2023年4月15日土曜日

第144回 サッカーボールの軌道計算② 直接フリーキックvs野球のカーブ


  

フリーキックと野球のカーブ

サッカーの直接フリーキックでは、壁やキーパーをかわす目的で、ボールの軌道を曲げます。

ボールに回転をかけ、空気からのから揚力(マグナス力)を受けて横へ曲がる仕組みは、野球のカーブと同じです。

曲がり幅は、サッカーのフリーキックのほうが大きく変化します。

なぜでしょうか?


揚力の違い

サッカーボールのほうが、野球ボールよりも空気から受ける揚力が大きいことが一因です。

ボールが空気から受ける揚力Lは、下式で表されます。

      (ρ:空気密度、v:球速)


概算で見積もってみます。

サッカーボールの回転数は野球の1/6程度です。それにより、
サッカーボールの揚力係数CLは野球の1/2倍弱になります。(*1) 
サッカーボールの直径は野球の3倍ほどなので、断面積Aは二乗で9倍ほどになります。
従って同じ球速の場合、サッカーボールのほうが4.5倍(=9/2)強い揚力を受けます。

揚力を重量で割った値が、加速度になります。
サッカーボールの重量は野球の3倍ほどです。

これらを全部合わせて考えると、サッカーボールのほうが1.5倍(=4.5/3)大きく曲げられることになります。


    参考サイト
    (*1) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jvs1990/24/93/24_93_104/_pdf
    (*2) https://gigazine.net/news/20140619-magnus-effect-world-cup-ball/




フリーキックの軌道計算


次は軌道計算でサッカーのフリーキックと野球のカーブを、比較してみます。

[計算条件]
フリーキックの球速は100km/hとします。回転をかける分、やや遅くなると想定しました。
抗力係数はCD=0.2,揚力係数は毎秒7.5回転のサイドスピンでCL=0.11(*1)とします。
ゴールラインから20メートル離れた地点から、ゴール左上を狙うとします。

野球のカーブは120km/h、毎分2700回転でCD=0.43、CL=0.27、回転軸は完全なサイドスピンからトップスピンとジャイロ回転が45度ずつ混じった斜めの方向とします。右打者のアウトローを狙うとします。


[計算結果]
計算結果は以下のようになりました。

ゴールラインがホームベース後端と一致するように重ねてプロットしています。
x-y平面上の破線は、参考に示した回転がなくまっすぐ進むときの軌道です。


gif(リアルスピード)
フリーキックvsカーブ軌道計算




gif(1/10倍スロー)


静止画

グラフ中の点は0.02秒ごとのボール位置を表します。

フリーキックの軌道計算


サッカーボールの方が曲がる

サッカーのフリーキックは横へ1.22メートル曲がる、という結果になりました。
一方、野球のカーブの横変化量は48cmです。これはホームベースの幅より少し大きい程度です。

サッカーボールの方が2倍以上大きく曲がります。
ボールの変化量に関してはサッカーボールに軍配が上がります。

また上下の軌道も大きく異なります。
野球のカーブは高い位置から投げ出され、曲がり落ちてくる軌道です。対して、フリーキックは下から上に蹴り上げれられ、その後高度を保ちながら真横へ曲がっていくような軌道です。


PKでは曲げないほうが良い

サッカーの曲がりの大きさは、ゴールまでの距離が遠いことも影響しています。距離が長いほど飛行時間も長くなり、力を受ける時間が長くなり、変化量が大きくなります。

変化量はおおよそ距離の2乗に比例します。

今回は20メートルの条件で計算しましたが、もっと後ろから蹴ればもっと大きく曲がります。

反対に近くから蹴るPKの場合では同じように回転をかけても、曲がりが小さくなります。上図の場合、x=9.5mあたりがPK相当の11メートルの距離になりますが、そこでの変化量は35センチほどです。
PKでの変化量は、野球のカーブよりも小さくなります。

距離の近いPKでは回転をかけて曲げようとするよりも、速い球をける方が有効だと考えられます。





それでは、また。






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