投手の腕角度
投手が投げるときの腕の角度は人により様々です。
巨人大勢投手はサイドスローに近く、中日松山投手はほぼ垂直で縦に腕を振って投げます。中間のスリークォーターでも一人一人微妙に角度が異なります。
最適な腕角度は何度でしょうか?
プロで活躍している投手にさまざなタイプがいる以上、答えが一つに決まることはないでしょう。
それでも対象を限定することで、これに関してはこうだというのは言えるかもしれません。
今回は「ストライクを取るのに最適な腕角度」という視点で考えてみたいと思います。
ポイントは、コントロールがばらつく方向と、ストライクゾーンの縦横比です。
ばらつきは腕角度と平行
コントロールがばらつく要因としてすっぽ抜けや引っ掛かりがあります。
すっぽ抜けた時はボールが予定よりも早く手を離れ、右投手から見て右上にコントロールがずれます。
反対にひっかけたときは予定より遅く離れ、左下にずれます。
そのためコントールのばらつきは腕の角度と平行になります。
左右の上手投げ・横投げ・下手投げを含む様々な投球フォームのピッチャーを含む18名の大学生投手を対象に行った実験(*1)では、コントロールのばらつきは楕円形に分布しその長軸方向、つまりより大きくコントロールがばらつく方向は、投球腕の角度とほぼ完全に一致するという結果が出ています。
暴投王も頭は右だけ
右投げは右上か左下にばらつき、左上や右下に大きく投げそこなうことは稀です。
これは皆さんの経験とも一致することでしょう。
コントロールが悪いことで有名なメジャーリーガー藤浪投手も、頭に当てるのは右打者だけです。左打者の頭には当てません。
阪神時代のオープン戦では、対戦相手の中日が選手を守るため左打者のみで打線を組んだこともあります。理にかなった対処法です。
右対右よりも右対左の方が打者にとって有利と言われますが、これも頭に向かって飛んでくるリスクが低いため思い切って踏み込んで打ちに行けることも一因かもしれません。
ストライクゾーンを広く使う
コントロールのばらつき具合が同じならば、ゾーン幅が広い方向にばらついた方がストライクゾーンに入りやすくなります。
ストライクゾーンは縦長です。
そのため横にばらつくサイドスローよりも、縦にばらつくオーバースローの方がゾーンに入りやすくなります。
ゾーンの縦横比はどのくらいでしょうか?
MLB中継で画面に表示される四角い枠から推定すると、縦はおよそ57.2cmです。
(ちなみにゾーン上限は肩とベルトの中間までというルールですが、実際にはベルト上ボール2個分ぐらいまでというのが日米とも慣例になっているようです。高身長の打者が多いためルール通りだとゾーンが広くなりすぎるためかもしれません。草野球の審判はルール通りとるので案外プロ打者と近いゾーンで試合をしています。)
横幅はホームベースの幅で43.2cm(17インチ)です。
縦の方が1.33倍広くなっています。差は14cmほどでこれはボール約2個分の差になります。
つまりサイドスローよりもオーバースローの方がボール2個分ストライクになりやすい、ということになります。
サイドスローが少数派である一因と考えられます。
勘のいい方はすでにお気づきかもしれませんが、ゾーン斜めの対角線ではもっとも幅が広くなります。
対角線の幅は約71.6cm(=√(43.2^2+57.2^2)です。
これはおよそボール10個分の幅で、縦幅よりさらに2個分増えます。
四角なゾーンを丸くとる?
ところで、この対角線投法に待ったをかけるような調査結果もあります。
参考文献(*2)によれば審判がストライクとコールするゾーンは四角でなく丸いという調査結果が出ているそうです。
四隅の角はあまりとってもらえないようです。
そういえば昔の解説者はよく「フォークボールは外角低めより、真ん中低めから落とした方がバッターが振りやすい」と言っていました。
それもこの丸いゾーンが故かも知れません。
もし本当に四隅をとらないなら、対角線と平行な53.1度投法のメリットはなくなってしまいます。真上から投げたほうがむしろゾーンは広いかもしれません。
これもまたロボ審判導入によりルール通りの四角いゾーンになれば、状況が違ってくるかもしれません。
ではまた。
参考文献
(*1) 野球における投球誤差分布 進矢正宏 日本神経回路学会誌 Vol.24, No.3(2017) 116-123
(*2) 統計学が見つけた野球の真理 鳥越規央著 講談社 2022年発行 第9章
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