2022年8月6日土曜日

第124回 160km/hの"熱量"


 


1.6%の回転

動いているボールは運動エネルギーを持っています。

160km/hの球で計算すると、

E1 = 1/2・m・v^2 = 1/2×0.145×(160/3.6)^2 = 143.5 [J]

(m:ボール重量、v:球速) 

143.5J(ジュール)です。

これは重心の並進運動エネルギーです。


ボールが回転していれば、重心回りの回転運動エネルギーも加わります。

一分間に2300回転の球で計算すると、

 E2 = 1/2・I・ω^2 = 1/2・(2/5・m・(d/2)^2) ・(2π・N/60)^2

      = 1/2× { 2/5×0.145×(0.074/2)^2} × (2×3.14×2300/60)^2 = 2.3[J]

(I:慣性モーメント(一様密度の球を仮定)、d:ボール直径、N:回転数) 

 2.3Jです。

並進よりもずっと小さい値です。

トータルで145.8J(=143.5+2.3)で、回転エネルギーそのうちの1.6%にすぎません。(2.3/145.8=0.016)

回転エネルギーが小さいのは回転中心近くは速度が遅く、また一番速い外表面でも32km/hにすぎないためです。(d/2×ω= 0.074/2×(2π×2300/60)×3.6=32)



ジュールとカロリー

J(ジュール)は、SI単位系におけるエネルギー単位です。

定義は「1ニュートンの力でその方向に 1メートル動かすときの仕事です。

日常生活においてはあまり使われません。


カロリーのほうがなじみがあります。

私たち人間が、食物から摂取したり、運動で消費するエネルギーは主にkcal(キロカロリー)で表されます。

1カロリーは「水 1gの温度を1 °C上昇させる熱量」で、1キロカロリーはこの1000倍です。


ジュールとカロリーの関係は「1 cal = 4.184 J 」です。



160km/hの熱量

160km/hのボールが持つ運動エネルギーがすべて水の熱量に変換されたら、どのくらい温度が上がるでしょうか。

160km/hのエネルギーは上述のように146Jで、これは35calの熱量と等価です。(146/4.184=35)

200ccの水ならば、わずかに0.2度温度が上昇します。(35/200=0.17)

観客は沸いてもカップのお湯は沸きません。


ナイアガラの熱量

滝の水は高いところから落ちて力学的な位置エネルギーを熱エネルギーに変換しますが、水温の上昇はわずかです。

ナイアガラの滝でさえ、およそ0.2℃水を温めるだけです。(*1)

160km/hを捕球したキャッチャーミットが高温になり、捕手がやけどすることはありません。


(*1)創元ヴィジュアル科学シリーズ2 シュレディンガーの猫 -実験でたどる物理学の歴史 
      アダム・ハート=ディヴィス著 山崎正浩訳 創元社 2017年出版




消費カロリー

投手がボールを1球投げるごとに、どのくらいのエネルギーが消費されているでしょうか。

投球の運動強度を6METsとし、体重100kgの投手が、3時間の試合の半分1.5時間で、100球を投げると仮定します。

そのとき1球投げるごとに投手が消費するカロリーは、9.5kcalとなります。(6×100×1.5×1.05/100=9.45)

ここで、
METs × 体重(kg) × 時間 × 1.05 = 消費カロリー(kcal)
です。


160km/hのボールが持つ運動エネルギーは上述のように、35calです。

したがって、投手が消費したカロリーのうち、たったの0.4%がボールの運動エネルギーに変換されています。(35/1000/9.5=0.0037)

とても非効率です。SDGs過激派には知られたくない事実です。


160km/hの熱量







それでは、また。



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