高速化
投手の球速が年々上がっています。松坂大輔投手が高校生初の150km/h超えをした時には大フィーバーでしたが、今では高校生が150km/hを投げても大して騒がれません。
プロではクローザーレベルは皆150km/h台後半を安定して投げ、MAXで160km/hを超えた投手が何人もいます。
両方同時に
球速がどんどん上がっているのはトレーニング方法の進歩によるところが大きいようです。
筋トレや食事法の研究が進んだことでフィジカルが向上しました。
それと同時に、映像解析技術などにより最適なピッチングフォームも身に付けられるようになりました。
きれいなフォームでも貧相な体では速い球は投げられません。
立派な体格をしていても非効率的なピッチングフォームでは速い球を投げられません。
フィジカルとピッチングフォーム。心技体でいえば技と体。
両方が同時に向上したことで速い球を投げられる投手が量産できるようになったと考えられます。
かつては「速い球を投げるのは才能だから、努力ではどうにもならない」と言われていましたが、科学技術の進歩がそれを覆した形です。
進化の方向性
投手が打者を抑えるために影響する要素、投手の能力、として挙げられる項目はいくつもあります。
球速だけでなく、コントロール、変化球のキレ、球種の多さ、球の出どころの見にくさ、角度のある球、変化球とストレートを同じフォームで投げられるクセのなさ、などなど、たくさんあります。
そのなかで球速アップが最も進んでいるのは、結局のところそれが打者を抑えるのに一番効果的だからです。
球は遅いけどコントロールの良い投手や、球は遅いけど変則的なフォームから多彩な変化球を投げる投手よりも、球の速い投手の方が試合での成績がよいのです。
中日柳投手のように140キロ前半で奪三振、防御率が優れている投手もいますが、全体でみれば少数派です。
四球連発のひどいノーコンやまともな変化球が一つも投げられないようなのは論外ですが、他がある程度人並みであれば球の速い投手ほど活躍できるという傾向が統計的にでています。
だから投手は球速アップに努め、指導者や研究者も球速アップへ導こうとします。
球が速いことのメリット
球が速いことのメリットは何でしょう。
時間が短いほど振り遅れますし、振り遅れないよう早いタイミングで振り始めると見極めが悪くなります。
ストレートの軌道計算
160km/hから10km/hごとに130km/hまで、球速の違うストレート(4シーム)を計算対象とします。
球速以外の回転軸やリリースポイント、投げ出す角度はすべて同じとします。
回転数は球速に比例して増加する傾向があるため、各球速の平均的な値とします。球速と回転数の比を一定にするので、スピンパラメータの値が一定で、抗力係数CD,揚力係数CLは一定となります。
(より正確には、CD,CLはスピンパラメータのみでなく、レイノルズ数によっても増加する傾向があり、球速が速いほど増加するという研究結果もあります。)
[計算条件]
軌道シミュレータver.3.2へのインプット値は以下のようです。
4シーム
球速:v0=160,150,140,130[km/h]、
リリース角度:θ=-1.5度(下向き)、φ=2度(一塁方向)
ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
抗力係数 CD=0.401、揚力係数CL=0.185
ボール回転軸角度 θs=110度、Φs=-80度
抗力係数 CD=0.401、揚力係数CL=0.185
ボール回転軸
θs : z軸からx-y平面に向かう角度(真上から水平に向かう角度)
φs : x軸からy軸に向かう角度(ホーム方向から一塁側へ向かう角度)
[計算結果]
同時に、同じリリース角度で投げられた各球速のストレートの軌道計算結果をプロットすると、以下のようになりました。
上から、リアルスピードのgif動画、1/10倍スローのgif動画、静止画です。
gif動画(実際の速度)
gif動画(1/10倍スロー)
静止画(点は0.02秒ごとのボール位置を表す)
160km/hの球は0.4秒未満でホームに到達にする、という結果になりました。
+20km/hの速さは、-0.05秒の早さになります。
打者は0.2秒前に振り始める
速さの差は、時間差を介して、距離の差にも換算されます。はじき、です。
打者がトップの位置からインパクトの位置まで、バットを持ってくるのにも時間がかかります。
打者はボールがホームベース上に到達するおおよそ0.2秒前にはバットを振り始めると言われています。それより遅いと振り遅れて空振りになります。
この0.2秒前におけるボールの位置は、球が速いほど投手寄りになります。球が速いほど投げてから振り始めるまでの時間は短くなり、同時に、振り始めるまでに見れる軌道は少なくなります。
西武ライオンズ時代にロッテ伊良部投手の158km/hと対戦した清原選手は、「投げた瞬間振るような感覚」と語っています。
打者が振り始める位置
打者がバット振り始める、ホーム到達0.2秒前の位置を先ほどの軌道計算結果に示すと、下図のようになります。
140km/hの球ではピッチャープレートから11.3メートルの位置にボールが来たときバットを振り始めるのに対し、160km/hでは10.3メートルの位置で振り始めなければなりません。
1メートルほど差があります。
160km/hの球を打とうとする打者は、140km/hの球に比べ1メートルボールがまだ来ていない段階から振り始めなければならない、ということが分かりました。
振り始めるまでに見れる軌道が1メートル減ることで、変化球との軌道の乖離がよりまだ小さい段階から振り始めなければならないため、振る前に変化球であると見抜くことが難しくなります。
+20km/hの速さは、-1メートルの短さになります。
別の表現をすると、160km/hの球を打つのは、140km/hの球を打者が通常よりも1メートル前に立って打つのと同じことなわけです。
そう考えると、球が速い投手ほど打つのが難しいのももっともです。
では、また。
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