2021年12月18日土曜日

第99回 菊池雄星投手のカッター軌道をトラッキングデータから再現計算


最多投球割合    

菊池雄星投手が現在投げている4つの球種の中で、最も投球割合が高いのがカッター(カットボール)です。全投球の4割をカッターが占め、3割を占める4シームよりも多く投げられています。20年シーズンから投げ始めたと言われるこの球が21年シーズンの活躍にカギとなりました。高速で小さく変化するカッターは速い球に狙いを絞って強振してくる打者に有効です。

今回はトラッキングデータから菊池投手のカッターを軌道計算で再現します。


菊池雄星投手カッターの軌道計算

トラッキングデータでは変化量に加え、初速と回転数も測定されています。これら3つのデータから、軌道シミュレータver3.2により投球軌道を計算し再現することができます。

今回は菊池投手のカッターについて、トラッキングデータの初速と回転数をインプットとして計算した結果がトラッキングデータの変化量と一致するよう、回転軸の値を調整します。


[トラッキングデータ]

2021年シーズン前半(開幕から7月1日までの好調期間)の平均値です。トラッキングデータはbaseball savantのwebページから持ってきたものです。




トラッキングデータの縦横変化量をグラフにプロットすると以下のようです。オレンジ色の点が平均値で、小さい灰色点が一球ごとの変化量です。横変化量は+方向が左打席方向で、捕手側から見た変化量となっています。




[計算条件]

軌道シミュレータver3.2へのインプット値は以下のようです。

球速:v0=147[km/h], 抗力係数:CD=0.41, 揚力係数:CL=0.20
リリースポイント:(xo,yo,zo)=(2.03,0.66,1.75)[m]
リリース角度:上向き:θ=-2.0[度], Φ=-2.5[度]
ボール回転軸:z軸→x軸 : θs=92[度], x軸→y軸:Φs=-151[度]


投手方向から見た回転軸





[計算結果]

計算されたカッターの軌道は以下のようになりました。

図中の点は0.02秒ごとの、一番右はホームベース前端上(x=18.01m)におけるボール位置です。

灰色線は同じ球速の自由落下軌道で、これとの差が先のトラッキンデータにおける変化量となります。


菊池雄星投手カッター(カットボール)投球軌道計算2021前半



カッターの特徴

菊池投手のカッターは横に曲がりません。上空から見たx-yプロットでの軌道はほぼ真っすぐで、直線軌道に対する変化量はわずかに2cmです。意外です。

上下方向の軌道は自由落下軌道に対し上に22cmホップします。これは速球としては小さな変化量で、4シームの半分程度です。ホップ量が半分なら回転軸はジャイロスピン回転とバックスピンの中間の45度かというとそうではなく、sin30°=1/2のため完全なジャイロスピン回転からバックスピン側に30度ほど傾けた角度になっています。

カッターは単体で見ると真っ直ぐ飛んできて小さくホップする軌道です。




4シーム軌道との比較

4シームと比較するとどうでしょうか。前回計算した同じリリース角度の4シームの軌道と一緒にプロットすると、以下のようになります。

菊池雄星カットボールvs4シーム

4シームと比較すると下に28cm、右打席側に22cmホームベース上(x=18.01m)で軌道がかい離しています。上下、左右共に結構差があります。

単体ではほとんど横に曲がっていないカッターですが、シュート方向に曲がっていく4シームを真っすぐと認識している打者にとってはボール3個分ほど曲がってくることになります。右打者にとっては懐に食い込んできて、左打者にとっては外へ逃げていきます。

加えて4シームに対してボール4個分下へかい離します。単体では自由落下に対して小さくホップする球が、4シーム狙いの打者にとっては小さく沈む球になります。

140km/h後半の球速で、かつホームベースの8メートル手前(x=10m)あたりまでほぼ軌道が重なっているため、スイング開始前にカッターか4シームか見分けるのはかなり困難だと思われます。


3Dプロット

今回計算した投球軌道を3D CADソフトでプロットし、gif動画にしました。

スピードは実際と同じにしてあります。4シームと交互に再生されます。


菊池雄星投手カッター(カットボール)3D投球軌道2021前半

横方向には曲がっていないはずなのに、4シームの後に見ると随分と食い込んでくる軌道に感じられます。






では、また。


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