2022年3月5日土曜日

第109回 150km/hの球を、真上に向かって投げるとどうなるか?



試合中は投げない

試合中の投球ではボールは、水平に近い角度で投げられます。ストライクゾーンの上下限内を通過させるためです。

送球は距離が遠くなれば多少山なりの上向き角度で投げられますが、真上に向かって投げるようなプレーさすがにありません。

もし、真上に向かって思い切り速い球を投げたら、どうなるでしょうか?


真空中の150km/h

この問題は、高校物理の教科書でも定番です。

球速

真上に向かって投げられたボールは、一定の下向きの重力を受け、時間とともに減速します。球速を表す計算式は以下のようです。

v = vo - g・t -① : 球速 

(vo : 投げた瞬間の球速、g : 重力加速度、t : 投げてから経過した時間)

例えばメジャーリーガー並みの150km/hの球で、投げてから1秒後の球速を①式で計算すると、

v = { (150/3.6) - 9.807×1 } ×3.6 = 115km/h

となります。3.6で割ったり、かけたりしているのは、時速(km/h)と秒速(m/s)を変換しているためです。

重力によりわずか1秒で、35km/hも減速します。


高さ

さらに時間が経過すると、球速はどんどん遅くなり、やがてゼロになります。その後は重力により下向きに加速され、球速を増しながら下へと落ちていきます。

この球速がゼロになった瞬間が、最も高く上がり頂点に達したときです。

頂点におけるボールの高さを求めなさい、という問題も高校物理で頻出です。これはエネルギー保存則を学ぶのに適しています。

投げた瞬間の運動エネルギーと頂点における重力の位置エネルギーが等しいことを式で表すと、以下のようです。

1/2・m・vo^2 = m・g・h ‐②:エネルギー保存則

(m : ボール重量、vo:投げた瞬間の球速、g : 重力加速度、h : 頂点における高さ)

頂点の高さhについて表す形に変形すると、

h = vo^2 / (2g) ‐③:頂点におけるボールの高さ

となります。

②式の両辺にあったmは打ち消し合って、無くなりました。細かいことをいうと、左辺のmは慣性質量、右辺のmは重力質量なのです。物理学者の先人たちが両者が同じものであることを証明してくれているため、気軽に打ち消すことができます。

先と同様に150km/hの球を想定し、③式で計算すると、

h = (150/3.6)^2/(2×9.807) = 88.5m

となります。

150km/hの球を真上に向かって投げると、高さ90メートル弱まで上昇します。

これは中部電力 MIRAI TOWER(旧・名古屋テレビ塔)の展望台と同じぐらいの高さです。





大気中の150km/h

さて上記は、真空中で空気抵抗がない場合の計算です。高校物理では、本質を理解するためと、難しくなりすぎるのを避けるために、空気抵抗は省略されることが多くなっています。

実際の地球上で大気がある場合では、どうなるでしょうか。

重力に加えて空気抵抗が働くため、ボールが上がって行く際の減速は、さらに大きくなります。

また空気抵抗により失われたボールの運動エネルギーは、空気分子の運動エネルギー、すなわち熱エネルギーに変換されます。頂点に達した時、最初に持っていたボールの運動エネルギーの全てではなく、熱エネルギーとして逃げていった分を差し引いた残りの分が、位置エネギーになります。位置エネルギーは高さに比例しますので、空気抵抗があると頂点の高さが低くなります。

また頂点を過ぎて落ちてくる際にも、空気抵抗によりエネルギーが逃げていきます。頂点のときに蓄えていた位置エネルギーの全てではなく、逃げていった残りが、ボールの運動エネルギーに変換されます。

結果、地上の高さまで落ちてきたときの球速は、投げ上げた瞬間の球速よりも遅くなります。


大気中の150km/hの軌道計算

では大気中で空気抵抗がある場合、真空中で空気抵抗がない場合に比べどのくらい頂点の高さが低くなり、落ちてきたときの速度が遅くなっているのか軌道計算してみます。

[計算条件]

球速は150km/h。回転は無回転、ただしナックルボールのような変化はしないとします。

軌道シミュレータver.3.2へのインプット値は、以下のようです。抗力係数CDをゼロにするか、もしくは空気密度をゼロにすると空気抵抗による減速がなくなります。





[計算結果]
大気中と真空中において、それぞれで真上に向かって投げられた150km/hの球の軌道計算結果は、以下のようです。グラフ中の点は0.2秒ごとのボールの位置を表します。

上昇時と落下時が重なって見づらいため、gifアニメ化したものも併せて示します。

  


上昇中に1/3失って、残り2/3

大気中での頂点高さは59mとなりました。

真空中の90m弱に比べ2/3程度に減っています。頂点高さに比例する重力の位置エネルギーも2/3ほどに減っていることになります。

投げた瞬間から頂点に達するまでの上昇過程において、最初に持っていたボールの運動エネルギーの1/3程度が空気抵抗により失われ、大気中の空気分子へ逃げていきました。


落下中に1/6失って、残り半分

大気中において、地上の高さまで落下してきた時の球速は103km/hとなりました。

運動エネルギーは球速の2乗に比例しますので、この時のボールの運動エネルギーは最初に比べ、0.47倍(=(103/150)^2)に減っていることになります。落ちてきたボールの持つ運動エネルギーは、投げ上げた瞬間の半分程度に減っています。


エネルギー効率

エネルギーは、投げた瞬間から頂点まで上昇する間に1/3が失われて2/3が残り、頂点から地面まで落下する間にさらに1/6が失われて最初の1/2の運動エネルギーを持って帰ってきます。ボールが上がって落ちてくる間に半分のエネルギーが大気中に逃げ、残り半分がボールに残ります。

このように物を動かすとエネルギーはいくらかよそへ逃げていきます。

例えば、火力発電のエネルギー効率は良いものでも50%程度と言われており、今回のボールと同じようにエネルギーの半分を逃がしています。石油の中に閉じ込められていた化学エネルギーの半分しか電気エネルギーに変換できず、半分を大気中に熱として逃がしてしまいます。これが二酸化炭素の排出とは別に、より直接的に温暖化に悪影響を与えます。

また人間の筋肉はもっとエネルギー効率が低く20%程度と言われています。食べ物の中に閉じ込められていた化学エネルギーの20%しか筋肉の運動に変換できず、80%を熱として逃がしてしまいます。そのため、運動をすると体温が上がって汗をかきます。




*****

今回は150km/hで計算しましたが、球速がもっと速くなると地球の重力を振り切って宇宙へ飛び出し、落ちてこなくなります。これには40300km/h(第2宇宙速度)が必要です。

とても人間に投げられる球速ではありません。






では、また。 




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