2023年1月21日土曜日

第132回 打球速度シミュレーター ver.2.1 -ヘッドスピード-




ヘッドスピード

打球速度シミュレーターをマイナーチェンジして、ver.2からver.2.1へアップデートします。

野球用語として、特に断りがなければ、スイングスピードとはヘッドスピードを指すのが一般的です。

市販のスイングスピード測定器でも通常、バットのヘッドスピードが測定されます。

そのため、バットのヘッドスピードをインプット値として入力できるよう改良します。


バット速度はどこのこと

打球速度シミュレータではここまでバットとボールを質点、つまり体積ゼロの1点に全重量が集まっているとして取り扱ってきました。




この場合、衝突計算に使用する速度は、どこの部分のものを用いるのが適切でしょうか?

ボールは簡単です。
球体なので、ボールの中心点の速度、つまり球速そのままを用いるのが自然です。

バットはどうでしょう。
長い棒が回転しているため、先端のヘッドと根本のグリップ部では速度が全く異なります。


 


難しいですがあまり複雑になるのをさけるため、ボールと衝突する部分、つまり芯の部分の速度がバット速度v2であると仮定します。




ヘッドスピードとバット速度の換算式

ヘッドスピードからバット速度(=芯部の速度)に換算する計算式を考えます。

両者の速度が回転中心Oからの距離に比例することを利用すると、バット速度v2は①式で計算されます。



例えば、バットの全長Lが85cmで、グリップエンドから回転中心までの距離aが6.35cm、ヘッドから芯までの距離sが15cmなら、芯部の速度v2はヘッドスピードv2hの0.84倍(=(85+6.35-15)/(85+6.35)になります。


バットの回転中心

インパクト時の回転中心はバットを握っている手の部分と思われがちですが、実際はそうではありません。グリップ自体も投手方向へ動いています。

グリップの動きも含めた回転中心Oはおよそ、グリップエンドの下側a=6.35cm、捕手側b=3.81cmの位置にあります。(ただしスイングの仕方や個人によるばらつきが多くあります。)(*1)

このうちbは、Oからの距離比への影響が小さいため①式では省略しています。


    References :
    (*1) https://www.acs.psu.edu/drussell/bats/bat-moi.html  (ペンシルバニア州立大HP)
    (*2) https://www.cyber-baseball.jp/high/6156/   (CYBER BASEBALL)
    (*3) 科学するバッティング術(p39 図2) 柳澤修、若松健太監修 EIWAMOOK 2015年
    (*4) BBMスポーツ科学ライブラリー 科学する野球 バッティング&ベースランニング(図30) 
            平野裕一著 ベースボール・マガジン社 2016年



エクセルへ数式入力

では、ヘッドスピードからバット速度への換算式①が得られたので、これをエクセルへ入力していきます。

ver.2をベースに進めます。


バット寸法

下図のようにm2から下のセルを下へ3行ずらして、スペースを空けてやります。


ドラッグアンドドロップで移動してやると、参照先の数式が壊れずにすみます。



次に各寸法L, s, aを、空いたスペースのC10,11,12セルへそれぞれ入力します。


これらの寸法は距離比を計算するためのものなので、同じ単位でそろっていれば、cmでもmでもインチでも可です。


衝突前ヘッドスピード

C5セルの値をバット速度v2から、ヘッドスピードv2hに変更します。

プロレベルを想定し140km/hとしました。(*2)


次にL5セルを、下図のような数式に変更します。

これで衝突前速度ベクトル{v}={v1,v2}のv2に、①式が入力されました。



衝突後ヘッドスピード

最後に、C17セルを下図のような数式に変更します。


これで衝突後ヘッドスピードu2hが、衝突後速度ベクトル{u}={u1,u2}のu2から、①式の反対で計算されます。








これで、打球速度シミュレータver.2.1の、
打球速度シミュレータver.2.1

完成です。



ヘッドスピード140km/hのスイングで130km/hの投球を打ち返すと、打球速度171km/hで飛んでいくという計算結果になりました。




精度検証

精度検証をします。

各ヘッドスピードv2hにおける打球速度u1の打球速度シミュレータver.2.1での計算結果を、実測データ(*3)と比較します。

下図のようになりました。


シンプルな計算モデルですが、割とよく一致しています。




以下、補足です。

・傾きが少し乖離しているのは、反発係数が厳密には一定ではなく、ボールとバットの相対速度に依存することが一因だと考えられます。相対速度が遅いほうがボールのつぶれが小さく、エネルギーのロスが少ないため、反発係数が大きくなります。

・ここでの計算結果は「可能な最大の打球速度」です。
芯を外す、またボールの中心からずれた位置を打つことにより打球速度はこれよりも遅くなります。

・スイングスピードは素振りで測定した場合に比べ、前から飛んでくる球を打つ時には15km/hほど遅くなる傾向があります。(*4) 投球に合わせ、当てに行く動作が入る分だけスイングが鈍ります。
素振りでの測定値をそのまま使うと過大評価になるため、15km/h差し引いた値をv2hとして入力することをお勧めします。





それでは、また。




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