2022年6月4日土曜日

第119回 カーブがストレートより遅い理由

  



どんな投手でも

カーブの球速は、全力で投げたストレートよりも必ず遅くなります。

これは絶対です。

どんな投手でもストレートと同じ球速のカーブを投げることはできません。


相対的に遅い

ストレートが140km/h台の投手なら、カーブは120km/h台になります。

意図的に抜こうとせず、ストレートを同じ腕の振りで全力で投げても、カーブは勝手に遅くなります。

プロ野球やメジャーリーグの中には130km/h台後半のとても速いパワーカーブを投げる投手もいますが、そういう投手はストレートが150km/h以上出ます。

ストレートの球速が速ければ、その分ほかの投手よりも速いカーブを投げられますが、自身のストレートと比べれば相対的に遅くなるのは結局どの投手でも同じです。


カーブは、ストレートにとどまらずシュート、カッター、スライダーにスプリットなどあらゆるほかの球種よりも球速が遅くなります。

通な人は、ナックルボールやイーファスピッチを反例として挙げるかもしれませんが、これらは腕の振り自体が緩んでいます。

ストレートと同じ腕の振りの速さであるのに、カーブはストレートよりも遅くなるのです。

ここがポイントです。


なぜ、カーブの球速は遅くなるのでしょうか?


ストレートは前へ、カーブは後ろへ

それは、転がる方向が異なるからです。

ボールに回転がかかるとき、ボールは手の中で転がりますが、ストレート(4シーム)は手に対して前へ、カーブは手に対して後ろへ転がっていきます。



そのため、ストレートの球速は手の速度よりも相対的に速くなり、カーブは手よりも遅くなるのです。
ストレート>手、手>カーブなので、ストレート>カーブは必然です。


利用する力の違い

前に転がるストレートと後ろに転がるカーブ、転がる方向の違いは、利用する力の違いです。

リリースの瞬間ボールには2種類の力が作用します。


転がり方①:遠心力で指先へ

一つは遠心力です。

リリースのシーンにおいて、上腕は肘を中心に回転しています。そのため、手に持ったボールには回転中心から遠ざかる方向、指先に向かって遠心力が働きます。

このボールの重心に作用する遠心力と、ボール表面の表面に作用する指との摩擦力が、ボール半径分だけ離れた偶力となり、トルクを与えられたボールは転がります。もし指との摩擦力がなく、遠心力のみだとボールは転がらず、すっぽ抜けていきます。

手のひらがホーム方向を向いていれば、バックスピン回転、もしくはシュート回転がかかります。この時、人差し指と中指が曲げられフック形状になっていると、ボールは前にも転がり、手よりも速い速度になります。

また、小指が前で手のひらが内側を向いていれば、ジャイロ回転がかかります。この時はボールは手と同じ速度のままです。



転がり方②:慣性力でセンター方向へ

もう一つは後方、センター方向への慣性力です。

ボールをホーム方向へ加速するとき、ボールは慣性の法則によりその場にとどまろうとします。そのため、手を基準に見ると、ボールがセンター方向へ引っ張られていく力、慣性力が作用します。

(遠心力も慣性力の一種ですが、ここではわかりやすさのためこう呼びます。)

この慣性力も、ボール表面に作用する指先の摩擦力とセットで偶力となり、トルクを受けたボールは手の中を転がっていきます。

人差し指と親指の間からボールをはみ出させた握りで小指側を前にして投げると、カーブ回転がかかります。人差し指と中指をボールの上側を通すと、トップスピン回転もかかります。

このときボールはセンター方向へ転がっていき、手よりも遅い速度になります。


ストレートやシュートでは、人差し指と中指が後ろから押し返すため、慣性力によってボールは後ろへ転がっていきません。



球種による球速差の計算

さて、ボールの転がる方向の違いが手に対する相対速度の差となり、ストレート(4シーム)とカーブの球速差になっているわけですが、それは何キロぐらいの差になるでしょうか?

球速差を、下図のような計算モデルで概算してみます。


[計算上の仮定]

ストレートもカーブも指先と点で接し、摩擦力により滑ることなく90度、1/4回転する。

この間にボール重心はボール半径分だけ手に対し相対的に前、または後ろに移動する。(Δx)

この間にボール回転数は0から一定の割合でNまで増加する。90度転がるのにかかる時間は一定の回転数Nの場合の2倍となるとする。


[計算]

Δx = d/2 = 0.037[m] : ボールの手に対する相対移動量

Δt=1/(N/60) / 4 ×2 = 0.014 [s] : ボールが90°転がるのにかかる時間

Δv=Δx/Δt = 0.037/0.014 = 2.7 [m/s]

Δv= 2.7×3.6 = 10 [km/h] : ボールと手の相対速度

 ここで、
  d=0.074[m]:ボール直径、N=2200[rpm]:ボール回転数


ストレートは手の速度より+10km/h速くなり、カーブは-10km/h遅くなるという結果になりました。


各球種の球速例

手の速度を135kmとすれば、各球種の球速は、

ストレート(バックスピン回転): 145km/h (=135+10)

縦スライダー(ジャイロ回転): 135km/h (=135±0)

カーブ(トップスピン回転): 125km/h (=135-10)

となります。

かなりラフな概算でしたが、割と現実的な値になりました。






では、また。



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