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菊池雄星投手スライダーの軌道計算
今回は菊池投手のスライダーについて、トラッキングデータの初速と回転数をインプットとして計算した結果がトラッキングデータの変化量と一致するよう、回転軸の値を調整します。
[トラッキングデータ]
2021年シーズン前半(開幕から7月1日までの好調期間)の平均値です。
[計算条件]
軌道シミュレータver3.2へのインプット値は以下のようです。
投手方向から見た回転軸 |
[計算結果]
計算された4シームの軌道は以下のようになりました。
図中の点は0.02秒ごとの、一番右はホームベース前端上(x=18.01m)におけるボール位置です。
灰色線は同じ球速の自由落下軌道で、これとの差が先のトラッキンデータにおける変化量となります。
スライダーの特徴
菊池投手のスライダーは変化量が小さいのが特徴です。自由落下軌道に対して下方向と右打席方向にそれぞれ7cmずつ、ボール一個分だけ曲がります。ほぼジャイロ回転をしているためです。2000年代に縦スラと呼ばれていた球に近く、曲がるというよりも落ちるタイプのスライダーです。
上空方向から見たx-yプロットでは横方向の変化量が小さくほぼ真っすぐとんでくる軌道です。曲りは小さくとも右投手の三塁側よりのリリースポイントから投げられ右打席方向にシュートしてくる軌道の4シームを見慣れている打者にはかなり急角度で飛んで来るように見えます。
4シーム軌道との比較
4シームの軌道と比べてみます。スライダーと、同じリリース角度の4シームを合わせてプロットすると以下のようです。
上下軌道の差は75cmもあります。同じリリース角度で投げられた球が高めと低目へ分岐していきます。4シームの強いバックスピン回転とスライダーの少しのトップスピン回転成分による揚力の差に加え、20km/hの球速差による重力を受ける時間差の影響も大きく作用しています。
横の軌道差は27cmです。上下ほど大きくありませんがホームベース幅の半分以上であり、打者を打ち取るのに十分な差を生み出しています。
投球割合の30%を占める4シームを狙っている打者には横へ曲がりながら落ちる球として、40%を占めるカッターを狙っている打者には落ちる球としてどちらにも威力を発揮します。
ところで、スライダーとカーブの分類というのはあいまいです。明確な定義はなく、速くて小さく鋭く曲がるものをスライダー、緩くて大きく曲がるものをカーブと呼ぶのが一般的です。
これとは別に、トップスピン成分が入り自由落下軌道以上に下へ変化するものをカーブ、そうでないものをスライダーとする分け方もあります。その基準で言うと、菊池投手のスライダーは高速で小さく曲がるカーブということになります。
3Dプロット
今回計算した投球軌道を3D CADソフトでプロットし、gif動画にしました。
スピードは実際と同じにしてあります。スライダーと4シームが交互に投げられます。4シームは第98回で計算したものでリリース角度がスライダーよりも少し下向きになっています。
では、また。
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