2022年1月15日土曜日

第102回 菊池雄星投手のチェンジアップ軌道をトラッキングデータから再現計算


高速チェンジアップ    

菊池雄星投手のチェンジアップは球速が140km/hと高速です。
チェンジアップは緩い球を投げることで速球狙いの打者のタイミングを外すための球種ですが、球速が遅ければ遅いほどよいかというとそうでもありません。
チェンジアップは打者に振り始めるまで気づかれないようにするのがコツですが、4シームと球速差がありすぎると速い段階で気づかれやすくなります。また、腕の振りを緩めてしまうと気づかれてしまうので4シームのときと同じ腕の振りの速さで投げなければなりませんが、そうすると大きな球速差を与えることが技術的に難しくなります。

結果、チェンジアップは4シームに比べて15km/hぐらいの球速差がベストだ、と言われています。菊池投手はちょうどそのぐらいです。速球が速い分だけ、チェンジアップも高速化しています。

今回はトラッキングデータに基づき菊池投手のチェンジアップ軌道を計算で再現します。


菊池雄星投手4シームの軌道計算

トラッキングデータでは変化量に加え、初速と回転数も測定されています。これら3つのデータから、軌道シミュレータver3.2により投球軌道を計算し再現することができます。

今回は菊池投手のチェンジアップについて、トラッキングデータの初速と回転数をインプットとして計算した結果がトラッキングデータの変化量と一致するよう、回転軸の値を調整します。


[トラッキングデータ]

2021年シーズン前半(開幕から7月1日までの好調期間)の平均値です。



縦横の変化量をプロットすると以下のようです。灰色の点が一球ごとのデータで、緑色がそれらの平均値です。
変化量のばらつきが大きく不安定であることが分かります。この変化量の不安定さはそのままコントロールの不安定さになります。甘く入り痛打されるのを避けるために投球割合が8%、12球1球ほどと低いのだと考えられます。






[計算条件]

軌道シミュレータver3.2へのインプット値は以下のようです。



投手方向から見た回転軸





[計算結果]

計算されたチェンジアップの軌道は以下のようになりました。

図中の点は0.02秒ごとの、一番右はホームベース前端上(x=18.01m)におけるボール位置です。

灰色線は同じ球速の自由落下軌道で、これとの差が先のトラッキンデータにおける変化量となります。

菊池雄星投手チェンジアップ軌道2021前半


チェンジアップの特徴

自由落下に対して上に20cmホップしています。ホップ量が小さいため打者にとっては沈む軌道として認識されます。

横方向はシュート方向に27cm変化します。回転数は少なく4シームの7割ほどですが、回転軸が横に傾いており、またジャイロ回転成分が少ないため、横方向の変化量は割と大きくなります。

チェンジアップは単体で見れば小さくホップしながら右打者のアウトコースへ逃げていく軌道です。



4シームとの軌道比較

同じリリース角度の4シーム軌道と重ねると以下のようです。


4シームに比べると、下へ38cm軌道がかい離します。ボール5個分ぐらいです。回転数、回転軸による揚力の差に加え、15km/hの球速差で重力を受ける時間の差によっても軌道差が生まれます。

一方、横方向は7cm、ボール1個分のわずかな差です。

その結果チェンジアップは4シームに比べ真下に落ちるような軌道となります。

空振りをとるにも引掛けさせてゴロに打ち取るのにも適した軌道です。威力は十分なので変化量のばらつきがなくなりコントロールが安定すればもっと多投しメインウェポンとなりえる球です。







3Dプロット

今回計算した投球軌道を3D CADソフトでプロットし、gif動画にしました。

スピードは実際と同じにしてあります。4シーム→チェンジアップ→2球種同時の順でループ再生されます。


チェンジアップの軌道はどこか途中でカクっと変化する個所があるわけではありません。それなのにホームベース上での上下位置は大きく異なります。そのため打者はスイングして空振りしてから4シームでなくチェンジアップだったと気づくことになります。
打者にとって本当に恐ろしいのは、鋭く曲がって見えることではなく、軌道がかい離していることを目で見て認識できないことです。










ではまた。


1 件のコメント:

  1. 菊池雄星投手の分析おつかれさまでした。
    これからも期待しております。

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