2021年9月4日土曜日

第84回 前田健太投手の投球軌道を、トラッキングデータから再現する

 ツインズ



メジャー挑戦    

ミネソタ・ツインズの前田健太投手が右ひじのトミージョン手術を行ったという、ショッキングなニュースが入っていきました。長期離脱は避けられないようです。

去年、おととしと良い活躍をしていただけに非常に残念です。

これまで前田投手をはじめ、多くの日本人投手が海を渡りメジャーリーグに挑戦してきました。その中には日本のプロ野球では圧倒的な活躍をしていたのに、渡米後は思うような成績を残せすことができず出戻りをした選手が少なくありません。

和田毅、藤川球児、川上憲伸、井川慶、最近では山口俊投手などなど、枚挙にいとまがないほどです。彼らはNPB時代の成績からするととても信じられないような結果に終わってしまいました。

失敗することが珍しくないため、報道では"メジャー移籍"ではなく"メジャー挑戦"と書かれてしまうこともしばしばです。



平均的ストレート


前田投手もメジャー挑戦が報じられた時には、もしかしたら通用しないのではないか、と心配されていました。

NPB時代、ストレートはコンスタントに140キロ台後半、時には150キロを超える速球派投手でした。また球速だけでなく、変化球も多彩で、コントロールもよく、スタミナもある、その上さらにフィールディングもよく、投手にしておくのがもったいないほどバッティングもよいという、まさに何でもできるスーパーマンのような存在でした。

しかし、平均球速が150キロのメジャーリーガーの中に混じってしまえば、ストレートは普通の平均レベルになってしまいます。そのため、変化球で逃げ回るような投球になり、やがて手詰まりとなって捕まるのではないか、と予想されていました。

しかし結果は良好、メジャー移籍後に著しく球速が上がったわけではないのにも関わらず、メジャーで生き残り活躍し続けています。
球持ちが良く、リリースポイントが前であることが秘訣かもしれません。


今回は、そんな前田健太投手のストレート(4シーム)の投球軌道をトラッキンデータから再現計算してみます。




前田健太投手4シームの軌道計算


トラッキングデータでは変化量に加え、初速と回転数も測定されています。これら3つのデータから、軌道シミュレータver3.2により投球軌道を計算し再現することができます。

今回は前田投手の4シームについて、トラッキングデータの初速と回転数をインプットとして計算した結果がトラッキングデータの変化量と一致するよう、回転軸の値を調整します。


[トラッキングデータ]

2019年シーズンの平均値です。



[計算条件]

軌道シミュレータver3.2へのインプット値は以下のようです。






[計算結果]

計算された4シームの軌道は以下のようになりました。

図中の点は0.02秒ごとの、一番右はホームベース前端上(x=18.01m)におけるボール位置です。

灰色線は同じ球速の自由落下軌道で、これとの差が先のトラッキンデータにおける変化量となります。

前田健太投手4シーム軌道



4シームの特徴

前田投手の4シームは、目立った特徴がありません。

トラッキンデータとして測定される、バックスピン回転の上向き揚力(マグナス力)によるホップ量は、39cmとMLB平均程度です。

横方向の変化量も17cmと、いたって普通です。大きくシュートせず、かといって真っスラのように全くシュートしないわけでもありません。

球速も平均を上回るものではありません。

全てが平均的なので、メジャーリーグの投手はどんな感じのストレートを投げているの、と聞いてくる人がいたら、こんな感じだよ、と見せてあげるのにちょうどよい見本になります。

もちろんこれは前田投手のストレートが大したことないというわけではなく、メジャーリーグ全体のレベルがそれほどに高いということです。

2013年、王選手の記録が目前に迫ったバレンティン選手が、前田投手の高めボールゾーンへ投じた渾身のストレートをレフトスタンドへ54号を叩き込んだ一撃は、とても衝撃的でした。バレンティンは当然、翌年はメジャーに行ってしまうものと思われていましたが、結局オファーがなく、当時とても不思議でした。メジャーのスカウトたちからは普通の球を打っただけ、と思われてしまったのかもしれません。




3Dプロット

おまけの、3D動画です。

今回計算した投球軌道をCADソフトでプロットし、gif動画にしました。

スピードは実際と同じにしてあります。こうしてみると、やはり速いです。








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他の球種についても、また再現計算を行っていきたいと思います。

次回はスライダーの予定です。





では、また。


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