2022年8月13日土曜日

第125回 ノーヒットノーラン発生確率についての誤解





平均的な投手は何試合に1回の割合で達成するか


平均的な能力を持った投手がノーヒットノーランを達成する確率を計算します。

NPB(2019年)では、平均打率=総安打数/総打数=14551/57729=.252なので、平均的な投手の被打率を切りよくR1=.250とします。

ヒットを打たれずアウトにする確率は1-R1で、それをx乗したものがx人連続でアウトする確率になります。

1人目をアウトにする確率は1-R1=.750です。
3人連続でアウトにする確率は(1-R1)^3=0.422です。
27人連続でアウトにする確率は(1-R1)^27=0.00042です。

平均的な投手がノーノーを達成する確率は0.042%です。
これは3人連続でアウトにする確率の1/1000なので、ノーノー達成は三者凡退の1000も倍難しいということになります。

何試合に1回の割合でノーノーが発生するかは、発生確率の逆数で求められます。

N=1/(1-R1)^27=2362試合

被打率.250の平均的な投手は2362試合に1回の割合でノーノーを達成します。




2362試合投げたら

では、この投手が2362試合に先発登板したら必ず、100%ノーノー達成できるかといえば、そうではありませんね。

一等当選確率が一千万分の一のジャンボ宝くじを一千万枚買っても、一等が当たらないことがあるのと同じです。

2362試合に1度の割合でノーノー達成する投手が、2362試合に投げた時1回以上ノーノー達成している確率はどれくらいだと思いますか?
(一人の投手が現役中に2362試合先発登板するのは現実的でないので、同じ被打率の投手たちが延べ2362試合に投げるとして考えてください。)

90%?95%? 

100%でないにしても、それに近い高確率だとイメージしているのではないでしょうか。

実はもっとずっと低いのです。




登板数を重ねるごとに1回以上ノーノー達成している確率がどうなるか、計算します。

先ほどのノーノー達成率をR2とすると、ノーノーがx試合連続で達成されない確率は(1-R2)^xなので、x試合登板で1回以上ノーノー達成する確率は1-(1-R2)^xとなります。

1試合登板でノーノー達成確率はR2=0.00042です。
2試合登板でノーノー達成確率は1-(1-R2)^2=0.00085です。
200試合登板でノーノー達成確率は1-(1-R2)^200=0.081です。
2362試合登板でノーノー達成確率は1-(1-R2)^2362=0.632です。

2362試合登板したとき1度はノーノー達成している確率は63.2%です。2/3弱であり、100%よりもずっと小さい確率です。








優秀な投手は何試合に1回の割合で達成するか

今度は、優秀な投手の場合でノーノー達成率を計算します。

被打率R1=.200とします。

2021年のNPBで被打率.200以下はオリックス山本投手(.182、100投球回以上)ただ一人ですから、被打率.200なら沢村賞レベルのとても優秀な投手を想定していることになります。

1人目をアウトにする確率は1-R1=.800です。
3人連続でアウトにする確率は(1-R1)^3=0.512です。
27人連続でアウトにする確率は(1-R1)^27=0.00242です。

優秀な投手がノーノーを達成する確率は0.242%です。
平均的な投手(0.042%)の5倍以上の確率です。

続いて、何試合に1回の割合でノーノーが発生するかを計算します。

N=1/(1-R1)^27=414試合

被打率.200の優秀な投手は414試合に1回の割合でノーノーを達成します。


414試合先発登板もかなり高いハードルですが、毎年25試合登板し続けると17年目に到達できます。



最後に、この投手が414試合登板したとき1回以上ノーノー達成している確率を計算します。

1試合登板でノーノー達成確率はR2=0.00242です。
414試合登板でノーノー達成確率は1-(1-R2)^414=0.633です。

414試合登板に1回の割合でノーノー発生する投手が、414試合に登板したとき1度はノーノー達成している確率は63.3%です。
やはり100%からは程遠い値です。

先の平均的な投手の場合とほぼ同じ値ですが、これはたまたではありません。数学的になるべくしてこの値になっているのです。





ネイピア数(もしくは自然対数の底)

N試合に1回の割合で発生するなら、N試合やれば100%近い確率で発生するものだと思ってしまいますが、それは誤解です。

平均するとN試合に1回発生ですが、N試合で2回以上発生することもあるので、N試合で1回も発生しないこともあります。

その確率はNが十分大きい場合、ネイピア数(もしくは自然対数の底) e=2.71828...(無理数。小数点以下無限に数字が続く)を用いて、1-1/e=0.632....で、63.2%になります。(*1)

(*1)参考文献 : 知識ゼロでも楽しく読める!数学のしくみ 加藤文元監修 西東社 2020年発行

エクセルではセルに「=1-1/EXP(1)」と入力すると、この値を出すことができます。

上記の2つの計算結果もこれに近い値になっています。

N試合に一回の割合でノーヒットノーランを達成する投手が、N試合に登板したとき少なくとも1回はノーノー達成ししている確率は、ネイピア数によって支配されており、63.2%に収束します。

3人に1人はN試合投げてもノーノー達成できません。

偉業を成し遂げるには実力と運の両方が必要です。






それでは、また。



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