ。1年は声出し、ランニング、そして素振り。
とりあえず何かをやらせておけ。とりあえず苦しくてつらいことを大量に長時間やらせておけ。
苦行として素振りトレーニングは広がった。
野球がうまくなるのが目的なのだから、ボールを打つ方がよい。
当たるまで手首を返さないこと
素振りにはもう一つ、弊害がある。ケガよりもこちらの方が致命的かもしれない。
ボールを打たずに素振りばかりしていると、ミートポイントの意識があいまになりやすい。結果、ボールに当たる前に手首を返してしまう癖がつきやすい。いわゆる「こねる」である。
この悪癖がついてしまうともう、どうしようもない。しょぼい内野ゴロを連発する最低の打者になる。
この癖を取り除くには一苦労がともなう。ボールが当たったところでバットを止めさせたり、ひたすら流し打ちばかりさせたりと、根気よく時間をかけた治療が必要となる。
ボールに当たるまで手首を返すのを我慢できるようになるとゴロが減り、ライナーが増える。さらに厳しい球でも自然とファールで逃げられる。
以上のことから、素振りは準備運動やフォーム確認にとどめ、大量にバットを振り込むならばティー打撃を行うことを推奨する。
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